妥協を甘んじて受け入れている若者を見ていると、非常にもったいないと思います。協調性を重んじる関係性からは活力は生まれません。〝心の怪我〟を怖がることは止めましょう。小さな怪我を経験すれば大きな怪我をしなくなりますから。
ツイッター上の人生相談では相談者の気持ちに寄り添う金言の数々で「じわじわ心に染みる!」と人気に。〝いい子に読み聞かせ隊〟隊長として絵本を読む活動も精力的に行う小説家であり、絵本作家の志茂田景樹さんが小誌初登場。ネットの世界を通じて知った若者世代の生き辛さを紐解き、人生において夢や目標を持つ重要性を教授してくれた。若者を中心に絶大な人気を誇るカリスマだからこそ放つことができる珠玉の言葉のオンパレードがここに!
よい子に読み聞かせ隊の活動と人生相談はライフワークなんです
──絵本を読み聞かせる活動が2千回に近いそうですが、始められた経緯を教えて下さい。「90年代にショッピングモール内の書店で、サイン会を頻繁に催していた時期があったんです。いつも僕のサインを求めるより野次馬のほうが多かったのですが(笑)その中にはお子さん連れのお母さんが多々いらっしゃって。数分眺めては歩き去るという繰り返しだったので、あの層に何かできないかという気持ちが生まれました。というのも僕が3〜4歳の頃、母に読み聞かせをしてもらった心地いい記憶がいまだに蘇ることがあるほど心に刻まれていたからです。当時は絵本や児童書には全く関係がなく、大人向けの小説やエッセイしか書いていませんでしたし、すぐに始める義務や必要はないわけですから、1年ほど時間が経ってから開始しました」
──初回は98年10月ですよね。
「福岡の岩田屋という老舗デパートでのサイン会当日、いつにも増して親子連れや小学校低学年の児童が集まっていたんです。僕の姿を見て玩具売り場にいた人たちが集まっていたのですが、『これだけの人数がいるなら読み聞かせだ!』という、突き上げる思いに任せて絵本を借りて読んだのが最初です。2冊のうち1冊は、僕が母親に何度も読み聞かせをねだった『三びきのこぶた』でした。そして、終わった後に残った40代半ばぐらいの女性にこう言われたんです。『落ち込むことがあったけど聞いているうちに元気が出ました』と。読み聞かせは子どもが喜んでくれること以外に大人の心を切り替えることに役立つ事実に驚きましたし僕自身、気持ちがリフレッシュされたので、続けようと思い立ったんです。最初は女房と二人三脚で、女房が子どもたちに絵を見せながら僕が読むスタイルでした。僕らのことがマスコミに取り上げられてから『自分もやりたい』という人が増えて、99年8月に10人を超えたので『よい子に読み聞かせ隊』を結成しました」
──その活動とともにツイッターでは人生相談も受けていますが、先生にとってこの2つの存在は?
「生きている限りは続けますから、ライフワークと呼べるでしょうね。それとは別に僕は以前から不登校や引きこもりに関心がありましてね。『私の心療内科』という書籍を監修したこともあるのですが、昔と今では傾向が変わってきているようです。昔はイジメが、2/3ぐらいで、1/3が心のリズムを崩している子どもたちだったんです。明確な線引きはできませんが最近はこれが逆転していて、増減はありますが統計には表れない層が増えている印象です。僕がツイッターやネットの中で得た感触としては、子どもと若年層に心のリズムを崩している人が増えている感じです」
──20〜30代も引きこもりは増加傾向にあると感じますか?
「あと20〜30年もしたら引きこもっていられる経済状況ではなくなると思いますが、多いですね。引きこもっていなくても学生や社会人にも、心のリズムを崩す人が増えています。リズムが崩れるたびに休職、あるいは軽い場合は我慢して一生懸命頑張ってしまう人もいるんです。我慢し続けると数年後に大きく崩れるので無理は禁物なんです。しかも今は格差社会で、一人暮らしの人は家賃を支払ったら後は食うのにカツカツな若者も多いじゃないですか。苦しいとは思いますが、その状況の中でも目標を持つことは大事だと思いますよ」
──目標を立てても、すぐに諦めてしまって達成できないと嘆く人も多いようですが。
「それは目標の設定が高すぎるからではないでしょうか。人間は何か目標を立てようとすると、今の自分と比べて無意識のうちにハードルの高い目標を掲げてしまいがちです。目標は願望ですからね。だから『○○点取ろう』という目標を掲げる時は、『○○点取りたい』という、願望の半分で十分。100の目標を半分の50に設定し直しても、その50を達成した時に次の目標でもう50を足せば、100の目標がクリアできますから。だから僕は目標だからといって高く掲げるのではなく、なるべく低く設定しましょうね、と言いたい。きっとうまくいくし、遥かに楽に実現可能になるからです。でも、僕が見ている限りは夢を描くどころではないという若者も多い。自分のダメな部分を上げ連ねて『こんな自分では無理だ』と、卑下してしまう。そういう心の状態では3ヶ月後の目標すら叶えられないんですよね」
ちんまりした生活を続けていると大事な時期が過ぎてしまいます
──そんな時はどうすれば…?「自分を『ダメだなあ』と否定するということは、ダメな自分を信じているということですよね。どうせ信じるなら、ダメなところも含めて自分のすべてを信じてあげればいいんです。そうすると、萎縮していたいい部分が必ず芽を出してきますから。ただ、僕らが若かった頃と今の若者は違いますからね。僕らが若い頃は『政治を何とかしなくちゃ』という思いに駆られ、語弊はありますが攻撃的精神に富んでいました。同時に協調性もあり、相反する精神を兼ね備えていたんです。ところが今の若者は、自分から奮い立って行動を起こす人が少なくなった。攻撃的精神が弱まり、協調性が強くなったんです。例えば今の大学生って居酒屋で〝いい感じ〟に〝おとなしく〟飲んでいますよね。周囲を嫌な気分にさせることなく終始〝いい感じ〟で終わる。僕らの若い頃は6〜7人も集まれば哲学論とかでヒートアップして『表へ出ろ!コノヤロー!』なんてこともよくあったのに(笑)今はハイサワーなんかをチビリチビリと何時間もかけて飲んでいる。不満があっても出さずに、スマートに振る舞うというか。僕は、若者はもっと自分を出してもいいと思うんですけどね。多少波風を立ててでも問題を解決する精神を持っていないと、描く夢もこじんまりとしてしまいますから。戸惑いを感じることができれば『ああ、そうか』となぜ現状に不満を持つのかを把握できますが、戸惑いすら感じないから『これでいいんだ』と、妥協を甘んじて受け入れているんでしょうね。不満を持ってもいいのに、強い相手を倒してストレス解消できるゲームで不満をなかったことにしてしまう。漫画やスポーツ観戦、SNSも同様ですが」
──そういった若者たちを見て、どう思いますか。
「非常にもったいないですね。思春期(12〜18歳)や青年期(19〜39歳)は傷つくことばかりが起こりますが、傷つきながらたくましくなっていく時期でもあります。『食うのがやっと』という、ちんまりした生活を続けていると、人生を賭けてまでしたいことができる大切な時期がすぎてしまう気がします。安定思考が強いからこそでしょうが、僕らのような高齢者になってから考えたほうがいいのでは?という堅実思考の若者が多いんです。しかも若さの特権といえる『怖いもの知らず』ではなく、怖いものに立ち入らないから〝心の怪我〟をした時に立ち直りにも時間がかかる。傷つくことを恐れる余り、実生活での成功体験も少ないんです。一方で懸賞小説の応募数は昔より断然増えていますから、高嶺の花的願望を持つ若者は増えていると思いますよ」
──先生は選考委員も務めていましたが、候補作を読んだ感想は?
「予選を通過した作品のはずなのに、どこか詰めが甘い印象がある作品が多いですね。参考文献という原典に引きずられて、あたかも自分が書いたかのように執筆したり、途中で文体が変わってしまったり。コピペの癖がついているのか『ここから作者が変わった?』と感じる時もあります(取材陣爆笑)つまづきを知らないから、夢の描き方が安易なんでしょうね。ただ、若者が持っているのは〝眠っている活力〟なので、導入路や放水路を作り活かすのは、本来は大人の役割だと思いますが」
──なるほど。改めて若者に言葉を掛けるなら。
「僕は『小さな怪我を怖がるな』と言いたいですね。小さな怪我を経験すれば大きな怪我をしなくなります。協調の関係性の中にいると精神がヤワになってしまうので、一歩先んじてみましょう、とも伝えたいです。一歩が成功すれば、二歩、三歩に繋げていけます。協調性ばかりを重んじていると活力は生まれないと思いますよ」
PROFILE
志茂田景樹(しもだ・かげき)
1940年3月25日生まれ 静岡県出身
小説家、絵本作家、タレント。中央大学法学部を卒業後、20以上の職を転々とし作家を志す。76年に「やっとこ探偵」が第27回小説現代新人賞を受賞、作家活動をスタートさせる。80年、「黄色い牙」で第83回直木三十五賞を受賞。主な受賞歴に「汽笛一聲」での第4回日本文芸大賞、第13回日本文芸家クラブ特別大賞、「キリンがくる日」での第19回日本絵本賞読者賞がある。執筆活動以外に奇抜なファッションセンスとキャラクターが注目されモデル、タレント、俳優としてバラエティやドラマなどに多数出演。98年には「よい子に読み聞かせ隊」を結成。タレント活動や小説執筆をセーブし、隊長として全国各地で読み聞かせ行脚を行い、童話・絵本執筆も手掛けるほか不登校の子どもたちの支援や心療内科を考える会など、社会的活動にも取り組む。また、Twitterでは人生相談において、真摯かつ心温まる回答で若者を中心に支持を集めフォロワー数は38万人を超える(7月末現在)。
公式HP
公式ブログ
公式Twitter
志茂田景樹(しもだ・かげき)
1940年3月25日生まれ 静岡県出身
小説家、絵本作家、タレント。中央大学法学部を卒業後、20以上の職を転々とし作家を志す。76年に「やっとこ探偵」が第27回小説現代新人賞を受賞、作家活動をスタートさせる。80年、「黄色い牙」で第83回直木三十五賞を受賞。主な受賞歴に「汽笛一聲」での第4回日本文芸大賞、第13回日本文芸家クラブ特別大賞、「キリンがくる日」での第19回日本絵本賞読者賞がある。執筆活動以外に奇抜なファッションセンスとキャラクターが注目されモデル、タレント、俳優としてバラエティやドラマなどに多数出演。98年には「よい子に読み聞かせ隊」を結成。タレント活動や小説執筆をセーブし、隊長として全国各地で読み聞かせ行脚を行い、童話・絵本執筆も手掛けるほか不登校の子どもたちの支援や心療内科を考える会など、社会的活動にも取り組む。また、Twitterでは人生相談において、真摯かつ心温まる回答で若者を中心に支持を集めフォロワー数は38万人を超える(7月末現在)。
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取材・文/内埜さくら 撮影/おおえき寿一