技術的な基本は他団体に負けちゃいけない。そこは僕の中にもある〝王道〟の部分です。王たる所以を説明できる必要がある
三冠ヘビー級王者の宮原健斗選手を中心に、ここ数年盛り上がりを増しているのが老舗団体・全日本プロレスだ。その舵取り役は社長兼レスラーの秋山準選手。選手の離脱などで危機を迎えた時期に社長就任。そこからどのように巻き返していったのか──。今回は〝社長目線〟で全日本の魅力を語ってもらいました。プロレスファンではなくても思わず膝を打つ言葉も満載です!
動けなくなったベテランが上にいてはプラスにならない
──3月19日、後楽園大会での三冠戦、宮原健斗vs野村直矢は素晴らしい試合でした。「野村は初の三冠戦でしたが、頑張ってくれましたね。考えすぎず感性でいったのが良かった。試合の前日もよく眠れたと言ってました(笑)」
──野村直矢選手とともに「新時代」と呼ばれるジェイク・リー選手、青柳優馬選手も燃えているでしょうね。
「ベテラン含めて選手全員が悔しがらなきゃいけないですよ。自分はその日、中継の解説をしていて『いい試合だった、良かったな』と思ったんです。悔しくないということは、自分はベルト争いの最前線にはいないんだなと」
──社長目線になっていたと。
「完全になってました。昔、(ジャイアント)馬場さんが三沢(光晴)さんと川田(利明)の試合を見て泣いたっていうのはこういう感じだったのかなと。まだ早いだろって思いながらも(笑)」
──これからの秋山さんは、選手としてはどう進みますか。
「馬場さんはスムーズに世代交代をされましたよね。実際、体が動けなくなったベテランが上にいるのはプラスにならないんです。若手に『秋山さんにこの技やったら危ないかな』なんて思わせちゃダメ。若い人間が遠慮すると、余計に動けないベテランが強く見えてしまう。第一線の試合は若くて体が動く選手に任せるっていうのがやっぱり自然なことだと思います。ただ、僕は今年50(歳)ですけどまだ動けるんで。特に受身に関しては『どんな技でもかけてこいよ』という気持ちでいます」
──ここ数年〝老舗復興〟を進めてきた全日本。その中で秋山さんが重視したのはどんな部分ですか?
「やっぱりリング上を充実させることですね。僕が社長になった頃は、宮原がまだエースとして確立されていなくて、青柳、野村も新人。彼らのレベルアップが、リング上の闘いの水準を上げると考えていました」
──先を見据えていたと。
「その成果が、最近になって出てきたところですね。宮原に全日本所属になってもらったのも同じで『先々はこの選手が中心になる』と。物の考え方も僕らと違う新しいものがありますし、僕らと若い世代のパイプ役にもなれる」
──単に、即戦力というだけではなかったんですね。
「宮原自身、同じことを考えていたと思いますよ。野村は、宮原が相手じゃなかったら初挑戦であそこまでの三冠戦ができたかどうか分からない。野村が全力を出せる状況を宮原が作っていたんです」
──宮原選手がすべて受け止めるというか。
「あの試合だけじゃなく、これまでの闘いの中で、ですね。宮原と同じリングなら思いっきりできる。そういう空間を宮原が野村相手に作ってきたんです」
──野村選手を自分のライバルとして育てていった?
「いい選手は、ライバルを作る作業をするんです。ライバル不足と言われる選手は、自分が悪い。その作業をしてこなかったんですから(笑)ライバルがいて、その上で『最終的には俺が一番だ』というプライドを持っているのがいい選手ですよ。下が育つ前に『俺が!』とやってたらライバルが育たないですから」
──宮原選手は全日本らしくない選手に見えて昔からの団体のキャッチフレーズ「明るく、楽しく、激しいプロレス」にふさわしい選手でもあります。
「自分も全日本らしくないと言われてたのに社長ですから(笑)全日本のプロレスは〝王道〟と言われますけど、僕が王でもないですし。らしさは観る人が感じて、決めてくれればいいと思います」
全日本の選手には見えにくい基礎の部分もやってほしい
──その中で「ここは外しちゃいけない」という部分はありますか。「技術的な基本の部分は他団体に負けちゃいけない。そこは僕の中にもある王道の部分です。王たる所以を説明できる必要がある」
──王様かどうかは別として、王様の条件は知っておくべきだと。
「プロレスって、技術でいうと10段階のうち後半の5か6あたりからでもできるんです。ただ全日本の選手には1から4、見えにくい基礎の部分もしっかりやってほしい。1〜4を知っていると深みが違うんです。たとえば外のリングで、僕が意地悪して1〜4の部分を出したら、ついてこれる人間はいないだろうなと」
──派手な部分以外で圧倒できる。
「普段は使わないんですが、知ってると違うんです」
──そのベースがあるからこそ、新しい選手も育つんでしょうね。
「育成は大事ですね。若い選手が育ってこないと新陳代謝が起きませんから。今はふるいにかけるというより、入ってきた子をちゃんと育てるスタイルです」
──「昔みたいな厳しい練習をしたら、今の若い子がすぐ辞めちゃう」と言う人もいますね。
「昔は入る人間が多かったから、辞める人間が多くても大丈夫だったんですよ。ひたすら厳しい練習が本当に必要なのかっていう面もあります。たとえばスクワットを1000回というのも、体を鍛えるという意味では『そこまでいらないだろ』と。逆にヒザを壊す可能性もあるので。体の鍛え方であれば今はマシンなりいい方法がたくさんありますから。僕が若い子にスクワットを大量にやらせるとしたら、何かミスした時ですね」
──ペナルティとして。
「昔だったらぶん殴ってるところを、今はスクワットで。今は怒りはしても殴らないです。昔、基礎体力の練習をもの凄い数やったのは、新弟子をふるいにかけるためプラス自分に自信をつけるためでしょうね。『これだけ練習したんだから!』と」
──そうなると今の選手は、どんなところでプライドや自信をつけていくんですか?
「それぞれのやり方でいいと思います。大事なのは、苦手なこともしっかり練習すること。やってダメだったら仕方ないけど、やらずに済ますなって。これは若い子に一番言いますね。全部やってみてその上でいいところを伸ばせばそれが自信になりますよね。今だったらSNSで書いたことがファンの人たちに支持されたり、応援されたりっていうことが自信になるかもしれない。今は自信になる要素が多いですね」
──どんな形でも自信になればいいわけですね。
「ただ試合で相手に対して自信を持って闘うには、さっき言ったような基本の技術が必要です。今の若い選手にも、僕がガミガミ言って教えてますから、他の団体の選手より技術は高いはず。そこは自信にしていいと思います」
──たとえばどんな部分ですか?
「腕の取り方、ヘッドロックの取り方も、技の形はできてもきちんとした入り方を知っているかどうか。ベテランでもやってない選手がいますよ。知っていれば『プロレスって本当に痛いの?』と聞く人にも説明できるじゃないですか。プロレスってプロフェッショナルのレスリングですからね。プロの技術を持ってなきゃいけない」
──そう思うと、やはりプロレス団体の盛り上がりは選手ありき、試合内容ありきなんですね。
「僕が社長になった時は分裂だなんだってごちゃごちゃしてましたから。まずリング上を充実させないと、外の会社とお付き合いする時も『ぜひ』と言ってもらえない。中身がないのにアピールしようがないですから。今はアピールできるものができてきた。団体数も多いし娯楽も多いので大変ですけど、何かきっかけがあれば一気にいけるかなという気はしてます」
INFORMATION
全日本プロレス 今後の主な大会予定
◆『2019 Champion Carnival[優勝決定戦]』
4月29日(月・祝)開始18:30 東京・後楽園ホール
◆『2019 SUPER POWER SERIES』
5月20日(月)開始18:30 東京・後楽園ホール
◆5月25日(土)アレナ・メヒコ(メキシコシティ)で開催される、闘龍門MEXICO主催『Dragomania XIV』に宮原健斗選手、青柳優馬選手が参戦!
詳細・お問い合わせ:全日本プロレス
公式HP
公式Twitter
PROFILE 秋山準(あきやま・じゅん)
1969年10月9日生まれ 大阪府和泉市出身
専修大学レスリング部から全日本プロレスに入団し、92年に小橋健太戦でデビュー。00年のプロレスリング・ノア旗揚げ後もトップ選手として活躍し続ける。13年から全日本にカムバックを果たし、14年に社長就任。現在も運営会社オールジャパン・プロレスリングの代表取締役社長を務めている。選手としても三冠ヘビー級王座、GHCヘビー級王座など獲得タイトル多数。
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◆『2019 Champion Carnival[優勝決定戦]』
4月29日(月・祝)開始18:30 東京・後楽園ホール
◆『2019 SUPER POWER SERIES』
5月20日(月)開始18:30 東京・後楽園ホール
◆5月25日(土)アレナ・メヒコ(メキシコシティ)で開催される、闘龍門MEXICO主催『Dragomania XIV』に宮原健斗選手、青柳優馬選手が参戦!
詳細・お問い合わせ:全日本プロレス
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PROFILE 秋山準(あきやま・じゅん)
1969年10月9日生まれ 大阪府和泉市出身
専修大学レスリング部から全日本プロレスに入団し、92年に小橋健太戦でデビュー。00年のプロレスリング・ノア旗揚げ後もトップ選手として活躍し続ける。13年から全日本にカムバックを果たし、14年に社長就任。現在も運営会社オールジャパン・プロレスリングの代表取締役社長を務めている。選手としても三冠ヘビー級王座、GHCヘビー級王座など獲得タイトル多数。
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取材・文/橋本宗洋 撮影/おおえき寿一