「人間って普段、欲望を抑圧されながら生きていると思うんですね。この映画を観ればちょっとは溜飲が下がるのではないかと」
旧知の瀬々敬久監督のみならず数多くの名監督や染谷将太さんなど同業者から愛される俳優川瀬陽太さんが出演した映画『華魂 幻影』が4月30日に公開される。「僕は単価が安いだけなんです」とスタッフを笑わせつつ、仕事観や映画への向き合い方を語ってくれた。人生に迷う読者へのヒント盛りだくさんのインタビュー!
寄り道しないのは好物だけ食べて栄養が偏るのと同じ
──先日のENBUゼミ川瀬陽太講座では「就職先としての俳優業」をお話しされたそうですが、内容を少し教えて頂けますか。「商業映画の俳優としてデビューしたのは瀬々敬久監督の成人映画なんですけど、90年代はVシネマも盛んだったんです。今日は前バリ付けて、翌日はチンピラを演じて…みたいな、今よりは何となく稼ぎやすい時代だったんですね。世の名立たる監督たちも、映画の仕事がない時は企業のPRビデオやカラオケ映像のような、シノギと呼ばれる仕事をしていた。だけど映画業界においてキャリアを積むならまずは賞を獲るという風に、道が限定されてしまったから、就活するように俳優にはなれないんだよという話をしました」
──芸能界は何となく入れる世界ではなくなったということですか。
「逆に何となく入れちゃうのが芸能界なんですよ。だってデジタルで撮影して名刺を作れば、映画監督と名乗っていいわけですから。俳優も然りで。問題は、どうやって“生活者”として俳優を続けていくかということ。今は映像のメディアが多岐に渡るから、その方法は自分なりに考えなくちゃいけないよ、と。ただ、今の人は映画を観ている本数が圧倒的に少ない。名画座でも何でもいいから、好き嫌いなく観たほうがいいと思うんです。上映中に寝ちゃってもいいから」
──寝てしまってもいい!?
「いいんです。ある世代から上は映画をテレビで毎週、何番組か観てきているんです。好きも嫌いもなく観て、その中から自分なりの映画に対するリテラシーを培ってきていますから」
──何でも観ることは、何でもやる仕事の初心と通ずる気がします。
「好きな映画や音楽がすぐ手に入る時代ですけど、ある意味、その間の“寄り道”が少なすぎるんです。即、好きな物に辿り着けたら新たな“好きの発見”ができないじゃないですか。好物ばかりを食べ続けていたら栄養が偏るのと同じ。観客としてはいいけど作り手としては偏ってしまうんですよね」
撮影中嵐を呼んだ寿保さんは“持ってる人だな”と
──数々の名監督や同業者から愛される川瀬さんだからこその言葉。説得力があります!「僕は単価が安いんです(笑)それに自分より売れてる俳優から相談されると『こっちが相談したいわ!』と思いますし(笑)ただ、染谷(将太)クンなんかと話していて感じたのは、観客レベルではなく映画を系統立てて好きと言えるかどうかという共通点があれば、性別も年齢も無関係で仲良くなれる。青臭いですけどね。若いコに多いんですよね。映像の世界でやっていきたいと言うから、じゃあどんな映画が好きかと聞くと『普段、映画は観ないんです』と。その禅問答みたいなやり取りはどうかと」
──えぇっ!? そうしたら『華魂 幻影』劇中劇のポスターの意味も分からないということですね。
「あれは僕の預かり知らんところで作られてますけどね。主演の大西(信満)クンから写メを送られて初めて知ったぐらいです」
──ちなみに作品を観て初めて「いつもより回ってる」意味も分かりました。凄かったです!
「台本の段階で何だコレ!? と思いましたよ。でも、寿保さん(佐藤寿保監督)の映画はアホほど観てきて美意識は知ってるから、『この人に任せればどんな狂った世界もアリだろう』と思ったし、寿保さんを喜ばせるためにある種コメディーか!? と思えるほど狂ってやりました」
──佐藤監督はどんな方ですか?
「今回は穏やかでしたけど、寿保さんの後輩である瀬々さんは『監督を撮ったほうがホラーになる』と言ってましたね。撮影中に、テンションが上がると助監督の首を絞めていたらしいですから」
──あの世界観は佐藤監督だからこそ、ですね。
「屠殺場での撮影中に、見事なタイミングで嵐まで来ましたからね。『寿保さん、呼ぶなあ~!』なんて、2人で“野獣死すべし”大会みたいになってました」
「おっぱいが沢山出てきます」は半分冗談ですが…
──現場の雰囲気とは異なり、途中から川瀬さんが恐ろしすぎるのですが…。「これは僕の勝手な美意識ですけど、アクションや泣く、狂う芝居ってそこだけテンションが上がるってるとカッコ悪いんですよ。仕事っぽくないというか」
──無理に作り込んでないからこそ、恐怖感が際立つと。
「そういう引き出しはすでに結構持ってますからねえ。寿保さんは『華魂サーガ』にするんだなんて言ってましたけど、監督の元に集結したら全員、狂うことになってるんです(笑)」
──ではもし川瀬さんの中で華魂が開いたらどうなりそうですか。
「好きな酒を飲みながら、ずっと映画の話をし続けるんじゃないですか。そして映画の話しかしない自分に、人としてどうなのかと疑問を覚えるでしょうね。ただ基本、楽しい酒なんで、もっと明るめの華が咲くと思いますけど。チューリップみたいな」
──なるほど。最後に改めて作品の魅力をPRして頂きたいです。
「おっぱいが沢山出てきます(笑)ま、これは半分冗談ですけど人間って普段、どうしたって欲望を抑圧されながら生きていると思うんですね。ただ、映画の中では何万人死のうがどんなに酷いことが起きようが僕は基本的にアリだと捉えていて、この映画を観ればちょっとは溜飲が下がるのではないかと。それとこの作品に限った話ではないんですけど、寿保さんなりのエンターテインが詰まった作品なので、最近の作品では見られないほどの崩壊したモラルを味わって頂きたいですね」
INFORMATION
■映画『華魂 幻影』
INFO&STORY
閉館間近の映画館で映写技師を務める沢村(大西信満)は、スクリーンに映るはずのない黒ずくめの少女(イオリ)を見る。上映後にフィルムをチェックしても、少女の姿はどこにも映っていない。ある日、上映後の客席にその少女がいるのを見つけ映写控え室にかくまうが、いつの間にかいなくなってしまう。少女を探しに映画館を出た沢村はその幻影に導かれるように川原に辿り着き、失われた記憶が蘇る。少女の頭に毒々しい色の花“華魂”が不気味に咲いている…。
CAST&STAFF
出演/大西信満・イオリ・川瀬陽太・愛奏・吉澤健・真理アンヌ・三上寛ら
監督・原案・製作/佐藤寿保
脚本/いまおかしんじ
音楽/大友良英
撮影/御木茂則
制作・配給/渋谷プロダクション
公式HP
4月30日(土)から新宿ケイズシネマほか全国順次公開
(C)華魂プロジェクト
PROFILE
川瀬陽太(かわせ・ようた)
1969年12月28日生まれ 神奈川県出身
95年に映画「RUBBER’S LOVER」で主演デビュー。自主映画から大作までボーダーレスに活動、今や日本映画界に欠かせないバイプレイヤーとして名を馳せる。近年の出演作は映画「さよなら歌舞伎町」「乃梨子の場合」「ローリング」「新しき民」「バット・オンリー・ラヴ」「夢の女」、公開待機作に「64」「月光」「バンコクナイツ」などがある。本作では劇中劇「激愛」の主人公を演じた。
公式Twitter
■映画『華魂 幻影』
INFO&STORY
閉館間近の映画館で映写技師を務める沢村(大西信満)は、スクリーンに映るはずのない黒ずくめの少女(イオリ)を見る。上映後にフィルムをチェックしても、少女の姿はどこにも映っていない。ある日、上映後の客席にその少女がいるのを見つけ映写控え室にかくまうが、いつの間にかいなくなってしまう。少女を探しに映画館を出た沢村はその幻影に導かれるように川原に辿り着き、失われた記憶が蘇る。少女の頭に毒々しい色の花“華魂”が不気味に咲いている…。
CAST&STAFF
出演/大西信満・イオリ・川瀬陽太・愛奏・吉澤健・真理アンヌ・三上寛ら
監督・原案・製作/佐藤寿保
脚本/いまおかしんじ
音楽/大友良英
撮影/御木茂則
制作・配給/渋谷プロダクション
公式HP
4月30日(土)から新宿ケイズシネマほか全国順次公開
(C)華魂プロジェクト
PROFILE
川瀬陽太(かわせ・ようた)
1969年12月28日生まれ 神奈川県出身
95年に映画「RUBBER’S LOVER」で主演デビュー。自主映画から大作までボーダーレスに活動、今や日本映画界に欠かせないバイプレイヤーとして名を馳せる。近年の出演作は映画「さよなら歌舞伎町」「乃梨子の場合」「ローリング」「新しき民」「バット・オンリー・ラヴ」「夢の女」、公開待機作に「64」「月光」「バンコクナイツ」などがある。本作では劇中劇「激愛」の主人公を演じた。
公式Twitter
Interview&Text/内埜さくら Photo/おおえき寿一