「去年の夏からテレビの仕事はありませんが『映せるもんなら映してみろ!』という感じですね(笑)」
芸能人ながらいち早く反原発の声を上げ、デモなどの活動にも積極的に参加。昨年末の衆議院選挙では東京8区から無所属で出馬し、71028票を獲得する健闘を見せた山本太郎さん。今も芸能活動と並行しながら、全国各地を駆け回っている彼に、その活動にかける思いや、反原発の声を上げるに 至った知られざる経緯を聞いた。テレビやネットのニュースでしか彼の活動に触れたことがない人は、その熱い声に、ぜひとも耳を傾けてほしい。
「後悔はまったくありません。『言いたいけど言えない』と心の中で思いながら、仕事を続けている自分を想像する方がずっと恐いんです」
山本太郎さんが反原発の活動をしていることは誰もが知っていると思うが、原発事故の以前から、彼が様々な社会活動の支援を行っていたことは、知らない人も多いだろう。そんな山本さんを、役者として開眼させた井筒和幸監督が、「無礼者、無法者を許せない礼節の男」と評した、その人柄が伝わってくる、様々なエピソードを話してくれた。
目の前のお金を回収してオイシイ思いをしている老人たちに、若者はナメられている。『本当にこのままでいいの?』と言いたいです
──衆院選は残念ながら落選となりましたが、多くの票を集めました。「票を入れてくれた7万人もの方と、危機意識を共有できたことには、希望が持てると思います。今回は議席を取ることも大事でしたが、何より選挙自体に注目を集めたかった。あの選挙は、この国や人の命を売り飛ばそうとする原発推進勢力と、それを止めようとする人たちの争いでもありました。その実態を知ってもらうために、自分自身ができる最も大きなアクションが、出馬という形だったんです」
──一方で、原発問題への世の中の意識は薄れている気もします。
「メディアの情報操作の結果ですよ。テレビは目の前にある危機をクローズアップしようとしません。広告主=スポンサーに対して不利益になる話題は扱わないのが約束ごとですから。芸能人なら子役でも『スポンサーに不利益なことを言ったら終わり』と知っていますからね」
──では、この先日本は危険だと。
「ムチャクチャ危険ですよ。衆院選の投票率は過去最低で、それは政治に興味を持たない人と、政治に絶望している人が多かったから。結果、原発推進勢力が力を持つことに。今後の国は原発を推進するため、『放射性物質は危険ではない』というスタンスを強めるでしょう」
──山本さんは脱原発の活動をする以前から国際環境NGOグリーンピースのサポーターだったそうですね。そこで「6と9はヤバイ」という言葉を知っていたと。
「核燃料の再処理工場がある『六ケ所村』と『ク(9)ジラ』の話題をメディアで話すとマズい、という有名な言葉ですね。要は既得権益にメスを入れようとすると、エライ目に遭うということです」
──原発の危険性についても事故以前から認識していたんでしょうか?
「『地震が多い日本の海岸線沿いに原発が建っている』『廃棄物を10万年管理しなければならず先の世代に問題を押し付けていると』という、ざっくりした認識はありました。それをグリーンピースのホームページで見た時も、考えるべき問題だと思いましたが、『日本は技術力もあるし対策もしているはず』と勝手に安全神話を持ち出し、目を反らしていたんだと思います」
──グリーンピースとの出会いはいつ頃だったんですか?
「まず、小さな頃から僕の家には寄付の文化がありました。まとまったお金が入った時には、ユニセフや国境なき医師団に寄付をしていたんです。グリーンピースについても、教わったのは母からでしたね。最初は『日本の食文化に口出しするヤツらや』という印象でしたが、調べてから大きく変わりました。今はクジラを食べる人はほとんどいないのに、日本は必要量を超えた捕鯨を行っています。だから、『食べる分だけ獲れば?』という話なんです。また捕鯨船の船員たちは、クジラの高価な部位をおみやげと称して盗み、何千万円も利益を得ているそうです。それで、グリーンピースがその流通ルートを突き止め、物品を拝借して証拠品として提出したら、グリーンピース側が逮捕されてしまったんですが(笑)」
──一体どっちが悪なのかと(笑)
「大きな悪を暴くための小さな悪は、ヨーロッパなどでは許されるんですよね。とんでもない量の排煙を出している工場に乗り込んで、証拠を取るような行動が、認められることもある。それが日本では、既得権益にメスを入れようとするとイジメられるんです。グリーンピースをシーシェパードと一緒くたにして報道するような傾向もありますし、情報・印象操作が日本に存在することは原発事故前から知っていました」
選挙の“本当”の争点をみなさんに広く知ってもらうために、自分自身ができる最も大きなアクションが出馬という形だった
──「3・11以降、失ったのは収入のみ。得たのは無限大」とお話しされています。脱原発の活動開始で収入は10分の1になったそうですが。「以前に聞かれた際はそう答えましたが、実際は20~30分の1というレベルですね。それをテレビで観た母親から『10分の1なら苦労しないわ』と笑って突っ込まれました」
──それでも脱原発の活動を始めたことに後悔はないと。
「まったくないです。今も心の中で『言いたいけど言えない』という思いを抱えながら芸能の仕事を続けていたと思うと、その方が恐いです。芸能人だった時は…って、今も仕事がないだけで芸能人なんですけど」
──そんな自虐的な(笑)
「絶賛お仕事募集中ですよ(笑)ただ、普通の芸能人がスポンサーの利益に反する声を上げれば、仕事は回ってこなくなる。反原発の活動を開始する以前は、そのこともあって、声を上げて行動をしてくれるグリーンピースなどの団体に寄付をしていた部分もあったと思います。あと、『山本はグリーンピースから金をもらっている』とか僕をディスる人がいるんですが、『いやいや逆やで!』って話なんですよね(笑)」
──事実がねじ曲がって報道されることも多いそうですね。
「佐賀県庁前のデモの時も、周囲を静止していた側の僕が、先陣を切って突入したことになっていましたからね(笑)また、デモのニュースを見ただけの見ず知らずの人に、僕が告発されたこともありました。当然、僕には非がないので不起訴になったわけですが、『山本太郎、告発される!』というニュースだけが大々的に報じられてしまいました」
──悪い印象だけが残る、と。
「『犯罪者!』『過激派!』みたいなイメージですよね。それによって僕を起用する案がテレビ局で出た時、営業や編成の人たちが潰しにかかる。営業は企業を回ってお金を集めようとしているわけで、『スポンサーが一番嫌がるヤツを使ってどうするんだ!』という話になりますからね」
佐賀県庁前のデモでは、周囲を静止していた側の僕がなぜか『先陣を切って突入した』と報道されたんですよ(笑)おかしいでしょって!
──一方で映画では、2月、3月と出演作の公開が続きます。「どちらも11年の夏ごろまでに撮影を終えていた作品ですね。今は映画出演も難しい状況です」
──映画業界でもテレビと似たような状況があるのでしょうか。
「映画には製作委員会のシステムがあり、スポンサーがついているので、基本は同じですね。ただ、2月公開の『約束 名張毒ぶどう酒事件 死刑囚の生涯』を制作した東海テレビのドキュメンタリー部門などは、本当に骨のある人たちが揃っていて、『何とか山本太郎を使えないか』と、いつも考えてくれていると聞きました」
──3月9日公開の『千年の愉楽』の若松孝二監督も、「山本さんを起用する」と公言していたそうですね。
「わざわざ僕のために役を一つ空けてくれたみたいで、1日だけの撮影ですが出演させてもらいましたね」
──今は芸能人の活動としては本当に仕事がない……と。
「テレビに関しても去年の夏ぐらいが最後でしたかね。生放送に関しては、もう出演は無理でしょう」
──生放送が無理というのは?
「ホントのことやNGワードを言っちゃうからです。収録で使えるところだけ使うという形しかないんでしょうね。映せるもんなら映してみろ! という感じですよ僕は。その気概があるなら当然、リスペクトしますし、ギャラも以前の半分にまけときます(笑)」
──芸能以外の活動は?
「まぁ家でゴロゴロしたり…というのはウソで(笑)そんなヒマはなく、声をかけていただいた方を応援するため、全国各地を回っています。生活保護申請を排除するような方策を打ち出し、餓死者も出した北九州市で、市議選に立候補した方の応援に行ったり、大阪で震災瓦礫広域処理反対運動をしている若者の応援に行ったりしています。最終処分地として狙われていた、鹿児島の南大隅などにも行きましたね」
──いろいろな地域から、原発問題を超えたことでも声が掛かる機会が増えているんですね。
「僕1人でできることは限られています。『原発はいらない・脱被曝』という部分にベースをおきながら、いろいろな方と協力していきたいです。声をかけてもらえれば、勉強して死刑制度反対でも、オスプレイの問題でも駆けつけます。貧困なども含めて、どの問題も社会や行政の歪みが生んだものなので、裏ではつながっていますから。その分かりやすい部分が、原発の問題に表れていると思うんです」
──最後にドカントの読者である若い世代の人たちにメッセージをいただけますか?
「若い世代は政治に興味がないと言われますが、あなたたちが動かないと、世の中は変えられません。今、経済界や政界のトップにいる年寄りたちは、目の前のお金を回収してオイシイ思いをしています。先の世代や僕らのことなんて何も考えていない。ハッキリ言って、ナメられてるんです。偉そうなことを言いながら、僕も以前は〝無関心〟と言われる大人の1人でした。『みんなもこの先、ナメられ続けても平気なの?』ということですよね。毎日食べるだけで精一杯で、世の中にまで興味を持つのが大変な人も増えているとは思いますが、自分や子どもたちの未来のためにも、立ち上がってほしいですね」
仕事の減少を自虐的に語りつつも、「もう何の期待もしていませんから…。『仕事来ないかなぁ~』なんて、ちっとも思っていませんよ(笑)」と豪快に笑っていた山本さん。「自分の行動に後悔はない」というのは、嘘偽りのない言葉だろう。芸能人としての地位を投げ売ってまで、社会のための活動に没頭するその“熱さ”と“真っ直ぐさ”は、ドカント読者の生き方にも参考になるはずだ。
PROFILE
山本太郎(やまもと・たろう)
1974年11月24日生まれ
兵庫県宝塚市出身
90年「天才・たけしの元気が出るテレビ!!」の「ダンス甲子園」で芸能界入り。91年の映画「代打教師 秋葉、真剣です!」で俳優デビュー。その後、テレビドラマ「ふたりっ子」「新選組!」、映画では「バトルロワイアル」などに出演。テレビ「世界ウルルン滞在記」などの体当たりレポートは話題を集めた。映画はほかに「光の雨」「GO」「MOONCHILD」「ゲロッパ」「精霊流し」「EDEN」などに出演。11年4月に脱原発活動を宣言し、反原発活動家に。12年12月、第46回衆議院議員総選挙に東京8区から無所属で出馬。次点で落選した。出演映画「約束 名張毒ぶどう酒事件 死刑囚の生涯」は2月16日から、「千年の愉楽」は3月9日から公開中。
公式Twitter
山本太郎(やまもと・たろう)
1974年11月24日生まれ
兵庫県宝塚市出身
90年「天才・たけしの元気が出るテレビ!!」の「ダンス甲子園」で芸能界入り。91年の映画「代打教師 秋葉、真剣です!」で俳優デビュー。その後、テレビドラマ「ふたりっ子」「新選組!」、映画では「バトルロワイアル」などに出演。テレビ「世界ウルルン滞在記」などの体当たりレポートは話題を集めた。映画はほかに「光の雨」「GO」「MOONCHILD」「ゲロッパ」「精霊流し」「EDEN」などに出演。11年4月に脱原発活動を宣言し、反原発活動家に。12年12月、第46回衆議院議員総選挙に東京8区から無所属で出馬。次点で落選した。出演映画「約束 名張毒ぶどう酒事件 死刑囚の生涯」は2月16日から、「千年の愉楽」は3月9日から公開中。
公式Twitter
Interview&Text/古澤誠一郎 Photo/おおえき寿一