「ひとつのことに情熱を傾けている人から上がる湯気は必ず伝わる。作り手として、そこに向きあう態度や姿勢はちゃんと見せたいと思うんです」
SF世界に登場する建築物の工費見積もりを大マジメに算出して話題となった『前田建設ファンタジー営業部』が、このほどついに映画化。舞台版を自ら手掛け、本作でも脚本を担当する「ヨーロッパ企画」主宰の上田誠さんに、作り手としての想いを聞いた。。
本作で描きたかったのは
地味さが秘める情熱で…
──今回の映画化以前に、上田さんご自身は13年初演の舞台版でも脚本・演出を担当されています。そちらはどういった経緯で。「最初はプロデューサーさんから頂いたお話だったんですけど、僕自身、もともと理系でSFとかは好きなほうなので、自分でも原作は読んでいて。しかも、こういう突飛なアイデアを作品にしようってときに真っ先に名前の挙がる作家でありたいっていうのは、常々思ってきたことでもあったので、そこはもう僕がやるしかないだろう、と。まぁ、ちょっとした使命感もありまして(笑)」
──映画化にあたっては、その舞台のシナリオをベースにして?
「そうですね。原作は前田建設という実在の会社の架空部署・ファンタジー営業部が、光子力研究所の弓教授から依頼を受けてマジンガーZの格納庫建設を実現させる……というテイのウェブ連載をまとめたもの。映画ではその連載を立ちあげるまでの奮闘をメインに描いていますが、これは舞台化の際に変換させた部分でもあるんです。ただ演者の〝温度〟は両者で大きく違ってて。舞台のほんわりした会話劇が、映画では(英勉)監督の強い意向もあり、かなりの熱量になってます」
──ご自身で演出もされる立場として、映画のなかには「ここだけは譲れない」的なところも?
「基本的に映画は監督のものなので、僕自身は監督からの要望に応えつつ、なんとかついていっただけ。脚本家の手を離れたあとに、意図しない逸脱が起こるのは受け入れるべきことだと思ってます。ただ今回に限って言えば、それがすごくいい方向に作用してる。劇中に登場するマニアックな工程や資料、専門的なセリフなんかを端折らずに見せるっていうのは、個人的にも絶対外したくない部分でもありましたしね」
──確かに、町田啓太さん演じる掘削オタクのヤマダさんが蕩々とする土質の説明のくだりは、とくにエゲつないセリフ量でした。
「自分でも『どこかはカットされるだろうな』と思いながら書いてましたし、あそこなんかは映画的にもいちばん端折りたくなる場面ではあると思うんです。にもかかわらず監督はそれをすごく丁寧にやってくださって、なんならセリフもさらに足されていて(笑)情熱の部分だけを抽出してもおそらく映画にはなったと思いますけど、それをしちゃうと、この作品のもつ偏執的なおもしろさは損なわれてしまいますからね」
──荒唐無稽なミッションに挑んだ人々の本気度こそ作品のキモ。そこにリアリティがなければ、観客の心も動きませんしね。
「建設のお仕事って『完成しました!』という瞬間は見栄えもするけど、そこに至るまでの過程は、当たり前ですけど、すごく地味なんですよね。でも、許可取りだったり、調整だったりという、全然エキサイティングじゃなさそうな部分にでも〝語りしろ〟はきっとある。今回の作品では、そういう地味な作業を淡々とこなす人々のアツさを具体的に描きたかったんです。脚本を書くって作業も、9割ぐらいは地味そのもの。僕が日々やっている劇団ヨーロッパ企画の活動報告にしたって、ホットなはずの執筆中がいちばん書くことないですから(笑)」
ニッチな作品ですが"青春
を過ぎた青春映画"です!
──この春には、ギャグマンガの名作『浦安鉄筋家族』のドラマ化も決定。上田さん自身も「地味な作業」に追われていると。「原作モノにあたるときは『誰よりも原作のファンになる』っていうのが僕の信条でもあるので、目下、ディティールをノートに書きだしたり、擬音だけを抜きだしてエクセルで一覧にしたり……。地味にしんどい作業をひたすらやってます(笑)ただ、今回の『前田建設~』にしてもそうですけど、たとえコアな層にしか伝わらないこだわりでも、ひとつのことに情熱を傾けている人から上がる湯気は必ず伝わりますからね。作り手として、それと向きあう態度や姿勢は、どんな作品であれ、ちゃんと見せたいと思ってます」
──では最後に、これから劇場に行くであろう読者にひと言を。
「うがった見方をされやすいルックですし、マジンガーZの格納庫を作る話なんて、相当ニッチなのも分かってはいますが、僕としては〝青春を過ぎた青春映画〟だと思って書きました。ぜひ楽しんでもらえるとうれしいです」
INFORMATION
■映画『前田建設ファンタジー営業部』 INFO&STORY
「うちの技術で、マジンガーZの格納庫を作っちゃおう!」上司のアサガワ(小木博明)にムチャ振りされた広報グループのドイ(高杉真宙)たち。ミッションは、“実際には作らない”が、設計図を出し、工期を立て、見積書を完成させ、実物を作るのと全く同じように取り組むこと。現実世界の常識では到底理解できないアニメ世界の途方もない設定やあいまいで辻褄の合わない設定に翻弄されながらも、彼らは、無謀なプロジェクトに立ち向かう……。マジンガーZの格納庫作りに本気で挑んだサラリーマンたちの熱き実話の映画化。
CAST&STAFF
出演/高杉真宙・上地雄輔・岸井ゆきの・本多力・町田啓太・六角精児・小木博明(おぎやはぎ)
監督/英勉
脚本/上田誠(ヨーロッパ企画)
原作/前田建設工業株式会社『前田建設ファンタジー営業部1「マジンガーZ」地下格納庫編』(幻冬社文庫)・永井豪『マジンガーZ』
配給/バンダイナムコアーツ・東京テアトル
公式HP
1月31日(金)新宿バルト9、イオンシネマほか全国公開
(C)前田建設/Team F (C)ダイナミック企画・東映アニメーション
■映画『前田建設ファンタジー営業部』 INFO&STORY
「うちの技術で、マジンガーZの格納庫を作っちゃおう!」上司のアサガワ(小木博明)にムチャ振りされた広報グループのドイ(高杉真宙)たち。ミッションは、“実際には作らない”が、設計図を出し、工期を立て、見積書を完成させ、実物を作るのと全く同じように取り組むこと。現実世界の常識では到底理解できないアニメ世界の途方もない設定やあいまいで辻褄の合わない設定に翻弄されながらも、彼らは、無謀なプロジェクトに立ち向かう……。マジンガーZの格納庫作りに本気で挑んだサラリーマンたちの熱き実話の映画化。
CAST&STAFF
出演/高杉真宙・上地雄輔・岸井ゆきの・本多力・町田啓太・六角精児・小木博明(おぎやはぎ)
監督/英勉
脚本/上田誠(ヨーロッパ企画)
原作/前田建設工業株式会社『前田建設ファンタジー営業部1「マジンガーZ」地下格納庫編』(幻冬社文庫)・永井豪『マジンガーZ』
配給/バンダイナムコアーツ・東京テアトル
公式HP
1月31日(金)新宿バルト9、イオンシネマほか全国公開
(C)前田建設/Team F (C)ダイナミック企画・東映アニメーション
PROFILE
上田誠(うえだ・まこと)
1979年生まれ 京都府出身
98年にヨーロッパ企画を旗揚げし、すべての公演の脚本、演出を担当。映画は『サマータイムマシン・ブルース』『曲がれ!スプーン』『夜は短し歩けよ乙女』『ペンギン・ハイウェイ』などの脚本を担当。13年に舞台化された「前田建設ファンタジー営業部」は、映画化にあたり再び脚本を手掛けた。
公式HP
上田誠(うえだ・まこと)
1979年生まれ 京都府出身
98年にヨーロッパ企画を旗揚げし、すべての公演の脚本、演出を担当。映画は『サマータイムマシン・ブルース』『曲がれ!スプーン』『夜は短し歩けよ乙女』『ペンギン・ハイウェイ』などの脚本を担当。13年に舞台化された「前田建設ファンタジー営業部」は、映画化にあたり再び脚本を手掛けた。
公式HP
撮影◎おおえき寿一 取材・文◎鈴木長月