「たぶん観ているうちに〝僕と静雄と佐知子プラス1〞って、自分があの場にいるような錯覚が起きると思うんです。その時はあまり驚かずに身を任せて下さい」
俳優の柄本佑さんが〝僕〞という名前のない役に初めて挑んだ主演映画『きみの鳥はうたえる』(三宅唱監督)が9月1日より 全国公開。さすが映画好きだけあり〝柄本節〞で本作の魅力や秘話を愛情たっぷりに語ってくれた。役者としての姿勢は、読者 にも応用できるはず!
きらめきや奇跡的な瞬間が撮れたのは撮影演出ありき
──完成作品はご覧になりましたか?「頭を抱えながら観ました(笑)自分が出ている作品は客観的に観られなくて、反省ばかりしちゃうんです。ある作品の初号を観た夜、ウチの母ちゃん(女優の角替和枝さん)に『次はガッカリしないように頑張ろうと思うんだけど、やっぱりガッカリするんだよなあ』と言ったんです。そうしたら『何言ってんのよ。この仕事は待つこととガッカリに慣れるのが仕事よ』と言われて。俺より大先輩の言葉だし、大先輩でもまだガッカリしているんだと知ったら仕方ないな、と。この作品も含め毎回、心を鍛えられています」
──そうですか(笑)撮影期間を掛けただけあり見応え抜群でしたよ!
「それはあるでしょうね。イン2日前に函館に入って、自分より先に入っていた石橋静河さんと三宅(唱)監督と一緒に、本読みをして改めてさらいましたし。〝僕〞が約束をすっぽかした佐知子とカフェで偶然会うシーンも結構重要だったんで、みっちりリハもしました。ここまで時間を掛けられる撮影ってイマドキ少ないんです。撮影も1日平均3シーン、多くても5シーンで、何かが起きる瞬間をじっと待つ時間があって。あの丁寧な撮影は画にも映っていたんじゃないかな、と思いますね。クラブでのシーンも本編では7分間ですが実際は3時間費やしているんです。だからといって2時間53分が無駄というわけではなく当然含まれていて、だからこそきらめきや奇跡の瞬間が撮れているのではないかと。だから映像も1カットごとに厚みがある。本編の106分は氷山の一角なんです。その下にはデケえ山がそびえているんですよね」
──なるほど。では〝僕〞役を演じる上で意識したことは?
「決定稿は原作を食べて消化後、血肉にした三宅唱がいる、という印象だったんです。〝僕〞は三宅唱ではないかと。だから衣装は監督と俺の私服も紛れ込ませました。キャップと大きめのTシャツとシャツは自前。紺のベルトとズボンは監督の私服なんです。わりと悩んだのがキャップ選び。監督も俺もキャップ持ちなんで持ち寄った結果、劇中で被っているのは俺がポルトガルで買ったキャップなんです。誰に渡すか予定はないけど、足りない時のために同じヤツを何個か買うお土産ってあるじゃないですか。アレです。全部渡しきっちゃってたら手元になかったかもしれない(笑)最初、監督は候補から外しましたけど、慎重かつ大胆に決めました。キャップって、その人を表すシンボルとしてはインパクトが強いアイテムなので」
量のない質はありえない!浴びるように映画を観ます
──印象に残っているシーンは。「染ちゃん(染谷将太さん)が初めて登場するシーンです。静雄役の染ちゃんが一緒に酒を飲んでいた母親に言われるんです。『貧乏ゆすりやめなよ』って。あそこに至るまでの染ちゃんと母親にイラつきながらも『飲みすぎだよ!』と返す染ちゃんが最高。10年ぶりぐらいの共演だから楽しみでもあり緊張もしていましたけど、一度段取りをした時に感じたんです。『コレ、染ちゃん史上一番いい染ちゃんになるんじゃない!?』と。だから貧乏ゆすりをしている時のあの表情を観たら『ごちそうさまです!』と思いました。二段ベッドの上から降りてくる染ちゃんなんて、エヴァンゲリオンの使徒にしか見えない。この作品で静雄を演じている染ちゃんは、俺にとって〝ごちそう染ちゃん〞です」
──あはは!お仕事の話も。小さい頃は映画監督を目指していたとか。
「小学校3年生ぐらいですかね、勝新太郎さんの『座頭市』を観て目指していました。3人姉弟なんですけど親は家にいる時は映画を観ていることが多かったんですね。子どもに興味がなかったのか(笑)学校のことも聞かれない。親父と母ちゃんは映画の話をしているから、共通の話題を見つけるために観始めたんです。映画という〝エサ〞を常に補完して、いかに食いつかせるかという感じでした(笑)」
──幼少期から映画を観る環境にいたとはいえ、かなりの本数を観ていらっしゃいますよね。
「この仕事を一生続けていくと決めた時に、たくさん観ることを意識したんです。例えば魚屋を継ぐのに魚の目利きができなくてどうするの?ということと同じですよ。ベースは映画好きですが、知らない役者がいたら恥じなければならないレベルで観ていますね。質を高める…」
──それ頂きたかった言葉です!
「まんまとハメられました(笑)そう、質を高めるためには、量のない質はありえないんです。量がなければ自分の中に良し悪しの尺度も生まれない。質のために俺は、浴びるように観るしかないと思っています」
──好きなことを探したい読者にも最適な方法ですか?
「好き嫌いと適性を見つけるためにも量は必要だと思います。量をこなせないのは好きじゃないことなんですよ。ちゃらんぽらんでもいいから続けられることが見つかるまで、何回職を変えてもいいんじゃないですか。俺はかなり我慢強いほうですけど『キツイわ〜』って限界がきたら映画館を出ちゃいますし。人生と映画って、重みが違いすぎる気が…スミマセン」
──いえ(笑)最後に改めてPRを。
「映画って大きいスクリーンで投影される用に作られているので、絶対に映画館で観て頂きたいです。家の小さなテレビ画面で観ても見つからない部分がたくさんあるので。この映画ってたぶん観ているうちに〝僕と静雄と佐知子プラス1〞って、自分があの場にいるような錯覚が起きると思うんです。その時はあまり驚かずに身を任せて下さい。身を任せて頂ければ非常に清々しいラストを迎えられて、外に出た時の風景も違って見えると思います。五感で楽しんで何かを持ち帰って下さい」
INFORMATION
■映画『きみの鳥はうたえる』
【INFO&STORY】
函館の夏、まだ何ものでもない僕たち3人はいつも一緒だった一函館郊外の書店で働く“僕”(柄本佑)と、一緒に暮らす失業中の静雄(染谷将太)、“僕”の同僚である佐知子(石橋静河)の3人は夜通し酒を飲み、踊り、笑い合う。微妙なバランスの中で成り立つ彼らの幸福な日々は、いつも終わりの予感とともにあった。「そこのみにて光輝く」「オーバー・フェンス」などで知られる佐藤泰志氏の同名小説が原作の青春映画。舞台を東京から函館へ移して大胆に翻案し、『Playback』『THE COCKPIT』の三宅唱監督がメガホンを執った。
【CAST&STAFF】
出演/柄本佑・石橋静河・染谷将太・足立智充・山本亜依・柴田貴哉・水間ロン・OMSB・Hi’Spec・渡辺真起子・萩原聖人
脚本・監督/三宅唱
原作/佐藤泰志(『きみの鳥はうたえる』河出書房新社/クレイン刊)
音楽/Hi’Spec
配給/コピアポア・フィルム
公式HP
9月1日(土)新宿武蔵野館、渋谷ユーロスペースほか全国順次公開(8月25日(土)函館シネマアイリス先行公開)
(C)HAKODATE CINEMA IRIS
PROFILE
柄本佑(えもと・たすく)
1986年12月16日生まれ 東京都出身
03年、映画『美しい夏キリシマ』でデビュー。近年の主な出演作に映画『GONINサーガ』『追憶』『素敵なダイナマイトスキャンダル』、ドラマ「あさが来た」「コック警部の晩餐会」「スクラップ・アンド・ビルド」など。17年には監督として短編映画『ムーンライト下落合』を発表。公開待機作に『Lovers on Borders』『ねことじいちゃん』がある。
公式HP
■映画『きみの鳥はうたえる』
【INFO&STORY】
函館の夏、まだ何ものでもない僕たち3人はいつも一緒だった一函館郊外の書店で働く“僕”(柄本佑)と、一緒に暮らす失業中の静雄(染谷将太)、“僕”の同僚である佐知子(石橋静河)の3人は夜通し酒を飲み、踊り、笑い合う。微妙なバランスの中で成り立つ彼らの幸福な日々は、いつも終わりの予感とともにあった。「そこのみにて光輝く」「オーバー・フェンス」などで知られる佐藤泰志氏の同名小説が原作の青春映画。舞台を東京から函館へ移して大胆に翻案し、『Playback』『THE COCKPIT』の三宅唱監督がメガホンを執った。
【CAST&STAFF】
出演/柄本佑・石橋静河・染谷将太・足立智充・山本亜依・柴田貴哉・水間ロン・OMSB・Hi’Spec・渡辺真起子・萩原聖人
脚本・監督/三宅唱
原作/佐藤泰志(『きみの鳥はうたえる』河出書房新社/クレイン刊)
音楽/Hi’Spec
配給/コピアポア・フィルム
公式HP
9月1日(土)新宿武蔵野館、渋谷ユーロスペースほか全国順次公開(8月25日(土)函館シネマアイリス先行公開)
(C)HAKODATE CINEMA IRIS
PROFILE
柄本佑(えもと・たすく)
1986年12月16日生まれ 東京都出身
03年、映画『美しい夏キリシマ』でデビュー。近年の主な出演作に映画『GONINサーガ』『追憶』『素敵なダイナマイトスキャンダル』、ドラマ「あさが来た」「コック警部の晩餐会」「スクラップ・アンド・ビルド」など。17年には監督として短編映画『ムーンライト下落合』を発表。公開待機作に『Lovers on Borders』『ねことじいちゃん』がある。
公式HP
取材・文/内埜さくら 撮影/おおえき寿一