ゲイレスラーが対戦相手と観客の唇を奪い、マスクマンがパワポで試合に勝つ方法をプレゼンするなどバラエティ豊かな文化系プロレスで人気のDDTプロレスリングが20周年記念興行をさいたまスーパーアリーナで開催。選手として、そして〝大社長〟として団体を成長させてきた高木三四郎さんに、大会の見どころとDDTならではの観客論、エンタメ論を聞いた。その「イズム」は、あらゆる職業に通じるはず!
選手数&大会数は世界2位かも非常に気まずいですけど(笑)
──DDT20周年記念興行、3月20日のさいたまスーパーアリーナ大会が近づいてきました。会場の大きさはもちろんですが今のDDTは東京女子プロレス、ガンバレ☆プロレスなどグループ団体もあり、かなりの大所帯ですよね。「今、所属選手が70人くらいいるんですよ。2月には若手中心のブランド・DNAに6人が入団。大会数もですが、数だけで言ったら日本最多になっちゃうのかなと」
──ということは、アメリカのWWEに次いで世界2位ですか?
「かもしれないですねぇ。非常に気まずいですけど(笑)」
──旗揚げ当時は、ここまで大きな団体になると想像していた人はいなかったと思います。
「実際、小さいインディー団体だからよかった部分もあると思います。やっぱり身体の大きい人って日本には少ないですし、いたとしてもメジャー団体に行きますよね。だからインディーはどうしても『中肉中背』の選手が多いんです。170センチくらいの。そういう選手が普通にプロレスをやってるだけでは、メジャーにかなうはずがない。だから『大きい選手にはできないスピーディーな動きをしよう』とか『お客さんを笑わせてやろう』とか、プロレスにきっちり向き合って、考える作業が大事でしたね。自分たちにできることは何だろう、と」
──DDTが「文化系プロレス」と呼ばれる所以ですね。
「最初からメジャーだったら、こんなふうに考えてプロレスやってなかったし、たぶんお客さんの支持も得られてなかったと思います。DDTでは、いかにお客さんを満足させるかが最優先。独りよがりはダメだって、よく選手には言ってますね」
──実際、DDTの面白さはプロレスを長く見ていないと分からないタイプのものではないですよね。
「そうなんですよ。よく文化系プロレス=マニアックと思われがちなんですけど、常に間口を広くしておくっていうことは凄く意識してます。初めて見る人でも楽しめるっていうのは大事ですからね。そうしないとファンが増えていかないので」
──それに加えて、団体の最高峰であるKOーD無差別級タイトルをめぐる試合はとてつもなくハイレベルですよね。さいたま大会のメイン、HARASHIMA対竹下幸之介戦は20周年にふさわしいカードというか、品質保証という感じです。
「HARASHIMA、竹下、遠藤哲哉、佐々木大輔、それに入江茂弘。このあたりの選手たちは、もう世界中どこに出しても恥ずかしくない試合をやってると思いますね。変な話、(他団体に)いつ引き抜かれてもおかしくないなっていう(苦笑)」
トップ選手はどこに出しても恥ずかしくない試合をしてます
──引き抜きが心配になるくらいのレベルですか(笑)「以前は飯伏幸太、ケニー・オメガ、エル・ジェネリコがタイトル戦線を担ってましたけど、彼らが独立・移籍した後も試合のクオリティは下がってないんですよね。どんどん新しい選手が出てくる、選手が育っていく土壌を作れたのが今のDDTの強みでしょうね」
──以前のインディー団体は、メジャー団体に入門できなかった人が入るというイメージもありましたが、今は最初からDDTに憧れて入門している人が多そうです。
「それはありますね。そういう憧れの舞台だから、素質のある選手も入ってくるし、ハイレベルな激闘も当たり前のことというか」
──それはメジャーの大きい選手に任せて……とは思ってないわけですよね。文化系プロレスに対する「アスリートプロレス」という言葉もありますが、若い選手にはそれが普通のことだという。それに対して、これまで文化系プロレスを担ってきた男色ディーノ選手やスーパー・ササダンゴ・マシン選手が何を見せていくのかも楽しみです。
「さいたま大会の男色ディーノ対ジョーイ・ライアンは相当すごいことになると思いますよ。ジョーイもDDTで吸収したものが大きい選手ですし。だからアスリートもいるし、ディーノみたいな選手もいるっていうのがDDTのよさでしょうね。いろんな選手がいて、お互い刺激しあって面白くなっていく。それはグループ全体に言えることですけど」
──それぞれの団体が個性的な活動をして、刺激しあうと。
「DDTはメジャー団体にはないものを目指していくし、グループ団体の東京女子プロレス、ガンバレ☆プロレス、BASARA、DNAには、DDTにはできないことをやってほしいですよね」
──そのへんもあってか、高木さんはグループ団体の小さな大会もよく現場で見られてますよね。しかも、同時にツイッターの反応もチェックしていて。
「やっぱり会場の熱気、お客さんの反応がどんな感じかを確かめたいですし。でもそれだけじゃなく、SNSの反応も大事なんですよね。いい評判も悪い評判も一気に広まりますから、油断できないんですよ。前以上に〝外れ〟の大会があってはいけない時代になってると思います。そのことで団体としての信頼も生まれますし。『ここに来れば必ず面白いものが見られる。必ず凄いものが見られる』という信頼は大事ですね」
会場に来ている人だけでなく、来ていない人にもインパクトを
──ネットでは、見てない人でも雑な知識で雑な悪口を書き込めたりしますから怖いですよね。「結局、そういう時代に対応していくしかないですよね。そこにチャンスが生まれる可能性もありますし。昔、天龍(源一郎)さんが言ってたんですが『会場に来たお客さんを満足させるのは当たり前。来てない人も満足させないと。そのために大事なのは、どんなメッセージを発信するか。試合後のコメント一つでファンを勇気づけることもガッカリさせることもあるんだから』と」
──SNS時代を予言したみたいな言葉ですね……。
「会場に来てない、ツイッターで情報を得てるだけの人にも、いかにインパクトを与えるかっていうことですよね。それを意識できるかできないかの差は大きいですよ。それと、今年1月から『DDTユニバース』という動画配信サービスを始めたんですけど、これは全団体にとってチャンスだと思うんですよ」
──試合のアーカイブだけじゃなく生中継もありますから、ファンの目に触れる機会は多くなりそうですよね。
「今までグループ団体は、『サムライTV』(プロレス格闘技専門CSチャンネル)でも中継枠がなかったので、会場に来ていない人はニュース映像、ダイジェスト映像しか見られなかったんですよ。でもこれからは全編視聴可能なので、新しいファンがつく可能性は大きいですよね。そうなると、会場の規模とかも関係なくなるんですよ。東京都内の小さい会場でしか試合をやってないのに、映像が日本中で大人気っていう状態もありうる」
──ましてネットは世界中で視聴可能ですもんね。
「海外のファンの掘り起こしというのも、今後の大きなテーマですね。DDTの後楽園ホール大会は日曜日の昼間にやってるんですが、それってアメリカでは土曜日の夜。凄くいい時間なんですよ。だからハマったらデカいなと」
──昨年は台湾興行もありましたし、これから時差の少ないアジア進出も大事になりますね。
「そうやって世界を視野に入れると、また考え方も変わってきますよね。海外の人にも楽しんでもらうにはどうするか。だからDDTは20周年ですけど岐路というか、また新たなスタート地点に立ってるんだなって感じがします」
INFORMATION
DDTプロレスリング さいたまスーパーアリーナ・メインアリーナ大会 『Judgement2017〜DDT旗揚げ20周年記念大会〜』
●グッドコムアセットpresents KO-D無差別級選手権試合
〈王者〉HARASHIMA vs〈挑戦者〉竹下幸之介
●KO-Dタッグ選手権試合
〈王者組〉船木誠勝&坂口征夫 vs 〈挑戦者組〉石川修司&遠藤哲哉
●セキチューpresents DDT EXTREME級選手権ハードコアマッチ
〈王者〉葛西純 vs 〈挑戦者〉佐々木大輔
●「DDTがDDTであるために」20年のエンタメ集大成!ワールドワイド世界一ヤバいヤツ決定戦
男色ディーノ vs ジョーイ・ライアン
●シブサワ・コウ35周年記念「信長の野望〜俺たちの戦国〜」戦国武将マッチ
高木三四郎〈豊臣秀吉〉&武藤敬司〈武田信玄〉&木高イサミ〈真田幸村〉 vs 飯伏幸太〈織田信長〉&秋山準〈上杉謙信〉&関本大介〈柴田勝家〉
3月20日(月・祝)さいたまスーパーアリーナ
開場12:30/開始14:00
DDTプロレス公式サイト
PROFILE
高木三四郎(たかぎ・さんしろう)
1970年1月13日生まれ 大阪府出身
97年、DDT旗揚げに参加。エースとして活躍し、06年に社長就任。“大社長”のニックネームでも知られる。09年に両国国技館進出、12年には日本武道館大会を成功させるなど団体運営の手腕も高く評価されており、現在は武藤敬司率いるWRESTLE-1のCEOも務めている。
公式Twitter
DDTプロレスリング さいたまスーパーアリーナ・メインアリーナ大会 『Judgement2017〜DDT旗揚げ20周年記念大会〜』
●グッドコムアセットpresents KO-D無差別級選手権試合
〈王者〉HARASHIMA vs〈挑戦者〉竹下幸之介
●KO-Dタッグ選手権試合
〈王者組〉船木誠勝&坂口征夫 vs 〈挑戦者組〉石川修司&遠藤哲哉
●セキチューpresents DDT EXTREME級選手権ハードコアマッチ
〈王者〉葛西純 vs 〈挑戦者〉佐々木大輔
●「DDTがDDTであるために」20年のエンタメ集大成!ワールドワイド世界一ヤバいヤツ決定戦
男色ディーノ vs ジョーイ・ライアン
●シブサワ・コウ35周年記念「信長の野望〜俺たちの戦国〜」戦国武将マッチ
高木三四郎〈豊臣秀吉〉&武藤敬司〈武田信玄〉&木高イサミ〈真田幸村〉 vs 飯伏幸太〈織田信長〉&秋山準〈上杉謙信〉&関本大介〈柴田勝家〉
3月20日(月・祝)さいたまスーパーアリーナ
開場12:30/開始14:00
DDTプロレス公式サイト
PROFILE
高木三四郎(たかぎ・さんしろう)
1970年1月13日生まれ 大阪府出身
97年、DDT旗揚げに参加。エースとして活躍し、06年に社長就任。“大社長”のニックネームでも知られる。09年に両国国技館進出、12年には日本武道館大会を成功させるなど団体運営の手腕も高く評価されており、現在は武藤敬司率いるWRESTLE-1のCEOも務めている。
公式Twitter
取材・文/橋本宗洋 撮影/熊代紀章