映画やドラマにバラエティ、CM と引っ張りだこで中年俳優の星でもある遠藤憲一さんが、 11 月16 日公開の映画『アウト&アウト』に主演。日本最大の暴力団・菱口組最高幹部の 側近だった矢能政男で今はヤクザ稼業から足を洗ったという、久々にコワモテの役柄を演じている。
ヤバい案件に見舞われる一方で、栞という血の繋がらない少女と暮らす役どころなどを聞いた。
日頃は本当に気さくで接しやすく、時にお茶目な一面も見せる遠藤さんが語る、 目標や夢を実現させるための術は「トライしてみよう」と思えるはず!
『好き』や『面白い』をどれだけ細かくたくさん集めていくかが大切。そこさえクリアすれば何かが生まれてきます。そして継続すること。続ければ人によって度合いは違いますが、何とか形になってくると思います。
アドリブを封印された竹中さんに白鳥玉季ちゃん皆いい味出てます
──遠藤さんが演じた矢能政男と、白鳥玉季さんが演じた7歳の栞の関係性が面白かったです。「矢能は栞に対してたとえヤバい案件でも『お前には関係ない』とは言わず、すべてを話すんですよね。矢能はタガが外れる性質を持っていて、そこを鋭く見抜いて栞が手の平で転がす。僕は矢能にとって栞は、女房みたいな存在だと捉えて演じました。ただ、演じるのは大変だったと思いますよ。きうちかずひろ監督が、相手の年齢を問わず真っ向から物事を言う人なんです。ご本人的には優しく伝えていたと思いますが、深い内容を強く言うんです。それを彼女は『はい、はい』と頷きながら一生懸命聞いて、近づけようとしていました。でも、本番でセリフを言っている最中にパニクると、頬を膨らませて『テンパりました!』という表情をするんです(笑)当然NGにはなりますが、あんなに小さな身体で精一杯芝居をしているんだなと思ったら、いじらしくなりました。彼女の芝居は、ぜひ観て頂きたい見どころのひとつですね」
──撮影の合間はどんなお話を?
「撮影期間中は、ずーっと僕にくっついて歩いていましたよ(笑)彼女はすごく気遣い屋さんなんです。休憩中、僕に飴をくれた後、ほかの人にも配り回ったんです。だけど、僕の顔を見ながら配っているんですよ。『遠藤さんだけにあげるんじゃなくてゴメンナサイ』という意思表示でしょうね(笑)僕は子どもがいませんが、もしあんな娘がいたら愛おしくてずっとそばにいたくなるでしょうね。そして父親を嫌う時期を迎えたら、かなりショックを受けると思います。『小さい時は一緒に手をつないで歩いていたのに』と」
──(笑)ほかのキャストの方々もいい味を出していました。
「鶴丸清彦を演じた要(潤)くんも情報屋の竹中(直人)さんも、ギュッと抑えきった渋い演技をしてくださって、作品を引き締めてくれているんです。現場では僕がアイディアを出そうとしたら監督から『出さないで』と言われまして。竹中さんは共演するたびふざけてばかりでアドリブも連発するのに、初日から淡々と台本通りのセリフを言っていました。新鮮でしたね。僕自身は力のある監督にギュッと押し込められこそ、新たな自分が生まれるのかもしれないと発見しました。自由にのびのびと芝居をしても、たいしたものは生まれないのではないかと」
──矢能に金をせびる刑事を演じた、中西学さんも印象的でした。
「実は彼、人と話すのがあまり得意ではなく繊細で、極度の緊張しぃなんです。僕と初対面の時も、直立不動の姿勢から頭を下げて挨拶していましたからね。あの緊張感ある芝居が作品に妙な空気感を与えていて、いい雰囲気作りに役立ったと思います。彼と会って、人は不思議だなと感じましたね。この人がなぜ、150キロを超える巨体の選手を軽々と持ち上げて投げ飛ばせるんだろうと」
──本作はラストで大逆転がおきます。遠藤さんが大切にするのは序盤、中盤、終盤のどこですか?
「最近、終わりも大切だけど真ん中がすごく重要だと実感しています。職種に限らずある程度のスパンをかけて作るものに対して人間は、中盤で飽きて失速していくものだと思うんです。僕も必ず中盤で集中力や準備が足りなくなるので、『きたな』と感じたら心して仕切り直しています。序盤と同じエネルギーと新鮮さで努力し、向かっていくようにしています」
──それは本作でも?
「この時はそういう考えは持っていなかったんだよね(取材陣大爆笑)遅いだろ! と思われるだろうけど、最近分かったんです」
──ところで遠藤さんは、セリフ覚えが苦手と聞きましたが。
「17歳で劇団に入って『役者一本で食っていく』と決めた時から苦手ですね。高校1年の2学期で中退して、勉強をしてこなかったからという理由もあると思います。どんな職業に就くにしても、勉強は覚えるための訓練だと痛感しています。後悔はしていませんが、勉強をサボったヤツは後で苦労するんだな、と。特に一言一句覚えるのが苦手で、この作品は監督から台本通りのセリフを要求されたので大変でした」
真っ向勝負がこの作品一番の魅力矢能と栞の関係とラストも注目を
──作品になぞらえたお話も。遠藤さんが足を洗いたいものは。「あはははは! 矢能みたいな悪いことしてないですよ(笑)でも、足を洗ったという意味では今年1月9日に酒をやめました。ノンアルコールビールはたまに飲みますが、酒は1滴も口にしていません。周りは皆、驚いていますね」
──驚きです。止めた理由は?
「はしゃぎすぎて女房に怒られたからです(笑)あれだけ酒好きだった僕がやめるということは、それだけ女房にコテンパンに言われたということです(笑)『もう、やめないと駄目だな』と思わざるを得ませんでしたから。僕にとって女房は、かけがえのない一番大切な存在ですし。昔は飲み屋から現場に向かって三日三晩、音信不通になる、なんてこともありましたけど」
──では、奥様という〝バディ〟と良好な関係を築く秘訣とは…。
「注意されたことは素直に聞く! だって言い返しても100倍言い返されるから、言い返したくなる気持ちをグッと抑えるんです。女房に限らず世の中、男性より女性のほうが正しいことを言っているケースが多いですからね」
──事務所社長兼マネージャーも務める奥様は〝糟糠の妻〟ですし。
「出会ったのは25歳でしたけど、僕は21〜29歳まで、風呂なし共同便所の四畳半一間の安アパートに住んでいたんです。24〜25歳頃からですね、役者1本で食べられるようになったのは。月に8万円ぐらいで家賃が3万5千円だったから、生活はギリギリでしたけど。でも、全然苦ではありませんでした。何なんでしょうね。20代の頃の『何とかなる』という、根拠のない自信は」
──では夢を持つ人も「何とかなる」精神を持ったほうがいいと。
「能天気に『何とかなるだろう』と思っても無理だと思います。相当やっていることを好きにならないと。好きだと途中でやめないから、絶対に何とかなる。ただ、好きになれといってもなれるものじゃないんですよね。だから『好き』や『面白い』を、どれだけ細かくたくさん集めていくかが大切。そこさえクリアすれば何かが生まれてきます。そして継続すること。3年続けて次は5年。5年やったら7年。7年ぐらい続ければ人によって度合いは違いますが、何とか形になってくると思います。僕も、それまで何かに対して好きになるとか熱くなることがなかったけど、役者だけは夢中になれたから続けられたので」
──継続の大切さを知ったのは、バイトを転々とした時期ですか。
「ピザ屋、ビアガーデン、和食屋…バイトは転々としましたね。一番続いたのは、三越の社員食堂の2年。食後の食器が機械を通してバンバン落ちてくるから、その色を合わせる仕事をしていました。単純作業が向いているみたいで、あの時間が一番、心が落ち着いたんです(笑)楽しかったですけど、途中でこの〝やめグセ〟がネックだと気づきました。何も身につかない上に、何も生まれませんから」
──有難うございます。作品の魅力も今一度、聞かせて下さい。
「矢能と岩井拳士朗くんが演じた池上数馬、鶴丸清彦が逃げずに、真っ向勝負をしているところが僕は好きなんです。奇をてらうシーンはないし、アクションもそれほど多くはありません。グロいことをガンガンやっているわけでもない。でも、会話劇を楽しめると思います。映像が一見古そうに見えるのに、それが最近の映画にはない、新しい雰囲気に仕上がっているのは監督のおかげだと思っています。映像と編集で見事に観せているので、初号を観てすぐ僕は監督にお礼を言いました。監督は漫画や脚本、小説などマルチに活躍されていますが、映画が一番好きだと分かる作品ですし、今までの創作活動の結実でしょうね。どの登場人物もひと癖あって、力のある作品。矢能と栞の関係性と、最後の大逆転も楽しみにしていて下さい」
INFORMATION
映画『アウト&アウト』
【INFO&STORY】
小学2年生の少女・栞(白鳥玉季)と2人で探偵事務所を営んでいる元ヤクザの矢能政男(遠藤憲一)のもとに、一本の依頼の電話が入る。矢能は指定された場所に向かうが、依頼人はすでに拳銃で撃たれて死体となっており、矢能が容疑者にされかねない状況が作り上げられていた。矢能はすぐさま対処しようとするが、事態は思いがけない方向へと進んでいく…。「ビー・バップ・ハイスクール」などで知られる漫画家きうちかずひろが、木内一裕名義で発表した小説「アウト&アウト」を自ら映画化。元ヤクザの探偵と、血の繋がらない小学生の少女がコンビを組み、巻き込まれた事件に挑んでいくクライムエンタテインメントだ。
【CAST&STAFF】 出演/遠藤憲一・岩井拳士朗・白鳥玉季・小宮有紗・中西学・酒井伸泰・安藤一人・渡部龍平・渋川清彦・成瀬正孝・阿部進之介・竹中直人・高畑淳子・要 潤
監督/きうちかずひろ
原作/木内一裕「アウト&アウト」(講談社文庫刊)
脚本/ハセベバクシンオー・きうちかずひろ
配給/ショウゲート
公式HP
11月16日(金) よりTOHO シネマズ 新宿ほか全国ロードショー
PROFILE
遠藤憲一(えんどう・けんいち)
1961年6月28日生まれ 東京都出身
83年、NHK ドラマ「壬生の恋歌」でデビュー。鋭い眼力と強面の風貌を活かし、オリジナルビデオ作品に多数出演。その後、優しい父親役やコミカルな芝居までこなす演技力が評価され、映画やドラマに欠かせない存在に。主役から脇役まで幅広く演じる日本を代表する俳優の1人として走り続けている。近年の主な出演作にドラマ「西郷どん」「健康で文化的な最低限度の生活」、映画『木屋町DARUMA』『うさぎ追いし 山極勝三郎物語』『ミックス。』など。ドラマ「ドロ刑 – 警視庁捜査三課-」「遠藤憲一と宮藤官九郎の勉強させていただきます」出演中。
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公式Twitter
映画『アウト&アウト』
【INFO&STORY】
小学2年生の少女・栞(白鳥玉季)と2人で探偵事務所を営んでいる元ヤクザの矢能政男(遠藤憲一)のもとに、一本の依頼の電話が入る。矢能は指定された場所に向かうが、依頼人はすでに拳銃で撃たれて死体となっており、矢能が容疑者にされかねない状況が作り上げられていた。矢能はすぐさま対処しようとするが、事態は思いがけない方向へと進んでいく…。「ビー・バップ・ハイスクール」などで知られる漫画家きうちかずひろが、木内一裕名義で発表した小説「アウト&アウト」を自ら映画化。元ヤクザの探偵と、血の繋がらない小学生の少女がコンビを組み、巻き込まれた事件に挑んでいくクライムエンタテインメントだ。
【CAST&STAFF】 出演/遠藤憲一・岩井拳士朗・白鳥玉季・小宮有紗・中西学・酒井伸泰・安藤一人・渡部龍平・渋川清彦・成瀬正孝・阿部進之介・竹中直人・高畑淳子・要 潤
監督/きうちかずひろ
原作/木内一裕「アウト&アウト」(講談社文庫刊)
脚本/ハセベバクシンオー・きうちかずひろ
配給/ショウゲート
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11月16日(金) よりTOHO シネマズ 新宿ほか全国ロードショー
PROFILE
遠藤憲一(えんどう・けんいち)
1961年6月28日生まれ 東京都出身
83年、NHK ドラマ「壬生の恋歌」でデビュー。鋭い眼力と強面の風貌を活かし、オリジナルビデオ作品に多数出演。その後、優しい父親役やコミカルな芝居までこなす演技力が評価され、映画やドラマに欠かせない存在に。主役から脇役まで幅広く演じる日本を代表する俳優の1人として走り続けている。近年の主な出演作にドラマ「西郷どん」「健康で文化的な最低限度の生活」、映画『木屋町DARUMA』『うさぎ追いし 山極勝三郎物語』『ミックス。』など。ドラマ「ドロ刑 – 警視庁捜査三課-」「遠藤憲一と宮藤官九郎の勉強させていただきます」出演中。
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取材・文/内埜さくら 撮影/おおえき寿一
ヘアメイク/ 村上まどか スタイリスト/ 中本コーソー(Leinwand) 衣装協力/ ジャケット/ パンツ(nest Robe CONFECT)03-5772-1881
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