『シンシン アンド ザ マウス/SINSIN AND THE MOUSE』
吉本ばななの短編小説集『ミトンとふびん』に収められた一篇「SINSIN AND THE MOUSE」を原作に、日本と台湾の合作で映画化した『シンシン/SINSIN AND THE MOUSE』。喪失の痛みを抱えた女性が、異国の街での出会いを通して少しずつ心をほどいていく、静かな再生の物語だ。
主演を務めるのは、繊細な感情表現で高い評価を集める岸井ゆきの。そして相手役には、台湾映画界の次世代を担う若手俳優ツェン・ジンホア。言葉や文化の違いを越えて響き合う二人の存在が、悲しみの奥にある小さな希望を丁寧にすくい上げていく。監督・脚本・編集は『ボクは坊さん。』『すくってごらん』の真壁幸紀。
舞台は台北。高層ビルが立ち並ぶ現代的な景色と、どこか懐かしさを感じさせる街並みが共存するこの街で、止まっていた心がゆっくりと動き始める。喪失を抱えながら生きる時間は、誰にとっても決して他人事ではない。本作は、何気ない会話やささやかな出来事の積み重ねを通して、自分を慈しむことの大切さを静かに語りかける一本となっている。

母を亡くし、深い喪失感を抱えたまま日々を過ごしているちづみ。心の空白は埋まらず、ただ時間だけが過ぎていく。そんな中、友人に誘われて訪れた台湾で、彼女は台湾人の母と日本人の父を持つシンシンと出会う。
見知らぬ街の風景、ふと交わされる言葉、何気ない時間。そのひとつひとつが、止まっていたちづみの心を少しずつ揺らしていく。消えることのない悲しみを抱えながらも、小さなぬくもりに触れ、明日へと続く感情を取り戻していくちづみ。異国の街での出会いが、彼女にとって新たな一歩となっていく。
本作の魅力は、喪失を大きなドラマとして誇張するのではなく、日常の延長線上にある静かな痛みとして描いている点にある。台湾の街並みや空気感が、主人公の心の変化と自然に重なり合い、観る者の感情にそっと寄り添ってくる。
また、岸井ゆきのとツェン・ジンホアの繊細なやりとりも大きな見どころだ。言葉にならない感情や距離の縮まり方が丁寧に積み重ねられ、やがて“再生”という言葉にたどり着くまでの時間が、やさしく、しかし確かな余韻を残す。悲しみの先にある小さな光を見つめるような作品だ。



2026年6月26日(金)より新宿バルト9、シネスイッチ銀座ほか全国公開
【監督・脚本・編集】真壁幸紀
【共同脚本】加藤法子
【出演】岸井ゆきの、ツェン・ジンホア、ほか
【INFO】原作:吉本ばなな「SINSIN AND THE MOUSE」(新潮社刊『ミトンとふびん』収録) 2026年/日本/108分
【配給】カルチュア・パブリッシャーズ
© 2021 Banana Yoshimoto.Based on the novel by Banana Yoshimoto, published by Shinchosha.Rights arranged through ZIPANGO, S.L.
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