アヒルをかたどったチープなマスクを被って、どこからともなくド派手なワゴンで乗りつける神出鬼没のパフォーマー、スターダックトニー。路上パフォーマンス〝バスキング〞で世界じゅうの人々を魅了してきた彼は、いかにしてアヒルとなったのかーー。YouTubeやSNSでも話題沸騰! 実はめちゃくちゃ苦労人な、謎めく男の素顔を追った。
『街ゆく人との即興のセッションお金じゃない魅力は、そこなんで』
アヒル姿で世界を駆けた謎めく路上パフォーマー
──ものすごく素朴な疑問ですが、なんでまたアヒルだったんでしょう?
「最初はこんなふうになる予定ではなかったんですよ(笑)。ずっと世界を旅したいと思ってて、それがどうやったら実現できるかっていうのを考えたときに、ワンマンバンドみたいなスタイルの〝バスキング〞(=路上パフォーマンス)ってものがあるのを知って。もともとパンクバンドをやってて、ギターを弾くのは好きやったから、『これ、やってみたい』と思って始めたのがきっかけです。初めてアヒルになったんは、オーストラリアのメルボルン。餞別でもらった100均で売ってるアヒルのマスクを被ってやったら、これが大ウケで。それまでの僕はどっちか言うたらカッコをつけたいタイプの人間やったから、始めの頃は抵抗もあったんですけどね(笑)」
──バンド活動はいつ頃まで?
「30歳すぎてもやってましたね。音楽では食われへんわ、バイトはすぐクビになるわで、サラ金にも借金して。で、行ってみたかった日本最南端の波照間島で星空を眺めてるときに、すごい感動して、もっと感動したいと思って、『そや、自分で稼いで世界一周を目指そう』と。そこから、手始めに住んでたマンションを引き払って、家財道具も処分して。軽ワゴンで寝泊まりしながら、日本じゅうで資金稼ぎの旅をすることにしたんです」
──言い方を変えると、ホームをレスしたと。三十路をすぎてのそれは、なかなかのハードコア・パンクですね!
「そうでしょ。その頃がいちばんハードコアだったかもしれません(笑)。結局、四国の徳島を中心に2年ぐらいあちこち放浪しましたね。とりあえず食い扶持は確保せなアカンから、食品衛生管理者の資格だけ取って、バイト経験のあった見よう見まねのタイ料理と沖縄料理をワゴンで売って。『大阪出身やったら、やっぱりたこ焼きやろ』って知りあいが譲ってくれた鉄板で、やったこともないのに挑戦して、結果、想定外の行列にパニクって、たこ入ってない、ただの〝焼き〞を売ったりもしてましたね(笑)」
──そんな暮らしだと家賃はかからなくてもお金も貯まらなそうですよね。
「まったく(笑)。基本的に無計画な人間やし、『ガソリン代払ったら赤字やん』みたいなときもしょっちゅうあって。そこで世界を旅をする手段としてバスキングをやることにしたわけです」
──基本的にはすべて観光ビザで?
「そうそう。メルボルンから始まって、エアーズロック経由でダーウィンに出て、そこからインドネシア、シンガポール、マレーシア、タイと行って、トルコへ飛んでヨーロッパに入って、南米に渡って最後はアメリカからハワイ。モロッコとかエジプトに行ったときなんかは、めちゃくちゃ人だかりになって盛り上がったのに、終わってみたら投げ銭合計15円、みたいなこともありましたね。ドサクサに紛れてiPhoneとかも盗られたし(笑)」
──そこから日本に帰国して、アヒルとして生きていくことを決意されて?
「いや、実はそのときのマスクは最後のハワイの空港で捨ててきたんです。自分のなかで、バスキングはあくまで旅を続けるための手段っていうのがあったんで。でも帰国してから、結婚式でパフォーマンスをするって依頼でまた徳島に戻ったときに、アヒルのマスクで世界一周をしてたときの感覚を思いだして、『この感覚がやっぱり好きや』と思ってね。で、本の出版に漕ぎつけて、クラウドファンディングで作ったバスキングカーで、3ヵ月間限定の『出版記念ツアー』に出てみたら、その車でのパフォーマンスにドハマりしてて(笑)。どうせなら、ちゃんと楽器とかアンプもいいのをそろえて、音にもこだわってプロの仕事としてやってみようかな、って気になったんです」
──今後はどういう活動を?
「いま、かなりパワーアップした新しいバスキングカーを作ってて、それがもうすぐお披露目できると思うんで、そんな〝相棒〞を駆って、またいろんなとこに行きたいですね。中国のフェスには一度呼ばれて行ったことがあるんですけど、最終的には車も積んで、世界にもまた行ってみたいと思ってます。まぁ、さすがに以前の〝ワゴンで寝起き〞みたいな生活には戻りたくないですけど(笑)」
──しかし、神出鬼没すぎてトニーさんと出会うのもひと苦労しそうです。
「そうですね。でもそれがストリートでやることの醍醐味でもありますしね。自分のパフォーマンスで街ゆく人を惹きつけて、集まったお客さんとその場限りのセッションをする。パフォーマンス中に僕から『入ってきて』って感じでお客さんを煽ることがあるんですけど、それがハマって、まったく知らない人と掛けあいまでできるときって奇跡に近いと思うんです。『お金じゃない』って思える魅力があるとしたら、やっぱりそこ。なので、見かけたらぜひ立ち止まって、一緒に楽しんでくれるとうれしいです」
INFOMATION
『トニーの俺行くし!! 世界一周バスキング旅』
出版ワークス・刊/¥1,500+税
唯一無二の珍道中を綴った単行本。謎の男トニーのパンクな生きざまに刮目せよ!!
PROFILE
スターダックトニー
大阪府生まれ。年齢・本名非公表。アヒルのマスクがトレードマークのパフォーマー。インパクト抜群のバスキングカーで乗りつける神出鬼没のスタイルで目下、人気急上昇。その“SNS映え”する独創的なパフォーマンスはメディアからの注目度も高い。座右の銘は「俺行くし」。
公式HP
公式Twitter
『トニーの俺行くし!! 世界一周バスキング旅』
出版ワークス・刊/¥1,500+税
唯一無二の珍道中を綴った単行本。謎の男トニーのパンクな生きざまに刮目せよ!!
PROFILE
スターダックトニー
大阪府生まれ。年齢・本名非公表。アヒルのマスクがトレードマークのパフォーマー。インパクト抜群のバスキングカーで乗りつける神出鬼没のスタイルで目下、人気急上昇。その“SNS映え”する独創的なパフォーマンスはメディアからの注目度も高い。座右の銘は「俺行くし」。
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写真・文/鈴木長月