荒川でエイを釣る! 埼玉県でスッポンを捕る! 東京湾の干潟に筆を突っ込んでシャコを捕る! そして食べる……! 情報まで現地で調達するハラハラ&オロオロな捕獲記と、最後は調理して食べてしまう「キャッチ&イート」のスタイルが楽しい本『捕まえて、食べる』。著者であるフリーライターの玉置標本さんに話を聞いた。
上海ガニに近いと言われるモクズガニが多摩川のあたりで捕れるんですよ
エイもシャコもスッポンも捕まえて食べる〝初心者のプロ〟
──子供の頃はカエルを捕まえたりフナを釣ったり、山形で過ごした大学時代は海釣りをしたりと、生き物を捕ることは昔から好きだったそうですね。
「大学時代に捕ったものを食べる楽しさに気づいた感じですね。そのあと新小岩で一人暮らしをしていた時期に、今のような〝捕まえて、食べる〟活動をしたいなと思い始めて。調べたら、地元の川にウナギがいることが分かったんです。当時はネットにも情報がなくて、図書館で生態を調べながら釣りをしたら、2〜3回で釣れました」
──それから東京・葛飾区内の川でアカエイを釣ったり、埼玉ですっぽんを捕ったりして、調理もするようになったんですね。
「自転車で干潟に行ってアナジャコやマテガイを捕ったりと、活動範囲も広がっていきました。その記録も、最初は『私的標本』という個人サイトに載せていましたが、友達から『デイリーポータルZってサイトで書いてみれば ?』と勧められて。そこに応募したのがライターの活動の始まりです」
──自身のサイトには「ヘタな釣り」「悪い意味での男の料理」と書いてありましたが、〝プロっぽくなりすぎないこと〟は意識しているんですか?
「いろいろやって失敗して、たまに成功してという感じで、広く浅くやっています。よく〝初心者力〟という言葉を使うんですが、僕は何十年も釣りをしているのに、いまだに船に乗るとオロオロして見えるみたいで、隣の人が竿の持ち方から教えてくれたりするんです(笑)。そんな初心者力もあるせいか、初めてのターゲットを狙うことが自分の中では一番楽しいんですよ」
──著書の『捕まえて、食べる』には「調べすぎずに現地に行く」とも書いていましたよね。玉置さんの捕獲レポートは、読者も一緒にドキドキしたりオロオロしたりできるのがとても楽しいです。
「調べすぎると、調べたことをなぞって終わりがちなんですよ。だから『あのへんでシャコが捕れるらしい』『道具は筆でいいらしい』というぼんやりした情報だけで、現地に行ったりしてます。筆をどう使うのかも知らず、埼玉県出身なので干潟の知識もゼロで(笑)。あと後輩気質なので、現地のベテランさんに『教えてください』と頼んで一緒について回るのも好きなんです」
──ちなみに本で紹介したもの以外で、面白い生き物を捕れる場所は?
「多摩川あたりでは、上海ガニに近いと言われるモクズガニが捕れますね。上海ガニを食べたことがないので、味の違いは分からないですが、上海ガニに近いと信じて食べています(笑)。あとキノコ好きの友達の情報だと、あのトリュフに近い品種が、わりと町の近くで採れる場所もあるらしいです」
──その情報だけでワクワクします!
「〝捕まえて、食べる〟という行為自体がレジャーなんです。ポケモンもやったことがないですが、たぶんポケモンと同じ感覚だと思います(笑)」
──冬場の東京近郊で「捕まえて、食べる」のが楽しい場所はどこですか?
「としまえんは楽しいですよ。あそこのプールは、冬には釣り堀になるんです。遊園地で不思議な感覚が味わえますし、魚を焼いて食べれる場所もあります。あと冬でも潮干狩りはできます。ただ潮が引くのが夜中なので、干潟でマテ貝を捕るにも暗いし寒いですけど、〝悪いことしている感〟があって面白いです」
──最後に「食べる」というご褒美があるのも大事なんでしょうね。
「捕るだけでなく、食べれて、かつ美味しいという体験があれば、そんなに捕れなくても我慢できるんですよね。この取材の撮影に使わせてもらった『Catch&Eat 吉祥寺店』も、釣った魚を天ぷらや唐揚げにしてもらえる釣り堀で、いきなり野生のものを捕りに行くには……という人を誘うにもオススメです」
──そのハードルの低さが嬉しいです。これからも面白い情報を仕入れつつ、行って、捕って、食べてみる……という活動を続けていく感じですね。
「そうですね。ぼんやりした情報をもとに、なるべくいろいろな場所に行きたいです。僕は1回しかやっていないものが本当に多くて、どれも全然極めていないんですよ。毎年釣りに行く場所もあるんですけど、1年経つと忘れているので、また初心者気分で楽しんでいます(笑)」
【INFORMATION】
『捕まえて、食べる』
玉置標本著 新潮社刊
発売中
PROFILE
玉置標本(たまおき・ひょうほん)
1976年埼玉県生まれ。大学時代を山形県で過ごし、東京のウェブ制作会社に勤めた後、30歳でフリーライターに転身。『デイリーポータルZ』などで記事を執筆する。趣味は釣りを中心とした食物採取全般で、週に一度はなにか天然物を捕って食べている。家庭用手回し式鋳物製麺機の収集・研究も行っており、同人誌『趣味の製麺』は6号まで発行。
公式Twitter
『捕まえて、食べる』
玉置標本著 新潮社刊
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玉置標本(たまおき・ひょうほん)
1976年埼玉県生まれ。大学時代を山形県で過ごし、東京のウェブ制作会社に勤めた後、30歳でフリーライターに転身。『デイリーポータルZ』などで記事を執筆する。趣味は釣りを中心とした食物採取全般で、週に一度はなにか天然物を捕って食べている。家庭用手回し式鋳物製麺機の収集・研究も行っており、同人誌『趣味の製麺』は6号まで発行。
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