日本の映画&テレビドラマ界に欠かせない名バイプレーヤー津田寛治さんが今月のパイセンとして初登場。3月10日に全国ロードショーを控える出演映画『スレイブメン』の裏エピソードを存分に語ってもらった。デビューできずにくすぶっていた若かりし頃の話や役者としての姿勢を決定づけた北野武監督との出会いetc.で見えてきた仕事観とは—。
AVが持つアンニュイな雰囲気が『スレイブメン』と似てるな、と
──本作の感想として「いい意味でAVっぽい」とお話しされてますが、その理由を教えて下さい。「僕が20代の頃のAVと『スレイブメン』に漂う切ない空気感が似てるな、と思ったんです。昔のAVは作り手すら意識して出してない、切ない空気感が漂っていたんですね。ストーリーパートの作りは甘いんですよ。著作権フリーのオルゴールっぽい音楽が流れて女のコが砂浜を歩きつつ、お花を手に取ってニコッと微笑んだ直後に安っぽい旅館でやられてる、みたいな(笑)本番シーンの前のお花や海辺のシーンだけはたぶん、そのコのやりたいことが凝縮されていて、でもカメラマンはそんなのどうでもいいと思って撮影してる感が切なさを醸し出してたんです。女優になりたくてAVやってます、みたいな人も結構いたので、女のコが見てる夢と現実を見せられたようで切ないな、と」
──夢と現実ってまさに『スレイブメン』ですね。
「そうなんですよ。だから完成作品を観た時、井口(昇)監督と僕は同じと言ったらおこがましいですけど、僕が観てたAVの切なさを井口監督はギンギンに感じながら、ずっと映画を作ってこられたんだな、というのは感じました」
──井口監督は過去、AVを多数手掛けられていますからね。
「諸事情がおありになったんでしょうけど、当時は同業者でも躊躇する特殊な分野を担当されていて、しかもかなりクオリティーの高い作品を作っていらっしゃったんです。僕はその頃から『井口監督はこのジャンルに何を見出したんだろう』とすごく惹かれるものがありました。井口監督と出会って以来たくさんの作品に参加させて頂いていますけど、前々から井口監督の中に、AVの中にある残酷だけど切なくて愛おしい感じがあると思っていて。それは今までの作品にも見え隠れしていたんですけど、今回で爆発しましたね」
──井口監督の生き様が本作に反映されている、ということですか。
「言葉にはしませんけど、人が目を背けたくなるような汚いものの中にこそ美しいものがある、というのが井口監督の核心にあると思います。それをギスギスせず、ぽっちゃりした感じでニコニコされながらずっと撮り続けてきたんだろうな、と。でも井口監督は昔、シュッと痩せていて中原中也みたいな、詩人のような風貌をしていたんです。目がギラッとしてるけどベビーフェイスでカッコイイんですよ。でも、ある時から急に太ってボヨ〜ンとされたんです(笑)その間に何かがあったんでし
ょうけれど、その何かたるや、僕らの想像の範ちゅうを遥かに超えている気がするんです。あそこまでキャラが変わる過程には、相当なご苦労があったのではないかと」
──ところで津田さん、かなりAVにお詳しいんですね。
「昔、個室ビデオ屋でバイトしてたからでしょうね。ガラスケースの中に並んでるAVをお客さんが選び、30分間、ティッシュとともに過ごして頂き(笑)僕らが後片付けをしてました。終わったかどうかをチェックするのも仕事のうちだったんで、かなりの数の作品を観ているんです。言葉にはできないAVだけが持っているアンニュイな雰囲気は、その頃からイメージとして蓄積されていたんですよ」
──個室ビデオ店のバイトは、北野武監督と出会う喫茶店のバイトより以前ですか?
「21歳頃なので、喫茶店よりずいぶん前ですね。役者としてデビューするまでは何もかもが上手くいってない時期で、その仕事を辞めてからテレビ局の大道具のアルバイトをしたこともあるんです。でも、仕事ができなくて行くたびにメチャクチャ怒られて、自分はダメ人間だな、と。図面通りキッチリ切って組み立てればいいのにできないんですよ。ヘコむにはうってつけの場所でした(笑)その点では映画の主人公と重なりますね」
──その後、北野監督の映画『ソナチネ』で役者デビューしますが当時28歳。焦燥感を覚えたことはありますか。
「25歳の時、ローンで買った書院というワープロで書いてた詩集をつい最近、整理したんです。その中に1枚だけものすごく大きな文字で〝津田寛治25歳 無職〟と書いてありました。たぶん、25歳になっても何一つ積み重ねてない自分をニヒルに眺めることで、逃げてたんでしょうね」
──では北野監督との出会いは救いとも呼べそうですね。
「何も描かれていないキャンバスって、最初に染み込まされたものがすごく大事だと実感しています。例えば俳優がいきなりテレビの現場に連れて行かれて、上手くできなかったとします。すると『ギャラ払ってるんだからちゃんと〝仕事〟しろよ!』と怒られてしまうんですね。最初の現場で〝仕事〟をしてないと怒られた俳優は、カメラの前で何かしなきゃいけないと刷り込まれてしまうわけです。そういう俳優は『お好きに演じて下さい』と言われる立場になっても、原体験から抜け出せない。でも僕が最初の現場で北野監督からよく言われていたのは、『芝居はするな』の1点。台詞が増えるとうれしくて何かしようとすると、『津田くん、芝居が始まっちゃってるよ。そういうの一切いらないからね!』と諭されるんです。そして、普段の自分でカメラの前に立つだけで、ストーリーや役の幅が広がっていく。そういう楽しい経験が初めての現場でしたから、基本は何もしない上で少し付け足すことが僕の〝仕事〟です。お世話になった竹中直人監督も『キャスティングした時点で役作りは終わってる』と何度も言われているそうで、北野監督と同じなんです」
「ひとつのことに夢中になれる人間はチャンネルを変えると同じエネルギーでぶち当たれる。好きなことを見つけて没頭してほしい。」
──映画やドラマなどで数多くの監督に愛されていますが、津田さん流の「また会いたい」と思われるための心掛けとは?「やはり相手に敬意を払うことでしょうね。僕自身もそうでしたけど、若くて貧乏してると難しいですけど。ただ、コンビニなんかだと店員さんの差って歴然としてますよね。相手に敬意を払っている店員さんは、本当に相手のことを考えた上で接客しているんです。そういうコンビニなら僕もまた行きたいなと思うし、僕自身もそういう自分であろうと努力中です」
──その気持ちは、20代でどうやって持つことができるでしょうか。
「20代は難しいですよね。僕自身もできていなかったし、言ってることと行動がちぐはぐでしたし。生意気で尖ったところがありましたから」
──なるほど。ではやりたい仕事に就いた津田さん流の方法とは。
「周囲のお蔭としか思えないんですよね。僕、褒められないと死んじゃうタイプなんです(笑)でもダメな頃から周りの人が何でそこで褒めてくれるの?ってぐらい、ビックリするタイミングで褒めてくれるんです。喫茶店のバイト時代は北野監督以外にもプロフィールを渡してたんですけど、経営者の方が『寛ちゃんは偉いね』と褒めてくれるんです。サボってるんだから怒るところなのに(笑)」
──羨ましい環境です。夢を叶えたい若者にメッセージを送るなら?
「ありきたりですけど、間違っていてもいいから夢中になることってすごく大事だと思います。周りから『アイツはちょっとおかしい』と思われるほど好きなことに没頭してほしい。1つのことにグァーッと夢中になれる人間は、少しチャンネルを変えると同じエネルギーで別のことにもぶち当たれるはずなんです」
──有難うございます。最後に改めて映画の魅力も教えて下さい。
「井口監督は映像で物語を紡ぐということをすごく分かっていらして、最も表れているのが笑いのセンスだと思います。ギャグで笑わせるのではなく、ストーリー上必要な笑いがすごく心に刺さるんです。それと『人はなぜ生まれてきて、どこへ行くのか』という、物語を作る上で一番重要な芯がこの映画に如実に表れています。最後の描き方と人物の視点が儚いし、面白くもあるので、井口昇監督作品の新たなファンが増えるでしょうね」
INFORMATION
映画『スレイブメン』
INFO&STORY
世界平和なんて知るか。僕は、君だけを守る一。世界のアメコミ映画を凌駕する、ダークヒーロー版『君の名は。』!?「片腕マシンガール」「電人ザボーガー」「ライヴ」などで知られ、国内外でカルト的人気を誇る井口昇監督の最新作。主人公の冴えない自主映画監督しまだやすゆき(中村優一)が、悲劇のダーク—ヒーロー〝スレイブメン〟となって戦う姿を描く。絶対に夢オチなんかに終わらせない!世界で一番悲しくて虚しいヒーローの孤独な戦い、そして愛の物語がここに誕生した。
CAST&STAFF
出演/中村優一・奥田佳弥子・味岡ちえり・岩永洋昭・小田井涼平・阿部亮平・津田寛治
監督・脚本/井口昇
主題歌/BRATS「脳内消去ゲーム」
配給・宣伝/スポッテッドプロダクションズ
公式HP 3月10日(金)シネマート新宿、シネマート心斎橋ほか全国順次ロードショー
(C)2017「スレイブメン」製作委員会
PROFILE
津田寛治(つだ・かんじ)
1965年8月27日生まれ 福井県出身
映画俳優を志して上京し、小劇団の劇団員としての活動を経て、93年に北野武監督の『ソナチネ』で映画デビュー。以降、映画を中心にテレビドラマや演劇でもバイプレイヤーとして活躍。02年、『模倣犯』で「第45回ブルーリボン賞助演男優賞」、08年に『トウキョウソナタ』で「第23回高崎映画祭最優秀助演男優賞」を受賞。ほかの主な作品に映画『樹の海』『花宵道中』『シン・ゴジラ』、ドラマ『仮面ライダー龍騎』『警視庁捜査一課9係』シリーズ、『花嫁のれん』シリーズなど。映画『探偵は、今夜も憂鬱な夢を見る。』は3月4日公開。公開待機作に『吉田類の「今宵、ほろ酔い酒場で」』『名前』『神さまの轍 check point of the life』などがある。
公式HP

INFO&STORY
世界平和なんて知るか。僕は、君だけを守る一。世界のアメコミ映画を凌駕する、ダークヒーロー版『君の名は。』!?「片腕マシンガール」「電人ザボーガー」「ライヴ」などで知られ、国内外でカルト的人気を誇る井口昇監督の最新作。主人公の冴えない自主映画監督しまだやすゆき(中村優一)が、悲劇のダーク—ヒーロー〝スレイブメン〟となって戦う姿を描く。絶対に夢オチなんかに終わらせない!世界で一番悲しくて虚しいヒーローの孤独な戦い、そして愛の物語がここに誕生した。
CAST&STAFF
出演/中村優一・奥田佳弥子・味岡ちえり・岩永洋昭・小田井涼平・阿部亮平・津田寛治
監督・脚本/井口昇
主題歌/BRATS「脳内消去ゲーム」
配給・宣伝/スポッテッドプロダクションズ
公式HP 3月10日(金)シネマート新宿、シネマート心斎橋ほか全国順次ロードショー
(C)2017「スレイブメン」製作委員会
PROFILE

1965年8月27日生まれ 福井県出身
映画俳優を志して上京し、小劇団の劇団員としての活動を経て、93年に北野武監督の『ソナチネ』で映画デビュー。以降、映画を中心にテレビドラマや演劇でもバイプレイヤーとして活躍。02年、『模倣犯』で「第45回ブルーリボン賞助演男優賞」、08年に『トウキョウソナタ』で「第23回高崎映画祭最優秀助演男優賞」を受賞。ほかの主な作品に映画『樹の海』『花宵道中』『シン・ゴジラ』、ドラマ『仮面ライダー龍騎』『警視庁捜査一課9係』シリーズ、『花嫁のれん』シリーズなど。映画『探偵は、今夜も憂鬱な夢を見る。』は3月4日公開。公開待機作に『吉田類の「今宵、ほろ酔い酒場で」』『名前』『神さまの轍 check point of the life』などがある。
公式HP
取材・文/内埜さくら 撮影/おおえき寿一