人とうまくつながることができないホームレスをしている男と、美人局の片棒を担ぐ女――近年、貧困問題にスポットが当たるなか決して他人事とは思えない映画『ぼくらの亡命』が6月24日から公開。ヒロインの樹冬役を演じた櫻井亜衣さんが語る、作品が訴えたいこととは。
現実社会を恋愛に置き換えた日本の縮図のような作品です
──櫻井さんはタイ語が特技の1つですが海外在住経験が?「小学校5年から中学を卒業するまでバンコクに住んでいました。日本人学校に通ってはいたんですけど、現地の方と触れ合う機会も多くあったのでタイ語は日常会話程度なら話せるんです。多感な時期を海外で過ごしたせいか、この映画のタイトルの“亡命”という言葉を見た時も自分の中にスッと入ってきて、遠くはないと思える感覚を持ちました」
──では昇と樹冬は櫻井さんから見て、どう映りましたか。
「テント暮らしをするホームレスの昇と美人局の片棒を担ぐ樹冬…言い方は悪いですが正直、クズすぎると思いました(笑)一方でこの2人は現代の日本の縮図でもあると感じました。2人の気持ちが刺さりすぎて痛い方もいらっしゃるかもしれませんが、内田(伸輝)監督は『社会の排他的な状況を恋愛に置き換えた』ともおっしゃっていましたし。そして、撮影で樹冬の味方でいてあげられるのは私だけだとも感じたんです。樹冬は他人から構われたい、優しくされたい、褒められたい願望を強く抱えているのですが、これって女性であれば多かれ少なかれ持っている願望ですから、その点では共感できました」
──堕ちていく樹冬を演じるのは相当な覚悟が必要だったのでは。
「撮影期間の1年間は常に辛かったです。『このコはいつ救われるんだろう』と思いながらお芝居をしていました。樹冬が自分の本音を吐露する撮影では、内田監督から『ギリギリまで涙をこらえて』と指示されていたのですが、どうしても我慢できなくて涙があふれ出てしまうんです。結局、深夜2時ぐらいから10テイク以上やり直してやっとOKを頂きました」
昇と樹冬が人のぬくもりを求めて歩んでいく物語です
──ホームレス役の須森隆文さんは1年間頭を洗わなかったと聞きました。「だからまあまあなニオイがしたのは事実ですが(苦笑)それが画にもリアリティを与えているんですよね。さすがに私には無理だったので、コンディショナーを使わずに髪をゴワゴワにさせました。そういえば初めて名前がついた役だったのに、海で生活するシーンはノーメイクで出演してしまいました…」
──映画になぞらえた質問も。昇と樹冬は依存し合いますが、櫻井さんがコレがないとダメ!というコトやモノは。
「最近はお酒です。家で一人酒をするようになりました。劇中で樹冬が呑んでいたのと同じウイスキーのボトルを買い置きしてあって、ジンジャーエールで割って飲むのが至福のひとときなんです。普段はお酒を呑みつつ食事をするのですが、ここ3日間はこの取材で何を話そうか考えていました。人生初めてのインタビューなので」
──ありがとうございます!初ヒロイン役に初取材と、記念作になりそうですね。
「もし数年後も自分がお芝居をしている前提で言えば、この作品は私にとって“女優・櫻井亜衣”の生みの親になると思っています。それぐらい自分では大切な作品ですが、“亡命”という言葉だけでみなさんが距離を置いてしまうのはもったいない作品だとも感じています。昇と樹冬が人のぬくもりを求めて歩んでいく物語なのですが、ぬくもりは誰しもが求めるもの。だからこそ現実からかけ離れた内容ではないし、観ている最中から今、自分が向き合っている現実と照らし合わせて何かを考えさせられると思います。ラストがグレーな展開なので、ご覧になった方それぞれが2人の未来がどうなるか、答えを想像しても楽しいかもしれませんね」
INFORMATION
■映画『ぼくらの亡命』 INFO&STORY
東京近郊の森でテント暮らしをする昇(須森隆文)は、美人局をやらされている樹冬(櫻井亜衣)を誘拐し、身代金を要求するが失敗。男を刺した樹冬に日本脱出を持ちかける昇。男と女の楽園探しの旅が始まる――。「ふゆの獣」で第11回東京フィルメックス最優秀作品賞を受賞した内田伸輝監督の最新作で、孤独な男女の他者への依存をテーマに描いた。
CAST&STAFF
出演/須森隆文・櫻井亜衣・松永大輔・入江庸仁・志戸晴一・松本高士・鈴木ひかり・椎名香織・森谷勇太・高木公佑
監督・脚本/内田伸輝 撮影監督/斎藤文 配給/マコトヤ
公式HP
6月24日(土)より渋谷ユーロスペースにてロードショー
(C)映像工房NOBU
PROFILE
櫻井亜衣(さくらい・あい)
1991年6月19日生まれ 東京都出身
明治大学文学部演劇学専攻卒業。大学主催のシェイクスピア劇で初舞台以降、学生演劇・商業演劇合わせて20作品近く演じてきた。15年に「リアル鬼ごっこ」で映画初出演。本作でダブル主演を務めた。
公式Twitter
■映画『ぼくらの亡命』 INFO&STORY
東京近郊の森でテント暮らしをする昇(須森隆文)は、美人局をやらされている樹冬(櫻井亜衣)を誘拐し、身代金を要求するが失敗。男を刺した樹冬に日本脱出を持ちかける昇。男と女の楽園探しの旅が始まる――。「ふゆの獣」で第11回東京フィルメックス最優秀作品賞を受賞した内田伸輝監督の最新作で、孤独な男女の他者への依存をテーマに描いた。
CAST&STAFF
出演/須森隆文・櫻井亜衣・松永大輔・入江庸仁・志戸晴一・松本高士・鈴木ひかり・椎名香織・森谷勇太・高木公佑
監督・脚本/内田伸輝 撮影監督/斎藤文 配給/マコトヤ
公式HP
6月24日(土)より渋谷ユーロスペースにてロードショー
(C)映像工房NOBU
PROFILE
櫻井亜衣(さくらい・あい)
1991年6月19日生まれ 東京都出身
明治大学文学部演劇学専攻卒業。大学主催のシェイクスピア劇で初舞台以降、学生演劇・商業演劇合わせて20作品近く演じてきた。15年に「リアル鬼ごっこ」で映画初出演。本作でダブル主演を務めた。
公式Twitter
撮影◎おおえき寿一 取材・文◎内埜さくら