酒、カメラ、料理など純粋な好奇心から始めた趣味を仕事として成立させながら、フォークシンガー、俳優、タレント、エッセイストと多彩な肩書きを持つ芸能界の大御所なぎら健壱さんが今回のパイセンゲストだ。「青春の持続薬」という酒を片手に、人生を謳歌する方法をご指南頂きました。現在63歳とは思えない、パソコン絡みの“やんちゃ”なエピソードも語ってくれました!
東京銀座(旧・木挽町)生まれ、下町育ち。70年デビューのシンガーソングライター、タレントだ。多彩な才能を芸能界で存分に振るう、なぎら健壱さん。酒と下町の風景が似合う、バラエティでも人気の御仁だ。趣味のカメラ、散歩、自転車、落語、料理を仕事にしている本音や仕事観&人生観を、ビールを飲みながら赤裸々に語って頂きましょう! 多趣味人なぎらさんを迎えての酒場インタビューに乾杯~!
“今の若者は…”なんて言葉をあっさり口にする日がくるとは…

「あたしの場合、酒は青春の持続薬かな。飲んでいる間はバカなことばっかりしゃべって、若いままでいられるじゃない。だからこそ止められないんだけど、酒を飲まない若い世代は、本物の酒を知らないだけ。飲んでるのって、チューハイのようなジュースに似た味がする酒ばっかりでしょう。だから本物の酒を飲んだ時にマズイ! 苦い! となっちゃうわけ。舌が子どものまま育っていないんだよね。酒の味が分かってないんだと思う」
──なるほど。会社勤めなら上司からの誘いに煩わしさを覚える人もいるそうですが、なぎらさんは20代、30代世代の同業者と飲む機会はありますか。
「あたしは芸能人と一緒に酒を飲まないからなぁ…これは芸能人も一般の人も同じかもしれないけど、若い世代はボキャブラリーが少ない気がするんだよね。普通、飲み会って若手が盛り上げ役になるよね。でも、若い人たちと飲んでもこっちが楽しませなくちゃいけなくなるから、面倒で。話すことがなのか、人と会うのがなのか。どっちが先かは知らないけど、煩わしさとは何かと言うと、自分のことしか考えてないこととイコールなんだよね。だって、人と時間を共有することを嫌がってるわけだから。でも、人の話を聞かない、我しかないというのが今の世の中だから、さもありなんと思うね」
──ですが、一人では人は成長できませんよね。
「その通りで、成長できないまま年を食っていくわけだから、どうなっちゃうだろうねぇ。だって、我々の時代の常識が伝わらなくなっちゃってるんだから」
──なぎらさんが若い頃の常識とは。
「それが難しいところで、自分たちの解釈が常識だと信じている人に、『それは間違ってるんじゃないの』と伝えたところで、今度はあたしが非常識扱いされるわけ。例えば、子どもを電車の座席に座らせる時に、靴を脱がせたほうがいいんじゃないの? とか。それが、『泥で汚れてないからいいでしょう』と返されてしまう。今までの非常識が常識に成り代わりつつあるから、こちらも注意しづらいよね」
──以前の常識が通用しないのは、芸能界でも言えることですか?
「クイズ番組を観ると分かるけど、若いヤツは笑われているのに、あたかも自分が笑わせているかのような錯覚を起こしてるんだよね。具志堅(用高)ぐらいになっちゃえば仕方ないけど(笑)実は、メッチャクチャ恥ずかしいことなんだということに気づいていない。そんな人たちと飲んでも、楽しいわけがないよね」
──今の若者はなっていない、と。
「これは太古の昔から言われてることだけど、“今の若者は~”って言葉は、ずーっと言われ続けてるのよ。あたしが若い頃は、自分の口から同じ言葉が出るとは考えてもいなかった。それが今じゃ、あっさり出るから(笑)」
趣味を増やすたびに仕事となって逃げ場所を失う…だから酒に逃げる
──なぎらさんはパソコンにも詳しいですよね。ウィキペディアも編集されているとか。「酔っ払った時に間違った情報を見つけたら、やっちゃってるかもしれないねぇ(笑)」
──では、ネットサーフィンに時間を浪費してしまうことも?
「あるある。無料のエロサイトなら任せて下さい(笑)この間、新しい外付けハードディスクに今までの画像を移行したら、2時間半かかって。今まで2回ぐらい失敗して、ポチッたら大変なサイトに入室しちゃって、お金の請求画面が消えないのよ。消すために奥の奥まで入っていったら結局、パソコンが動かなくなっちゃって。直してくれる人はいるんだけど、恥ずかしくて持って行けないよねぇ」
──どうやって修理したんですか?
「初期化。半年間溜めた写真がパーだよ」
──そしてまた写真をストックし始めたわけですね。奥様に見つかる心配は…?
「ねぇ、不測の事態に陥って、見つかったらヤバイでしょ。だから全部人の名前にしておくの。“田中さんに渡すもの”とか(笑)」
──あははー(笑)意外なプライベートです。
「でも、エロサイトの写真収集はキレイに言えば趣味の世界だから、わきまえてやっていますよ」
──写真収集は別として、なぎらさんは趣味を仕事にしていることで知られています。なぎらさんのようになる方法もお聞きしたいです。
「それは、マスコミ側が面白いから取り上げているだけであって、あたしはお金にしようとは思っていないのよ。楽しい趣味だな、なんて思っているうちは、仕事じゃないからね。仕事なんて、楽しいわけがない。あたしの場合は、プロの方々には申し訳ないんですけど、趣味で偶然、お金を頂いちゃっているだけ。この、“申し訳なさ”を分かっているかいないか。その違いですよ」
──でも、歌はお好きでプロになって、お金を稼いでいますよね?
「歌なんて楽しいわけがない。楽しかったのは、アマチュアだった高校時代ぐらいですよ。それなりに評価された時は楽しさを感じるけど、歌っている最中は仕事だから苦痛。ほかのことをしている時のほうが楽しいね」
──私たち一般人から見ると、好きなことを仕事にしていて羨ましい人生を送っている印象でした!
「そうでしょう? クラス会なんかでも言われるんだよね。『お前はギターを弾いて歌を歌って、それが仕事になっちゃうんだもんな~羨ましいよな』って。いちいち言い返すのも面倒くさいから『ありがたいよ』と返すけど、実際は超辛い。というのも、人間はどこか逃げ場所がないとダメなんだよね。どこかで発散しなければいけない。リラックスしなければいけない。あたしの場合、それが仕事になってしまうわけだから」
──では、どうやってストレスを発散しているんですか?
「新しい趣味を見つけて逃げる。だけど、散歩が趣味だと公表したら、散歩の雑誌から依頼が来る。向こうは『適任を見つけちゃったな』程度だけど、散歩なんて週1回ぐらいだから楽しいわけで、毎日歩かされてごらんなさい。辛いだけだから」
──趣味を増やすたびに仕事となって、逃げ場所を失うわけですね。
「だから酒に逃げる。酒関連の仕事ももちろんあるけど、これだけは仕事として考えないようにしてる。何でも仕事になっちゃうんだから、酒ぐらいは除外したいし、逃げるためには趣味を増やすしかないんだよね、あたしは」
──それでも、なぎらさんのように好きなことを仕事にすることはおススメですか?
「おススメですね。夢を持つことは生きる希望に繋がるから。逆にそれがないと人間、ダメになっちゃう。“夢々”という言葉があるように、夢がまさか現実になるとは思っていなくても、そこに突き進んでいかなければ、人生に何の楽しみもないでしょう?」
──ちなみに、趣味が仕事になってしまうなぎらさんが今、一番リラックスできる空間はどこですか。
「電車の中で読書してる時。意味もなく電車、乗っちゃうからね。電車の中が一番、本を読むのに時間を割けるし。パソコンで『脱出ゲーム』をしてる時もかな…って、これ言ってまた仕事になっちゃったらどうするんだよ(笑)」
インタビュー後に取材陣と酒を酌み交わし、ギターと歌まで披露してくれた、サービス精神旺盛なパイセンでした。またのご登場、心待ちにしております!

なぎら健壱(なぎら・けんいち)
1952年、東京・銀座に生まれ以来、下町で育つ。高石ともや、西岡たかし、高田渡らに影響を受け、フォークソングに傾倒し、70年、全日本フォークジャンボリーに飛び入り出演したことをきっかけにデビュー。音楽活動45周年。77年、「嗚呼!花の応援団」で日本映画大賞助演男優賞受賞。09年には第25回浅草芸能大賞奨励を受賞した。たいとう(東京台東区)観光大使、自転車活用推進研究会理事、犬山市景観審議委員。月刊日本カメラの写真エッセイ「町の残像」、東京スポーツにコラム「オヤジの寝言」(毎週水曜日)を連載中。現在はコンサートやライブ活動のほかテレビ、ラジオ、映画、ドラマの出演や新聞、雑誌などの執筆でも活躍。数多くの著書は、昔の生活を記録した「下町小僧」など下町をテーマにしたものが多く、写真集や写真展も。東京・吉祥寺MANDA-LA2のライブ(毎月最終土曜日)は既に35年以上続けている。10月23日に浅草公会堂で45周年記念コンサートを開催。
公式HP
Interview&Text/内埜さくら Photo/おおえき寿一