「今の時代、映画や映画館はハブステーション的な役割を果たせると思うんです。映画を1つのきっかけにして、どんどんポルトガルを深掘りしてほしい」
日本とポルトガルの合作映画『ポルトの恋人たち 時の記憶』が11月10日より公開中。18世紀のポルトガルと現代の日本を繋ぐ、悲恋の物語だ。今回は、本作のために葡語を体得した中野裕太さんが登場(以前から日・英・伊・仏・北京語は日常会話程度で、今作でさらに葡語が加わる!)。初めて訪れたポルトガルの魅力とともに、若い頃に経験した貧乏エピソードも聞いた。本作を観ると、葡へ訪れてみたくなる人が増えるかも!?
毎日ランチがコース料理で舩橋淳監督は大焦り(笑)
──映画、すっごく面白かったです!「個人的にはある意味、難解で分かりづらいかもと感じていたので、そうやってエンタメ作品を観たかのように褒めて頂けるとうれしいですね。実は…今回かなりプレッシャーを感じていました。18世紀のポルトガルを描くシーンでは、僕がポルトガル語を話せないと成立しなかったので。台本を読んだ時点で(柄本)佑くんはほぼセリフがないと分かっていたので、準備期間の1ヶ月半を大事に使いました。めっちゃ頑張りました」
──カメラが回っていない時も、現地ではポルトガル語を?
「そうですね。プロデューサーと衣装を担当した奥さまと、10歳と8歳になった男の子2人のご家族とすごく仲良くなりました。撮影以降も2回ほど自宅に泊めて頂きましたし、いまだによく、WhatsAppというアプリで電話しています」
──確かポルトガルは初でしたよね。
「初めてです。事前に情報をチェックしてみたら、どの観光ブックを見ても『日本人には馴染み深い』とか『どこか懐かしい感じがする』と書いてあって、まさにそんな感じでした。特にプロデューサー家族が住む、ギマランイスが大好きになったんです。僕の祖父母が住む実家は福岡の炭鉱町にあるんですけど、そこに帰ったような感覚になりました。しかも、ヨーロッパ内で主食に米が出るのはたぶん、ポルトガルだけなんです。食事が馴染みやすいし、ポルトガルの人たちは、イタリア人やスペイン人に比べて少し素朴でアジア人っぽい繊細さがあるというか。人として温かみがあり、想像以上にスッと馴染めました」
──食事といえば、撮影中の食事はかなり豪華だったそうですね。
「レストランのコック2人が毎日、ケータリングのトラックで来て朝から準備してくださったんです。昼には大食堂でコース料理が出て、スープから始まるんです。食後にはケーキ、コーヒーまで出てきました。それが特別ではなく、毎日ですよ。ポルトガルのスタッフはきっちりランチタイムや休憩を取るので、舩橋淳監督は昼食時、『日が落ちる、日が落ちる』と焦っていました(笑)撮影中盤以降は彼らの気質を学んだようで、もう朝から焦っていました(笑)」
1人2役で意識したことはリアルと浮遊感のバランス
──1人2役を演じる時に意識したことはありますか。「一番意識したのは、リアルさと浮遊感をバランスよく出すことです。18世紀を生きた四郎は、召使いから奴隷に格下げされます。現代を生きる幸四郎は幽霊になります。しかも両者ともに、物語の中心のドロドロした愛憎劇には深く入り込まず、狂言回し的な役割という共通点がある。そこを踏まえた上でリアルさと浮遊感をバランスよく出せたら、この映画が少し寓話的というか、ちゃんとしたファンタジーに見えるかな、と思ってやっていました」
──お仕事のお話も。中野さんは俳優業に就いてから貧乏生活を経験しているそうですね。
「大学を卒業して今の事務所に入ってすぐぐらいの頃は、貧乏でしたね。仕事が忙しくてバイトもできなかったので、偶然入った喫茶店のマスターが所有する、風呂なし四畳半のアパートに敷金礼金なしで入居させてもらいました。どれぐらい貧乏だったかというと、家賃2万8千円を払ったら死ぬしかないな、という感じです(笑)マネージャーの分も含めてロケ弁をいくつか持ち帰り、3日間ぐらい食い繋ぐこともありました。僕の部屋にはドアがなかったのでその後、テレビにたくさん出演させて頂いてドアのない家に戻ってくると、『意味が分からない。自分は何をしているんだろう』とギャップにとまどいました(笑)」
──それでも夢を諦めずに前向きに生きてこられた理由は。
「理屈ではなく『夢で飯を食っているんだ』というひと言が頭の中にあるだけで、本当に食えている気がしていたんです。それだけでなくもちろん、先輩方に可愛がってもらったり。当時のマネージャーが自分の母親に頼んで僕に、ダンボール1箱分のカップラーメンを送ってくれたこともありました。今でもすごく感謝しています」
──今の若い世代も中野さんのように、夢を持ったほうがいいですか?
「それは僕が断言できることではないんですが、喜ばしい気持ちや希望を持っていないと、生きるのが大変じゃないですか。喜ばしい気持ちや希望、明日朝起きる時の楽しみを大切にすることは大事だと思います。それもないと、絶望の淵に立ちっぱなしになりかねない」
──最後に改めて本作の魅力を。
「今の時代、映画や映画館はハブステーション的な役割を果たせると思うんです。単純に、映画を口実にデートに誘うのでもいいし、僕らにしても映画を通じて大勢の方々との出会いがありますし。この作品ではポルトガルとも出会えました。皆さんもこの映画を1つの〝きっかけ〞にして、どんどんポルトガルを深掘りしてみてほしい。南蛮屏風や日本人の奴隷がいた歴史やポルトガルギターに興味を持つのでもいい。一度、新しい世界を覗いてみたらいかがでしょうか」
INFORMATION
■映画『ポルトの恋人たち 時の記憶』
【INFO&STORY】
18世紀、リスボン大震災後のポルトガル。宗次と四郎はインドから奴隷として連れてこられた。宗次は屋敷で働 くマリアナと恋仲にあったが、理不尽な雇い主に反抗し、銃殺されてしまう。21世紀、東京オリンピック後の日 本。工場の縮小により、加勢柊次からリストラを言い渡された日系ブラジル人の幸四郎は、ポルトガル人の妻マ リナを残して、自ら命を絶つ。それぞれの時代にあらがうことのできない境遇によって恋人を殺害された女。そ の恨みを晴らすために彼女がとったのは想像を絶する手段だった。柄本佑、アナ・モレイラ、中野裕太が時代に よって立場が微妙に入れ替わる一人二役を演じた日本・アメリカ・ポルトガル合作の恋愛ミステリー。
【CAST&STAFF】
出演/柄本佑 アナ・モレイラ アントニオ・ドゥランエス 中野裕太
監督・脚本・編集/舩橋淳
配給/パラダイス・カフェフィルムズ
公式HP
11月10日(土)シネマート新宿、シネマート心斎橋ほか全国公開中
(C)2017『ポルトの恋人たち 時の記憶』製作委員会
PROFILE
中野裕太(なかの・ゆうた)
1985年10月9日生まれ 福岡県出身
11年、『日輪の遺産』(佐々部清監督)で映画デビュー。主な映画出演作に『ツレがうつになりまして。』『遠くでずっとそばにいる』『新宿スワン』『もうしません!』『新宿スワン2』など。また日本・台湾合作『ママは日本へ嫁に行っちゃダメというけれど。』や中国映画『男たちの挽歌2018』の海外作品でも活躍。
公式HP
■映画『ポルトの恋人たち 時の記憶』
【INFO&STORY】
18世紀、リスボン大震災後のポルトガル。宗次と四郎はインドから奴隷として連れてこられた。宗次は屋敷で働 くマリアナと恋仲にあったが、理不尽な雇い主に反抗し、銃殺されてしまう。21世紀、東京オリンピック後の日 本。工場の縮小により、加勢柊次からリストラを言い渡された日系ブラジル人の幸四郎は、ポルトガル人の妻マ リナを残して、自ら命を絶つ。それぞれの時代にあらがうことのできない境遇によって恋人を殺害された女。そ の恨みを晴らすために彼女がとったのは想像を絶する手段だった。柄本佑、アナ・モレイラ、中野裕太が時代に よって立場が微妙に入れ替わる一人二役を演じた日本・アメリカ・ポルトガル合作の恋愛ミステリー。
【CAST&STAFF】
出演/柄本佑 アナ・モレイラ アントニオ・ドゥランエス 中野裕太
監督・脚本・編集/舩橋淳
配給/パラダイス・カフェフィルムズ
公式HP
11月10日(土)シネマート新宿、シネマート心斎橋ほか全国公開中
(C)2017『ポルトの恋人たち 時の記憶』製作委員会
PROFILE
中野裕太(なかの・ゆうた)
1985年10月9日生まれ 福岡県出身
11年、『日輪の遺産』(佐々部清監督)で映画デビュー。主な映画出演作に『ツレがうつになりまして。』『遠くでずっとそばにいる』『新宿スワン』『もうしません!』『新宿スワン2』など。また日本・台湾合作『ママは日本へ嫁に行っちゃダメというけれど。』や中国映画『男たちの挽歌2018』の海外作品でも活躍。
公式HP
取材・文/内埜さくら 撮影/おおえき寿一