「ワークショップを通じて駒井(蓮)さんは玉虫色で多面体の芝居を見せてくれています。ブレイク前の原石が転がっている作品なので、お気に入りを見つけてみて下さい」
ひと癖ある役からコミカルな役まで縦横無尽に演じる名バイプレイヤーとして映画やドラマで欠かせない津田寛治さんと若手女優の駒井蓮さんがW主演した映画『名前』が6月30日から公開。津田さんに映画撮影の裏エピソードや駒井さんと同年齢の17歳の頃の話、先輩俳優の故・大杉漣さんとのエピソードを聞くと、そこには―。
主人公は名前を偽って生活実は僕も過去に偽名を使い…
──本作で演じた正男にはどんな印象を持ちましたか。「色濃くキャラづけされていなくて、ふわ〜っとしているところに魅力を感じました。正男はいくつもの偽名を使い分けているのですが、僕も役者で食えない頃、偽名を使って日雇いのバイトをしていたことがあったんです。友だちに勧められて〝浮田万里夫〟という偽名で。でも、何度呼ばれても気づけませんでした(笑)いい親方だったのに嘘をついている罪悪感があって、いまだに偽名を使ったことを後悔しています」
──では役作りはどのように?
「戸田(彬弘)監督と事前に話し合った結果、名前によって演じ分けない方向に決まりました。人は日常生活を営んでいく上で、大なり小なり演じていますよね。本来の自分を見失っている人も多いと思うんです。でも、中には演じられない人もいる。演じられないからこそ人と上手くコミュニケーションを取れなかったり社会に溶け込めず生き辛さを感じて、人間関係を発展させられない。だけど何とかしなくちゃと思っている。正男はそういうヤツで名前を変えて別人を装うけれど、本質は変えられない。だからいくつもの顔を持つ男としては演じませんでした」
──生き辛さといえば近年、SNS依存が社会問題化。津田さんはSNSで発信していませんよね。
「グループLINEで個人情報が吸い取られた時に、危機感を覚えて一切止めました。だから『いいね!』って何?というのが本音ですが(笑)僕らの仕事に例えるなら視聴率や観客動員数ですよね。人って数字に頼りやすいじゃないですか。誰が見ても共有できる情報だからこそ、頼りすぎると想像力が欠如してしまう気がします。『自分はコレが好き』と言わず、数字の多い意見に賛同してしまう。個人的にはあまりSNSにとらわれすぎないほうがいいと思います。『いいね!』ひとつにつき幾らかお金が発生するならまだしも、人生を賭けてまでやることではないな、と」
芝居最優先の監督のお蔭で役者の才能が花開いた作品
──ダブル主演の駒井蓮さんとの共演はいかがでしたか。「今、すごい若手がどんどん出てきていますが、その代表が駒井さんだけあり素晴らしかったですね。演技経験が浅いということで、監督主導のワークショップに駒井さんが参加されたんです。僕も参加させて頂きましたが、最初は〝色〟があまり出ていなかった。でも回を重ねるたびに玉虫色になり、多面体のお芝居を見せるようになりました。ロケ地の茨城県に入ったらまた別の〝色〟を出すようになり、そんな彼女の魅力が凝縮された作品になったと思います」
──駒井さんは17歳ですが、同年齢だった頃の津田さんは?
「ちょうど高校を辞めた頃で、生き辛かったですね。学校という集団生活が合っていなかったみたいです。幼稚園の時から辛くて園児のくせに『いつになったら抜け出せるんだろう』と考えていました(笑)高校生になった時に『就職して会社員になっても続くんだ…』と、絶望した記憶があります。だから高校を辞めた時は清々しかったですね。辞めてから上京資金を貯めるために水道屋でバイトをしたんですが、いろんな場所に行き青空の下で仕事ができるから楽しかったです。箱の中での生活が向いていないので」
──役者になったからこそ、故・大杉漣さんとも出会えましたし。
「どこの馬の骨とも分からない新人の自分に、竹中直人監督やSABU監督、黒沢清監督と引き合わせてくださったのが大杉さんでした。見返りを求めず捨て身で人のことを考え、才能を見出して育ててくださる稀有な方だったんです。ご自身の事務所の若手俳優を起用してもらうため、常に腰を低くして仕事をしている姿も見ているので、人間として学ぶべき点もすごく多かったです。後にも先にもあれほどの役者さんは出てこないでしょうし僕も到底、追いつけませんが、大杉さんのように人には心温かく優しく接すると心掛けています。傷の舐め合いと言われようが優しくしたいし、甘いと言われようと褒めたい。それが自分なりのコミュニケーション方法だとも思っています」
──ありがとうございます。最後に改めて本作の魅力を聞かせて下さい。
「芝居を最優先してくださる戸田監督だからこそ、俳優の才能が花開いている作品に仕上がっています。ネームバリューに関係なく一律に見て、本人がやりたい芝居ができる演出をしてくださったお蔭です。一番の魅力は、名前が分からない役者も輝きを放っている点。名義上、駒井さんと僕が主演にな ってはいますが、お気に入りの役者を見つけるというのもこの作品の鑑賞法のひとつ。ブレイク前の原石が転がっていますよ!」
INFORMATION
■映画『名前』
【INFO&STORY】
行き場のない二人は、家族になった一一。経営していた会社が倒産し、茨城の地にやってきた正男(津田寛治)。様々な偽名を使い、なんとか体裁を保ちながら自堕落な暮らしを送っていたがある日、正男を「お父さん」と呼ぶ女子高生・笑子(駒井蓮)が現れる。正男は笑子のペースに振り回されながらも、親子のような生活に平穏な時間を見出していく。しかし、笑子が正男のことを生き別れた父親だと思っていることに気づき、自分が消してきた過去について考え始めるが……。
【CAST&STAFF】
出演/津田寛治・駒井蓮・勧修寺保都・松本穂香・内田理央・池田良・木嶋のりこ・金澤美穂・波岡一喜・川瀬陽太・田村泰二郎・西山繭子・筒井真理子ら
監督/戸田彬弘
原案/道尾秀介
脚本/守口悠介
主題歌/「光」DEN(谷本賢一郎×道尾秀介)
配給/アルゴ・ピクチャーズ
公式HP
6月30日(土)新宿シネマカリテほか全国順次公開
(C)2018 映画「名前」製作委員会
PROFILE
津田寛治(つだ・かんじ)
1965年8月27日生まれ 福井県出身
93年に『ソナチネ』(北野武監督)で映画デビュー。以降、映画やドラマを中心に活躍。近年の出演作に映画『アウトレイジ 最終章』『ニワトリ★スター』『神さまの轍』、ドラマ「西郷どん」「特捜9」「居酒屋ぼったくり」などがある。映画『空飛ぶタイヤ』は6月15日公開。
公式HP
■映画『名前』
【INFO&STORY】
行き場のない二人は、家族になった一一。経営していた会社が倒産し、茨城の地にやってきた正男(津田寛治)。様々な偽名を使い、なんとか体裁を保ちながら自堕落な暮らしを送っていたがある日、正男を「お父さん」と呼ぶ女子高生・笑子(駒井蓮)が現れる。正男は笑子のペースに振り回されながらも、親子のような生活に平穏な時間を見出していく。しかし、笑子が正男のことを生き別れた父親だと思っていることに気づき、自分が消してきた過去について考え始めるが……。
【CAST&STAFF】
出演/津田寛治・駒井蓮・勧修寺保都・松本穂香・内田理央・池田良・木嶋のりこ・金澤美穂・波岡一喜・川瀬陽太・田村泰二郎・西山繭子・筒井真理子ら
監督/戸田彬弘
原案/道尾秀介
脚本/守口悠介
主題歌/「光」DEN(谷本賢一郎×道尾秀介)
配給/アルゴ・ピクチャーズ
公式HP
6月30日(土)新宿シネマカリテほか全国順次公開
(C)2018 映画「名前」製作委員会
PROFILE
津田寛治(つだ・かんじ)
1965年8月27日生まれ 福井県出身
93年に『ソナチネ』(北野武監督)で映画デビュー。以降、映画やドラマを中心に活躍。近年の出演作に映画『アウトレイジ 最終章』『ニワトリ★スター』『神さまの轍』、ドラマ「西郷どん」「特捜9」「居酒屋ぼったくり」などがある。映画『空飛ぶタイヤ』は6月15日公開。
公式HP
取材・文/内埜さくら 撮影/おおえき寿一