「“したコメ”のように、いいものを創りたいって気持ちでやるイベントは東京では見かけなくなったから俄然目立つんですよ。ここを逃すと観られない作品もたくさんあるから、チャンスですよ」
昨年10万人を動員し、今年は9月14日から17日まで開催される「したまちコメディ映画祭in台東」(略称したコメ)も、今回で5回目! 総合プロデューサーを務め、盛り上げ役としても毎年活躍しているいとうせいこうさんが、この企画の魅力を教えてくれました。さらに、いとう流の明日からの人生がちょっとよくなる指南付き。必読です!
バカリズムや内田けんじ監督講義ほか内容盛り沢山です!
──東京・浅草の映画館5館が、10月までに閉館するというニュースはご覧になりました?「見た見た! 残念ですね。浅草は映画館発祥の地なのにしばらくは浅草六区に映画館が存在しなくなるってことですし、歴史ある建物がなくなるっていうのもねぇ。しかも毎回、協力頂いてる(浅草)中映(劇場)さんがなくなるってことでもありますから、来年からどうしようと、今から困ってますよ」
──毎年パワーアップして今回、メインビジュアルを盟友みうらじゅんさんが手掛けられているのに…来年は?
「いや、来年の開催についてはまだ本当に分からなくて。でも、このポスター、すごいでしょ? 全部、色鉛筆で陰影まで付けてるから、1日で2人物しか描けないと言ってましたよ。みうらさんは忙しい人だしギャラと手間が合わないだろうに(笑)、こういう、僕の予想を大幅に上回るカードを切ってくるんですよ。みうらさんは並外れた企画力と人を楽しませる力を持ってるから、ブレストをしているとすごく楽しくてね。4時間あったとしても3時間半はムダ話をして脱線しているんだけど、その間、別の脳みそを回転させて結論を出してるから結果、自分を超えることができるんです。僕が参加するから一味振っておくかっていう意識で仕事をする人とは、まったく違ういいものができるんですよね」
──今年も豪華なゲストと作品が盛り沢山ですね。
「こういう、いいものを創りたいって気持ちでやるイベント、東京では見かけなくなりましたね。今の時代、金があって企画があってイベントを開催するって形が普通だから、俄然目立つんですよ。だから年々、動員人数も増える。ここを逃すと観られない作品もたくさんあるから、したコメは見逃した映画を観るチャンスでもあるんです」
──中でもいとうさんが注目してほしいのは?
「個人的には、内田けんじ監督のコメディ映画講義ですね。2作品を上映しつつ、公開中の新作『鍵泥棒のメソッド』のダイジェストも観られる上に、講義まで聴けるという。内田クンの脚本は素晴らしく良くできてるから、映画を創りたい人や話を書きたい人には、勉強になる話がたくさん聴けると思いますよ。どういう風に創るか、どういう風にノートを取るかってところまで教えてもらえるかもしれませんから。あと僕は、監督としてバカリズムを呼びたかったんですけど、彼も喜んで来てくれるって言うんで今回、実現できました。彼のクリエイティブな才能が、トークタイムで垣間見られると思います」
自分という魚の質を良くして相手に釣られてあげないとね
──したまちの祭典でもありますよね。いとうさんが感じてる、下町の魅力とは。「他人と気持ちいいコミュニケーションが取れるところですね。3月まで近畿大学で客員教授をしていて月2回、大阪まで行ってたんですけど、向こうって駅で肩がぶつかると『すんまへんな』って謝るんですよ。コミュニケーションでトラブルを緩和しているんですけど、今の東京ってそれがなくなっちゃったでしょ? ぶつかると睨んだり、舌打ちしたり。でもね、下町にはまだそれが残ってる。だから僕は引っ越したんですよ。マンションの住人に何度、挨拶しても一度も返してもらえなかったんで、そういう人たちと同じ住空間にいる必要はないな、と」
──それで浅草に。いとうさんは自由に、好きな仕事をして生きているイメージですが、そうなるための秘訣などは。
「30年近く続けていることは、やりたくない仕事のオファーが来たら、やらないか、アイデアを足して面白くしちゃうってこと。以前、クイズ番組に出た時に、ルールが今ひとつしっかりしてなくて芸人さんたちのテンションが上がらなかったから、途中でルールを変えちゃったんですよ。それ以来プロデューサーからは仕事の依頼が来ないから、その人には嫌われたんでしょうけど(笑)その場にいた芸人さんは確実にそのことを覚えてますよね。たった1人が賛同してくれなくても、より多くの人が喜んで面白いものを創った実績ができればそれでいいんです。意外に何でもやる便利な人って、重宝されないんですよ、だから、断ることも仕事のうちなんです」
──他に心掛けていることは。
「プライドを捨てない。人間、そこだけは絶対に譲れないという点が誰にでもあるから、そこは曲げません。あとは、自分が魚であることを忘れないこと。会社や取引先は僕という魚の質が良ければ良いほど、僕のことを覚えていてまたオファーをくれるんです。ですからこっち側がよりよい魚であり続けて、釣られてあげないと…。待ちでなく、自分から釣られにいくんです。そういう意味では、みうらさんもいい魚ですよねぇ。僕、次にみうらさんから依頼がきたら、よほどのことがない限り、断れませんから」
──ありがとうございます。最後に読者へメッセージをお願いします!
「仕事は自分が楽しんでやって初めて他人が動いてくれるものなので、『あいつに任せると面白いな。あいつなら面白いことしてくれそうだな』と思ってもらえることが大事。特効薬はないんですけど、いつも面白くする方向にいくよう心掛けてみて下さい」
INFORMATION
「第5回したまちコメディ映画祭in台東」
コメディ映画を通して東京随一の下町である浅草・上野の魅力を楽しむ映画祭。昨年は10万人動員の好評を博し、今年5回目を迎える「映画」×「したまち」×「笑い」の祭典。14日の前夜祭オールナイトイベント「したこめドリームマッチ 東映まんがまつりVS東宝チャンピオンまつり」からスタート。特別招待は「TOKYOてやんでぃ~The Story Teller’sApprentice~」「ボス、その男シヴァージ」「バカリズム THE MOVIE」「レミントンとオカマゾンビの呪い」の4作品。短編コンペティション「したまちコメディ大賞2012」では根岸吉太郎、小倉久寛、リリー・フランキー、いとうせいこう各氏が審査員を務め毎年、コメディ界での功績を称えて授与している「コメディ栄誉賞」はザ・ドリフターズに。渡邊祐介監督が手掛けた3作品が上映されるほか、豪華アーティストが集結するクロージングイベント「ザ・ドリフターズ リスペクトライブ」も見逃せない!
公式HP 9月14日(金)から17日(月・祝)まで開催
(C)2012みうらじゅん/「したまちコメディ映画祭in 台東」実行委員会
PROFILE
いとうせいこう
1961年3月19日生まれ 東京都出身
88年に小説「ノーライフ・キング」でデビュー。その後も小説、ルポルタージュ、エッセイなど多くの著書を発表する。執筆活動を続ける一方で、数多くの舞台やライブをこなす。盟友みうらじゅん氏とは共作「見仏記」で新たな仏像の鑑賞を発信し、武道館を超満員にするほどの大人気イベント「スライドショー」をプロデュースするなど、常に先の感覚を走り創作し続けるマルチクリエーター。また、音楽家としてもジャパニーズヒップホップの先駆者として活躍し、現在は口口口(クチロロ)での活動も話題に。テレビのレギュラー出演にテレビ朝日「シルシルミシルさんデー」、Eテレ「ビットワールド」、TBS「オトナの!」などがある。
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「第5回したまちコメディ映画祭in台東」
コメディ映画を通して東京随一の下町である浅草・上野の魅力を楽しむ映画祭。昨年は10万人動員の好評を博し、今年5回目を迎える「映画」×「したまち」×「笑い」の祭典。14日の前夜祭オールナイトイベント「したこめドリームマッチ 東映まんがまつりVS東宝チャンピオンまつり」からスタート。特別招待は「TOKYOてやんでぃ~The Story Teller’sApprentice~」「ボス、その男シヴァージ」「バカリズム THE MOVIE」「レミントンとオカマゾンビの呪い」の4作品。短編コンペティション「したまちコメディ大賞2012」では根岸吉太郎、小倉久寛、リリー・フランキー、いとうせいこう各氏が審査員を務め毎年、コメディ界での功績を称えて授与している「コメディ栄誉賞」はザ・ドリフターズに。渡邊祐介監督が手掛けた3作品が上映されるほか、豪華アーティストが集結するクロージングイベント「ザ・ドリフターズ リスペクトライブ」も見逃せない!
公式HP 9月14日(金)から17日(月・祝)まで開催
(C)2012みうらじゅん/「したまちコメディ映画祭in 台東」実行委員会
PROFILE
いとうせいこう
1961年3月19日生まれ 東京都出身
88年に小説「ノーライフ・キング」でデビュー。その後も小説、ルポルタージュ、エッセイなど多くの著書を発表する。執筆活動を続ける一方で、数多くの舞台やライブをこなす。盟友みうらじゅん氏とは共作「見仏記」で新たな仏像の鑑賞を発信し、武道館を超満員にするほどの大人気イベント「スライドショー」をプロデュースするなど、常に先の感覚を走り創作し続けるマルチクリエーター。また、音楽家としてもジャパニーズヒップホップの先駆者として活躍し、現在は口口口(クチロロ)での活動も話題に。テレビのレギュラー出演にテレビ朝日「シルシルミシルさんデー」、Eテレ「ビットワールド」、TBS「オトナの!」などがある。
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取材・文/内埜さくら 撮影/おおえき寿一