07年に公開された前作『ワルボロ』から8年の歳月を経て、あの傑作青春ムービーが再びスクリーンに帰ってくる。今回は、映画『ズタボロ』の来たる5月9日の全国公開に先駆け、原作者であり、主人公の“コーイチ”その人でもあるゲッツ板谷さんを直撃インタビュー。映画化実現までの紆余曲折から、昨今の世相に至るまでの諸々を、ざっくばらんにうかがった!
軽妙な語り口が魅力の自伝的ベストセラー『ワルボロ』の映画化から、今回の原作ともなっている『メタボロ』『ズタボロ』の3部作を書き上げるまでの間に、脳出血という予期せぬ大病にも見舞われた板谷さん。文章を書くことにさえ支障をきたすほどの後遺症に苦しめられながらも、再びの映画化にまでこぎつけた、ご本人の胸のうちとは!?
闘病生活を乗り越えて続編が待望の映画化
──前作『ワルボロ』からは8年ぶりとなる続編。制作にあたっては、原作者として「“痛み”の伝わる演出を」とオーダーされたと聞きましたが、実際に本編をご覧になっていかがでした?「原作者のくせにこんなこと言うのも何ですけど、かなりおもしろかったですね。前作も映画としてはよく出来ていたと思うんですけど、個人的な好みで言えば、今回のほうが断然好き。東映の三角マークが出てくるあの荒波のシーンから、『うっ!』とかうめき声だけが先に聞こえてきて、『おっ、来るかな?』と思ったら、冒頭からいきなり主役の永瀬匡くんが“ズタボロ”にされてる。あの感じは、観ていてすごくテンションも上がりましたね」
──ポスタービジュアルも、まるでゾンビ映画。メジャー感のある青春映画だった前作とは、そのあたりからも一線を画した雰囲気は伝わってきます。ちなみに、制作までにかなりブランクが開いたのは、やはりご病気のせい?
「それはありますね。ちょうど前作を撮ろうって時に俺が脳出血で入院しちゃって、その後は4年間ぐらいずっとリハビリ。日常生活は普通にこなせるのに、高次脳機能障害ってヤツのせいで、物事がなかなか思い出せなくなったりして、思うように仕事が進まない状態が続いてたんですね。だから、今回の続編を作るって話も、実際は前作が公開してすぐのタイミングで、東映ビデオの菅谷(英智)Pから、オファーをもらっていたのに、原作を書き上げるだけで結局、4年半もかかっちゃって。ぶっちゃけ、俺の中では『これじゃ、映画化もないだろな』と思っていたんです」
──それが、こうして実現にこぎつけた。産みの苦しみを思うと、喜びもひとしおですね。
「もうひとえにこれは、その菅谷Pのおかげですよ。彼はリハビリ中も月に1、2度は必ず、立川の俺んちまで遊びに来てくれてね。『原稿、進んでますか?』みたいな仕事の話はいっさいせずに、家の前にあるゴールで、一緒にバスケットやったり、ラーメン食いに行ったりしながら、ひたすら待っていてくれたんです。しかも、いざ書き上げたってなったら、速攻で『じゃあ、撮りましょうか』ですからね。逆にこっちが『えーっ、そうなの!?』ってなったぐらいで(笑)」
──映画が原作を食い気味に待ち構えていたと。それもまた、かなり異例なことですね。
「そうですよ。ただ、なかなか筆が進まないことに苛だちもあったこっちとしては、最後まで映画の“え”の字も出さずにいてくれたのは、ホント助かったし、ありがたかったですよ。あそこで聞いちゃってたら、ヘンにプレッシャーを感じちゃって、さらに遅れてたかもしれないし」
──もう体調のほうは、すっかりよくなられたんですか。
「倒れる前が100だとしたら80、90ぐらいにまでは戻ってきたかなと。それこそ、病み上がりもいいところだった前作の撮影中なんかは、今振り返ってもヒドい有様でしたけどね。あの時は、俺の中ではだいぶ治ってきてるし、もう大丈夫ってつもりだったのに、主演の松田翔太くんから『喧嘩のやり方ってどうやるんですか?』と聞かれて、うまく答えられなくてね」
──それは、例の高次脳機能障害がまだ残っていたから?
「そうそう。頭では『髪の毛つかんで、そこに2~3発、ヒザを入れたらもう決まりだよ』って言ってるつもりなのに、それが全然言葉として出てこない。俺がワケの分からないことしゃべってるから、当の松田くんにも『聞いちゃいけない人に聞いちゃった』みたいな顔をさせちゃったし、あれは情けなかったですよ」
──今回も、前作に続いてご自身でカメオ出演もされていますが、現場にはわりと?
「撮影期間約3週間のうち、ほとんど行きました。俺があまりにいすぎるから、おそらく現場のみなさんは『また来てるよ』って感じで、かなり戸惑っていたと思います。監督さんもすごい気にしてたし、主演の永瀬くんなんかは、『よーい、スタート』の声がかかる直前に、必ず俺のほうをチラッと見てましたしね(笑)一応、こっちとしては、自分の目で現場を観たいってのがまずありつつ、もし人手が足りなかったら、俺の友だちをいくらでも使ってくださいね、ってぐらいの心づもりではいたんですけどね」
──そうやって板谷さんが目を光らせていたおかげ(?)で、乱闘シーンも、かなり“痛い”感じに仕上がっていましたね!
「いやいや、俺の存在は関係ないですよ。でもまぁ、ホントの喧嘩は30秒もあったらケリがつく場合がほとんどだから、迫力なんてものはそもそもない。もし現実世界で、映画みたいに10分以上も殴りあいが続いたら、たぶん死人が出ますしね(笑)」
止まらぬ少子化の原因はヤンキーの不在にある!?
──ところで、このインタビュー企画は、「教えて!パイセン」というタイトルだったりもするわけですが、近頃の若者について、何か思うところはありますか?「昔みたいなヤンキー文化を礼賛するつもりはないけど、それにしたって、ちょっとお行儀がよすぎるんじゃないの? ってのはすごく感じますよね。世間じゃ“草食男子”なんてのが持てはやされているみたいだけど、男なら『こいつだ!』って女を見つけたら、とにかくアタックしてナンボ。そりゃ、アイドルやアニメのキャラクターは、何があっても拒絶したりはしないだろうけど、生身の女にちょっと『興味ない』と言われたぐらいで、すぐ引いちゃうのは、男としてどうなの? ってのはありますね。俺自身は、日本の少子化が止まらないのは、そういう部分にも原因があるんじゃないかって、真剣に思ってるぐらいですし」
──それでいて、出会う機会は欲しいから“婚活イベント”なんかがブームになったりもする。板谷さんからすれば、「そこは自分からガツガツ行けよ」と。
「極端な話だけど、『あのコとやりてえぇー!』と思ったら、彼氏がいるとかそんなの気にする必要なんてないですからね。どれだけあがいたところで、人間は何十年か生きたら必ず死んじゃうんだから、後悔するくらいなら、何はともあれ動いたほうがいい。そうやって一直線に突っ走るヤツがいるからこそ、それが周りの刺激にもなって、人生はおもしろくなるわけですからね」
──確かに、昔はそういう“行儀のよさ”をブチ壊す存在としてのヤンキーが一定数いたから、どんな平凡な日常にも、それなりの緊張感はありましたもんね。
「そうでしょ? 今や、俺の地元である立川が、“住みたい街ランキング”で上位に入っちゃったりする時代ですからね。昔の立川を知らないヤツが、『立川もおしゃれになったよねー』なんて言っているのを聞くと、後ろから蹴飛ばしたくなりますよ(笑)」
──そこは『ワルボロ』3部作を読んでからモノを言えと。
「その通りです(笑)でも、ホント今回の映画は、ギリギリのラインを攻めながらも、娯楽として十分楽しんでもらえる作品になってると思うんで、『ヤンキーなんてくだらないと思ってたけど、結構いいじゃん』って感じに思ってもらえたら、俺としてはもう何も言うことはないですね」
文章からも滲みでるヤンチャな雰囲気はそのままに、率直かつフランクに語ってくれた板谷さん。常人には経験できない破天荒な半生に裏打ちされたその軽妙なトークは、取材時間に関係なく「もっと話していたい」と思ってしまうほど、とても魅力的でした。
INFORMATION
映画『ズタボロ』
INFO&STORY
地元・立川の不良グループで幅を利かせていたコーイチ、ヤッコ、キャームの3人は中学を卒業。高校でも大きな顔をしたいがため、暴走族「立川獄門」に入る。しかし、そこでは新人教育という名目で理不尽なヤキを入れられる日々が続く。嫌気がさしたコーイチは立川獄門から距離を置くが、その間にヤッコが半殺しの目に遭ってしまい、コーイチは親友の復讐のためヤクザの叔父・猛身の舎弟になることを決意。しかし仲間からの友情や体当たりで自分を守ろうとする母親の姿を目の当たりにし、自身の行動が正しいのか苦悩する…。様々な感情にケリを付けるべく“コーイチ”の新たなる戦いが始まる。07年に松田翔太主演で製作・公開された「ワルボロ」の続編。ゲッツ板谷氏が、前作に続いて自伝的小説として書き上げた「メタボロ」「ズタボロ」を原作に、高校に進学した主人公コーイチと仲間たちが暴走族、不良集団、ヤクザなどの抗争に巻き込まれていく姿を描く。
CAST&STAFF
出演/永瀬匡・清水富美加・堀井新太・成田瑛基・荒井敦史・大江健次(こりゃめでてーな)・Kaito・小久保寿人・中西晶・吉村界人・石田卓也・菅田俊・伊藤洋三郎・木村祐一・佐藤二朗・平田満・南果歩
原作/ゲッツ板谷「メタボロ」「ズタボロ」(幻冬舍文庫)
脚本/高橋泉
監督/橋本一
配給/東映
公式HP
5月9日(土)ロードショー
(C)2015 東映ビデオ
PROFILE
ゲッツ板谷(げっつ・いたや)
1964年7月4日生まれ 東京都立川市出身
本名/板谷宏一
10代の頃は暴走族やヤクザ予備軍のような日々を過ごす。その後、紆余曲折を経て、白夜書房のパチンコ雑誌「パチンコ必勝ガイド』でフリーライターとしてデビュー。主な著書に「板谷バカ三代」、「怪人紀行」シリーズ、対談本「わらしべ偉人伝」など。07年には初小説「ワルボロ」が松田翔太主演で映画化された。06年、脳出血及び髄膜炎を併発し入院。長いリハビリを経て、4年半をかけて書き上げた続編2作「メタボロ」「ズタボロ」(ともに幻冬舎刊)が映画「ズタボロ」の原作となる。
公式ブログ
公式Twitter
映画『ズタボロ』
INFO&STORY
地元・立川の不良グループで幅を利かせていたコーイチ、ヤッコ、キャームの3人は中学を卒業。高校でも大きな顔をしたいがため、暴走族「立川獄門」に入る。しかし、そこでは新人教育という名目で理不尽なヤキを入れられる日々が続く。嫌気がさしたコーイチは立川獄門から距離を置くが、その間にヤッコが半殺しの目に遭ってしまい、コーイチは親友の復讐のためヤクザの叔父・猛身の舎弟になることを決意。しかし仲間からの友情や体当たりで自分を守ろうとする母親の姿を目の当たりにし、自身の行動が正しいのか苦悩する…。様々な感情にケリを付けるべく“コーイチ”の新たなる戦いが始まる。07年に松田翔太主演で製作・公開された「ワルボロ」の続編。ゲッツ板谷氏が、前作に続いて自伝的小説として書き上げた「メタボロ」「ズタボロ」を原作に、高校に進学した主人公コーイチと仲間たちが暴走族、不良集団、ヤクザなどの抗争に巻き込まれていく姿を描く。
CAST&STAFF
出演/永瀬匡・清水富美加・堀井新太・成田瑛基・荒井敦史・大江健次(こりゃめでてーな)・Kaito・小久保寿人・中西晶・吉村界人・石田卓也・菅田俊・伊藤洋三郎・木村祐一・佐藤二朗・平田満・南果歩
原作/ゲッツ板谷「メタボロ」「ズタボロ」(幻冬舍文庫)
脚本/高橋泉
監督/橋本一
配給/東映
公式HP
5月9日(土)ロードショー
(C)2015 東映ビデオ
PROFILE
ゲッツ板谷(げっつ・いたや)
1964年7月4日生まれ 東京都立川市出身
本名/板谷宏一
10代の頃は暴走族やヤクザ予備軍のような日々を過ごす。その後、紆余曲折を経て、白夜書房のパチンコ雑誌「パチンコ必勝ガイド』でフリーライターとしてデビュー。主な著書に「板谷バカ三代」、「怪人紀行」シリーズ、対談本「わらしべ偉人伝」など。07年には初小説「ワルボロ」が松田翔太主演で映画化された。06年、脳出血及び髄膜炎を併発し入院。長いリハビリを経て、4年半をかけて書き上げた続編2作「メタボロ」「ズタボロ」(ともに幻冬舎刊)が映画「ズタボロ」の原作となる。
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Interview&Text/鈴木長月 Photo/おおえき寿一