「性的虐待を受けた女性に観てもらう機会があり『被害者の気持ちで 撮ってるから、辛いけどいい映画だった』と泣きながら言ってくれました」(水井)
「テロップに男性が被害者になりうる可能性もあると表示される ので、私は全男性に観て頂きたいです。もちろん、女性にも」(加弥乃)
14年の「ゆうばり国際ファンタスティック映画祭」など、10もの映画祭で上映され話題を呼んだ映画『ら』が3月7日から公開。初メガホンを執った水井真希監督の実体験を映像化したストーリーで、見知らぬ男に一晩拉致されるという重々しい内容ではあるが、エンターテイメントとしても成立するよう、ファンタスティックな映像も挟まれている。水井監督と主演を務めた加弥乃さんが伝えたかったことを、徹底的に語り合って頂きました!
西村組スタッフさんに助けられとてもいい完了でした
──水井さんの実体験を映画化した作品ですが、観ていると心の底から恐怖感を覚えました。特に加弥乃さんが犯人役の小場賢さんに、ガムテープでぐるぐる巻きにされるところとか。水井真希(以下、水井)「実はガムテープの裏にはバンテージを貼っておいたんですけど、それでも痛かったよね、辛かったよね、ごめんね~!」
加弥乃「辛かったですね(笑)劇中で巻かれたから当然、小場賢さんも容赦なかったですし、都合上、撮影の待ち時間も巻かれたままのことがあったから、これが一晩も続いたんだと思ったらゾッとしました。でもそのぶん、西村(喜廣)プロデューサーが作ってくれたカレーが一段とおいしく感じました(笑)人の気持ちが込められた手料理が本当においしかったです」
──西村さんは水井監督の師匠でもあるんですよね。
水井「そうなんです。だから今回は全員、西村さんのスタッフさんがお手伝いをしてくださったんです。私はみなさんと顔見知りですし、初監督ということもあって『普通はこう撮るけど、このままでいい?』なんてアドバイスもしてくださったので、とてもいい環境で監督をやらせて頂きました」
私たち顔立ちは違うけれど似てるって言われるんです
──ご自身役に加弥乃さんを起用した経緯は。水井「加弥乃ちゃんが出演の『生贄のジレンマ』という映画のイベントに、西村さんが呼ばれたんですね。そこに登壇していた加弥乃ちゃんの写真を、西村さんが送ってくれたんです。それを見て『あ、このコかも』という直感です」
加弥乃「だからオーディションだと思っていた顔合わせで即オファーを頂いた時は驚きました。初対面の直前に水井さん、ラーメン食べてましたよね」
水井「だから汗だくのまま挨拶したんですよ(笑)結果、加弥乃ちゃんを起用して本当によかったなって。作品を観た方から、加弥乃ちゃんが私に見えるってすごく言われるんですよ」
加弥乃「それは私も言われました。顔立ちじゃなくて、雰囲気が似てるのかもしれませんね」
何も悪くない人がなぜ…お話しを聞いて傷つきました
──実体験を映画化していますが、そのままを映像にしたのでしょうか。水井「拉致されて翌朝、自宅近くで解放されるまでの流れはほぼ実話ですね」
加弥乃「私はそのお話を聞いて、何で水井さんが当事者になってしまったんだろうって、悔しかったし傷つきました。何も悪くない人が、なぜこんなひどい目にあわなきゃいけないのって」
水井「だから、こう言うとすべての男性を犯罪者予備軍扱いしているように思われてしまうかもしれないんですけど、性犯罪者になりうる人に観てもらいたいんですよね。その自覚がないから難しいかもしれませんけど」
加弥乃「ラストのテロップに男性が被害者になりうる可能性もあると表示されるので、私は全男性に観て頂きたいです。もちろん、女性にも」
水井「性的虐待を受けた女性を試写に呼んだんですね。そのコは『男性が撮る女性が拉致される映画は男性が楽しめる作りになっているけど、この作品は被害者の気持ちで撮ってるから、辛いけどいい映画だった』と泣きながら言ってました」
──でも、普段の小場さんはいい人なんですよね?
水井「あー、どうなんでしょう。現場では役者さんとしか見ていなかったので、どんな人かまでは知らないんですよ。『もっと怖くして! ひどくして!』という指示を出していたことしか記憶になくて。加弥乃ちゃんは?」
加弥乃「劇中では被害者、加害者ですけど現場でもご一緒した映画祭でも、いっぱい話をしました。昔はお互いアイドルとして活動し、今は俳優業に就いているなど小場賢さんとは芸能界での境遇が似ていて…。夕張以来久しく会っていませんが、また話したいです」

■映画『ら』
INFO&STORY
アルバイトからの帰り道、知らない男に拉致されたまゆか(加弥乃)。男は凶行をエスカレートさせていくが、やがて無事に解放される。まゆかは日常生活に戻るが、心に負った傷が暗い影を落としていた…。女優水井真希の監督デビュー作。自身が被害者として経験した連続拉致事件を映像化した。国内外10の映画祭で上映されたサスペンスファンタジーが遂に公開となる。
CAST&STAFF
出演/加弥乃・小場賢・ももは・衣緒菜・文月・亜季・佐倉萌・久住翠希・屋敷紘子
監督・脚本/水井真希
プロデューサー/西村喜廣
公式HP
3月7日(土)より渋谷アップリンクほか全国ロードショー
(C)NISHI-ZO 西村映造

加弥乃(かやの)
94年2月10日生まれ 東京都出身
子役として舞台「アニー」などに出演。12歳でアイドルグループAKB48発足当時の最年少メンバーとして活躍し、多くのファンを集める。現在は女優として幅広く活躍。映画出演作には「おんなのこきらい」「少女は異世界で戦った」「ばしゃ馬さんとビッグマウス」「生贄のジレンマ 上」「アバター」などがある。
公式Twitter

10代後半から園子温さんに師事し、西村喜廣さんの下で映像制作を学ぶ。映画「Strange Circus 奇妙なサーカス」「片腕マシンガール」などに現場スタッフとして携わる一方、女優としても活動。主演作に「終わらない青」「イチジクコバチ」がある。本作で映画監督デビューを果たした。
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Interview&Text/内埜さくら Photo/おおえき寿一