〝キング・オブ・ステージ〟の異名を持つヒップホップ・グループ、ライムスターの宇多丸さんが本誌初降臨! 7月27日にリリースされるアルバム「フラッシュバック、夏」に関する裏話や震災の復興過程で思うことについて話を聞いた。アーティストのみならず、評論家や文筆業、ラジオDJなど多方面で活躍する兄貴ならではの広い観点から捉えた、夢実現法も披露してくれました!!
楽しい夏は記憶か期待の中と嘆くすべての人たちに捧げる作品…
アーティストとして、個人として震災復興にも力を注ぐライムスターの宇多丸さんを直撃!震災に関する話やサマーアルバム、夢を叶える秘訣も聞きました!!──まずは7月27日にリリースされるアルバム「フラッシュバック、夏」について聞かせて下さい。リード曲が誕生したのは?
「実は去年の秋に完成していて、今夏のミニアルバム用に、発表を保留しておいたんです。で、本格的な発売に向け動き出したのが3月。それであの震災が起きたからサマーソング集のリリースをこのまま進めていいものかと、大いに迷ったんですよね」
──そこから発売に至る経緯は。
「翌日の3月12日に、僕のラジオ番組で普通に音楽を流したら反響がすごくて。これは、求めている人は必ずいるな、と。他は報道番組ばかりで、もしかしたらバラエティに近い番組って僕のラジオ番組が震災後初だったかもしれないんですけど。当時の被災地に住む方々の情報源はラジオしかないと聞いていたから、当然必要なニュースは要所要所に挟み込みつつ……あと、今回の前のアルバムで偶然にも、『どんなに悲惨な事態に巻き込まれても、だからこそ音楽は必要』というメッセージを込めたんですよ。それなのに発売を延期したら、あの歌が嘘になってしまう、という理由もありました」
──でも、あの時期にリリースを決めるのは英断かと。
「11年はサマソンなしの夏でいいのか!? 17歳ぐらいの青春真っ盛りの若者もいるんだぞ!! と勢い込んで決定しましたけど、今思い出すと考え過ぎだったかもしれませんね。AKB48の派生ユニットNot yetの新曲のタイトル『波乗りかき氷』ですよ? もちろん東日本大震災や原発問題をなかったことにはできないワケですが」
──それら諸問題を無視できないということは、今回のサマソンの内容はどうなっていますか?
「もちろん、通常のサマーソング集とは一線を画す仕上がりです。あの楽しかった素晴らしい夏って本当は、記憶か期待の中にしかないんだよって事実をズバリ指摘していますから。つまり、ほとんどの人に、期待したほど夏には良いことが起こっていないということ。これって、人生全般にいえるんですよね。人って、人生のいい時期の最中にいるときほど、それを実感できない。過ぎ去って初めて、あの時はすごく良かったと思う。だから今回の作品は、今年は不発だった…と毎年、夏を切なく振り返ってしまう、すべての人たちに聴いてほしいですね」
──リリース後は、恒例のライブ活動。自粛はナシですよね。
「震災前だって、日本の経済状況はあまり調子が良くなかったでしょう? それなのに更に消費を抑えるようなムードを、発信する僕らが醸し出してしまうのは、被災地の足を引っ張る行為と同等。むしろ、今まで以上にグイグイ経済を回していかなくちゃ!」
──…と言い切るに至るには、何か被災地との接点が?
「メンバーのDJ JINの奥さんが仙台出身で、彼が被災地の人たちから、『〝頑張れる人は、いつも以上に頑張ってほしい〟』という声を頂いたんです。だから、ツアーも開催しましたよ」
自分の後ろめたポイントに従ってできる範囲で支援をしようぜ!
──なるほど。では、個人レベルで被災地のためにできることは。「イチ早く現地入りして被災者の方々のために動く、みたいのが理想像でしょうけど、それって全員が実行できる方法じゃないですよね。だから各自、自分が後ろめたくないと思える範囲で行動すればいいんですよ。何もしていない自分が後ろめたいなら、ちょっと募金するとかでもいいし。募金する行為を偽善と否定する人もいますけど、金に偽物も本物もありませんからね。金は嘘をつかないから問題ナシ!」
──ということは、宇多丸さんは。
「そうですね。震災直後に募金しましたよ。自分の生活が困らない程度の金額を。それも、僕はそのくらいが〝後ろめたポイント〟だったというだけのことなので、みなさんはみなさんなりにすればいいと思います。お金がないのに無理することないし」
──現状、助ける力が不足していて具体的な支援を実行できていない人もいると思いますが。
「できるようになったら、すればいいだけ。引け目を感じることはありません。何もしない人に対して説教をする人もいるようですが、余計なお世話だバカヤロウ!ですよ。他人に自分の〝正しさ〟を強要するのって、怖いですよ。そういうファシズム的空気が蔓延してしまうほうがよっぽど恐ろしい」
──気持ちが楽になるコメントをありがとうございます。話は変わって、本誌恒例の兄貴分への質問。夢の叶え方を教えて下さい。
「僕は『何が何でも音楽で飯食ってやる!』と決意してプロを目指したワケではないですからね…。言わばB級進学校の巣鴨学園、僕が呼ぶところの〝巣鴨プリズン〟での経験が、音楽活動に影響を与えているのかどうか分かりませんが」
好きな仕事に就いて天才的な努力を続けて天才になろう!
──影響を受けた具体的なエピソードが知りたいです。「屈折、鬱屈した6年間に及ぶプリズン話を、ですか(笑)結論としては引っ込みがつかなくなっただけなんですよ。辞めたら負けだっていう。僕のウィキペディアに『中学入学当初はサッカー部に入部したものの、性格に合わず退部』と書いてあるんですけど、あれって間違いで。巣鴨プリズンでは、運動部を途中で辞めたら負け犬の烙印を押されて、学園内の地位がさらに危うくなるんですよ。だから、中学三年間サッカー部は〝辞められなかった〟というのが事実なんです……ラップが止められなかったのも似たような話かもしれませんね」
──ですが結果として現在、好きなことを仕事にしていますよね。
「そうなんですけど、プロのミュージシャンが音楽一本で食べているケースって案外、少ないんですよ。僕だって他の仕事も山ほどやっている。副業はこの業界、珍しくないんです。でも、細々とでも続けられて、ファンがいて周囲の理解が得られている。これってすごく幸せなことだとは思います」
──では、そうなるためには何をしたらいいですか?
「最終的には『努力する』というシンプルな答えに行き着くんですけど、それ以前の問題があって。それは、努力を苦と感じないような仕事をしているかどうか。楽な仕事なんて存在しないけど、努力を苦労とは感じない仕事なら選ぶことができる。天才って、天才的に努力をいとわないから天才なんです。だから、そういう〝天職〟を見つけられるかどうかが分かれ目。これがまた、〝好きな仕事〟とは違うことが多いから厄介なのですが……逆に、それが見つからないうちは、無理に努力しなくてもいいと思いますよ、僕は」
──ほかにはどんな方法論が。 「それぞれ接点がない人間関係を、3つくらいは持っておく。精神の安定に繋がるし、いろんな知識も吸収できるのでオススメです」 ラジオ番組で鍛え抜かれた抜群のトーク力と美声でためになる話をしてくれた宇多丸さんに、スタッフ一同心酔。数々の金言を、ありがとうございました!!
INFORMATION
■アルバム『フラッシュバック、夏。』
【INFO】
オレらから夏は奪えないぜ! ライムスター胸騒ぎのサマーコレクション!!と題し、サマーアルバム「フラッシュバック、夏。」を7月27日にリリース。リード曲の「フラッシュバック、夏。」をはじめ「サマー・アンセムfeat.小野瀬政生(CRAZY KEN BAND)」「Magic Hour feat.さかいゆう」「into the night」「ザ・サウナ」ほか全9曲を収録。11年の夏を彩るサマーソングコレクションだ。リリース前後には夏フェス出演も続々と決定している。
初回限定盤(CD+DVD)税込2100円
通常盤(CDのみ)税込1890円
PROFILE
宇多丸(うたまる)
1969年5月22日生まれ 東京都出身
ヒップホップグループ「ライムスター」のラッパーにして、J-POPから映画、アイドル、ゲーム、書籍などあらゆるテーマを語り尽くす当代随一のトークマスター。09年6月、放送界で最も権威ある「第46回ギャラクシー賞」のDJパーソナリティ賞を受賞した。TBSラジオ「ライムスター宇多丸のウィークエンドシャッフル」(土曜21時30分)、TBSラジオ「小島慶子 キラ☆キラ」(月曜から金曜13時)水曜レギュラー。ライムスターはMummy-D、DJ JINの3人で89年に結成。ライブ活動を中心に支持を集め99年リリースの3rdアルバム「リスペクト」のヒットで日本のヒップホップ・シーンを代表する存在に。以降、活動の場をメジャーへと移し07年には日本武道館でのワンマンを成功。活動休止期間を経てシングル「ONCE AGAIN」で再始動。続く4年振りのアルバム「マニフェスト」はグループ史上最高位を記録するヒット。11年3月、8thアルバム「POP LIFE」リリース。今年メジャーデビュー10周年を迎えた。
■アルバム『フラッシュバック、夏。』
【INFO】
オレらから夏は奪えないぜ! ライムスター胸騒ぎのサマーコレクション!!と題し、サマーアルバム「フラッシュバック、夏。」を7月27日にリリース。リード曲の「フラッシュバック、夏。」をはじめ「サマー・アンセムfeat.小野瀬政生(CRAZY KEN BAND)」「Magic Hour feat.さかいゆう」「into the night」「ザ・サウナ」ほか全9曲を収録。11年の夏を彩るサマーソングコレクションだ。リリース前後には夏フェス出演も続々と決定している。
初回限定盤(CD+DVD)税込2100円
通常盤(CDのみ)税込1890円
PROFILE
宇多丸(うたまる)
1969年5月22日生まれ 東京都出身
ヒップホップグループ「ライムスター」のラッパーにして、J-POPから映画、アイドル、ゲーム、書籍などあらゆるテーマを語り尽くす当代随一のトークマスター。09年6月、放送界で最も権威ある「第46回ギャラクシー賞」のDJパーソナリティ賞を受賞した。TBSラジオ「ライムスター宇多丸のウィークエンドシャッフル」(土曜21時30分)、TBSラジオ「小島慶子 キラ☆キラ」(月曜から金曜13時)水曜レギュラー。ライムスターはMummy-D、DJ JINの3人で89年に結成。ライブ活動を中心に支持を集め99年リリースの3rdアルバム「リスペクト」のヒットで日本のヒップホップ・シーンを代表する存在に。以降、活動の場をメジャーへと移し07年には日本武道館でのワンマンを成功。活動休止期間を経てシングル「ONCE AGAIN」で再始動。続く4年振りのアルバム「マニフェスト」はグループ史上最高位を記録するヒット。11年3月、8thアルバム「POP LIFE」リリース。今年メジャーデビュー10周年を迎えた。
取材・文/内埜さくら 撮影/谷口達郎