腰を激しく振りながら髪をかきあげ客に手を振る歌ネタや、「見たことないけど」と前置きした上で行うスパイダーマンのモノマネなどでブレイク中と言えばこの方、永野さん。数々の大物芸能人が絶賛する“孤高のカルト芸人”は現在、予約数が1000枚に到達しないと制作にすら至らないというDVD企画に挑戦中だ。そこで小誌は永野さんの多忙なスケジュールの合間に訪問。21年目を迎えた芸人人生を振り返って頂きつつ、過去のバイト経験、仕事に対する価値観や、「誰かが死ぬかもしれない」と話すDVDについて語ってもらった。
結婚し異性狙いの視点が消えたらネタがキャラクターに昇華した
──最近テレビでお見かけする日が増えましたが、結婚してから売れたというのは本当でしょうか。「結果論ではありますけど、結婚して異性狙いの視点が僕の中から消えたことでカッコ付けることがなくなって、ネタがキャラクターとして昇華したお陰かな、と思っています。40代既婚者が、モテたい気持ちを全面に押し出せないじゃないですか(笑)だから結婚したことが転機になったのかな、と。先日、東麻布の商店街のイベントで歌ネタをやった時、3歳ぐらいの女の子が『可愛い!』と言ってくれたんです。あの子には僕がゆるキャラみたいなキャラクターに見えたんでしょうね」
──学園祭でも大人気でしたよね。
「女子がハグしてくるんですよ。だけど彼女たちは僕の男性性ではなく、キャラクターに抱きついて来たんだと思います。これがまだ34歳ぐらいだったり、結婚した事実を隠していたりしたら、僕の中のイヤらしい気持ちを見抜かれて、そう捉えてはもらえなかったかもしれません。それにね、実は僕が腰を振るネタを若い男性がやると、性的な匂いがして意外と奇妙なんですよ。結婚したことも、先輩方がネタを面白いと取り上げて下さったことも、すべてタイミングが良かったというか。好きなことを続けるって、大切なんだと実感しました」
──ブレイク中ですが、DVDの予約数が300枚(取材時の予約数/11月30日時点800枚)。1000枚が第一目標ですよね。
「ねぇ、予想外の少なさですよ。芸人仲間から天才と言われてるから即完売だと安心してたのに、蓋を開けたらコレですよ。こんなはずじゃなかったのに!」
──そもそも予約制になった理由は。
「7年前にDVDを作って下さった会社の方が僕のことが大好きで、だから制作が決定したんですけど、とことん売れなくて。結局、その会社を倒産に追いやるという事態に陥ってしまったので(笑)今回は予約制になりました」
──ならば今回は頑張らないと! 芸人仲間も永野さんのツイートをリツイートしてくれていますし。
「面識がない伊集院光さんがリツイートして下さったのは有り難かったですね。ただ中には、僕を利用した売名行為目当てで便乗してる芸人もいると思いますよ。そういう裏切りも経験しました」
──裏切りって(笑)永野さん、たまにネガティブ発言しますよね。
「基本、ネガティブですから。ただ明るいヤツなんて迷惑極まりないですよ。暗い場所を経ての今の明るさですから、僕の場合は」
──芸歴20年超えですもんね。ちなみに芸人を目指したきっかけは?
「簡単に言うと、就職から逃げました。フリーターをしながら将来から逃げたんです。就活時に、お笑いをやろうと決めました。面白いと言われた過去があったし、90年代中盤は、お笑いイコール芸術、みたいな風潮があって。ハガキ職人が脚本家や放送作家にステップアップするケースも多々あって、自分も何者かになれる! みたいな空気が漂ってたんですよね。要は、時代に踊らされただけ。“時代と寝た男”なんです、僕は」
──それ確か、山口百恵さんの称号かと…(笑)高校を卒業してフリーターになったんですか?
「いえ、簿記から接客まであらゆる資格がコース別に取得できる、誰でも入れる専門学校に入学しました。資格は1つも取りませんでしたけど。で、21歳でお笑いを始めたんですけど、お笑いの世界は10分でも前に入った人を“兄さん”と呼ばなきゃいけない文化があって、早いと16歳から始めてる人もいるわけです。そのへんは嘘をついて乗り切りましたよね。18歳からやってます、と。そうすると芸人って基本マジメなんでまんまと騙されて、芸歴が浅い僕を“兄さん”と慕ってくれるわけです」
──あはは!ズルい!当時と今ってお笑いの世界は違いますか?
「違いますねぇ。僕が新人だった頃は養成所自体があまりなかった。お金を払って養成所に入ってからステージに立つ、という手順を踏まなくてもいいから、お金がなくてもステージには立てたんですよ。だから、本物の社会不適合者もザクザクいたんです(笑)」
──曖昧な世界をくぐり抜けて来た、ということですね。
「そうです。“時代と寝た男”は曖昧な世界をくぐり抜けて来ました。そうして21年目になるわけですが、芸歴はいまだに嘘つくことがありまして」
──6年と嘘ついたこともありますね。
「芸歴6年の芸人が白髪染めしてるわけがないですけどね。でも、染めたてってどうしてもバランスが悪くて、髪型だけ異様に若いベテラン声優みたいになっちゃうんですよねぇ」
──その髪型も今や永野さんの人気の一因ですが、ブレイク前はどんな仕事で生活を賄っていたのでしょうか。
「日払いスタッフに登録して、毎日違う現場に行ってました。工場作業から引越し、搬入。あとはコンサートの警備員もやりました。某アーティストが日本武道館でコンサートを開いた時に最前列で警備してたら、MCの時に煽る意味があったのか『お前ら、警備員超えて来いよ!』と叫ばれて、ビビった記憶があります。いやぁ、あの発言には驚きました」
“○○に捧ぐ”追悼文に憧れがDVDでも誰かが死ぬかも…!?
──生活費を稼げなくても芸人を諦めなかった理由は?「究極の逃避癖がそうさせたんでしょうね。芸人の辞め時って30歳なんです。僕は、30歳でマジメなサラリーマンになる道からも逃げた。普通の人生から逃げるために、過酷な道を選んでいた気がします。怖かったんです、30歳でその先の人生すべて決めてしまうことが。ただ、僕みたいに普通の人生から逃げたヤツがお笑いを続けてる現状があるんで、◯歳までに◯◯にならなければ! というマジメな人は、お笑いをやらない方がいい。僕の41歳という年齢でお笑いをやるのは、性癖みたいなもんなんで」
──性癖ですか!?
「そう、性癖って変えられないでしょう。僕は性癖でやってる真性のガチもんですけど、“性癖でやってる俺ってカッコイイだろう?”と、自分に酔ってるバカもいるから、そことは区別してほしいですけどね。そういうヤツらに限って、中野あたりにある焼き鳥屋で、20代の若者に自分語りをするわけですよ。僕が経験したバイトにもこの手の輩多いんで、悪い影響受けないように注意した方がいいですよ。僕はそういう人、嫌いで。長く続けることだけを美徳として、売れようとしないという…」
──お言葉を返すようですが、永野さんも先輩方に「売れる気があるのか!」と言われていたような…。
「僕の場合は、ただ純粋にお笑いが好きで続けてきただけなんです。だから先輩にそう言われるとポカンとしてしまっていたし、先輩方が面白いと言って下さって今のような現状に囲まれているのも、ラッキーだとしか捉えていないんです。食えない時期も、苦労したとは一度も感じたことがない。好きだから苦労を感じなかった。好きなことをひたすら続けるってところだけは僕はピュアですよ。それに、自分が苦労してると思ってる人って、顔に出てるじゃないですか。人相が悪くなる。そうならないためにも、仕事は楽しくやらなくちゃ駄目なんですよ!」
──ありがとうございます。もっとDVDの宣伝もしないとですね。“歴史に残るDVD”だそうですが、内容は決まってるんですか。
「それはもう、ハッキリ決まってます。想像の中ではヤバイです。今回のテーマは“生ライブを超える”ですから、コレを出せたら、生でやる必要すらなくなるんです。ある種の断筆宣言、引退宣言でもあるわけですが、話題にならなかったですね(笑)」
──それはもう宣伝するしか! 具体的な内容も少し教えて下さい。
「所詮僕は哀しみのタランティーノ世代なんで、“僕なりの『パルプ・フィクション』への回答”にしようかな、とは考えています。“世代が出るね”というタイトルでもいいかもしれない。とにかく、イタズラに時間軸がずれることは間違いありません。あとは、死者を出せたらいいなと」
──誰か亡くなるんですか!?
「“◯◯に捧ぐ”っていう追悼文への憧れがあるんですよ。本当に死ななくても『マッド・マックス』方式で、制作の男性には死んだことにしてもらうかもしれませんね。むしろ発売前に自分が、死なないかなとも思ってます(笑)」
INFORMATION
■『オリジナルDVD発売企画』
INFO
“孤高のカルト芸人”永野はDVDを発売できるのか!?独特の芸風で業界内に圧倒的なファンを持ち、ネクストブレイク芸人として注目を集めているピン芸人の永野さんが、自身のオリジナルDVDを制作、発売するため、発売未定のまま。ポニーキャニオンの特設サイトで予約受付を開始。15年12月31日までの期間で予約総数が1000枚を超えた時点でDVDの制作が決定するもので、もし規定の予約数に達しなかった場合は発売されないというサバイバル企画に挑んでいる。先日は販促イベント「DVD予約者限定 単独ライブ」も開催された。
予約受付特設サイト
PROFILE
永野(ながの)
1974年9月2日生まれ 宮崎県出身
95年頃より活動。シュールな芸風が持ち味のピン芸人で、近年は「捧げる歌」のネタでの出演が多い。芸能界に多くのファンを抱えることでも知られ、数々のお笑い番組に出演。「剣と魔法のログレス いにしえの女神」のCMは話題を集めた。今年5月、新宿ロフトプラスワンで単独ライブを開催。現在、12月末までに予約が1000枚を超えるとオリジナルDVDを発売する企画にチャレンジしている。ナビゲーターを務める5分番組がJR新宿駅東口にあるアルタビジョンで放映中。漫画家・東村アキコさんとのコラボグッズがヴィレッジヴァンガードオンラインストアにて発売。
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■『オリジナルDVD発売企画』
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“孤高のカルト芸人”永野はDVDを発売できるのか!?独特の芸風で業界内に圧倒的なファンを持ち、ネクストブレイク芸人として注目を集めているピン芸人の永野さんが、自身のオリジナルDVDを制作、発売するため、発売未定のまま。ポニーキャニオンの特設サイトで予約受付を開始。15年12月31日までの期間で予約総数が1000枚を超えた時点でDVDの制作が決定するもので、もし規定の予約数に達しなかった場合は発売されないというサバイバル企画に挑んでいる。先日は販促イベント「DVD予約者限定 単独ライブ」も開催された。
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PROFILE
永野(ながの)
1974年9月2日生まれ 宮崎県出身
95年頃より活動。シュールな芸風が持ち味のピン芸人で、近年は「捧げる歌」のネタでの出演が多い。芸能界に多くのファンを抱えることでも知られ、数々のお笑い番組に出演。「剣と魔法のログレス いにしえの女神」のCMは話題を集めた。今年5月、新宿ロフトプラスワンで単独ライブを開催。現在、12月末までに予約が1000枚を超えるとオリジナルDVDを発売する企画にチャレンジしている。ナビゲーターを務める5分番組がJR新宿駅東口にあるアルタビジョンで放映中。漫画家・東村アキコさんとのコラボグッズがヴィレッジヴァンガードオンラインストアにて発売。
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Interview&Text/内埜さくら Photo/おおえき寿一