『チルド』
24時間、同じ光が灯り続けるコンビニ。
同じ商品、同じ挨拶、同じ作業。終わりのない日常の中で、人はいつの間にか“生きている実感”を失っていくのかもしれない。『チルド』は、そんな現代の停滞と閉塞を、コンビニという極めて身近な空間を舞台に描き出す異色作だ。
主演は染谷将太。生の実感を失い、ただシステムの中で機能する副店長・堺を演じる。共演には唐田えりか、西村まさ彦。唐田が演じる小河は、停滞した世界に“違和感”を持ち込む存在であり、西村演じるオーナーは、人間性よりも秩序そのものへと変質した存在として、不穏な空気をまとって現れる。
本作が描く恐怖は、派手な破滅ではない。むしろ、“終わらないこと”そのものだ。変化のない毎日、役割だけが循環する空間、抜け出せない秩序。その静かな地獄が、観る者の心をじわじわと締めつけていく。

都内のコンビニ「エニーマート倉冨町7丁目店」で、副店長として働く堺は、感情の起伏を失ったまま日々をやり過ごしている。厳格な店長に叱責され、同僚と世間話を交わし、孤独を紛らわすようにマッチングアプリを開く。だが、そのどれもが心の空白を埋めることはない。
そんな中、新人アルバイトとして小河が店にやって来る。美容師になる夢を抱き、前向きに働こうとする彼女だったが、店に張りつめた異様な秩序と、管理されることが当然になった空気に少しずつ違和感を覚え始める。
やがてバックヤードで起きたある出来事をきっかけに、コンビニの中で保たれていた均衡は静かに崩れ始める。秩序を守ることだけに執着するオーナー、逃げ場のない空間、繰り返される日常。堺はその中で、「生きるとは何か」「秩序とは何か」という問いに向き合わざるを得なくなっていく。
本作の魅力は、コンビニという誰もが知る場所を、ここまで不穏で閉塞した空間として立ち上げている点にある。日常の象徴のような場所だからこそ、そこに潜む異様さがより生々しく伝わってくる。
また、染谷将太、唐田えりか、西村まさ彦という俳優陣の存在感も大きい。彼らは単に役を演じるのではなく、その場に漂う“状態”そのものを体現しており、観客は会話や仕草のわずかなズレから、この世界の歪みを感じ取っていくことになる。
『チルド』が突きつけるのは、崩壊の恐怖ではない。むしろ、何も終わらず、何も変わらないまま続いていくことの恐ろしさだ。静かに進行する違和感が、観終わったあともしつこく残る一本である。



2026年7月17日(金)よりテアトル新宿、ヒューマントラストシネマ渋谷、テアトル梅田ほか全国で公開
【監督・脚本】岩崎裕介
【出演】染谷将太、唐田えりか、西村まさ彦、くるま、長島竜也
【INFO】2026年/日本/88分
【配給】NOTHING NEW
©『チルド』製作委員会 (NOTHING NEW・東北新社)
公式HP










































