海外の映画祭で大絶賛された『僕はイエス様が嫌い』が5月31日より全国順次ロードショー。メガホンを執ったのは撮影当時21歳と若手の奥山大史さんとあり、国内でも話題を呼んでいる。母親役で出演したキャリア25年の佐伯日菜子さんは本作にどう取り組んだのか。故・樹木希林さんが企画・出演した映画『エリカ38』にも出演し、円熟味を増す女優が二作品への愛を語る。
「人生ままならないこともあるし、努力が実らないこともある現実を、 平成生まれの強みを持つ監督がポップに描いている作品です」
〝デジタル世代の申し子〞の中でも監督の才能は突出
──本作への出演経緯は。「まず事務所にプロットが届き、その段階で一方的に『絶対に出たい!』と思っていたのですが、ある日、監督に声を掛けて頂き脚本を読ませて頂いたら泣いてしまったんです。だから出演が決まった時は本当にうれしかった」
──奥山大史監督は撮影当時21歳ですが、ご一緒した感想は。
「私の子どもが今16歳と15歳で、監督と5〜6歳しか変わらないんです。若い世代は情報収集能力が高く、動画や写真の撮り方が上手なんですよね。性別にかかわらず〝デジタル世代の申し子〞といえる若い監督が才能を発揮してくれるのは頼もしいしうれしいんですけど、その中でも監督の才能は突出していらっしゃると感じました」
──具体的にすごいと思った点は?
「子どもの感性を忘れないままでいらっしゃるのがすごいな、と。現場では2人の子役と監督が雪の中、一緒に遊んでいたんです。大隅和馬役の大熊理樹くんと、星野由来役の佐藤結良くんと。その姿を見た時に『監督も21歳の若者なんだ』と思いました(笑)同時に、監督としてもきちんと仕切ってくださって。私が演じた大隅理香子はある事情で変貌するのですが、私が演じている最中、監督は教会の中庭でグリーンバックの撮影をしていたんです。時間との戦いで、私のメイクをチェックしつつも立ったままお弁当を食べながら演出されている姿を見て、『カッコイイ!』と思いました」
──佐伯さんはインスタで、「監督と同い年の頃は一番チャラついていた」とコメントされていますが。
「そうなんです。ちょうど『エコエコアザラク』が終わった後で、『トリック』の前でした。結構忙しい時期ではあったんですけど楽しい頃でもあって『ウェーイ!』というノリで飲みに行ったり、本当にチャラついていました(笑)お芝居や作品のことに対してはちゃんと考えていましたけど、落ち着きはなかったですね。地上から10センチぐらい浮いたところではしゃいでいたような(笑)でも、監督は本当に落ち着いていてしっかりしていらして、現場でもきちんとトップの役割を果たしてくださいました」
──作品にちなんだ質問も。イエス様の力で佐伯さんが叶えたいことは?
「劇中では、願ったよりも小さく叶うんですよね。由来が『お金がほしい』と願うと、1000円だけ手に入ったり(笑)小さい望みが叶うのであれば私は、痛みを感じないカラダを手に入れたいです。痛みに弱くて、つい先日も転んで流血して悲しい気持ちになったんです。同時に、痛覚がなかったら無敵だなと思いまして」
──あはは(笑)作品の魅力も。
「とにかく映像がキレイで美しい世界が描かれています。でも、美しいだけではなく少し残酷な物語でもあり私は『人生ってそうだよね』という現実を、21歳の監督に気づかされてしまいました。人生ままならないこともあるし、努力が実らないこともあるけれど、その現実がポップに描かれているんです。私を含む昭和生まれはどうしてもドロッとしますけど、ポップに描けるのは平成生まれの強みなのかもしれません(笑)今まで出た映画の試写を観ると、自分の反省点ばかりに目がいって、気が散っていたんです。でも、この作品で初めて、自分が出た映画で泣きました。上映時間が76分と短い中に、幸せと笑いと涙が凝縮されているのもすごいと思います」
樹木希林さん企画作は女の業と哀しさが描かれてます
──プライベートでは佐伯さんは占い好きですよね。「おっしゃる通りで、先日は手相を見てもらいました。手相は変わるんですが一貫して言われるのが、マジメで頑固で一途で、意外と押しに弱い。見て頂く占い師さんが野性爆弾のくっきーさんに似ていて(笑)最初に行った時に、ウィキペディアにも載っていない情報をズバリ言い当てられたんです。小学校5年生の時に、作文が毎日新聞で表彰されたことを。先日は友だちを連れて行ったついでに見てもらったら『運命線がもっと強くなるといい』と言われたので、暇さえあれば運命線を爪でなぞるようにしています」
──他には、樹木希林展に足を運ぶほど樹木さんファンでもありますよね。
「私が存じ上げているのは、郷ひろみさんと歌っている『林檎殺人事件』ではなくてフジカラーのCMのイメージなんです。当時はちょっと面白い女優さんという感じだったんですけど数々の作品を拝見して、一番好きな作品が河瀨(直美)監督の『あん』。樹木さんが永瀬(正敏)さんの元へ訪れて、桜を見ながら『あ〜、桜がキレイね』と言った瞬間に涙があふれました。以来、〝樹木さんウォッチャー〞なんです。展覧会では、樹木さんが書いたお手紙も展示されていて将来、なりたいものがない若者に向けた手紙もあって感動しました。『今はまだ見えないかもしれないけれど悲観しないでね。それも1つの選択肢。何もないということは、これからがあるということだから』というような内容を、独特の言葉で綴られていたので写メしました」
──では、樹木さんが企画・出演した映画『エリカ38』に出演した感想は。
「実話を題材にした作品なんですけど私、実録が好きでこの事件はワイドショーでも観ていたんです。私が演じた玉木香代子は、浅田美代子さんが演じたエリカに騙された旦那さんが自殺してしまう、妻役です。作品はエンターテイメント性がありつつ、女の業や哀しさが表現されています。浅田さんがシミやシワを一切隠さず全身全霊で演じられている姿にすごく感動して泣いてしまいました。私、泣いてばかりです(笑)浅田さんが演じる姿を見て『ただのイヤな女じゃない。何かしらの背景があるんだろうな』と、考えさせる人も多いかもしれませんね」
INFORMATION
■映画『僕はイエス様が嫌い』
【INFO&STORY】
祖母と一緒に暮らすため、東京から雪深い地方のミッション系の小学校へ転校してきた由来(佐藤結良)は、同級生たちと行う礼拝に戸惑いを感じていた。礼拝の習慣や友だちとも慣れていったある日、お祈りをする由来の目の前にとても小さなイエス様(チャド・マレーン)が現れる。由来は願いを必ず叶えてくれるイエス様が持つ不思議な力を次第に信じるようになっていくが…。「第66回サンセバスチャン国際映画祭」にて最優秀新人監督賞を史上最年少で獲得。新鋭映画監督の奥山大史が大学在学中に制作した長編デビュー作。
【CAST&STAFF】
出演/佐藤結良 大熊理樹 チャド・マレーン 木引優子 ただ のあっ子 二瓶鮫一 秋山建一 大迫一平 北山雅康 佐伯日菜子
監督・撮影・脚本・編集/奥山大史
制作/閉会宣言
配給/ショウゲート
公式HP
5月31日(金)よりTOHOシネマズ 日比谷ほか全国順次ロードショー
(C)2019 閉会宣言
PROFILE
佐伯日菜子(さえき・ひなこ)
1977年2月16日生まれ 奈良県出身
94年、映画『毎日が夏休み』で女優デビュー。ドラマ「エコエコアザラク」「アナザヘヴン-eclips」「トリック」など数多くの作品に出演。近年の映画出演は『紅い襷〜富岡製糸場物語〜』『プレイルーム』など。樹木希林さんが企画を担当、玉木香代子役で出演の映画『エリカ38』が6月7日(金)公開。その後も話題作が多数待機中。
公式Twitter
■映画『僕はイエス様が嫌い』
【INFO&STORY】
祖母と一緒に暮らすため、東京から雪深い地方のミッション系の小学校へ転校してきた由来(佐藤結良)は、同級生たちと行う礼拝に戸惑いを感じていた。礼拝の習慣や友だちとも慣れていったある日、お祈りをする由来の目の前にとても小さなイエス様(チャド・マレーン)が現れる。由来は願いを必ず叶えてくれるイエス様が持つ不思議な力を次第に信じるようになっていくが…。「第66回サンセバスチャン国際映画祭」にて最優秀新人監督賞を史上最年少で獲得。新鋭映画監督の奥山大史が大学在学中に制作した長編デビュー作。
【CAST&STAFF】
出演/佐藤結良 大熊理樹 チャド・マレーン 木引優子 ただ のあっ子 二瓶鮫一 秋山建一 大迫一平 北山雅康 佐伯日菜子
監督・撮影・脚本・編集/奥山大史
制作/閉会宣言
配給/ショウゲート
公式HP
5月31日(金)よりTOHOシネマズ 日比谷ほか全国順次ロードショー
(C)2019 閉会宣言
PROFILE
佐伯日菜子(さえき・ひなこ)
1977年2月16日生まれ 奈良県出身
94年、映画『毎日が夏休み』で女優デビュー。ドラマ「エコエコアザラク」「アナザヘヴン-eclips」「トリック」など数多くの作品に出演。近年の映画出演は『紅い襷〜富岡製糸場物語〜』『プレイルーム』など。樹木希林さんが企画を担当、玉木香代子役で出演の映画『エリカ38』が6月7日(金)公開。その後も話題作が多数待機中。
公式Twitter
取材・文/内埜さくら 撮影/おおえき寿一