初心は忘れてはいけないからこそ僕が仕事で一番大切にしている信条が『自分で構築したキャリアを壊す勇気』です。『人生は積み木』だと見立てると自由に組み立てて、好きな時に壊して初心に戻ることができます
初挑戦の食モノドラマでぶっ飛んだ演技が話題となり、3月6日に公開される主演映画『劇場版 おいしい給食 Final Battle』では、さらに振り切ったキャラクターになりきっている俳優の市原隼人さん。何事にも本気で対峙する〝ストイックな男〟と称され、近年は映像監督や写真家としても活躍する市原さんが撮影現場で感じたこととは。仕事に対して真摯でいられる理由にも迫りますッ!!
小道具のメガネをポケットに入れ忘れ給食を二度食べるハメに(笑)
──ドラマと映画、両作品へ主演すると決まった時の感想は。「ドラマは滑走路のような存在で映画化は〝贅沢な大人の遊び〟だな、という印象を持ちました。僕が演じた数学教師の甘利田幸男は中学校へ通う一番の理由が『給食を食べること』という、枠からハミ出た男なのですが、佐藤大志くんが演じた生徒の神野ゴウとは、同志のような関係。唯一、自分と同じ世界観を味わえる人間で、ドラマでは描かれなかった神野の深部が、劇場版では明らかにされています。映画は長い時間をかけて撮影するので、気持ちや感情を作りやすく、それが映画の強みだと改めて感じました」
──一風変わった甘利田の人間性をどう捉えましたか。
「数学教師なので、愛する給食に対しても事細かに考察するような男性なんです。食材の産地、食べる意味、パンと牛乳になぜこのメニューが合うのか。それがすべて心の声として出てくるのですが、ひとつの物事に集中すると周りが見えなくなる気持ちは僕も共感できます。カメラが趣味で昨年、ニューヨークへ行ったんです。撮影に夢中になりすぎて通路を妨害していたらしく、現地の方に怒られてしまったり」
──それは(笑)給食のバトルシーンが見どころの1つですよね。
「給食がおいしく喉を通るようにひたすら普段は食事を我慢しましたが、これほど体力を使うとは思いませんでした。特殊なテンションの高さを持つ甘利田というキャラクターを演じながら食したせいもありますが、1日に何度も食べるシーンを撮影しましたし。一度、小道具のメガネをワイシャツの胸ポケットに差し忘れてしまい、撮り直したこともありました。自分の責任ではありますが『もう1回食べなければいけないのか…』と(笑)甘利田は給食を愛している男なので、自分が満腹であっても常に美味しそうに食べなければいけないですし」
──演じた甘利田にちなんで、市原さんが愛してやまないものを教えて頂けますか。
「(撮影)現場です。私生活で起きた出来事や個人的な感情をすべてシャットアウトして〝浦島太郎〟のような気持ちでいられるので、すごく楽なんです。人生の半分以上を現場に救われている、と言っても過言ではないと思います」
──それはリアルな中学生が多い、本作の現場でも感じましたか?
「僕が作品に没頭できたのは監督やスタッフさんのお力添えがあったのはもちろんですが、彼らのおかげでもあります。吸収力が高く、希望と可能性しかない中学生の子たちとすごした時間は、楽しかったですし救われた部分もありました。僕はちょっとハミ出しているぐらいの子の方が好きなのですが、みんな個性派揃い。怪獣がいるのではないかと思うぐらい控室は騒がしかったのですが(笑)のびのびとしている姿を見るのがうれしかったです。目の前にあるものを素直にキレイと言えて、素直に感情表現をする。子どもたちがとても輝いて見えて、初心に戻ることができました。楽しい現場にしなければ、作品をお客様にも楽しんで頂けないという基本を、思い出させてもらったんです」
──ちなみに市原さんは小中学生時代、どんな少年でしたか。
「昔から土日や長期の休みをイヤがるぐらい、友だちと遊ぶのが大好きな子どもでした。小学生の時は少しでも早く遊びたくて、学校に何度もランドセルを忘れたことがあるほどです(笑)登下校の毎日が冒険で、僕にとってはテーマパークだったんです。今回の作品で共演した彼らと同年代の頃には今の仕事を始めていましたが、考え方はまだ子どもだったかもしれません。家族旅行に来ている感覚で現場にいましたし、セリフを覚えられずに、60テイク以上重ねたこともありましたから」
給食は三世代楽しめる共通ツール給食ワンダーランドをぜひ劇場で
──SNSのお話も。市原さんのインスタグラムは名言の宝庫です。「人生は積み木」という言葉の意味を、改めて教えて頂けますか。「同じ仕事を長く続けていると、初心者の時と同じ感覚でいることは難しいと思っています。ですが、初心は忘れてはいけないからこそ僕が仕事で一番大切にしている信条が、『自分で構築したキャリアを壊す勇気』です。初心に戻るために『人生は積み木』だと見立てると、自由に組み立てて、好きな時に壊して初心に戻ることができる。だからといって中途半端な積み木を積むのではなく、子どものような感覚で夢を描きながら前向きにしっかりと積み上げていくという感覚を、忘れないようにしています。そして、自分が携わっている仕事が、社会でどんな役割を果たしているかを胸に刻んでおく。例えば役者は、何のために存在しているのか。役者自身が生活費を稼ぐための手段が芝居ではなく、お客様にエンターテイメントという楽しみを提供するのが、役者の役割です。仕事で得た給料で何を買おうか、食べようかなど、自分の欲求を優先する人もいるかもしれません。ですが、自分が社会の中でどんな役割を果たしているのかを覚えておくと、軸がブレずに生きられると思っています」
──勉強になります。ほかに大切にしていることは?
「地元(神奈川県)の仲間です。学生時代から今も常に、帰る場所であり自分の基準です。20代前半の頃、仕事がイヤになって地元の友だちに泣きながら電話をしたことがありました。『今すぐ来てもらえないかな』と。すぐ飛んで来てくれて励ましてくれるのかなと思ったのですが、『贅沢すぎる悩みだよ』とカツを入れられました。やりたい仕事をできなくて、お金もなくて、住む場所も選べなくて、食べることにも困っている人がゴマンといるのに、と。『友だちなんだから、もっと突っ張ってくれなきゃ困るよ』と背中を押してくれる仲間がいるのは有り難いと感じました。小中学校時代からの付き合いなので、誰も相手に対してウソをつかずに忠告してくれるんです。小学生の時から今も、仲間は僕のモチベーションと励みです。仲間に会う時には、ひとつでもいいから仕事の土産話を持って行きたい。土産話を持って行きたいから『ここで妥協したらアイツは笑うだろう』とか『アイツにナメられる』という気持ちで、現場に臨んでいます(笑)仲間には、自分と友だちであることに情けなくなってほしくないんです。自分という人間が、誇りになってくれたらうれしいという一心です。彼らと切磋琢磨し合う中で学びました。自分の基準をどこに置くかということが、とても重要だということに。背伸びをして自分よりランクが上の環境に入ってみると、それが今度は標準となり、自分のレベルが上がっていくのだと」
──有難うございます。市原さんが思う本作の魅力もお願いします。
「食をテーマにした作品は多々ありますが、給食は祖父母・親・子どもの三世代が会話を楽しめる共通のツール。老若男女どの世代、性別の方が観ても楽しめますし、唯一無二の世界観で人と人とをつなぐエンターテインメント作品です。顔を手で隠して、指の隙間から見るようなシーンもありません(笑)ある意味、教育テレビのような側面をもっていると思います。〝給食ワンダーランド〟を、劇場でご覧頂きたいです」
──タイトルには『ファイナル』とついていますが、ファンの中には早くもシリーズ化してほしいという声もあるそうです。
「本当ですか? シリーズ化…してみたいですね。地方により文化が違うと提供される給食が変わるように、海外も出てくるメニューが日本にはないラインナップだと思います。もしシリーズ化が実現できるなら、次は『甘利田先生、◯◯へ行く』のような、海外バージョンをぜひやってみたいです」
映画『劇場版 おいしい給食 Final Battle』
【INFO&STORY】
1984年のとある中学校。給食を愛しすぎるゆえに、給食を愛せないヤツを許せない「給食絶対主義者」である給食マニアの教師・甘利田幸男(市原隼人)は、学校から給食がなくなるという信じがたい報せに衝撃を受ける。一方、甘利田最大のライバルで「どちらがよりおいしく給食を食べるか」という超絶給食バトルを繰り広げている生徒の神野ゴウ(佐藤大志)は、「給食革命」を目指して生徒会選挙への出馬を宣言。そんな2人を見守る新人教師の御園ひとみ(武田玲奈)の心労は果てしない…。給食一筋ウン十年。甘利田は愛する給食を守るため、史上最大の給食バトルに打って出る!市原隼人演じる給食マニアの中学教師が主人公の学園グルメコメディ「おいしい給食」の劇場版。
【CAST&STAFF】
出演/市原隼人・武田玲奈・佐藤大志・豊嶋花・辻本達 規(BOYS AND MEN)・水野勝(BOYS AND MEN)・直江 喜一・ドロンズ石本・いとうまい子・酒向芳
監督・脚本/綾部真弥 企画・脚本/永森裕二
配給/AMGエンタテインメント、イオンエンターテイメ ント
3月6日(金)ユナイテッド・シネマ豊洲ほか全国ロードシ ョー
公式HP
(C)2020「おいしい給食」製作委員会
【INFO&STORY】
1984年のとある中学校。給食を愛しすぎるゆえに、給食を愛せないヤツを許せない「給食絶対主義者」である給食マニアの教師・甘利田幸男(市原隼人)は、学校から給食がなくなるという信じがたい報せに衝撃を受ける。一方、甘利田最大のライバルで「どちらがよりおいしく給食を食べるか」という超絶給食バトルを繰り広げている生徒の神野ゴウ(佐藤大志)は、「給食革命」を目指して生徒会選挙への出馬を宣言。そんな2人を見守る新人教師の御園ひとみ(武田玲奈)の心労は果てしない…。給食一筋ウン十年。甘利田は愛する給食を守るため、史上最大の給食バトルに打って出る!市原隼人演じる給食マニアの中学教師が主人公の学園グルメコメディ「おいしい給食」の劇場版。
【CAST&STAFF】
出演/市原隼人・武田玲奈・佐藤大志・豊嶋花・辻本達 規(BOYS AND MEN)・水野勝(BOYS AND MEN)・直江 喜一・ドロンズ石本・いとうまい子・酒向芳
監督・脚本/綾部真弥 企画・脚本/永森裕二
配給/AMGエンタテインメント、イオンエンターテイメ ント
3月6日(金)ユナイテッド・シネマ豊洲ほか全国ロードシ ョー
公式HP
(C)2020「おいしい給食」製作委員会
PROFILE
市原隼人(いちはら・はやと)
1987年2月6日生まれ 神奈川県出身
01年、映画『リリイ・シュシュのすべて』(岩井俊二監督)で鮮烈な主演デビューを飾る。 04年には『偶然にも最悪な少年』で日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞。08年放送のTBS系ドラマ「ROOKIES」では高視聴率を獲得。主な出演作品にドラマ「WATER BOYS2」「カラマーゾフの兄弟」、大河ドラマ「おんな城主 直虎」、映画『ぼくたちと駐在さんの700日戦争』『無限の住人』『空母いぶき』『3人の信長』『夏の夜空と秋の夕日と冬の朝と春の風』などがある。BS-TBS開局20周年記念ドラマ「伴走者」は3月15日(日)放送。また、3月14日(土)から新国立劇場にて主演舞台「脳内ポイズンベリー」公演がスタート。近年は映像監督・写真家としても活動するなど多方面でマルチな才能を発揮し、活躍の場を広げている。
公式Instagram
市原隼人(いちはら・はやと)
1987年2月6日生まれ 神奈川県出身
01年、映画『リリイ・シュシュのすべて』(岩井俊二監督)で鮮烈な主演デビューを飾る。 04年には『偶然にも最悪な少年』で日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞。08年放送のTBS系ドラマ「ROOKIES」では高視聴率を獲得。主な出演作品にドラマ「WATER BOYS2」「カラマーゾフの兄弟」、大河ドラマ「おんな城主 直虎」、映画『ぼくたちと駐在さんの700日戦争』『無限の住人』『空母いぶき』『3人の信長』『夏の夜空と秋の夕日と冬の朝と春の風』などがある。BS-TBS開局20周年記念ドラマ「伴走者」は3月15日(日)放送。また、3月14日(土)から新国立劇場にて主演舞台「脳内ポイズンベリー」公演がスタート。近年は映像監督・写真家としても活動するなど多方面でマルチな才能を発揮し、活躍の場を広げている。
公式Instagram
Interview&Text/内埜さくら Photo/おおえき寿一 スタイリスト/小野和美(Post Foundation) ヘアメイク/大森裕行(VANITES)