明後日の夢を叶えられるようになったら『目的』を決めましょう。〝的(まと)〟に当たりやすくなると『目標』という10年後の〝標(しるべ)〟が見えやすくなります。
ものまねタレントの代表格といえばこの御方、コロッケさん。ひとつの特徴をデフォルメする唯一無二のパフォーマンスで常に新境地を開拓しているが、6月16日公開の初主演映画『ゆずりは』では笑いと芸名を封印。本名の滝川広志名義で妻を自殺という形で失った葬儀社の営業部長・水島正二役を熱演している。インタビュー中は物腰柔らかでサービス精神旺盛なトークを展開。大御所にもかかわらず人を気遣う精神や仕事観を育んだエピソードにも肉迫する!
滝川家の家訓「あおいくま」僕に活かされていて水島にも被ります
──葬儀社の営業部長・水島役を演じてみていがかでしたか。「ものまねと葬儀社員という職業に、2つの共通点を見つけたんです。1つは『生と死』に関わる仕事だということ。葬儀社は言うまでもなく日常的に接しますが、僕もものまねを通じて相対する場面がありまして。僕はエンターテイメントというものは、その日観たものを当日だけ共有するのではなく、5年、10年後の思い出の中に残っていくことが役割だと思っているんです。例えばおばあちゃんが健在だった時代、お孫さんをコロッケのコンサートへ連れて行ったとします。お孫さんはおばあちゃん亡き後に『小さい頃ばあちゃんにコロッケのコンサートに連れて行ってもらったなぁ…』と思い出す瞬間があるかもしれない。その時こそものまねが『生と死』に関わっているんだなと」
──なるほど。2つ目は?
「葬儀社とものまねをイコールにはできませんが、人の感情の隙間に入っている職業という点です。葬儀社は時に無機質に仕事を執り行わなければいけませんが、重い感情に寄り添いすぎずに寄り添います。ものまねは笑いという感情に寄り添います。映画では水島が喪主から『いい葬儀を有難うございました』とお礼を言われるシーンがあって、手放しで喜びを表現はできないけれど、心の喜びは感じているはずなんです。ものまねもみなさんから頂く意見で『この仕事をしていてよかった』と思えることが多々あるんです。『結婚して40年経ちますが、ウチの旦那がこれほど笑う姿を初めて見ました』と言われた時は、素直に嬉しかったですね」
──共通点はあっても、妻の自殺により感情の起伏を失った男を演じるのは大変だったのでは。
「役作りの前に、原作の小説がとても素晴らしかったんです。なのでまずは原作の新谷(亜貴子)先生に失礼があってはならないなと。そして『人の死』を扱う葬儀社が舞台の話だからこそ、思い当たる経験がある方に絶対に失礼があってはならない。この2つを第一に考えて、舞台となる千葉県八千代市のビジネスホテルに宿泊しました。水島という役に入り込み、その街に存在する人間にならないと作品が成立しないと思ったからです。現地では居酒屋でそこにいる人たちを眺めたり、スーパーへ行ったり。『水島はきっとこんな生活を送り、奥さんと2人こういう場所で食事をしていたんだろう』と、自分の足で探索して想像を膨らませていきました」
──徹底した役作りの影響で、水島が感情をあらわにする姿には思わず涙しました…。
「かなり難しいシーンで自分の中でも印象に残っているので、そう言って頂けると有り難いです。ある女の子の葬儀を、水島はどんな想いで見つめ、その女の子の人生をどう見つめていたのか。そういう想像を張り巡らせながら役に入り込んでいたので、最後は本気で泣いてしまいました」
──水島の生き様を見ていると、滝川家の家訓を思い出します。
「僕が祖母から贈られた『あおいくま』ですね。『あせるな』『おこるな』『いばるな』『くさるな』『まけるな』の頭文字から取った言葉で、水島ともかぶっていますし、僕自身の中でもずっと活かされています。『ものまね王座決定戦』で優勝した時、すべて自分に置き換えたらストンと腑に落ちたんです。『負けるな』は『自分に負けるな』、『いばるな』は『自分がいばるな』という風に。すべて自分事にしてからは、気が楽になりましたし他人に期待をしなくなったんです。『やっておいてくれてもいいのに』と、腹を立てることもなくなりました。この精神を伝えていくことが、僕の年齢と立ち位置的にも大事だと考えていて、ものまねの後輩や子どもたちにも引き継いであります」
「相手が一番、自分が二番」精神映画を通じて受け継いでいきたい
──ものまねタレントとしてのお話も。真珠腫性中耳炎で13歳の時から右耳がほぼ聞こえていないことが、現在の職業に就いたきっかけだったそうですね。「最初、ものまねはモテたいなと思って始めたんです(笑)見た目が整っている人は、そこにいるだけで女性が近寄っていくから勝てないじゃないですか。しかも、そういう人に限って勉強もスポーツもできて、非の打ちどころがなかったりする。『じゃあ僕はどんな武器を持てばいいんだろう』と考えた結果がものまねだったんです。モテたわけではないんですけど、少なからず人の前に立ち、笑いで人の輪を作る経験を重ねていく過程で夢が定まっていきました。でも今の若い人って『将来は何になりたい』と聞くと、『何をしていいか分からない』と答えるコが多いんですよね」
──そういう人にはどんなアドバイスをしていますか?
「『10年、20年後の夢じゃなくていいから、明後日叶えたい夢を1つ見つけてみたら』と伝えています。近い日付に夢を設定すると今、何をすればいいかを明確にできるんです。例えば、体重を明後日までに500グラム落とすと決めたとします。すると、エスカレーターでの移動を階段に変えるといった具体的な策が見つかる。一番大切なのは、夢を持つこと。明後日の夢を叶えられるようになったら、3ヶ月後でも1年後でもいいので目的を持ちましょうと言っています。『目的』の『的』は〝まと〟という意味。狙えば狙うほど当たる確率が高くなるし、練習すれば辿り着けるよ、と。次に10年後の目標を決めるんです。目標の『標』は〝しるべ〟という意味。〝まと〟に当たるようになると、この道を歩もうという〝しるべ〟が見えてくるから、目的の次が目標なんだよ、という形でヒントを与えていますね。ところがこう伝えても『自分に合わない仕事だったから辞めたっス』という若い人もいて。嫌いなんですよね、『合わないから辞めた』って言葉」
──確かによく聞く言葉です。
「『石の上にも三年』ということわざ通り、成功には忍耐が不可欠だと思うんです。世間で成功者にカテゴライズされるみなさんは、泥水をすすって這いつくばるように我慢してひとつのことをやり遂げる時期を経ています。しかも命がけで。その努力すらせずに最近、『芸人として売れたら司会や役者も……』という〝あわよくば〟的な考え方をする若手芸人が増えていて。ネットの普及であわよくば的に金儲けする人が実在するので時代ではありますが、そういう人はいつか必ず失速します。基礎固めをしていないから、いずれ土台から崩れていくんです。だから、『この道がダメだからあっちに行こう』と軽々しく言う後輩に『あなた(の芸人人生は)終わるね』と言ったこともあります。先輩から教えて頂いた精神を受け継ぐことも僕の役割だと思うので」
──作品に登場する「ゆずりは」の樹は、親から子へと代々受け継がれていく命に見立てられています。本作を通じて受け継いでいきたい精神はありますか。
「映画をご覧頂けると分かりますし僕自身もコンサートとかでよく言うのですが、『相手が一番、自分が二番』です。ものまねでいうなら、自分が一番だと思うと『ウケなかったけどいいか』と流してしまいます。逆に相手を一番に立てると、『どうしたらウケるようになるか』と模索するようになる。映画では帰らぬ人となった社長の遺志を水島が受け継ぎ、初心忘れるべからずの精神でお客様への接し方を向上させようとまい進します。そして柾木(玲弥)くんが演じた高梨は、純粋で細やかな気遣いで水島にいい影響を与えますが、もともと日本人が持っている性質でありあるべき姿だと思うんです。この『相手が一番、自分が二番』の精神はぜひ受け継いでいきたいのでパート2、パート3と続けていきたいですね」
INFORMATION
■映画『ゆずりは』
【INFO&STORY】
葬儀社のベテラン社員・水島(滝川広志)は長年「死」と向き合う仕事を続ける中で、感情の起伏がなくなってしまった。水島が教育係を務めることとなった新入社員の高梨(柾木玲弥)は、イマドキな外見で言葉遣いもひどいが、時には葬儀社のルールを破ってでも遺族の思いに寄り添おうとする、感受性豊かな心の優しい青年だった。そんな高梨とともに亡き人々と遺族たちとの交流を続ける中で、水島の心にある変化が起きていく…。ものまねタレントのコロッケが本名の滝川広志名義で主演。実際のエピソードを元に、永遠の別れと再生を描いたハートフルな人間ドラマだ。
【CAST&STAFF】
出演/滝川広志・柾木玲弥・原田佳奈・高林由紀子・島かおり・勝部演之
監督/加門幾夫
原作/新谷亜貴子「ゆずりは」(銀の鈴社刊)
脚本/吉田順・久保田唱
配給/エレファントハウス
6月16日(土)より新宿K’s Cinema、イオンシネマ板橋ほか全国順次ロードショー
公式HP
(C)「ゆずりは」製作委員会
PROFILE
コロッケ(本名/滝川広志)
1960年3月13日生まれ 熊本県出身
80年に日本テレビ系「お笑いスター誕生」でデビュー。以降、テレビやラジオ等に出演する傍ら、全国各地でものまねコンサートや座長公演を精力的に行う。ものまねレパートリーは300以上を誇り、エンターテイナーとして常に新境地を開拓。受賞歴に「第7回浅草芸能大賞・新人賞」「第28回ゴールデンアロー賞・大賞及び芸能賞」「第34回松尾芸能賞・演劇優秀賞」「文化庁長官表彰」「日本芸能大賞」など。映画やドラマなど俳優としても活躍し、本作では本名の滝川広志としてシリアスな演技にも挑戦している。「コロッケコンサート2018 笑う〝顔〟には福来たる」東京公演は5月30日(水)中野サンプラザで。
公式HP
公式Instagram
■映画『ゆずりは』
【INFO&STORY】
葬儀社のベテラン社員・水島(滝川広志)は長年「死」と向き合う仕事を続ける中で、感情の起伏がなくなってしまった。水島が教育係を務めることとなった新入社員の高梨(柾木玲弥)は、イマドキな外見で言葉遣いもひどいが、時には葬儀社のルールを破ってでも遺族の思いに寄り添おうとする、感受性豊かな心の優しい青年だった。そんな高梨とともに亡き人々と遺族たちとの交流を続ける中で、水島の心にある変化が起きていく…。ものまねタレントのコロッケが本名の滝川広志名義で主演。実際のエピソードを元に、永遠の別れと再生を描いたハートフルな人間ドラマだ。
【CAST&STAFF】
出演/滝川広志・柾木玲弥・原田佳奈・高林由紀子・島かおり・勝部演之
監督/加門幾夫
原作/新谷亜貴子「ゆずりは」(銀の鈴社刊)
脚本/吉田順・久保田唱
配給/エレファントハウス
6月16日(土)より新宿K’s Cinema、イオンシネマ板橋ほか全国順次ロードショー
公式HP
(C)「ゆずりは」製作委員会
PROFILE
コロッケ(本名/滝川広志)
1960年3月13日生まれ 熊本県出身
80年に日本テレビ系「お笑いスター誕生」でデビュー。以降、テレビやラジオ等に出演する傍ら、全国各地でものまねコンサートや座長公演を精力的に行う。ものまねレパートリーは300以上を誇り、エンターテイナーとして常に新境地を開拓。受賞歴に「第7回浅草芸能大賞・新人賞」「第28回ゴールデンアロー賞・大賞及び芸能賞」「第34回松尾芸能賞・演劇優秀賞」「文化庁長官表彰」「日本芸能大賞」など。映画やドラマなど俳優としても活躍し、本作では本名の滝川広志としてシリアスな演技にも挑戦している。「コロッケコンサート2018 笑う〝顔〟には福来たる」東京公演は5月30日(水)中野サンプラザで。
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取材・文/内埜さくら 撮影/おおえき寿一