「講談」というマイナーだった芸を一躍人気ジャンルに引き上げた新進気鋭の講談師、神田松之丞さんが初登場。読み物を異例の早さで継承し、持ちネタの数は10年で130超え。独演会のチケットは即日完売。普及の立役者が考える講談界の未来とは――。ラジオ番組『神田松之丞 問わず語りの松之丞』や雑志「Pen+」の「完全保存版1冊まるごと、神田松之丞」の話を交えつつ、夢を叶えたご本人から夢の叶え方も伝授してもらった。下ネタも気さくに話してくれる、ラジオそのままの人柄にスタッフ一同、惚れました!
仕事に対して純粋さを持って打ち込んでいるか否かで、夢が叶うかどうかが決まるのでは。純粋にひたすら突き進んでいる人を、人は応援したり、手を差し伸べたくなると思う
文化人面する時もあれば下ネタもそのほうがウソがなくいいと思う
──ラジオ番組「神田松之丞 問わず語りの松之丞」を聴きました。すごく面白かったです。
「有難うございます。ラジオは僕にとって芸を演じる高座と同じで冗談を言う場所なのですが、大人の事情を無視して、自由奔放に話している影響でしょうか。苦情も来ているらしく(笑)反面、ラジオを聴いてオファーをくださる方々も多いので、双方のご意見を有難く受け止めています」
──過去の放送で若干EDになった話まで暴露していましたからね。
「中高と若干、なりましたねえ。母親が年中、ノックをせずに部屋に入ってくるので変な手慰みをしたせいで病院に行ったんです。医者に渡されたのが『カエルポンプ』という勃起器具。ポンプを押すと空気でカエルが膨らむ玩具と同じ仕組みです。牛乳瓶のような形をした本体をモノに装着してポンプを押すと、勝手に大きくなるんです。エレクトした状態を見た瞬間に落ち着くんですよ(笑)毎日続けると『大丈夫だ』と、男としての自信も回復しますし。ただ、感情抜きでエレクトしているので、超勃起させながら上に布団をかけて、聖書を2時間ほど読んでいたこともあります。ある意味、哀しい道具なんですよね。のちに、同じ悩みを抱える人がいたので貸しましたが、満足していました」
──ぶっちゃけますね〜(笑)
「普通なら人には恥ずかしくて言えないことや情けないことを積極的に言っていこうと思っているんです。自分が一番恥ずかしいことを晒すことによって、講談は敷居が低いと紐づけてもらえたらと考えているので。着物を着て文化人面している時もあれば、シモの話もしたほうが、人としてウソがなくていいかなと」
──雑誌「Pen+」の「完全保存版 1冊まるごと、神田松之丞」でも本音を晒していますね。松之丞さんがストリッパー武藤つぐみさんのファンとは驚きました。
「武藤さんにとっては講談師というよく分からないヤツがラジオで『むっちゃん命!』とか言うのは気持ち悪かったかもしれませんが(笑)事実です。僕が追っかけをしているのは、(立川)談志師匠以来なので。武藤さんに限らず浅草ロック座は踊り子さん1人ずつに丁寧な演出をつけていて、かなり高いレベルの芸を披露しているんです。でも、過去の講談と同じくストリップに対しては、偏見を持っている人がまだまだ多い。そこで『Pen+』を作るにあたり、もっと注目されていいジャンルの人にスポットを当てたいと思いました。多くの人に私と同じ感動を味わって欲しいなぁと。実は、武藤さんと刀匠の河内國平さんは当初、予定には入っていなかったのですが急遽決まりました。雑誌としても非常に意味があるものになったと思っています」
──メディアから引く手あまたで、今や時の人ですね。
「こうして取り上げて頂いている今も昔も、スタンスは全く変わりませんね。ただ、僕が出ることで下の世代も増えてきましたし、講談自体のお客さんもすごく増えてきたのはうれしいです。後輩たちも客席がガラガラの舞台ではなく満員状態でできることが増えていますし、お客さんの期待値が高まっている今、ガッカリさせるのではなく『面白かった。また観に行こう』と思って頂くことができている、いい循環の場所にいます。周囲の皆さんのおかげで理想通りの展開を迎えることができ、非常に満足しています。ただ、メディアの仕事を請けて名前を知って頂ければ芸が伸びるわけではないことは痛感しました。コツコツやるしかないという部分も、芸能の面白いところだな、と。芸歴11年でここまで来たので、あとは芸をひたすら磨き、講談という斜め上のジャンルのスポークスマンとしてやっていくのみです」
──確かに松之丞さんを通して初めて講談を知った人も多いかと。
「僕自身は10代の頃に初めて観た時は全く面白いと思えなかったのですが、好きになろうとしました。みうらじゅんさんが天狗に全く興味がないのに、好きになろうとしたのと同じです(笑)当時は閉鎖的な雰囲気がイヤでしたし、せっかく観に来ている10代の心をつかまないというのは〝死んだジャンル〟だなと思いました。そもそも10代が面白いと思う文化はこれほど廃れていないのですが、逆にそこも魅力的だったのかもしれません。肩に力が入っている感じで、『自分が演出したらどうなるんだろう』と聴いていましたから」
客足が減ろうと軸がブレなければやり直せばいいと腹を決めてます
──松之丞さんのように、夢を叶えるためにはどうすれば?
「僕は集団行動が苦手で、講談に拾って頂いた感覚ですし、好きなことを突き詰めてやってきているだけなので、たぶん特殊な人種だと思うんです。特殊な人から会社勤めをしている人が学ぶことって少ないのかな、と。偉そうなことを言っていても、3日に1回スベッている時もありますし(笑)群馬でスベッた時は『本まで出しているのに』と、情けなくなりました(笑)ただ、芸の世界で言えば意外と僕は純粋さで評価されていると思っていて。特に芸人同士は『純粋に芸を好きかどうか』で、人様の芸を評価するんです。例えばものすごく下手でも、『講談が大好きなんです!』というヤツの講談は気持ちいい。(立川)談志師匠も落語を真から愛していて、身を削って芸を磨いていらっしゃいました。その人が仕事に対して純粋さを持って打ち込んでいるか否かで、夢が叶うかどうかが決まるのではないでしょうか。純粋にひたすら突き進んでいる人を人は 応援したり、手を差し伸べたくなると思うので。純粋さを持たずにただ青写真を描いても、人の心に訴えることはできませんし」
──なるほど。松之丞さんが描く今後の青写真は。
「僕個人は講談をやりたいということが一番の目標でしたから、すでに毎日夢が叶っているんです。一時的だとは思いますが、僕が日の目を見させて頂いているのは、つまらないイメージがあった講談というジャンルを、分かりやすいようにお客様に召し上がって頂けるように料理したこと。保守的な考えになっている今のこの時代に伝統文化を知りたいという世間の欲求と合致したこと。ただそれだけだと捉えています。うちの師匠(三代目神田松鯉)がかつて歌舞伎役者をしていたので、真打ち昇進のお披露目を銀座の歌舞伎座で行いたいという夢はありますが、今はネタを覚える年代だとも思っています。年を重ねると(頭に)入らないらしいので、ネタを月1本ずつ増やしてメディアに出演させて頂き、講談ができればもう十分かな、と。あとは第二、第三の神田松之丞が出てきたら、今のポジションは彼らに譲ってもっときっちりと淡々と語るんだろうな、と想像しています。師匠が亡くなったら講談の本丸が不在になってしまうので。年齢やポジション、状況によって芸は変えていくものなので、未来永劫、この芸風ではないでしょうね。NHKから民放まで幅広くテレビやラジオからオファーを頂いて嬉しい限りです。講談という見向きもされていなかったジャンルが、こんなに良く扱って頂くのは感謝しかないです。これからも浮き沈みはあると思うんですが、昔を思い出すと、入門して3年目の前座時代に開催した独演会のお客さんは8人だったんです。うち2人は親戚で、1人は友だち。計5人しか純粋なお客さんがいませんでしたけど(笑)今はブームでたくさんのお客様にご来場頂いていますが、客足が減ろうが軸がブレていなければ、何かあったらやり直せばいいと腹を決めています」
PROFILE
神田松之丞(かんだ・まつのじょう)
1983年6月4日生まれ 東京都出身
日本講談協会、落語芸術協会所属の講談師。大学を卒業後の07年11月、三代目神田松鯉に入門。12年6月に二ツ目昇進。15年10月に「読売杯争奪 激突!二ツ目バトル」で優勝。17年3月、「平成28年度花形演芸大賞」銀賞、18年11月、「第35回浅草演芸大賞」新人賞を受賞。著書に「絶滅危惧職、講談師を生きる」「神田松之丞 講談入門」がある。パーソナリティーを務めるTBSラジオ「神田松之丞 問わず語りの松之丞」は毎週日曜23時から放送中。
公式HP
公式Twitter
神田松之丞(かんだ・まつのじょう)
1983年6月4日生まれ 東京都出身
日本講談協会、落語芸術協会所属の講談師。大学を卒業後の07年11月、三代目神田松鯉に入門。12年6月に二ツ目昇進。15年10月に「読売杯争奪 激突!二ツ目バトル」で優勝。17年3月、「平成28年度花形演芸大賞」銀賞、18年11月、「第35回浅草演芸大賞」新人賞を受賞。著書に「絶滅危惧職、講談師を生きる」「神田松之丞 講談入門」がある。パーソナリティーを務めるTBSラジオ「神田松之丞 問わず語りの松之丞」は毎週日曜23時から放送中。
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取材・文/内埜さくら 撮影/おおえき寿一