ハリウッド映画にも出演した国際派名俳優の加藤雅也さん主演映画『二階堂家物語』が1月25日より全国順次公開される。跡継ぎと家名問題という日本ならではの古い伝統を扱った内容だが、監督は15年カンヌ国際映画祭「ある視点」部門・期待すべき新人賞を受賞し注目を浴びた、イランの若手監督アイダ・パナハンデ氏。言葉の壁はどう埋めたのか。また、出身地である奈良と作品の魅力とは。ワールドワイドな仕事観も併せて聞いてみると――。
「跡継ぎ問題に揺れる名家の物語ですが、家族関係についても考えさせられる映画だと思います。辰也の選択は娘を守るためだと思います」
説明台詞を大幅カットしてニュアンスを整えました
──家名を継ぐことが使命の二階堂辰也役を加藤さんが演じているのは、観ていて新鮮でした。「イランの方は皆さん顔が濃いですが、その中では僕は薄いほうだからオーディションで選んで頂けたのかもしれませんね(笑)邦画ではこういう役柄を演じることはあまりありませんから。それに、ずっと(出身地の)奈良県で仕事をしたいと思っていましたが、役者人生の節目である30周年にできたということにもすごく縁を感じました。監督がイラン人である上に、イランのペルシャがシルクロードの出発点で、奈良は終点というところにも、何か結びつきを感じましたね」
──アイダ・パナハンデ監督とのコミュニケーションはどのように?
「すべて英語で日常会話は問題なかったんですけど、芝居の台詞に関してはお互いにクエスチョンが生じることがままありました。ペルシャ語で書かれた台本を英語に、そこから日本語に訳したらしいんですが、翻訳家の方々には『あまり意訳してはいけない』というルールがあるらしく、ほぼ直訳だったんです。直訳すると日本語のリズムが狂うことがあって、僕らは台本通りの台詞を言っていたのですが、監督は『リズムが違う。歌舞伎の影響か』と言うことがあって。『そんなことはない』という押し問答がかなりありました。そこで『台詞を変えていいか』と聞いたら、意味を変えなければOKとのことだったので、説明台詞をバッサリと切ったら『そういう感じだ』というふうに、ニュアンスをすり合わせていったんです」
──説明台詞とは何ですか?
「キャラクターに言わせている、不自然な台詞です。代表例は『君の名前は○○だよね』。でも本来は、『○○君だよね』や『君は○○君だよね』だけで通じるはずなんです。監督は説明台詞に対して『違和感がある』と言っていたので、現場でカットしつつ芝居をしました。聞いたら、監督は小津安二郎さんらを観て日本と邦画を学んだらしいんです。僕も観直してみたら、確かに最小限の台詞しか言っていない。 ある先輩が『最近のテレビは説明台詞が多いんだよな』とおっしゃっていたんですけど、確かにな、と。どの世代でも楽しめるように作られたテレビドラマの影響で説明台詞は多いと思いますが、昔の邦画を観てきた監督にはし っくりこなかったんでしょうね」
ご自身の家族関係と比べながら観ても楽しめるかも
──奈良出身の加藤さんに、奈良県の魅力もお伺いしたいです。「この映画に出演してからその質問が増えたので改めて歴史も調べましたが今、かき氷に力を入れているそうですよ。春日大社などの氷室から出た氷が天皇に献上されていたことから火がついたらしいです。普通の氷とは密度が違い、蜜をかけても崩れないんです。僕も食べてみましたが、頭もキーンと痛くならないし、食感も他とは違いました。奈良の名物になりつつあって、真夏でも店外に1時間半も並んで食べるそうです。やっと食の名物ができたな、という感じです。これというものがなかったのは、昔は都があり流通もしっかりとしていたため、食べることに困っていなかったからだと思います。だから名物や、冬の間に食べる保存食を作る必要がなく、食に関しては意外と発展していなかったのでは、というのが独自の予測なんです」
──なるほど。お仕事のお話も。加藤さんはハリウッドでも活躍されていますが、アメリカで学んだことは。
「アメリカで大金を稼いでいる人たちは本当によく働くし、睡眠時間が短い。自家用ジェットに乗るのはお金持ちだからというのは日本人的発想で、彼らは時間を節約する方法がそれしかないから乗っているんですよね。人と同じことをしていたら、同じ結果しか得られないと実感しました。人よりもやるから結果が出るのだとすれば、他人が100やるとしたら自分は110やらないと勝てない、ということです」
──有難うございます。最後に今一度、作品の魅力もお願いします。
「跡継ぎ問題に揺れる名家の物語ではありますが、家族関係についても考えさせられる映画だと思います。劇中で辰也の母ハルが『家名を継ぐことは絶対だ』と頑なに言い張りますが、最後は『お前が好きな人と結婚すればいい』と言っています。当主としての言葉と母親としての言葉が違うのは、立場上言わなければいけないことを言いながらもやはり、子どもの幸せを願っているから。自分が存在する以上はどの人間にも親がいるわけで、ご自身の家族関係と比較しながら観ても楽しめるかもしれません。ラストの辰也がした選択は娘を守るためだと思います」
INFORMATION
■映画『二階堂家物語』
【INFO&STORY】
一人息子を亡くし、代々続く家系が途絶える危機に頭を痛めていた二階堂辰也(加藤雅也)とその母ハル(白川和子)。息子を失い妻が出て行ってしまった辰也に対し望まぬ相手との結婚を迫るハル。そして娘の由子(石橋静河)に婿養子を取り、跡を継いでほしいという思いを秘める辰也。名家の跡継ぎ問題を巡り家族の仲が緊迫し、繋がりが崩れだしていくが…。奈良県天理市を舞台に、名家の跡継ぎ問題に頭を抱える3世代の家族たちの愛と葛藤を描くヒューマンドラマ。
【CAST&STAFF】
出演/加藤雅也 石橋静河 町田啓太 田中要次 白川和子 陽月華 伊勢佳世 ネルソン・バビンコイ
監督/アイダ・パナハンデ
脚本/アイダ・パナハンデ アーサラン・ミリ
エグゼクティブ・プロデューサー/河瀨直美
配給/HIGH BROW CINEMA
公式HP
1月25日(金)より新宿ピカデリーほかにて全国順次公開
(C)2018“二階堂家物語” LDH JAPAN, Emperor Film Production Company Limited, Nara International Film Festival
PROFILE
加藤雅也(かとう・まさや)
1963年4月27日生まれ 奈良県出身
モデルから俳優の道へ進み88年、映画『マリリンに逢いたい』 に主演。「第12回日本アカデミー賞」新人俳優賞を受賞。以後、映画やドラマ、舞台で活躍。近年の主な出演作にドラマ「アンフェア」シリーズ、「坂の上の雲」「カンナさーん!」、映画『テラフォーマーズ』『真田十勇士』など。映画『キングダム』は4月19日公開。現在、NHK連続テレビ小説「まんぷく」に出演中。
公式HP
■映画『二階堂家物語』
【INFO&STORY】
一人息子を亡くし、代々続く家系が途絶える危機に頭を痛めていた二階堂辰也(加藤雅也)とその母ハル(白川和子)。息子を失い妻が出て行ってしまった辰也に対し望まぬ相手との結婚を迫るハル。そして娘の由子(石橋静河)に婿養子を取り、跡を継いでほしいという思いを秘める辰也。名家の跡継ぎ問題を巡り家族の仲が緊迫し、繋がりが崩れだしていくが…。奈良県天理市を舞台に、名家の跡継ぎ問題に頭を抱える3世代の家族たちの愛と葛藤を描くヒューマンドラマ。
【CAST&STAFF】
出演/加藤雅也 石橋静河 町田啓太 田中要次 白川和子 陽月華 伊勢佳世 ネルソン・バビンコイ
監督/アイダ・パナハンデ
脚本/アイダ・パナハンデ アーサラン・ミリ
エグゼクティブ・プロデューサー/河瀨直美
配給/HIGH BROW CINEMA
公式HP
1月25日(金)より新宿ピカデリーほかにて全国順次公開
(C)2018“二階堂家物語” LDH JAPAN, Emperor Film Production Company Limited, Nara International Film Festival
PROFILE
加藤雅也(かとう・まさや)
1963年4月27日生まれ 奈良県出身
モデルから俳優の道へ進み88年、映画『マリリンに逢いたい』 に主演。「第12回日本アカデミー賞」新人俳優賞を受賞。以後、映画やドラマ、舞台で活躍。近年の主な出演作にドラマ「アンフェア」シリーズ、「坂の上の雲」「カンナさーん!」、映画『テラフォーマーズ』『真田十勇士』など。映画『キングダム』は4月19日公開。現在、NHK連続テレビ小説「まんぷく」に出演中。
公式HP
取材・文/内埜さくら 撮影/おおえき寿一 ヘアメイク/結城春香 スタイリスト/木村レイコ(COMRADE)