ディズニーに素晴らしいと太鼓判を押されたドナルドダックの演技や『それいけ!アンパンマン』のめいけんチーズ役など、数え上げればキリがないほど声を自在に操る”声優界の若き神“山寺宏一さんが今回のパイセンゲスト。今まであまり経験がないごく普通の父親役を演じた映画『ゆめはるか』の話を聞くはずが、話が脱線していき仕事観へと移行。人気職業のトップに君臨する極意を教えてくれました!
“七色の声を持つ男”として、声優のみならず俳優やタレント、ナレーター、司会など、縦横無尽に芸能界を生き抜く山寺宏一さん。12月13日公開の映画『ゆめはるか』では、仕事最優先だけれど家族も愛しているという、マジメな父親役に挑戦しています。さすが声とトークを生業としているだけあり、納得できる言葉尽くしで作品のこと、読者の参考になる仕事への考え方を語ってくれました。
映像の仕事は忘れた頃にくるから毎回新人だと思って現場に入ります
──映画『ゆめはるか』では至って普通の父親を演じていますが、今回のような役は珍しかったとか。「別に今までふざけてたワケじゃないんですけど(笑)そうですね、コメディータッチな役が多かったんで、マジメなお父さん役はチャレンジでしたね。この年で父親になった経験もないですし、映像の仕事って、忘れた頃にやってくるんですよ。だから毎回、自分は新人だと思って現場に入ってます」
──映画やドラマに何作も出ているのに、気持ちは新人ですか?
「いやぁ、映像のキャリアは数えるほどしかありませんから。新人だなんて言い訳をしちゃいけないことは分かってるんですよ。『お前、何歳だよ! 何回目だよ』って話ですから。一時期は『慣れてないんで』なんて言ってましたけど、今は言いませんよ。言われた側からすれば、だからどうしろっていうんだよと思うだけですから」
──声の仕事に関しては、新人だとは思っていませんよね?
「もちろん! でも、『どうせこんな感じだろう』という慣れもよくないと思ってるんで、新しい役を頂いた時は、毎回オーディションのつもりで挑んでますよ。最近、新たに頂いた吹き替えの仕事の時も、次の彼の作品に自分が呼ばれるかどうかは、この作品にかかってるな、という意気込みは持ってました。1回1回結果を出していかないと明日はないっていうのは、どの仕事に対しても持っている認識ですね。さすがに25年もやってる(『アンパンマン』の)めいけんチーズに、オーディションのような気持ちを持つことはなかなか難しいですけど(笑)」
──1回ずつ結果を出したからこそ今、マルチな才能を発揮できているということですね。
「メディアの仕事はやりたいと手を挙げてもできないもので、頂いてナンボですから。ただ、僕自身は自分をマルチだと感じたことは一度もありませんねぇ。映像も歌も踊りもできる、戸田恵子さんっていう本物のマルチが一番身近にいるんで」
──ですが、山寺さんが多方面から求められているのは事実です。求められる人材になるためには?
「正直、分かんないっす(笑)僕ね、自分で言うのもアレですけど、人当たりはそれほど悪くないほうだと思うんですね。かと言って、誰かとものすごく強く結びつくかっていうと、そうでもない。大好きなんだけどイヤなことを言う先輩に、言われたことがあるんですよ。『いろんな人に営業とか接待してんだろう? お前みたいに調子よく人付き合いしてれば、俺ももっと仕事してるのになぁ』って。だけど実際は僕、営業も接待も一切、しないんです。プライベートではスタッフとも、ほとんど会わない。本当にだらしなくてダメだと思ってるんですけど、年賀状すらほとんど出さないんですよ」
──では、芸能界恒例のお礼状も。
「あぁ、一度仕事をした人に手書きで書く人、多いですよね。一度やろうと思って書き始めたら、一通書くのに一週間かかって諦めちゃった(笑)本当に無精者で」
──筆不精ですね(笑)求められる理由をご自身で分析すると?
「1つ1つの仕事が勝手な化学変化を起こした、としか言いようがないんです。最初は声優1本で仕事をしていて、次にラジオで大人向けに面白いことをしゃべったら、ギャップがある面白いオジサンがいるってことで『おはスタ』に呼んで頂いて。誰もしていないことと需要がマッチしたんですかね」
「山ちゃんと仕事ができて嬉しい!」子役にセリフ口調で言われました(笑)
──仕事への意識の持ち方も、仕事の連鎖に繋がったのでは。「求められたらその上をいかなかったら負け、期待以上のことをやろうって気持ちは、昔も今も変わらないですね。『期待以上だった』という言葉が欲しくてやってる部分はあります。声優は、あまり個人差が出ない職業ですから」
──それ、どういうことですか?
「人数が多いし、いい声のヤツなんていくらでもいるでしょう。だから、誰がやってもいい世界なんですよ。オファーする側もおそらく実力があまり変わらないなら、『安いギャラだからこの人』とか、『可愛いから写真を出したらウケがいい』とか『コイツが現場にいたら盛り上がる』って理由でセレクトしてる部分もあると思うんです。僕の場合は、何かやってくれるんじゃないかっていう印象があって、選ばれているんじゃないかと」
──そう思われるためにしたことは。
「バックでいろいろしゃべってる”ガヤ“を録る時に、ちょっと目立つみたいなことは常にしてましたね。主役の邪魔はしないけど、アドリブで的確な面白いことを言って、『誰、今の笑っちゃったよ』『すみませ~ん』みたいなやり取りをして”粒立つ“っていう。メイン役の人が兼ね役はできないんで、現場にはギャラが安くて器用な新人を必ず何人か入れておくんですけど、5~6役やったら全部違う声優が演じてると思わせることも意識してました。結果、『シティーハンター』の冴羽?に一番、撃たれたのは僕ですよ(笑)いつか絶対的エース神谷(明)さんのような役をやりたいと思いつつ、便利屋をしてたんです。『それいけ!アンパンマン』のチーズも、そういう経過を経て役を頂いたんです」
──ほかに新人時代から続けていることはありますか?
「今はキューランプって機械になっちゃったんですけど、ガヤや別録りのセリフを録る時は率先して仕切り、手でキューサインを出してました。大声を出す時は大胆に、ヒソヒソしゃべる時は小さくって指揮者みたいな手振りで出してたから『山ちゃんのキューサインは言いやすいね』なんて言われたりしてね。『アンパンマン』では今でも僕がその係ですよ」
──目立つ新人だったんですね~。
「だから、現場に入ってフツーにやって帰る新人を見ると、もったいないなぁと思いますよ。迷惑をかけたくないっていうのが新人の考え方で、僕も自分のミスで時間を取らせたくない気持ちはありましたけど、可もなく不可もなしじゃ、誰にも覚えてもらえない。ほかとは違う印象を残さないと、次のオファーに繋がりませんから」
──ほかと違うところを見せてきて、今の山寺さんがあるんですもんね。
「お陰様で苦労なくここまで来てるんですよ…すみません(笑)ただ、声優業界は環境面で解決すべき問題はあるんですけどね。午前中から始めて昼飯を食べて、14時ぐらいから23時まで飯抜きもザラ。そういう時は僕、『えー、休憩は何時でしょうか?』と大声で言って、パイプ役になるんですよ(笑)みんなが楽しく仕事ができる一端を担えるなら、いつでも買って出ます。以前、僕が主役のハリウッド作品をやっていて、大御所もいるのにやっと出た夕ご飯がおにぎりか菓子パンどちらか1個と言われて、留置場よりひどいな、と(笑)これは何とかしないと、と思いました」
──山寺さん、映画の宣伝も(笑)現場でのエピソードがあれば。
「あ、すみません(笑)清夏役の高橋美波ちゃんが面白い子で、『山ちゃんとお仕事ができて、本当にうれしかった』と、セリフみたいに言われましたね。そこは自分のテリトリーなんで、積極的に優しくしたのもあるんでしょうけど。子どもに優しくすると、好感度も上がりますからねぇ(笑)」
──主演の吉本実憂さん、とても美しくて見入ってしまいました。
「ねぇ、この父からは無理だろうっていうね(笑)実憂ちゃんの記念すべき初主演作に父親として出演できたことは、これからもずっと自慢にしていこうと思います。で、実憂ちゃんが大女優になった時に、『山ちゃんと共演したいな~』とワガママを言って再共演するのが僕の願いです(笑)」
さすがしゃべりのプロだけあり、心に刺さる言葉のオンパレードでした。またの登場をお待ちしております!
INFORMATION
映画『ゆめはるか』
INFO&STORY
ジュニアオリンピック出場を期待されるほどの短距離走者として将来を期待されていた15歳の少女・本田遥(吉本実憂)は、練習中にめまいを起こして倒れ、そのまま病院へ。検査の結果、脳腫瘍を患っていることが判明し、入院生活を送ることに。ランナーとしての夢を断たれた遥だったが、家族や友人、主治医の励ましに支えられながら、厳しい治療にも耐えながら懸命に生き抜こうとする…。
CAST&STAFF
出演/吉本実憂・山村美智・鳥羽潤/山寺宏一
脚本・監督/五藤利弘
配給/ベストブレーン
公式HP
12月13日(土)ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次ロードショー
(C)「ゆめはるか」製作委員会
PROFILE
山寺宏一(やまでら・こういち)
1961年6月17日生まれ 宮城県出身
85年に声優デビュー後、人気作に次々と出演。“七色の声を持つ男”と称され、声優としての人気を不動のものにする。97年、テレビ東京の子ども向けバラエティ「おはスタ」のメイン司会者に抜擢され、00年には三谷幸喜氏から声が掛かり、フジテレビ「合い言葉は勇気」で俳優としてドラマにも出演。実写映画の代表作には「20世紀少年 第2章 最後の希望」「20世紀少年 最終章 ぼくらの旗」「あさ・ひる・ばん」などがある。現在も声優としての仕事を中心に俳優、タレント、ナレーター、司会者などマルチに活躍している。
公式HP
公式Twitter
映画『ゆめはるか』
INFO&STORY
ジュニアオリンピック出場を期待されるほどの短距離走者として将来を期待されていた15歳の少女・本田遥(吉本実憂)は、練習中にめまいを起こして倒れ、そのまま病院へ。検査の結果、脳腫瘍を患っていることが判明し、入院生活を送ることに。ランナーとしての夢を断たれた遥だったが、家族や友人、主治医の励ましに支えられながら、厳しい治療にも耐えながら懸命に生き抜こうとする…。
CAST&STAFF
出演/吉本実憂・山村美智・鳥羽潤/山寺宏一
脚本・監督/五藤利弘
配給/ベストブレーン
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12月13日(土)ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次ロードショー
(C)「ゆめはるか」製作委員会
PROFILE
山寺宏一(やまでら・こういち)
1961年6月17日生まれ 宮城県出身
85年に声優デビュー後、人気作に次々と出演。“七色の声を持つ男”と称され、声優としての人気を不動のものにする。97年、テレビ東京の子ども向けバラエティ「おはスタ」のメイン司会者に抜擢され、00年には三谷幸喜氏から声が掛かり、フジテレビ「合い言葉は勇気」で俳優としてドラマにも出演。実写映画の代表作には「20世紀少年 第2章 最後の希望」「20世紀少年 最終章 ぼくらの旗」「あさ・ひる・ばん」などがある。現在も声優としての仕事を中心に俳優、タレント、ナレーター、司会者などマルチに活躍している。
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Interview&Text/内埜さくら Photo/おおえき寿一
ヘアメイク/岩井マミ スタイリスト/遠山真紀
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