お笑いコンビよゐこの有野晋哉さんが単独で映画に初出演。『トモシビ 銚子電鉄6.4kmの軌跡』で主人公の未来に関わる重要な役を担っているが、自身が目指す未来の“役者像”とは…。有野課長として出演している『ゲームセンターCX』では世界的に影響を与え、アニメや漫画、アイドルにも精通する芸人がデビュー当初から大切にしている教えを解き明かすとともに、後輩から持たれている意外なイメージも告白する。
実は『好きなように』がいまだに見つかっていません。でも好きを仕事にするんじゃなく仕事を好きになるしかないですよね。
完成作で自分の演技を観てコレはブルーリボン賞を獲るな、と(笑)
──コンビではなく単独で映画出演は初ですが、経緯を教えて下さい。「杉山(泰一)監督から『ぜひ有野さんで』という話らしいんですけど、最初は驚きましたね『何で僕に?』って。演技は経験がないのに芸歴は26年ありますから、現場では新人扱いされないでしょ。芸歴に対する演技力が同じランクじゃないから、新人の(松風)理咲ちゃんがいる前でコテンパンにダメ出されてるところを見られたくないなあ〜って(笑)その不安を払拭するために、撮影入る前に監督とお会いさせてもらったら、『キャラクターは作らず、有野さんのままでいてほしい』と言われまして。ただ、『台詞も少し減らしますね』と言われた時は『それはイヤです!』と抵抗しました(笑)出るからには一言でも台詞が多いほうがいいですから、頑張ります! と伝えたんです」
──頑張って演技をした完成作品をご覧になっていかがでしたか。
「いやあ〜、コレはもうブルーリボン賞獲るなあって(笑)って言っておけばキャッチコピーにしやすいでしょ?(笑)この作品を通じて、いろんな作品に呼ばれたい。幅広くいろんな運転士役をやってみたいです。『RAILWAYS』や『シベリア超特急』に出たいです」
──運転士役限定ですか!?
「撮影で実際、電車に触れた時に鉄道マニアじゃないのに興奮したんですよ。銚子電鉄は行って来いの電車ですから、鍵代わりのハンドルを持って移動するだけでも本当に楽しくて。車掌さんがおっしゃっていた『休日に銚子電鉄を運転できるツアー』というプランも印象に残っていますね。切符代じゃなく一区間の運転料を頂くイベントを他の路線で実施しているから、銚子電鉄でもやりたいらしいですが、認可待ちだそうです」
──なるほど。興味を持ったからこそ運転士役を希望したんですね。
「それもありますけど、『あの人が出ている映画は面白いなあ』と思ってもらえたらいいですよねえ。ただし、今後に関しては僕が決められることじゃありませんし、この作品にもかかっているんですよね。作品自体は最高の出来なんですよ。爆破や流行りのCGもない。でも、作風がのどかで、観ているだけで心がほっこりするんです。でも僕の演技は風前の灯か否かという分岐点ですよ」
──(笑)ところで主演の松風さんは有野さんの娘さんお二人と年齢が近いですよね。
「理咲ちゃんのほうが娘たちより少し年上だから、聞いたんです。『反抗期ってどんなんやった?』って。でも理咲ちゃんは見た目通り。ああ、グレてないパターンもあんねんや、と驚きました。女の子はみんな中学2年ぐらいの時に父親が嫌いになって、『一緒に洗濯しないで!』とかあるもんやと思ってたんですけど、そんなこともなくて、ずっとお父さん大好きらしいんです、こういう娘に成長してくれたらいいなと思いつつも、いいコすぎて参考にならへん。最近、理咲ちゃんぐらいの真面目そうな娘に会ったら、この質問ばっかりしていますね。でも、グレた分岐点と更生した場面を知りたいから、品行方正な人生を歩んできた娘の親に聞かないと、参考にならないですよね。子どもが寝た後に妻と『グレたらどうするか』という家族会議をもうしてます。父と娘が揉めた時にどうしたらいいかっていう答えを聞きたいんですけど彼女は揉めてない」
──質問する相手を間違えているかと(笑)ですがさすが有野さん、各方面との関係が円滑ですね。
「でも事務所の後輩には慕われてないんですよ。世間では優しい受け入れてくれるって印象やと思うんですけど、後輩が僕に持つ印象って相当怖いみたい。普段は後輩を殴ったり怒ったりしたこともないのに、怖いという印象がだけがはびこっているんです。だから僕が来ると後輩たちはピリッと身を引き締める感じですね」
──意外です。今は後輩と食事は?
「20代の頃は行ってましたよ。上京した当初はよゐこしかいなくて、東京に後輩はいなかったんです。TKOが来たけどすぐ帰るし。その後、別の後輩が上京した時には誘ってましたよ。『出川(哲朗)さんとご飯行くけど来る?』と、後輩を先輩芸人と引き合わせたりもしたんですけど帰りしなに『俺ばっかり肉焼いてたな、お前注文とか出来ひん?』って聞くくらいです。慕われない理由? いまだに解明できないんです(笑)」
──正直、寂しくないですか?
「当時は可愛い後輩だから何とかしてあげたい気持ちがあったんですけど、自分の子どもができてからは『このおっさんのどこが可愛い後輩やねん!』ってことに気付きました。芸能界のファミリーなんていらないですね。自分の家族で充分! ピリッとしてる後輩と遊んでも楽しくない。だから寂しくないです」
実はいまだに「好きなように」が見つかってはいない段階なんです
──では、20代の頃のご自身を振り返って思うことは。「レギュラー番組はありましたけど、よゐこといえばコレ! という出世作はなかったから、20代はずっと崖っぷちでしたよ。テレビに出てはいるけど、ずっと自信を持つことができない状態でした」
──その当時、頼りにした先輩はいますか。
「ウッチャンナンチャンさんだけですね。でもお二人とも説教するタイプでもないし、内村(光良)さんはいつも『好きなようにやりなさい』と言ってくれて。でもその〝好きなように〟が分からへんのに、と模索はしていました」
──その〝好きなように〟はどうやって見つけたのでしょうか。
「えーっ…、今も見つかってないですよ。ずっと好きだったゲームが仕事になっているわけですから、周囲からしたら見つかっているようなイメージがあるかもしれませんけど。そもそも僕は新作が大好きで、週に3本は買っていたんです。ところが仕事でレトロゲームに追われるようになると、技術的にも肉体的にも新作に追いつけない。最近のは画面を見続けているとバーチャル酔いするんですよ。ずっと最新ゲームできる濱口(優)に聞いたら『慣れや!』と断言するんですけど、僕は慣れるまではやれないんですよね。ゲーム番組では〝好きなように〟仕事をしてはいるけど、仕事にしすぎると〝好き〟がちょっと薄れるなあ、と思い始めているところです」
──それでも有野さんが羨ましいと思う人は数多くいるので、ぜひ、〝好き〟を仕事にする秘訣を教えて下さい。
「〝好き〟を仕事にするんじゃなくて、仕事を好きになるしかないですよね。20代の頃、大阪の先輩の番組に出させて頂いていた頃の話なんですけど。僕らは東京に住んでたので、番組のたびに通っていたんですけどぶっちゃけ、東京の仕事が欲しいのに何で大阪に来てるんやろ? と思っていた。今考えると、これは仕事を頂いてる人間の贅沢な悩みじゃなくて間違えた考えですよ。その上僕らは早くから東京に行ったので、大阪の芸人を知らなくて輪の中に入れない。だから『大阪の人だけにした方が良いんじゃないですか』と言ったら『いらんのに呼ぶことはないから、お前らはまずは番組を愛しなさい』と。有り難い教えをもろたのに、当時は食べたくない食事を目の前に差し出されている感じで、僕らはいらんねんなーと思ってました。1つ1つの仕事に対して感謝が足りなかったんでしょうね。若い頃は尖っていましたし」
──有野さんが…尖っていた!?
「尖っていましたよ。それが嫌やったから誰とも話さない(笑)あの頃だって本当は尖らず、本番前に先輩たちと話せばよかっただけなんです。自ら話しやすい環境を作れば良いだけなのに、そこが若さゆえの至らなさでできなかったんですよねえ。20代の頃に先輩からもらうアドバイスって、意味が理解できない人って多いと思いますよ。僕も40歳をすぎてからようやく理解できましたし。若い人は先輩といろいろ話して何事も言いやすい環境を作る。それが働きやすい環境やと思います。今ですか? 大阪の番組欲しくてバンバン通ってますよ」
INFORMATION
映画『トモシビ 銚子電鉄6.4kmの軌跡』
INFO&STORY
高校生の椎名杏子(松風理咲)は、父を亡くし、母(富田靖子)と二人で銚子の街で暮らしていた。彼女が企画した<銚子電鉄と高校生ランナーとのレース勝負>が地元メディアにも注目され、地元の期待も高まる中、最後のランナーが決まらず焦る杏子。時を同じくして、人生に疲れ果て、ふと銚子を訪れた一人の女性キミエ(植田真梨恵)の美しさに目をとめる電車撮り鉄青年の熊神(前野朋哉)。荒れた生活を送るキミエを世話する羽目になった熊神だったが、キミエを少しずつ理解し、徐々に二人の距離も近づいていく。一方、銚電の名にかけてもその勝負に負けられない銚子電鉄側では、万全の準備を期していたが、まさかの部品故障が発生。運転士の磯崎(有野晋哉)がレースを諦めかけた時、母と親しくする磯崎を疎ましく思っていた理咲が言い放つ…。そして、レース当日、それぞれの想いを乗せて、走る、走る。
CAST&STAFF
出演/松風理咲・前野朋哉・植田真梨恵・有野晋哉・富田靖子/井上順
監督/杉山泰一
原作/吉野翠『トモシビ〜銚子電鉄の小さな奇蹟〜(TO文庫)』
配給/トモシビパートナーズ
配給協力/アーク・フィルムズ
制作/クリーク・アンド・リバー社
公式HP
5月20日(土)新宿武蔵野館ほか全国順次ロードショー
PROFILE
有野晋哉(ありの・しんや)
1972年2月25日生まれ 大阪府出身
90年、濱口優とお笑いコンビよゐこを結成し91年から活動開始。92年に「第13回ABCお笑い新人グランプリ」審査員特別賞、「第27回上方漫才大賞」新人奨励賞受賞。主な出演番組に『とぶくすり』『ウッチャンナンチャンのウリナリ』『めちゃ×2イケてるッ!』『笑っていいとも!』『いきなり!黄金伝説。』『アッパレやってまーす!』『よゐこらぼ』などがある。フジテレビONE『ゲームセンターCX』、MBSラジオ『まだまだゴチャ・まぜっ!〜集まれヤンヤン〜』、MBS『ちちんぷいぷい』レギュラー出演中。
公式HP
公式Twitter
映画『トモシビ 銚子電鉄6.4kmの軌跡』
INFO&STORY
高校生の椎名杏子(松風理咲)は、父を亡くし、母(富田靖子)と二人で銚子の街で暮らしていた。彼女が企画した<銚子電鉄と高校生ランナーとのレース勝負>が地元メディアにも注目され、地元の期待も高まる中、最後のランナーが決まらず焦る杏子。時を同じくして、人生に疲れ果て、ふと銚子を訪れた一人の女性キミエ(植田真梨恵)の美しさに目をとめる電車撮り鉄青年の熊神(前野朋哉)。荒れた生活を送るキミエを世話する羽目になった熊神だったが、キミエを少しずつ理解し、徐々に二人の距離も近づいていく。一方、銚電の名にかけてもその勝負に負けられない銚子電鉄側では、万全の準備を期していたが、まさかの部品故障が発生。運転士の磯崎(有野晋哉)がレースを諦めかけた時、母と親しくする磯崎を疎ましく思っていた理咲が言い放つ…。そして、レース当日、それぞれの想いを乗せて、走る、走る。
CAST&STAFF
出演/松風理咲・前野朋哉・植田真梨恵・有野晋哉・富田靖子/井上順
監督/杉山泰一
原作/吉野翠『トモシビ〜銚子電鉄の小さな奇蹟〜(TO文庫)』
配給/トモシビパートナーズ
配給協力/アーク・フィルムズ
制作/クリーク・アンド・リバー社
公式HP
5月20日(土)新宿武蔵野館ほか全国順次ロードショー
PROFILE
有野晋哉(ありの・しんや)
1972年2月25日生まれ 大阪府出身
90年、濱口優とお笑いコンビよゐこを結成し91年から活動開始。92年に「第13回ABCお笑い新人グランプリ」審査員特別賞、「第27回上方漫才大賞」新人奨励賞受賞。主な出演番組に『とぶくすり』『ウッチャンナンチャンのウリナリ』『めちゃ×2イケてるッ!』『笑っていいとも!』『いきなり!黄金伝説。』『アッパレやってまーす!』『よゐこらぼ』などがある。フジテレビONE『ゲームセンターCX』、MBSラジオ『まだまだゴチャ・まぜっ!〜集まれヤンヤン〜』、MBS『ちちんぷいぷい』レギュラー出演中。
公式HP
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取材・文/内埜さくら 撮影/おおえき寿一