「現実社会でこの作品と同じように辛く苦しい思いをしている方は多いと思うので、映画が何かの波になればうれしいです」
性的暴力、家庭内暴力、イジメ。現代社会の闇を浮き彫りにした映画『子どもたちをよろしく』が2月29日に公開。女優としてのキャリアをスタートさせたばかりで本作で初主演を務めた鎌滝えりさんは、義父から性暴力を受けながらも強く歩んでいく女性を演じている。「ハッキリ言って、決して後味のいい作品ではなく、観た後に考えさせられると思います」という作品とどう向き合ったのか。平成生まれだが、昭和大好きな一面にも迫ってみると――。
デリヘル嬢役に抵抗はなく絶対に優樹菜を演じたかった
──演じた赤谷優樹菜に対して、どんな女性像を描きましたか。「強くて意欲的な人物だという印象を持ちました。強く共感を抱けましたし憧れも持ったので、オーディション前に台本を読んだ時から、絶対に自分が演じたいと思っていたんです。優樹菜はアルコールに依存している義父に性的暴力を受けているんですけど、母は義父に依存しているため、黙認します。実の娘である優樹菜が少しでも家計を助けようとデリヘルで働いていると知っていながら、見て見ぬ振りもします。義理の弟はまだ中学生なので、実の父親の暴挙を言葉で反論すると暴力を振るわれてしまう。そんな中で唯一、現状から脱しようとしている人物なので、私はまだ役者を始めたばかりですが、優樹菜を演じることで役者人生にすごく大きなきっかけを得られると思いました」
──デリヘル嬢を演じることに対して抵抗はなかったのでしょうか。
「全くありませんでした。自分の足でちゃんと生きようとして選んでいると思うので、私は自立している女性だと捉えました。私自身は不登校の時期があって、だからこそ脚本に共感できる部分があり、『絶対に優樹菜を演じたい』と思ったのかもしれません」
──不登校!? いつ頃ですか。
「小3から中3です。イジメが原因ではないんですけど、何となく行くのが億劫になってしまったんです。ただの一度も『学校に行きなさい』と言わなかった母の懐の深さには、今でも感謝しています。我が家は母と姉と私の3人家族で母は私たちを養うために忙しく仕事をしていたはずなんですけど、『心が壊れてしまうほど行きたくないのであれば、それでいいんじゃない?』と、全てを受け止めてくれました。『親が行くように指導して下さい!』という、先生からも守ってくれました。私は役者を始めたばかりですがあの時、学校に行かないという選択をしなければ今の私はいないので、頭が上がりません」
──学校へ行かない時間は、何をしてすごしていたのでしょうか。
「当時はヘアメイクさんになりたかったんです。今のように自分が表に立つとは想像もしていなかったのですが、モノ作りの世界にはものすごく興味があって、何冊も雑誌を買い込んで、切り貼りしたスクラップブックを作っていました。あとは、自分で創作した詩を書いていた記憶があります。若かりし自分の衝動をノートにぶつけていた過去を今振り返ると、メチャクチャ恥ずかしいです(笑)」
もしあんな弟がいたら将来心配になってしまうかも…
──プライベートなお話も。鎌滝さんは平成7年生まれですが、昭和大好き女子だそうですね。「興味を持ったきっかけは『蒲田行進曲』や『帰ってきた酔っぱらい』『鬼龍院花子の生涯』などの映画です。昭和歌謡は、ドラマ的で情緒ある歌詞が大好きなんです。一節で状況、感情、絵、時刻が全て分かるなんて、天才的すぎます。確か、祖父が運転する車内で聴いてハマった記憶が。沢田研二さんの『カサブランカ・ダンディー』は今、歌詞を読むと新鮮ですし、久保田早紀さんの『異邦人』もよく聴きます。ジュディ・オングさんの『魅せられて』に出てくる、♪女は海~♪という歌詞も、インパクトがある表現ですよね。同世代にも昭和歌謡が大好きな人が増えているんです。時代が巡って、シンプルに刺さるものに惹かれるようになってきているのではないでしょうか」
──カラオケで歌いますか?
「歌は苦手で人に聴かせられるレベルではないんですけど最近、歌の練習と発声を兼ねてヒトカラへ行っています。母が世代ど真ん中のアン・ルイスさんを歌うことがあるんですが、『魅せられて』と松坂慶子さんの『愛の水中花』を上手に歌えるようになるのが目下の目標です」
──渋すぎます(笑)話を映画に戻しましょう。義理の弟、稔役を演じた杉田雷麟さんと共演してみていかがでしたか。
「もしあんな弟がいたら、カッコよすぎて将来の異性関係が心配になってしまうかもしれません(笑)撮影中は、『守らなければ』という母性的な感情で見ていたので。最後に稔に出す手紙は私の直筆で書き終えたらボロボロ涙が出てしまいました。カメラが回っていないから泣く必要がないのに、それぐらい優樹菜として稔を愛おしく感じたんです」
──手紙を書き置きして優樹菜は義父の辰郎と2人で家を出るという選択をします。あれは稔を守るためだったのかと。
「最後のあの選択は観る方によって180度解釈が違うんですが、個人的には優樹菜の弟への思いを汲み取って観て頂けるのが一番うれしいです。母親役の有森也実さんは『あのシーンは痛快だったよね。よくやったぞ優樹菜!と思った』とおっしゃっていました。全ての責任を1人で引き受けた優樹菜に拍手をしたいと。一方で男性は『理解ができない』とおっしゃる方が多いんです。あの選択は姉として弟に冷たすぎるし『“オンナ”だなと思った』と。ご覧くださる方によって持つ印象が異なるところが、この映画の醍醐味だと思います。劇中で優樹菜は『どうせ私なんか汚れてる』と言うんです。経験が悪いのではなく、自分が悪いと考えてしまった結果だと思いますが、私はこの作品で『そうじゃないよ』ということを伝えたかった。現実社会でこの作品と同じように苦しい思いをしている方は多いと思うので、映画が何かの波になればうれしいです」
INFORMATION
■映画『子どもたちをよろしく』
INFO&STORY
北関東のとある街。デリヘルで働く優樹菜(鎌滝えり)は母親の妙子(有森也実)と義父の辰郎(村上淳)、辰郎の連れ子である稔(杉田雷麟)の4人暮らし。辰郎は酒に酔うと妙子と稔に暴力を振るい、優樹菜には性暴力を繰り返した。妙子はなす術もなく、見て見ぬ振りを続けている。稔はそんな父母に不満を感じながら、優樹菜に淡い思いを抱いていた。一方、優樹菜が働くデリヘルの運転手・貞夫(川瀬陽太)は、妻に逃げられ重度のギャンブル依存症に。息子の洋一(椿三期)と暮らす家に帰るのはいつも深夜で、洋一は暗く狭い部屋の中で1人、帰ることのない母親を待ち続けていた……。元文部科学省の寺脇研さんと前川喜平さんが企画を務め、子どもたちを取り巻く社会の闇を繊細かつ鋭く描き出した。
CAST&STAFF
出演/鎌滝えり・杉田雷麟・椿三期・川瀬陽太・村上淳・有森也実ら
監督・脚本/隅田靖
企画/寺脇研・前川喜平
配給/太秦
公式HP
2月29日(土)よりユーロスペースほか全国順次公開
(C)子どもたちをよろしく製作運動体
■映画『子どもたちをよろしく』
INFO&STORY
北関東のとある街。デリヘルで働く優樹菜(鎌滝えり)は母親の妙子(有森也実)と義父の辰郎(村上淳)、辰郎の連れ子である稔(杉田雷麟)の4人暮らし。辰郎は酒に酔うと妙子と稔に暴力を振るい、優樹菜には性暴力を繰り返した。妙子はなす術もなく、見て見ぬ振りを続けている。稔はそんな父母に不満を感じながら、優樹菜に淡い思いを抱いていた。一方、優樹菜が働くデリヘルの運転手・貞夫(川瀬陽太)は、妻に逃げられ重度のギャンブル依存症に。息子の洋一(椿三期)と暮らす家に帰るのはいつも深夜で、洋一は暗く狭い部屋の中で1人、帰ることのない母親を待ち続けていた……。元文部科学省の寺脇研さんと前川喜平さんが企画を務め、子どもたちを取り巻く社会の闇を繊細かつ鋭く描き出した。
CAST&STAFF
出演/鎌滝えり・杉田雷麟・椿三期・川瀬陽太・村上淳・有森也実ら
監督・脚本/隅田靖
企画/寺脇研・前川喜平
配給/太秦
公式HP
2月29日(土)よりユーロスペースほか全国順次公開
(C)子どもたちをよろしく製作運動体
PROFILE
鎌滝えり(かまたき・えり)
1995年4月7日生まれ 埼玉県出身
Netflixオリジナル映画『愛なき森で叫べ』(園子温監督)の尾沢美津子役やPS4『龍が如く7~光と闇の行方~』助演女優オーディショングランプリ受賞などで話題に。本作で映画初主演。ドラマ「東京男子図鑑」が20年に日本放送・配信予定。
公式instagram
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鎌滝えり(かまたき・えり)
1995年4月7日生まれ 埼玉県出身
Netflixオリジナル映画『愛なき森で叫べ』(園子温監督)の尾沢美津子役やPS4『龍が如く7~光と闇の行方~』助演女優オーディショングランプリ受賞などで話題に。本作で映画初主演。ドラマ「東京男子図鑑」が20年に日本放送・配信予定。
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撮影◎おおえき寿一 取材・文◎内埜さくら