我々の日常においても、もっとも身近な梱包材のひとつである〝ダンボール〟を使って、アートと呼ぶにふさわしい作品を数々生みだしてきた造形家・大野萌菜美さん。特別な道具をいっさい使わず、切り貼りだけであらゆるモノの精巧なレプリカを作ってしまう異色のアーティストに、そこにたどり着くまでの経緯と、あふれる〝ダンボール愛〟を聞いてきた!!
ダンボールのもつ温かみや可能性をもっと伝えていけたらと思っています
異色の造形家が生む驚愕のダンボール芸術
──あらゆるモノをダンボールで作ってしまう異色の造形家として脚光を浴びている大野さんですが、そもそも「ダンボールを使おう」と思いたったきっかけというのは?
「大学で立体アニメを作るってなったときに、たまたま家にあったのがアマゾンのダンボールだったんですよね。専攻を選ぶときは、一般的なペーパーのアニメと違って、ひとりでもできるってところに惹かれて決めたんですけど、立体アニメってモノをイチから作らなきゃいけないから、実はものすごく材料費がかかるんです。それで、お金もないから仕方なくダンボールで作ってみたら、『おや? これは意外とイケるかも』と(笑)。そこからですね。趣味レベルでいろんなものを作るようになったのは」
──実際に作品を拝見すると、とてもダンボールだけで作られているとは思えないほど、質感や肉感までしっかり再現されていますよね。
「ダンボールといっても、結局のところは紙なので、丸みを出したりする作業は〝張り子〟を作るのと、ほぼ同じ要領。使っているのも、カッター、ハサミ、木工用ボンド、定規と、ホントにどこでも手に入るようなものだけなんです。最近は細かい作業をする機会も増えてきたので、ピンセットや、はみ出たボンドを拭きとるための筆を使ったりもしますけど」
──こんな聞き方をすると、違う意味にも取れてしまいますが、いま現在はダンボールだけで生活を?
「そうですね。おかげさまで、いまは〝ダンボール生活〟をさせていただいています(笑)。ただ、これだけで食べられるようになったのは、ホントにここ最近。去年ぐらいからやらせてもらっている一般の方向けのワークショップとかで決まった収入が入るようになったおかげです」
──とはいえ、大学に入られた時点では、将来的に自分がダンボールだけで食べていくことになるとは思っていなかったわけですよね?
「まったくなかったですね。アニメのなかでも、とりわけエヴァ(『新世紀エヴァンゲリオン』)が好きだった当時の私にあったのは、『とにかくエヴァに関わりたい』って、それだけで(笑)。大学3、4年で『立体のモノを作るほうが楽しい』って気づくまでは、造形を仕事にしようと思ったことすらなかったですしね」
──それが、いまや日本屈指のダンボールアーティスト。人生、どう転ぶかわからないものですね。
「ホントに(笑)。以前は〝エヴァ一筋〟でしたけど、大学を出てから、仮面ライダーのスーツとかを作っている会社で働いたりもしたおかげで、いまは特撮もすごく好きになりましたしね。ウルトラ怪獣に関しては、今日持参したカネゴンのほかにも個人的にたくさん作っているので、ゆくゆくはそれでジオラマみたいなことにも挑戦してみたいと思ってます」
──ダンボールという素材そのものは現状でも家具や家電など、さまざまなモノに使われ、実用化もされています。大野さんご自身はダンボールと今後どう向きあっていこうと?
「個人的に直線的にカットされていたり、カクカクしているものにはあまり惹かれないので、私自身はあくまでダンボールをちまちま切り貼りすることにこだわって、これからもいろんなモノを作っていけたらな、と思ってます。せっかく仕事としてやるからには、すでにあるものの再現だけじゃなく、尊敬するモデラーのひとりでもある(造形作家/イラストレーターの)横山宏さんみたいに、オリジナリティをもっと出した自分だけのキャラクターとかもやっぱり作りたいですけどね」
──我々おっさん世代で言うところのノッポさん。大野さん世代で言うワクワクさん的なポジションも、ちょうどいま空いてますよね?
「できるなら、ぜひお願いしたいですね(笑)。人に教えたりすることを通して、ダンボールがもっている温かみや可能性みたいなものも、これからもっと伝えいけたらと思います。私自身、出発点は確かに『お金をかけたくない』でしたけど、決して魅力はそれだけじゃない。ワークショップとかで専用のものを事前に用意したりするとなると、そんなに安上がりではなかったりもしますしね(笑)」
PROFILE
おおの・もなみ
1991年10月24日生まれ。和歌山県出身。大阪芸術大学キャラクター造形学科卒業。在学中からダンボール工作を始め、そのクオリティの高さで一躍、注目の的に。卒業後は造形会社でのアルバイトを経て、専業の造形家として独立。テレビ・雑誌にも多数取りあげられる新進気鋭のアーティストとして活躍中。
公式ブログ
公式Twitter
おおの・もなみ
1991年10月24日生まれ。和歌山県出身。大阪芸術大学キャラクター造形学科卒業。在学中からダンボール工作を始め、そのクオリティの高さで一躍、注目の的に。卒業後は造形会社でのアルバイトを経て、専業の造形家として独立。テレビ・雑誌にも多数取りあげられる新進気鋭のアーティストとして活躍中。
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取材・文/鈴木長月