エッセイ漫画『中国のヤバい正体』(大洋図書)が7月末に出版され、大きな反響を呼んでいる。作者は中国在住の中国人。中国国内の環境や食などの問題をはじめ、政府への不満を赤裸々に漫画で綴った問題作だ。中国は厳しい言論統制の敷かれている国だけど、こんなこと描いて大丈夫なの? 来日中の作者を直撃した!
中国では、漫画家はゴミ屑みたいなものー パンチラも18歳未満の恋愛もNG!?
──孫さんは日本語がお上手ですね。日本語学校に通われていたんですか?「いえ、学校に通ったことはありません。『ときメモ』や『センチメンタル・グラフィティ』などのギャルゲーで覚えました。中国だとエロ規制が厳しいので、(翻訳された)エッチなギャルゲーは販売できません。そういうゲームをやりたければ日本語を覚えなきゃいけないんです」
──本当に日本語が達者なのに、まさか学校に通っていないとは…。
「多分、日本語学校に通わずに、趣味のために必死で勉強した人の方が日本語はうまいと思いますよ(笑)。スラングが自然に出るんで」
──確かにそうかもしれませんね。普段は恋愛漫画を描かれているんですよね?
「はい。日本の漫画賞で受賞したのはラブコメです。でも、中国の漫画業界だと、若い男女の恋愛漫画は描けないんです。18歳以下の高校生は勉強するものだから恋愛は好ましくないっていうのが理由です。キスはダメ。手を繋ぐのすらNG。エロ描写はダメでパンチラも描けません。でも、僕は桂正和先生の『電影少女』みたいなエッチなラブコメを描きたいんです」
──孫さんの漫画の女の子はかわいいですよね。
「ありがとうございます! 学園漫画を描くなら断然、舞台は日本です。日本の女子高生の制服はスカート丈が短くてエロ萌えです(笑)。中国の学生はジャージなので、見た目は面白くありません。でも、日本にはジャージマニアがいるんですよね? 日本の漫画家さんに聞きました」
──ジャージマニア、知らなかったです(苦笑)。中国で漫画家の地位はどうなんですか?
「漫画家って何? そんなんで食っていけるの? という感じです。社会的にはゴミ屑です。少年ジャンプが日本での発売数日後に、翻訳された上で中国のネット上に違法アップロードされるので、誰も中国のつまらない漫画雑誌は読みません」
僕らの国には生きる尊厳がない 命がけの中国の現状を訴えた!
──今回、中国のエッセイ漫画を出版されました。これは政府にバレるとまずいんですか?「ブログで政府の悪口を書いた大学生の任健宇さんは、国家反逆罪で逮捕され、2年間の労働教育の刑を受けました。共産党にとって都合の悪い人間はすぐに逮捕される国です。今回、僕は、ネーム(絵コンテ)は紙に描いたんですが、すぐにパソコンに取り込んで処分しました。日本の編集者とは、日本で用意してもらったメアドやサーバーを通じてやり取りしました。中国国内のネットはネット警察に監視され、怪しい人間は事情聴取されるんです」
──恐ろしい……。なぜ、ここまでリスクを冒して出版を?
「僕らの国には生きる尊厳がない。息が詰まりますよ。水道水も飲めないし空気もひどい。政府は汚職ばかり。GDP2位になったけど、金持ちはほんのごく一部。みんなひもじい暮らしをしている。そんな中国の悲惨な状況を訴えたかったんです。漫画という僕の武器を使って……。でも、とにかく一番言いたいのは、自由にエロ漫画を描かせろってことですね(笑)」
──まさに命がけの漫画ですね。ぜひ日本の皆さんにも読んでいただきたいですね。
INFORMATION
『中国のヤバい正体』(大洋図書)が好評発売中
PROFILE
孫向文(そん・こうぶん) 中国人民共和国浙江省杭州市出身の30歳。漢族。仮面漫画家。 20代半ばで中国の漫画賞を受賞し、プロ漫画家に。その傍ら、独学で日本語を学び、日本の某漫画賞にも応募し続ける。エッチなラブコメを描きたいという情熱で、応募12回目にして受賞。趣味は海外旅行とヒップホップ。
公式Twitter
『中国のヤバい正体』(大洋図書)が好評発売中
PROFILE
孫向文(そん・こうぶん) 中国人民共和国浙江省杭州市出身の30歳。漢族。仮面漫画家。 20代半ばで中国の漫画賞を受賞し、プロ漫画家に。その傍ら、独学で日本語を学び、日本の某漫画賞にも応募し続ける。エッチなラブコメを描きたいという情熱で、応募12回目にして受賞。趣味は海外旅行とヒップホップ。
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取材・文/井川楊枝