「現場での瞬発力や、その一瞬で感じたものを積み重ねて撮っていくものこそが映画 『本番!』って声がかかった瞬間に、いかに集中力を出せるかってことしか考えてない」
今月のゲストは、日本を代表する個性派俳優の竹中直人さん。
映画監督としても第一線で活躍する異能の才人が語る、演技へのスタンス、そして役者という職業に対する想いとは!? 昨年、惜しまれつつも解散した人気劇団・東京セレソンデラックスの同名舞台を忠実に映像化した出演最新作『くちづけ』の公開も間近に控える名優が、ドカント読者にかく語りきーー!!
5月号メンズシートにご登場いただいた『くちづけ』の生みの親宅間孝行さんに続き、今回は、知的障害をもつ愛娘に人生を捧げる主人公の父親、漫画家〝愛情いっぽん〟役を熱演する竹中直人さんがいよいよ登場。映画にドラマ、CMと八面六臂の活躍をみせる彼の知られざる素顔に肉迫するーー!!
「将来の目標が決まってない人も、旅に出ると少なからず刺激と自信と変化を感じられるはず」
「いろんな面があるから人間はおもしろい。それをわざわざ決めつけちゃう必要はないのかな」
「分からない」からこそ瞬発力で役柄を演じきる
──もとが舞台なだけあって、本作ではすべてをワンセットで撮影するという映画らしからぬ演出方法が採用されています。実際に演じられていかがでしたか?「カメラが5台もある現場は初めてだったし、それをセットの中で同時に回して撮るというのも、舞台のような緊張感があって新鮮で楽しかった。それに撮影所の雰囲気って僕はすごく好きなんです。だから、大泉の撮影所に行くこと自体が僕にとってはイベントでしたね」
──完成した作品はご覧に?
「もちろん観ました。元は舞台劇なのに映画として確実なものになっていて素晴らしかった。堤監督のエネルギーを強く感じましたね。しかも割と重たくて現実的な題材を扱っているのに、説教っぽさがまったくない。観終わったあとに気持ち良くなるのもいいですね」
──ちなみに、原作の舞台は?
「僕は、舞台って基本的に観ないんです。これは観なきゃと思うものには行ったりもするんですが、集中し過ぎて疲れちゃうし、なにより役者の芝居をナマで観るってことが照れるし、恥ずかしい。『うわっ! すごく熱くなってる!』とかすぐ思っちゃって観てられないんですね」
──とはいえ、ご自身も舞台には立たれていますよね?
「いざ自分でやってても、すんげぇ恥ずかしいですよ。でも舞台ならではの集中力とか時間の流れとかスピード感とか、そういうことを感じるためにもやっておかなきゃいけないとは常々思ってはいます。舞台は自分で演じるには面白い世界ですね」
──今回の現場でも、舞台の稽古場よろしく、全員でラジオ体操をされていたとか…。
「僕は参加してないですね。ホントに協調性がなくて(笑)。ひとつの作品を作るために、みんなで何日か合宿しようとかいわれるのも、照れちゃってダメですね」
──では、役作りをする上で特に意識したことは?
「ディスカッションをして役を構築していくという作業が苦手だし、分かんないまま演じることのほうが多いんです。現場での瞬発力や、その一瞬で感じたものを積み重ねて撮っていくものこそが映画だと思うし、そういう意味では、どんな現場であっても、『本番!』って声がかかった瞬間に、いかに集中力を出せるかってことしか考えてない。そもそもギリギリまではフザけていたいタイプですしね(笑)」
──同じ父親として役柄に自分を投影させたりは?
「それもしないですね。中にはそういう人もいるのかもしれないけど、僕はまずやらない。どんなに理解しようとしても、他人のことなんてそうそう分かるはずがないですから。いろんな面があるから人間はおもしろいわけで、それをわざわざ『この人はこう』と決めつけちゃう必要はないのかなと。なんで、たまにほかの役者が、『あっ、そういうことだったのか』とかって現場で妙に納得してたりすると、ついつい心の中で毒づいちゃってますね。『ウソつけよ!』って(笑)」
──実はそれが真理なのかもしれませんよね。
「たとえば、女の子にフラれたくらいだったら、僕だって『分かるよ、切ないよな』って言えますよ。だけど、知的障害の娘をもつ父親の気持ちとなると経験してみないことには分からない。現実にそういった境遇にある人たちが過ごしてきた時間や想いを、僕らはわずかな撮影期間で想像して作るわけですから、そう考えると、つくづくフザけた仕事だなぁと思いますね」
「人生は矛盾との戦いだしそれが最高の楽しみ。その矛盾を日々乗り越えながら、夢をもって進んでいってほしい」
もし次に監督するなら「暗い映画」が撮ってみたい
──ところで、娘マコ役の貫地谷しほりさんとは『僕らのワンダフルデイズ』(09)でも親子役で共演されていますよね。「しほりちゃんとは今回もホントに心地いい時間を過ごせましたね。彼女が『いっぽん!』って呼んでくれるだけで和めたというか。彼女、僕の演じた大河ドラマの『秀吉』が大好きでいてくれたみたいで。そうやって評価してくれてるっていうのが、とてもうれしいし、接し方も変わってきちゃう。あんなに世間では酷評された秀吉を褒めてくれるってだけで、もう最高です(笑)」
──褒められると好きになっちゃう感じ、分かります!
「こないだも、石井隆監督の新作映画『甘い鞭』で、壇蜜のお尻をちょっと叩いてきたんですが、楽屋で僕が昔やってた深夜番組『恋のバカンス』を『お母さんと一緒にずっと観てたんです。ナンおじさん大好きです』と言われた瞬間から、『壇蜜っていいヤツだな』となってしまいましたから(笑)。あんな視聴率の取れなかったマニアックな番組を、よくぞ知っててくれましたって」
──そんなところをピンポイントで突いてくるとは、壇蜜さんもやりますね! 石井監督とのコンビといえば、『GONIN』(95)のようなバイオレンス映画も、個人的には超観たいんですが…。
「ちょっと前に、渋谷の映画館でその『GONIN』をはじめとした90年代のバイオレンス映画特集をやってて、懐かしくなって、自分が主演した『ヌードの夜』(93)と『共犯者』(99)の2本立てを観たんです。で、久しぶりに拳銃持ってる自分の姿を観たら、『お、似合うじゃん』って(笑)。だから今、還暦手前のオッサンが拳銃持って走る映画もいいなあと思って、きうち(かずひろ)監督に『また撮ってくれ』って売りこんでるところです」
──それ、ぜひ実現してほしいです。ご自身の監督作の予定などは?
「あればいいんですけど、つい最近公開された監督作『自縄自縛の私』がアレだったので、もう撮れないんじゃないかな(苦笑)」
──過去には「ヘンな人が出ている映画が好き」ともおっしゃっていましたが、やはりご自身で撮るとなるとそういった方向性に?
「最初に撮った『無能の人』(91)もそうですけど、僕の中にはやっぱりつげ義春さんの世界観がベースとしてあるんです。だから、健康的なものより、世間の陰でひっそり生きてる人間を撮るほうが楽しい。きっと、どこかイジけてる人間のほうが好きなんでしょうね」
──バイオレンス映画もいいですけど、竹中さんとつげさんのコラボも捨てがたい!
「つげさんとは毎年、年賀状のやりとりをしてるんですが、今年のものにはひと言、『暗い映画が観たいです』って書かれていて、僕はもうそれに感動しちゃって。撮れるもんなら撮りたいですね。暗い映画。つげさんの『海辺の叙景』とか撮れると嬉しいですけどねぇ」
──今の日本映画では、なかなか厳しそうではありますけど。
「絶対ムリですね。お金を出してくれる人がまずいないでしょ。『こんなの誰が観るんだよ!』って言われたら、僕らは『そうですよね』って静かに納得するしかないですから。救いのないヨーロッパ映画とかを観ると、『いいなあ、こんなの撮れて』って思いますけどね」
──俳優としては、今後もスタンスは変えずに?
「そうですね。このままの感じで続けていければ。基本的にスケジュールが空いていればどんな仕事でも受けますしね。たぶん断ったのは『のだめカンタービレ』ぐらいじゃないかな。外国人役は、『僕は日本人だから無理でしょ?』って(笑)。でも『どうしても』と言われてね。『じゃあ、つけ鼻するしかないかな?』と言ったら、『じゃあ、それで』って。その時は僕もビックリしました(笑)」
──映画化までされた人気ドラマにそんな裏話があったとは!ではでは、最後に夢半ばの若きドカント読者にアドバイスをお願いします!
「人生はだいたい矛盾との戦いだし、それが最高の楽しみでもあると思うので、その矛盾を日々乗り越えながら、いつかはこうなるんだっていう夢をもって進んでいってほしいですね。イヤな仕事だからってすぐ投げ出してるようでは、いい出会いもやってこないと思います」
話の端々から映画に対する熱い想いがにじみ出ていた竹中さん。「分からない」と謙遜しながらも、くだんの“いっぽん”役でも、きっちり僕らを泣かせてくれるあたりが、名優の名優たるゆえんといえそうだ。
INFORMATION
映画『くちづけ』
INFO&STORY
知的障害のため、心は7歳児のままの女性マコ(貫地谷しほり)は、元人気漫画家の父親いっぽん(竹中直人)に連れられ、知的障害者の自立支援グループホームひまわり荘にやってくる。無邪気で陽気な住人たちに囲まれ、のびのびと日々を送るマコは、そこで出会った男性うーやん(宅間孝行)にも心を開いていく。ようやく見つけた理想の場所で娘が幸せになれば、いっぽんも漫画家として復帰できるかと思われたが、やがてひまわり荘の一同に厳しい運命がふりかかる…。12年をもって解散した劇団東京セレソンデラックスの名作舞台を、堤幸彦監督のメガホンで映画化。
CAST&STAFF
原作・脚本/宅間孝行
監督/堤幸彦
出演/貫地谷しほり・竹中直人・ 宅間孝行・田畑智子・橋本愛・岡本麗・嶋田久作・麻生祐未・平田満
配給/東映 公式HP
5月25日(土)より全国ロードショー
(C) 2013「くちづけ」製作委員会
PROFILE
竹中直人(たけなか・なおと)
1956年3月20日生まれ 神奈川県出身
俳優、映画監督、ミュージシャン、画家など幅広いフィールドで活躍。91年、主演も務めた初監督映画「無能の人」が第48回ヴェネチア国際映画祭の国際批評家連盟賞に選ばれ、国内でも数々の賞を受賞。また、最新映画作「R-18文学賞Vol.1 自縄自縛のワタシ」が今年2月に公開された。主な出演作に映画「シコふんじゃった。」「EAST MEETS WEST」「Shall we ダンス?」、NHK大河ドラマ「秀吉」、ドラマ版&映画版「のだめカンタービレ」などがある。映画公開待機作は「フィギュアなあなた」(6月15日公開)「謎解きはディナーのあとで」(8月3日公開)「甘い鞭」(9月21日公開)など。6月スタートのNHKBSプレミアム時代劇「酔いどれ小籐次」に主演する。
公式HP
映画『くちづけ』
INFO&STORY
知的障害のため、心は7歳児のままの女性マコ(貫地谷しほり)は、元人気漫画家の父親いっぽん(竹中直人)に連れられ、知的障害者の自立支援グループホームひまわり荘にやってくる。無邪気で陽気な住人たちに囲まれ、のびのびと日々を送るマコは、そこで出会った男性うーやん(宅間孝行)にも心を開いていく。ようやく見つけた理想の場所で娘が幸せになれば、いっぽんも漫画家として復帰できるかと思われたが、やがてひまわり荘の一同に厳しい運命がふりかかる…。12年をもって解散した劇団東京セレソンデラックスの名作舞台を、堤幸彦監督のメガホンで映画化。
CAST&STAFF
原作・脚本/宅間孝行
監督/堤幸彦
出演/貫地谷しほり・竹中直人・ 宅間孝行・田畑智子・橋本愛・岡本麗・嶋田久作・麻生祐未・平田満
配給/東映 公式HP
5月25日(土)より全国ロードショー
(C) 2013「くちづけ」製作委員会
PROFILE
竹中直人(たけなか・なおと)
1956年3月20日生まれ 神奈川県出身
俳優、映画監督、ミュージシャン、画家など幅広いフィールドで活躍。91年、主演も務めた初監督映画「無能の人」が第48回ヴェネチア国際映画祭の国際批評家連盟賞に選ばれ、国内でも数々の賞を受賞。また、最新映画作「R-18文学賞Vol.1 自縄自縛のワタシ」が今年2月に公開された。主な出演作に映画「シコふんじゃった。」「EAST MEETS WEST」「Shall we ダンス?」、NHK大河ドラマ「秀吉」、ドラマ版&映画版「のだめカンタービレ」などがある。映画公開待機作は「フィギュアなあなた」(6月15日公開)「謎解きはディナーのあとで」(8月3日公開)「甘い鞭」(9月21日公開)など。6月スタートのNHKBSプレミアム時代劇「酔いどれ小籐次」に主演する。
公式HP
Interview&Text/鈴木長月 Photo/谷口達郎
スタイリスト/伊島れいか ヘアメイク/久野友子(MARVEE)
スタイリスト/伊島れいか ヘアメイク/久野友子(MARVEE)