13年にオンエアされて、大反響を呼んだ深夜ドラマ『みんな!エスパーだよ!』が、いよいよ劇場版となって帰ってくる。そこで今回は、ドラマ版から引き続き、劇中の喫茶店『シーホース』のマスター永野輝光を演じるマキタスポーツさんに直撃インタビュー。役柄・作品に対する思い入れから、自身の“芸能観”まで、想いの丈をうかがった──!!
作品の中でも、とりわけ強烈な印象を残す“エスパー”のひとり、永野輝光を演じるマキタスポーツさん。役そのものは、もはやマキタさん以外には考えられないほど“ハマり役”だが、ご自身の中で、そう言われることに対して複雑な想いもあったとか。童貞だけがなれる“エスパー”であるにもかかわらず、自身は「童貞じゃない」と断固主張する哀しき男・輝光の真実とは──!?
“変態”を演じて気づいた誤解されることの醍醐味
──オンエア当時も巷ではかなり話題を呼びましたが、映画化まで実現するとは驚きました。「僕もですよ(笑)撮ってる時には、『このバカバカしさを、映画とかでよりスケールアップしてやれたらおもしろいよね』って話も、主演の染谷(将太)クンなんかとはしてたんです。ただ、それが現実のものになるとは思ってもみなかったですけどね」
──実際、撮影に臨まれて、バカバカしさはドラマ版よりスケールアップしてましたか?
「完成したものを僕自身がまだ観ていないので、なんとも言えないですけど、きっとできあがった作品には台本には書かれていない園(子温)さんならではの映像表現、マジックがかかっているはずだから、何重にもおもしろくはなってると思います。バカ丸出しでピュアな登場人物の言動は単純に笑えると思うし、女優陣のパンチラとか、ゲスト出演のグラビアのコたちのセクシーショットが、でっかいスクリーンで観られるという喜びもある。それでいて、原作とはまた方向性の違う、バカバカしさの奥に不思議な感触が残る作品になっているんじゃないですかね」
──“超能力”のエフェクトがかかっていない現場のシュールな絵面も観てみたい気がします。
「狂ってますよ(笑)最初は『オレ、なにやってんだろ』とか思いながらやってるのに、その感覚もだんだん麻痺してきちゃってね。技術系の女性スタッフとかが、オレの股間でTENGAを動かすために一生懸命に試行錯誤をしてる姿とかね。バカな世界観を作り出すために、いい歳をした大人たちが大マジメに取り組んでたわけですから、そりゃおもしろくもなりますよ」
──マキタさんは今回もドラマ版と同じく、喫茶店『シーホース』のマスター永野輝光役でのご出演。心境の変化はありました?
「なにもないです(笑)最初は『映画だから、ドラマとは演技も区別したほうがいいんじゃないか』と思って、少し意識もしたんですけど、やってるうちに『そういうことは僕が考えなくてもいいのかな』と思いなおしてね。本来、僕は誰からも頼まれていないことを自発的にやって、それを笑いや感動に変える“自作自演家”だから、役者のように用意された設定に沿って『何かをやってください』と言われた経験が実はあまりない。役者のお仕事をもらうようになったばかりの頃は、そこに対してちょっとした反発や葛藤もあったんです。仮に僕が演じた輝光というキャラクターに対して、『あの役はマキタスポーツしかあり得ない』って言ってもらえても、心の中ではどこかで、『いや、オレ全然あんなんじゃねぇし』と思ってる……みたいなね」
──確かに、輝光に限らず、役柄のアクが強すぎると、どうしてもそのイメージが演じる側にもつきまとってしまいますもんね。
「そうそう。本音を言うなら、僕だってそれなりにカッコはつけていたいし、普段からデオドラントにも気をつけてるし、画面を飛び越えてする加齢臭は、なるべくなら消しておきたい。あくまで『ビジネスオヤジですよ』って姿勢でいたかったんです。ところが、オッサン特有のそういう“超能力”を必死で消しにかかかっているところに、輝光役のオファーが来て、『いやいや、そうじゃなくて剥きだしにしちゃってください』と言われてしまった。そこで初めて、自分の思惑とは違うところを見せていったほうが、かえってチャーミングに見えることもあるというのを実感したわけです。視聴者や観客がする“いい誤解”を、素直におもしろいと思えるようになったって言うかね」
──ご自身のコンプレックスを逆手に取って、いい意味で開きなおることができたわけですね。
「まさにそういう感じです。そもそも、もしも自分発信だったら、あんなキャラは絶対やろうと思わないですからね。自分にマイナスしかないし、なにより『TENGAあったら女いらんで』とか言っちゃう変態だし(笑)ただ、そういう従来の僕がやってきたこととは違う広がり方をするってことの醍醐味を、能書きではなく実感できたのも、輝光役を演じたのがきっかけではある。なので、今は自分が素材になるってことを素直におもしろがってる最中って感じですね。やっぱり映像の世界で輝けるのは“天然”な人たちだとも思うので」
──ヘンに作りこんだものより、自然体でいるほうがいいと?
「輝光もそうですけど、この作品に出てくる登場人物はみんなピュアじゃないですか。それをこじらせすぎると、社会との接地面によっては悲劇的な状況にもなったりするわけですけど、見方によってはそれがたまらなく滑稽になったりもする。テレビで、ビッグダディがウケるのも、あの人が天然だからだと思うんです。そういう意味では、僕も“天然のオジサン”なんで、そこらへんはヘンに取り繕ったりせず『しょうがないじゃん、加齢臭出てるんだから』って気持ちでやっていこうと思ってます。これまでの自分の経験からいっても、余計なことにとらわれて考えすぎても、ロクなことはないですからね」
笑いにつながりさえすれば肩書きにはこだわらない
──ところで、マキタさんはミュージシャンであり、役者であり、芸人でもあり、作家でもありと、様々な横顔をお持ちです。ご自身にとっての軸足というのは?「こうした取材でも『本業はどれですか?』みたいなことを訊かれる局面はよくあるんですけど、僕の中では、結果的に笑いにつながるのであれば、なんでもいいというのが正直なところ。僕自身は、この世界に芸人としてデビューしたわけですけど、世間一般で言う“芸人”が、ひな壇に座ってその場にハマるコメントをしたり、1分とかの短い尺できっちり笑いを取る人のことを指すなら、僕は芸人じゃなくていいとさえ思ってます。それこそ“ちょっとおもしろいミュージシャン”とかでも全然いいですし」
──わざわざカテゴライズする必然性は感じないと。
「そうですね。『カテゴリーにハメられたくない』みたいな強固な意志がそこにあるわけではまったくないけど、ぶっちゃけ、どうでもいいとは思ってます。僕にとっても、笑いは重要な要素だし、欠かすことのできないものではあるけど、それと芸人であるか否かは関係ない。もちろん、役者として入った現場でも、自分がおもしろいと思うことを提案したりだとかってことはその都度やりますし、お客さんのいる舞台に立てば、笑いを取りたいとも思います。でもそれは言わば、僕の性分みたいなものですしね」
──なるほど。おもしろいことに貪欲であれば肩書きは問題じゃないというわけですね。では最後に、迷える小誌読者に、メッセージをひとつお願いします。
「僕から言えることは『やりたいことはやっておいたほうがいいよ』ってことと、『やりたいことをやってると叩かれるし、つまずくよ』ってことぐらいですね。今はやりたいことを多少我慢しても、それなりの生活ができる時代だし、うまくやれば、つまずかずにも生きていける。でも、どうせなら、生きてるって実感が沸くような生き方のほうが断然いい。僕自身、やりたいことやって、つまずいて、それでもまだ意欲が消えなかったからこそ、(デビュー前に自身がやっていた)モスバーガーの副店長から、喫茶店『シーホース』のオーナーにまで“出世”できたわけですからね(笑)」
作品のことはもちろん、字数の関係でここには書ききれなかった下積み時代の話まで、ざっくばらんに話してくれたマキタさん。マルチな才能を発揮するスマートさと思慮深さを随所で感じさせる話しぶりが印象的でした!!
INFORMATION
■映画『映画 みんな!エスパーだよ!』
INFO&STORY
突然人の心の声が聞こえるようになった高校2年生の鴨川嘉郎。同じ頃、人類滅亡を企む悪のエスパーが「世界エロ化計画」を始動させた。超能力研究者の浅見教授は、嘉郎や同じく超能力に目覚めたエスパーたちを招集し、彼らが超能力に目覚めた事実と、迫りくる世界危機の阻止を命じるのだが、嘉郎たちの能力はエッチなことにしか発動できず…。童貞の高校生エスパー・鴨川嘉郎と仲間たちによる戦いや友情を、園子温監督の演出と染谷将太の主演で描いたドラマ「みんな!エスパーだよ」の劇場版。原作は「デトロイト・メタル・シティ」で知られる若杉公徳氏の人気コミック。
CAST&STAFF
出演/染谷将太 池田エライザ 真野恵里菜 マキタスポーツ 深水元基 柾木玲弥 柄本時生 神楽坂恵 安田顕 高橋メアリージュン 冨手麻妙 サヘル・ローズ 今野杏南 星名美津紀 篠崎愛 清水あいり 星名利華 神楽坂恵 安田顕
監督/園子温
原作/若杉公徳
脚本/田中眞一・園子温
配給/ギャガ
公式HP
9月4日(金)TOHOシネマズ新宿ほか全国ロードショー
(C)若杉公徳/講談社/2015映画「みんな!エスパーだよ!」製作委員会
PROFILE
マキタスポーツ(まきたすぽーつ)
1970年1月25日生まれ 山梨県出身
12年に公開された『苦役列車』(山下敦弘監督)の好演をきっかけに「第55回ブルーリボン賞」新人賞、「第22回東スポ映画大賞」新人賞をダブル受賞し、役者として大躍進。近年の主な作品にはNHK連続テレビ小説「花子とアン」、ドラマ「みんな!エスパーだよ!」「ルーズヴェルト・ゲーム」、映画「ゴッドタン キス我慢選手権 THE MOVIE2 サイキック・ラブ」「サムライフ」「騒音」「ラブ&ピース」がある。「この世で俺/僕だけ」では主題歌とダブル主演を務めた。また音楽活動も著しく、自身がリーダーを務めるバンドで13年にアルバム「推定無罪」を発表し、メジャーデビュー。CM「アースジェット」、ゲーム「ポップンミュージック」「太鼓の達人」への楽曲提供も行うなど、アーティスト・役者以外の活動からも目が離せない。オムニバス映画『破れたハートを売り物に』のDVD版がレンタル、配信中。NHK-BSプレミアム「本棚食堂」レギュラー出演。
公式ブログ
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■映画『映画 みんな!エスパーだよ!』
INFO&STORY
突然人の心の声が聞こえるようになった高校2年生の鴨川嘉郎。同じ頃、人類滅亡を企む悪のエスパーが「世界エロ化計画」を始動させた。超能力研究者の浅見教授は、嘉郎や同じく超能力に目覚めたエスパーたちを招集し、彼らが超能力に目覚めた事実と、迫りくる世界危機の阻止を命じるのだが、嘉郎たちの能力はエッチなことにしか発動できず…。童貞の高校生エスパー・鴨川嘉郎と仲間たちによる戦いや友情を、園子温監督の演出と染谷将太の主演で描いたドラマ「みんな!エスパーだよ」の劇場版。原作は「デトロイト・メタル・シティ」で知られる若杉公徳氏の人気コミック。
CAST&STAFF
出演/染谷将太 池田エライザ 真野恵里菜 マキタスポーツ 深水元基 柾木玲弥 柄本時生 神楽坂恵 安田顕 高橋メアリージュン 冨手麻妙 サヘル・ローズ 今野杏南 星名美津紀 篠崎愛 清水あいり 星名利華 神楽坂恵 安田顕
監督/園子温
原作/若杉公徳
脚本/田中眞一・園子温
配給/ギャガ
公式HP
9月4日(金)TOHOシネマズ新宿ほか全国ロードショー
(C)若杉公徳/講談社/2015映画「みんな!エスパーだよ!」製作委員会
PROFILE
マキタスポーツ(まきたすぽーつ)
1970年1月25日生まれ 山梨県出身
12年に公開された『苦役列車』(山下敦弘監督)の好演をきっかけに「第55回ブルーリボン賞」新人賞、「第22回東スポ映画大賞」新人賞をダブル受賞し、役者として大躍進。近年の主な作品にはNHK連続テレビ小説「花子とアン」、ドラマ「みんな!エスパーだよ!」「ルーズヴェルト・ゲーム」、映画「ゴッドタン キス我慢選手権 THE MOVIE2 サイキック・ラブ」「サムライフ」「騒音」「ラブ&ピース」がある。「この世で俺/僕だけ」では主題歌とダブル主演を務めた。また音楽活動も著しく、自身がリーダーを務めるバンドで13年にアルバム「推定無罪」を発表し、メジャーデビュー。CM「アースジェット」、ゲーム「ポップンミュージック」「太鼓の達人」への楽曲提供も行うなど、アーティスト・役者以外の活動からも目が離せない。オムニバス映画『破れたハートを売り物に』のDVD版がレンタル、配信中。NHK-BSプレミアム「本棚食堂」レギュラー出演。
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Interview&Text/鈴木長月 Photo/おおえき寿一
スタイリスト/白山美由紀 ヘアメイク/永瀬多壱(VANITES)
スタイリスト/白山美由紀 ヘアメイク/永瀬多壱(VANITES)