普通の人なら躊躇するような場所や人にも果敢に突撃していく怖いもの知らずな行動力と、さまざまな表現ツールを巧みに使いこなす器用さで、出版業界に独自の地位を築きあげる、村田らむさん。いまや〝ライフワーク〟ともなっているホームレスへの取材をはじめ、20年以上にわたってニッチな分野をマルチに開拓してきた男のプロとしての矜持を、ご本人にうかがった。
「自己評価が高くないから〝勝ちに行こう〟って気持ちが僕にはもともとないんです」
20年超の経験値が導きだした〝境地〟
──らむさんは、僕がこの世界に編集者として入って初めて一緒に仕事をした外注さん。思えば、ご自身の主戦場そのものは15年前の当時ともそんなに変わってませんよね?
「実はそうなんですよ。立ち位置が若干変わってきたってだけで、やっていることは、いまも昔も基本的には変わってない。ホームレスも樹海も、その頃からずっと追いかけてたことですしね。なんて言うか、もともと自己評価が高くないから、自分のなかにはそのジャンルで圧倒的に勝ちに行こうみたいな気持ちが全然なくて(笑)。組織に一度も属したことのない自分がここまでやって来られた〝秘訣〟みたいなものがあるとしたら、そういうとこなのかなって気はしますよね」
──元担当編集として言わせてもらえるなら、らむさんの最大の強みは、ムチャなことをやる狂った人だと思わせておいて、実は意外と常識人なところだと思いますよ。僕との初仕事は「遊園地のプールに女性ものビキニを着て行ったらどーなる?」っていうのを実際に検証しに行く罰ゲームみたいな企画でしたけど、らむさんにあれを嬉々としてやられていたら、入ってまだ1週間とかだった僕は、出版業界に絶望していたと思うんで(笑)。
「あれはホントに嫌だったなぁ(笑)。しかも、あの『どーなる?』シリーズが狭い範囲のなかでわりと評判になってしまったおかげで、あの頃は他社も含めて似たような企画を3、4誌同時にやらされて。結果的に度胸はついたけど、正直、心はだいぶすり減りましたよね。ただまぁ、その手の体当たり企画や潜入モノっていうのは、スタート地点がイラストレーターでコネもなかった僕にとっては、打ってつけの題材だったことも確かなんです。なにしろ、そういうものはだいたい『行けばそこにあるもの』。あとは、自分が飛びこめさえすればいいんでね」
──都内の公園なんかでは、いまやほとんどホームレスを見かけません。らむさんの得意分野のなかには、存在自体がレアになって、すでに「行けばそこにある」という感じではなくなっているものも多いですよね?
「たとえばホームレスだったら、グーグルマップであらかじめ当たりをつけておいたり、ある程度のリサーチは必ずするようにはなりましたね。航空写真で河川敷とかを見ていくと、草ボウボウの茂みのなかに不自然な空間があ ったりする。そういう場所に目星をつけてから現場に足を運ぶんです。相手は見つからないと思ってそこにいるから、行くとめちゃめちゃビックリされることもありますけどね」
──出版不況と呼ばれてひさしいこのご時世で、我々フリーランスが生きていくのは、かなりのハードミッションとも言われます。そのあたりらむさんご自身はどんな展望をお持ちで?
「意外と楽観視してますね。なかには廃業したりする同業者もいますけど、そういう人はまだ来てもいない危機にヘンにビビりすぎているんじゃないのかなって。PVっていう客観的な数字で評価が〝見える化〟されるウェブ媒体のシステムには、紙にはない潔さがありますし、アマゾンなんかをうまく活用すれば、かつての同人誌とかとは違う次元の自費出版も気軽にできる。組織や権威の後ろ盾がないところからでも、誰もがイチからメディアを作っていけるっ意味では、昔よりよっぽど自由度は高いと思いますしね」
──確かにそうですね。本気で思いますもん。15年前にもし動画サイトがあったら、らむさんはいま頃、大人気ユーチューバーになってたかもって。もちろん、コンプライアンス的にアウトなことも多々ありますけど(笑)。
「やっていることが地上波向きではないことは認めますけど、よくよく読めば、僕も案外〝エモい〟文章を書いてたりもするんですけどね(笑)。とりあえず、ここ数年で『東洋経済オンライン』のようなカタめの媒体でも書かせてもらうようになって、『あいつ、意外とちゃんとしてる』っていうのが段々浸透しつつあるので、このペースならあと10年は大丈夫かなって感じはしています。さすがに、45歳にもなって『新人賞』をいただけるとは思ってもみなかったですけどね(笑)」
──最後に将来に迷える若い世代に、なにかひと言ありましたら。
「ある程度の経験を積んだら、ホントに嫌な仕事は断ろう、ってことぐらいかな。最初から選り好みするのは違うけど、来た仕事をぜんぶ受けて不眠症になるほど働いてた一時期と比べたら、収入は減っても、いまのほうがはるかに人間的だと思いますし」
PROFILE
村田らむ(むらた・らむ)
1972年生まれ。愛知県出身。大学時代を福岡で過ごし、単身上京。以降、ライター・イラストレーター・漫画家・カメラマンなど多岐にわたって活躍する。ホームレス、ゴミ屋敷から廃墟や樹海、新興宗教までアンダーグラウンドな場所への身体を張った体験・潜入ルポが得意分野。近著に『廃村 昭和の残響』(有峰書店新社)などがある。
公式Twitter
村田らむ(むらた・らむ)
1972年生まれ。愛知県出身。大学時代を福岡で過ごし、単身上京。以降、ライター・イラストレーター・漫画家・カメラマンなど多岐にわたって活躍する。ホームレス、ゴミ屋敷から廃墟や樹海、新興宗教までアンダーグラウンドな場所への身体を張った体験・潜入ルポが得意分野。近著に『廃村 昭和の残響』(有峰書店新社)などがある。
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取材・文/鈴木長月