貴族キャラと「ルネッサ~ンス!」のフレーズでブレークの08年から早7年。先ごろ行われた「第1回一発屋オールスターズ選抜総選挙2015」で獲得した「真の一発屋芸人」の称号ぐらいしか話題がないように見えるお笑いコンビ髭男爵のお二人。ところがどっこい! 時代を彩った芸人だけあって、簡単に消えたりはしないのだ。そんな折、4人組アイドルまどもあ54世のプロデュースでも知られる山田ルイ53世さんが自叙伝『ヒキコモリ漂流記』を上梓。これが聞いてビックリ読んでビックリなジェットコースター人生だったのだ。そこでお二人を招いて、七転び八起き人生のエピソードを聞いて学ぼう!
お笑いコンビ髭男爵が「ルネッサ~ンス!」と共に乾杯するポージング以外の武器を磨いていた。山田ルイ53世さんは低くて渋い声を武器にラジオ番組で着々とファンを増やし、初の自叙伝『ヒキコモリ漂流記』も好評な売れ行きだ。相方のひぐち君は本格的にワインの勉強を開始し、飼っているウサギの写真をブログに掲載したことを機に、連載も担当中。一発屋という称号に負けず、水面下でジワジワと実力を蓄え続ける原動力は、彼らの下積み時代にあり! 「誰もがヒーローになれるわけじゃない」とド根性魂で踏ん張る彼らの人生観を聞け!
白昼夢みたいに生きてる時はネガに焼き付かず思い出も残らない
──著書を拝読しましたが、感動しました! “東大に行けると言った先生の太鼓判に朱肉はついていなかった”とか、素敵すぎます。山田ルイ53世(以下、山田)「うれしいことを言ってくれますねえ。そこを粒立たせて欲しいんですよ。自叙伝ラッシュですけど十把一絡げにはされたくないんで、有り難い。実はゴーストライターを勧められたんですけど、自分で書いた甲斐がありました」
──やっぱりそうなんですか!?
山田「やっぱりって!(笑)悔しいから自分で書くとは言ってみたものの、意外としんどかったんで連載中、ひぐち君に何度か意見を求めたりもしました。このエピソードは使える、面白いって盛り上げてくれるから、筆が進む進む」
ひぐち君(以下、ひぐち)「牛乳の話してよ。あれを削ったのはすごくもったいない」
山田「幼稚園時代の話ね。僕、今でも牛乳がめっちゃ嫌いで、でも幼稚園では必ず飲まなダメなんですよね。だけどどうしても飲みたくなくて放課後、全園児分の牛乳瓶を2階から全部、投げて割ってやったんです」
ひぐち「幼稚園生のすることとは思えませんよ。僕も牛乳が嫌いですけど、幼稚園から中学校まで11年間、我慢して飲みましたもん」
山田「コンビとして2人とも牛乳瓶割ったらアカンやろ(笑)」
──下積み時代の話も印象深いです。
山田「売れていないくせに働かず、消費者金融で300万借りて債務整理をしたり、家賃8千円の3畳のアパートに10年近く住んだりする件ですね。まぁ僕の場合は自業自得で、レミング的な生き方ですよね。破滅に向かっていくという」
ひぐち「逆に僕は誰かに寄生して生きて来たんで、苦労を経験してないんですよ。上京当時は3人のうちのもう1人の相方の家に居候して、次に先輩芸人と3人と住んで、その後は彼女と2年ほど一緒に住んで。それからマネージャーさん宅に居候して仕事をもらえるようになったし。親からの教えで借金もしませんでしたし」
──世渡り上手なんですね。
山田「常にセーフティーゾーンにいるくせに、偉そうに物を言うのがひぐち君なんですよ。バイトもしてましたから、保険をかけて生きてるんです。そのマジメなところが、拠り所であり安心して頼れる部分ですけど」
──それにしても山田さんは、昔のことをよく憶えていますよね。
山田「幼稚園から引きこもるまでが僕の黄金期やったんで、ものすごく覚えてるんですよ。で、引きこもってから今に至るまでの記憶が希薄なんです。きちんとネガに焼き付けていないというか、白昼夢みたいに生きてる時って、思い出に残らないんですよね」
──でも、ブレイク時の恋愛エピソードも面白かったですよ。
山田「あの時代に出さなかったのは前代未聞と言われました。だからラジオのリスナーに向けたツイートでは『薄暗がりの中にいる物語で、サクセスストーリーじゃないから安心して下さい』と伝えました。そういう話、眩しすぎて苦手な人もいますから。太陽を直視したら目ぇ痛めるわ的な」
「お前が辞めるなら僕も」と言われたのが人生の分岐点ですね
──ジェットコースター的な人生ですが、ターニングポイントは。山田「僕が1人で『進ぬ!電波少年』で海外ロケに1年ほど行って戻ってきたら、この仕事で一番大切な先輩とか横のつながりがまったくなくなっていたんですね。それがないとこの業界、居心地が悪いんですけど、僕がいない間にひぐち君が社交をしてくれてたんです」
──具体的にはどんな?
ひぐち「嫌な仕事は率先して引き受けて、楽な仕事は別の人に頼む。売れない時代、コンビニで10年ぐらいバイトをしてた時から実践してます。今で言うなら飲み会で、先輩方の水割りは率先して自分が作ってます。そうすると『何でやってくれないの』と自分がストレスを抱えずに済むし、人間関係も悪くならない気がします」
山田「お笑いでは嫌なこと全部、僕がやらされてますけどね(笑)でも、僕はひぐち君に感謝しつつも電波少年に出たのに売れないからメンタルをやられて、池袋の丸井の前で八つ当たりしたんです。『お前だけ可愛がられてええなあ。おもろないからもう辞めたるわ』と。そうしたら『お前が辞めるなら僕も辞めるわ』と言ってくれて。今考えたらあの時、辞めといてくれたらよかったのに」
──(一同大爆笑)今いい話で終わると思っていたのに!
山田「いい話でしょう? これ、ひぐち君の結婚式の二次会でも話しました。僕には事務所に3人の恩人がおる。1人はカンニングの竹山(隆範)さん。あの人ほんま、何年も寝る暇がないほど殺人的スケジュールをこなしていて、背中で『仕事とはこういうもんや』と教えてくれていると。もう1人はケンキさんという先輩で、最後にひぐち君。丸井の話をした後『お笑いの才能はないですが、一緒に歩んでいく才能はずば抜けてます。だから安心して下さい』と言ったら、ひぐち君の嫁、ポカーンとしてました。えらい勘の鈍いオンナと結婚したな、と。僕はその恩だけでやってるのに」
──その、ひぐちさんは?
ひぐち「僕は『レッドカーペット』に出た時に…」
山田「またセーフティーゾーンにいようとする! あなたはあの話をしなさいよ。僕のクレジットカードでキャバクラに行った話を」
ひぐち「あれ(苦笑)貧乏な芸人ってキャシュカードを作れないんですけど、某社のカードだけは審査が緩くて、男爵さんが作ったんです。でもシステムを把握してないのを利用して、『キャバクラで使ってみよう』と誘って、男爵さん持ちで飲み食いしました」
山田「自分はバイトで定期収入があるくせに、働かない僕を騙して奢らせる。怖い男ですよ、ほんま」
──意外な一面が(笑)お二人のように好きなことを仕事にする秘訣も教えて頂きたいのですが。
山田「僕らだって、やりたい仕事をやるという状況ではないんですよ。僕はヒキコモリになって、学歴の世界で頑張ってきた自分と決別するというか、『こっちで勝たれへんから、ほかないかな』という入り口で来てるわけで、だから今でも、人生ってそんなにピカピカ輝いていないとダメなのかって思いがある。小さい頃から『未来は拓けてる。人生の選択肢は無限だ』みたいに教えられますけど、選択肢が無限大だと、逆に選べないと思うんです。むしろ人生って、選択肢を消していく作業で、最後に残ったものを頑張ればいいじゃないかと。エエこと言うたな~僕。本1冊書くと、コメントが仕上がって来ますわ」
──だから幼い娘さんに簿記を習得させようとしたんですね。
山田「そう、まずは手に職。だって誰もがヒーロー、ヒロインになれるわけじゃない。夢を見るなとは言わないけど、夢を見なければいけないという強迫観念が強すぎるんですよ、今の時代。…こういう考え方じゃないと、シルクハットは被れませんから。これ、お笑い芸人としては完全に負け。ドーピングですよ」
ひぐち「荷物も多いですし」
山田「毎週、ラジオの仕事で山梨へ行くたびに思うんですけど、ちょっとした登山客より僕らのほうが荷物、多いですから。僕らが登ろうとしてる山はどんだけデカイんだって話ですよ」
ひぐち「山と言えば僕、ワインエキスパートの勉強をしているんです。受かれば川島なお美さん、辰巳琢郎さんと並びますから、ワインのイベントを髭男爵でごっそり持っていくのが超えたい山ですね。お酒、あんまり飲めないんで、仕事のためだけに半年間勉強しました」
山田「おそらく、彼と僕は登っている山が違う(笑)」
ひぐち「でも毎年、ボジョレ・ヌーボーのイベントに呼ばれるじゃない。そこで的外れなコメントして、失笑をかってるじゃない!」
──登る山は違えど、コンビとして目指す今後の方向は?
山田「普通の漫才師に戻れるとは考えてないんで、60歳ぐらいまで貴族をやっていれば、どこかでひっくり返って売れるんじゃないか、という諦めはありますね」
ひぐち「前向きな諦めですね」
山田「衣装もシェイプしているんですけど、それは貴族すぎると娘が小学生ぐらいになったらイジメられそうな気がするからなんです。『お前のおとんの相方、“ひぐちカッター”言うてんねやろ』って」
ひぐち「僕の責任かよ(笑)」
INFORMATION
■書籍『ヒキコモリ漂流記』
INFO
神童の運命はウンコで変わった!? 26年前の夏。優等生だった一人の中学生が突然、引きこもり生活に……。「神童」→「名門中学に合格」→「引きこもり」→「大検を取得で大学へ」→「2年足らずで失踪」→「上京して芸人に」→「借金から債務整理」→そして、「復活(ルネッサンス)!」auスマートパスとマガジンワールドで好評WEB連載中の山田ルイ53世の自叙伝『ヒキコモ・ル・ネサンス』が待望の書籍化。七転び八起きの人生から学んだやり直しのルールがココに。
著者/山田ルイ53世(髭男爵)
マガジンハウスから好評発売中。1300円(税別)
PROFILE
髭男爵(ひげだんしゃく)
99年にコンビを結成。山田ルイ53世が燕尾服にシルクハットという近世ヨーロッパの貴族のような衣装、ひぐち君は緑地の召使いの衣装をまとい、ワイングラスを掲げて、「ルネッサ~ンス! どうも貴族です。」の挨拶ギャグ。06年頃からネタのスタイルが受け始め、08年よりテレビ出演が急増。バラエティ番組やCMへの出演のほか、同年秋にはラジオにて冠番組『髭男爵ルネッサンスラジオ』(文化放送)がスタート。15年、24組の芸人を集めて真の一発屋芸人を決定する『第1回一発屋オールスターズ選抜総選挙2015』で最多得票を集め、初代王者に選定された。文化放送「土曜の午後は♪ヒゲとノブコのWEEKEND JUKEBOX」「髭男爵山田ルイ53世のルネッサンスラジオ」、山梨放送「はみだし しゃべくりラジオ キックス」などレギュラー出演中。
山田ルイ53世(やまだるい53せい)
本名/山田順三
1975年4月10日生まれ 兵庫県出身
女性アイドルグループまどもあ54世のプロデュースを担当。8月31日に自叙伝「ヒキコモリ漂流記」発売。
公式Twitter
ひぐち君(ひぐちくん)
本名/樋口真一郎
1974年2月12日生まれ 福岡県出身
自宅でウサギを一羽飼っている。ワインエキスパートの資格を取得するため日々勉強中!
公式ブログ
公式Twitter
■書籍『ヒキコモリ漂流記』
INFO
神童の運命はウンコで変わった!? 26年前の夏。優等生だった一人の中学生が突然、引きこもり生活に……。「神童」→「名門中学に合格」→「引きこもり」→「大検を取得で大学へ」→「2年足らずで失踪」→「上京して芸人に」→「借金から債務整理」→そして、「復活(ルネッサンス)!」auスマートパスとマガジンワールドで好評WEB連載中の山田ルイ53世の自叙伝『ヒキコモ・ル・ネサンス』が待望の書籍化。七転び八起きの人生から学んだやり直しのルールがココに。
著者/山田ルイ53世(髭男爵)
マガジンハウスから好評発売中。1300円(税別)
PROFILE
髭男爵(ひげだんしゃく)
99年にコンビを結成。山田ルイ53世が燕尾服にシルクハットという近世ヨーロッパの貴族のような衣装、ひぐち君は緑地の召使いの衣装をまとい、ワイングラスを掲げて、「ルネッサ~ンス! どうも貴族です。」の挨拶ギャグ。06年頃からネタのスタイルが受け始め、08年よりテレビ出演が急増。バラエティ番組やCMへの出演のほか、同年秋にはラジオにて冠番組『髭男爵ルネッサンスラジオ』(文化放送)がスタート。15年、24組の芸人を集めて真の一発屋芸人を決定する『第1回一発屋オールスターズ選抜総選挙2015』で最多得票を集め、初代王者に選定された。文化放送「土曜の午後は♪ヒゲとノブコのWEEKEND JUKEBOX」「髭男爵山田ルイ53世のルネッサンスラジオ」、山梨放送「はみだし しゃべくりラジオ キックス」などレギュラー出演中。
山田ルイ53世(やまだるい53せい)
本名/山田順三
1975年4月10日生まれ 兵庫県出身
女性アイドルグループまどもあ54世のプロデュースを担当。8月31日に自叙伝「ヒキコモリ漂流記」発売。
公式Twitter
ひぐち君(ひぐちくん)
本名/樋口真一郎
1974年2月12日生まれ 福岡県出身
自宅でウサギを一羽飼っている。ワインエキスパートの資格を取得するため日々勉強中!
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Interview&Text/内埜さくら Photo/おおえき寿一