『KEEPER/キーパー』
オズグッド・パーキンス監督が手がける『KEEPER/キーパー』は、説明しきれない不安と、逃げ場のない孤独をじわじわと積み上げていくサイコロジカル・ホラーだ。主演はタチアナ・マズラニー。恋人との関係にどこか不信を抱えた女性リズを演じ、愛情と警戒心のあいだで揺れる複雑な心理を体現する。製作は2023年のハリウッドのダブル・ストライキの最中、カナダのスタッフとキャストを中心に進められたという異例の経緯を持ち、その自由な環境の中で、監督は“有害な男らしさ”や家父長制の醜さを怪物のような恐怖として描き出した。パーキンス監督らしい不穏な空気に加え、VFXによって生み出された異形のクリーチャーも強烈な印象を残す。

交際1周年を迎えたリズは、恋人マルコムと森の奥にある山荘を訪れる。関係を深めるはずの時間のはずなのに、彼女の胸には拭いきれない違和感がある。マルコムを信じたい気持ちはある。それでも、未来についてきちんと語り合えないまま過ごしてきた時間が、リズの中に静かな不安を積もらせていた。
やがて彼女は、山荘そのものに奇妙な息苦しさを覚え始める。洗練された建物に見えながら、動線は妙に入り組み、死角が多く、扉には鍵がない。大きな窓にはブラインドもなく、外からの視線を遮るものもない。まるでどこかに閉じ込められたかのような感覚の中で、リズの心は少しずつ追い詰められていく。
何が起きているのか、誰が何を隠しているのか。はっきりとした答えが示されないまま、不安だけが確実に膨らんでいく。『KEEPER/キーパー』は、リズの視点に寄り添いながら、説明不能の恐怖へと観客を引きずり込んでいく。
本作の面白さは、怪物や悪霊の正体を明快に示すのではなく、主人公の“内側”に巣食う不安そのものを恐怖として立ち上げている点にある。パーキンス監督はこれまでも、正体のわからない孤独や不安に苛まれる女性を描いてきたが、本作ではそのテーマがより先鋭化している。主要舞台となる山荘は、単なる閉ざされた空間ではなく、共依存や支配、監視される感覚を視覚化した迷宮のような存在として機能する。極端な余白を生かした画面設計、物陰から覗き込むようなショット、不吉な予兆をかき立てる音響が重なり、何も起きていない時間さえ張り詰めた恐怖へと変わっていく。
さらに監督自身は本作の核心を“有害な男らしさ”にあると語っており、そのテーマがグロテスクな怪物性として映画全体を貫いている。サイコロジカル・ホラー、ジェンダー・ホラー、フォーク・ホラーの要素をあわせ持ちながら、最後まで正体不明の恐怖を手放さない一本だ。



2026年5月29日(金)全国公開
【監督】オズグッド・パーキンス 『ロングレッグス』『THE MONKEY/ザ・モンキー』
【出演】タチアナ・マズラニー ロッシフ・サザーランド
【INFO】2025年/カナダ/99分/カラー/ビスタ/5.1ch/日本語字幕:中沢志乃
【配給】ショウゲート
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