俳優、小説家、タレント、作詞家、ラッパー、ベランダーといくつもの顔を持つマルチクリエイターいとうせいこうさんが総合プロデューサーを務める『したまちコメディ映画祭in台東』(通称したコメ)が今年、開催10回目を迎える。映画館へ映画を観に行くことと映画祭との違い、映画祭の裏エピソード、独自の人脈術、世の中の生き抜き方など金言ばかりを散りばめつつ、「面白さ」をキーワードに語ってくれた仕事観とは—。
自分と仕事をして何か面白いモノを持って帰ってもらえたら、相手はまた刺激がほしくて戻ってくる。この好循環を意識的に作り、効率だけで縁を切らないのが最大の生き抜き方。鉄則ですね。
映画祭は出会いが広がる場でありクリエイティブな大人の文化祭!
──〝したコメ〟も遂に今年で開催10回目です。改めて映画祭の魅力を教えて頂けますか。「映画祭は僕を含めスタッフもゲストもお客さんもみんなお祭り気分でテンション高く参加するから、出会いの場にもなりうるんです。鑑賞後、近くの飲み屋なんかで映画の話をしていると隣の人と意気投合するなんて、よくあるパターン。映画を観ただけじゃ、映画館近辺で映画を観た人とはあまり知り合わないでしょ? でも映画祭に参加した人はパンフを持ってるから『今のアレ観たんですか?』と一緒に酒を飲んじゃうとか、よくあるんです」
──いとうさんも夜はお酒を?
「飲みますよ。いつだったかなあ。『短編コンペティション』終了後に飲んだ時、モンゴルの監督も同席してたんですよ。彼、日本語が話せないのに通訳の人がいなくなっちゃって(笑)監督同士がワーワー意見を交わし合っている中、何も理解できないだろうに、ニコニコとみんなと乾杯してたんだよね(笑)あのモンゴルの監督、楽しかったんじゃないかなあ。僕それを見て〝したコメ〟をやってきてよかったなと思った。あの光景を見て、映画祭って大人の文化祭みたいなモノなんだなって。自分なりの意見を真剣に言い合うこと自体がクリエイティブだし、それこそが僕が総合プロデューサーをする第一意義でもあるし」
──ではプロデューサーを務めるに当たり浅草を選んだ理由は?
「映画祭前後に立ち寄りたいお店がいっぱいあるから。だから『なるべくすぐ帰らないでね』と呼びかけてます。どこかのお店に入って下さいと。上映時間ギリギリまで店にいたお客さんに『そろそろ始まりますよ』と声をかけた店員もいるらしくて、そのお節介さ加減も下町ならではで選んで良かったなって。渋谷とか六本木じゃ、絶対に言ってくれませんからね」
──確かに(笑)
「余計なお世話だよねえ(笑)ただ、そういうエピソードを聞くたびに『ここでやってよかったなあ』とか、声をかけてくれた人って誰なんだろう。素敵だなあって思うんだよね。それって映画祭の〝祭〟の部分としての魅力ですから」
──今年も豪華ラインナップですが、いとうさんがお声がけを?
「ココにはこの人がいてくれなきゃ困るなってところには直接お願いしてますね。今年でいえば前回ビジュアルを描いてくれた『野良スコ』の内山勇士監督に幕間上映のマナーCMを作ってもらおうって、急に思いついたんだよね。で、話を振ってみたら本当に作ってくれたんだけど、それってノリだからね。仕事の発注じゃなくて『内山君が描いたら絶対に可愛く仕上がるし、きっと変な皮肉も入れて面白くしてくるだろうな』っていう、クリエイティブな気持ちから頼んだだけ。そういうことが往々にしてあるんだよね、この映画祭は」
──イメージでお伝えして恐縮ですが、いとうさんに頼まれたらよほどのことがない限り断れない気がします…。
「うん、それはあると思う(笑)たぶん、ビジネスライクな仕事をした経験がほとんどないからじゃないですか。ビジネスライクに徹すると『他の人でもいいじゃん』ってことになるじゃない。そうではなく、例えばミュージシャンと映画の話になぞらえた音楽の話をして、彼らが刺激を受けて上質なアルバムを作ることができたとします。そうしたら、また刺激がほしくなって僕の元へ帰ってくるよね。僕と仕事をしたら何かを持って帰ってもらうっていう好循環を必ず作るようにしているからだと思う。企画という器を作っておいて、実際に来たら面白くしてっていう好循環は、意識的に作るようにしてる。(僕が)いたら面白いから『あそこに行くと勉強になっちゃうんだよな〜』って感じで向こうも来るっていう」
──それは、どんな仕事でも応用できますね。
「もう絶対に使えますよ。仕事は1個2個載せてナンボだからさ。事務的に取り組む仕事もあるけどなるべく自分が楽しみたいじゃない。僕は原稿を書く時『自分はこのタイトルで果たして何を書くんだろう』と疑問を抱きつつ書き始めるの。で、1行目からインプロビゼーションで書いていくから、途中で発見があるんです。書いていて『え!?』と自分でも思うもん。それを書きながら追求していくわけ。結果、とんでもない結論に至ることがすごく多くて、それが楽しいから原稿の仕事を請けているんだよね。っていう風に発想を逆転していくと、仕事だから面白くないというよりは、面白くしなきゃ仕事じゃないでしょうっていう考え方になる。面白くなくちゃ、自分が疲弊するだけじゃない。そのためには努力が必要だけど、自分が請けた仕事をどのぐらい倍返しにして面白くできるかを常に考えてますね」
線を引くと出会いが少なく細くなる!遊びには意味があるんです!!
──映画祭も同じ考え方ですよね。「ただ呼ぶと利用することになっちゃうでしょう。僕のところに来てくれた人が『すごく楽しかった。面白かった』と感じてくれたら、また戻ってきてくれる。循環を作れず1回で終わる仕事をしている人は大体、10年も続かず消えていくし。長く第一線で生きていくのであれば、好循環をいくつも作って効率だけで縁を切らないのが、最大の生き抜き方。鉄則だね」
──自分を商品に見立てて、いかに長くご愛顧頂くかが秘訣なんですね!
「そうそうそう! しかも商品は自分1人では完成しないから、誰かと組んでひとつの商品と考えなくちゃいけないわけ。『アイツとだったらこう面白くできる』と考えてご愛顧頂くと同時に、自分もどのぐらいご愛顧できるかを考える。売ってるだけだど、自分が面白くないからね。具体例を挙げると昔から今でも僕がヒップホップをやる時は大体、DubMasterXがDJをやるんですね。で、この間、僕がヒップホップライブのMCを頼まれたことをツイートしたら、名だたる人たちのツアーに参加する激務の彼が『DJはどうするの?』と聞いてきたんです。仕事でもないのに向こうから、ですよ。だから『やってくれたら最高なんだよね』と答えたら『俺、スケジュール空けてあるんだよね』って。こっちは遠慮してたわけだから、気持ちとして堪らないものがあるよね。あとは正月や花見の季節に、僕の家に池田(貴史)とかグローバー(義和)、スネオヘアーや堂島孝平とかが集まってたことがあるんだけど、その様子を誰かがSNSにアップしたの。そうしたらDubちゃんが『DJはいらないのか』ってメールしてくるんですよ。仕事じゃなく宴会なのに(笑)クリエイティブなことと仕事に線を引かないって、すごく大事だよね。線を引く人は出会いが少なくなっていくから、どんどん細くなっていく。遊びにはたくさんの意味があることを知らないから」
──その思想を反映したのが、この映画祭と言えますね。
「僕の人生の縮図みたいなものですね。そもそも斎藤(工)君なんて〝したコメ〟ありきで作品を作ってきてますから。公開が来年2月なのに、ウチに先に出してくれているわけ。だから我々はお返しをするために、長くプロモーションが効く方法をプレゼントとして渡そうと。この好循環って、お中元とお歳暮みたいなモンなんだよね(笑)『ハムつけなきゃ』なんてやってるうちにお互いが大きくなるっていう(笑)『ありがとうございました』で終わる人とは、仕事をする必要はないっていういい例でしょ。仕事って、ビジネス以外にチャンスが埋まってるの。『アイツ面白いしつき合いいいから呼ぼう』みたいな、仕事だけじゃ割り切れなさを持つ人が、実は世の中を動かしている事実は忘れないほうがいいと思いますよ」
INFORMATION
■『第10回したまちコメディ映画祭in台東』
【INFO】
08年11月、東京都台東区において誕生した日本初の本格コメディ映画祭「したまちコメディ映画祭in台東」(略称したコメ)が今年、10回目を迎える。「映画(Cinema)」「したまち(Down town)」「笑い(Comedy)」という3つの要素を掛け合わせることで映画人、喜劇人、地元の皆さん、映画・喜劇を愛する皆さんが一体となって盛り上がれる、他にはない魅力を持った住民参加型の映画祭。上野と浅草を舞台に、台東区在住のクリエイターいとうせいこうさんが総合プロデューサーを務める。主なプログラムにオープニングセレモニー&上映『blank13』、「コメディ栄誉賞」小松政夫さん、シネマ歌舞伎『め組の喧嘩』inしたコメ、声優口演ライブ「没後40年チャップリン特集」、短編コンペティション「したまちコメディ大賞2017」などがある。9月15日(金)〜9月18日(月・祝)開催
公式HP
PROFILE
いとうせいこう
1961年3月19日生まれ。東京都出身。
編集者を経て作家、クリエイターとして、活字・映像・音楽・舞台など、多方面で活躍。86年、アルバム『建設的』にてCDデビュー。88年に小説『ノーライフキング』で作家デビュー。99年、『ボタニカル・ライフ』で第15回講談社エッセイ賞受賞。執筆活動を続ける一方で宮沢章夫、竹中直人、シティボーイズらと数多くの舞台・ライブをこなす。盟友みうらじゅんとは共作『見仏記』で新たな仏像の鑑賞を発信し、武道館を超満員にするほどの大人気イベント『ザ・スライドショー』をプロデュースするなど、常に先の感覚を走り、創作し続ける。また、音楽家としてもジャパニーズヒップホップの先駆者として活動。テレビ朝日「フリースタイルダンジョン」出演中。
公式Twitter
■『第10回したまちコメディ映画祭in台東』
【INFO】
08年11月、東京都台東区において誕生した日本初の本格コメディ映画祭「したまちコメディ映画祭in台東」(略称したコメ)が今年、10回目を迎える。「映画(Cinema)」「したまち(Down town)」「笑い(Comedy)」という3つの要素を掛け合わせることで映画人、喜劇人、地元の皆さん、映画・喜劇を愛する皆さんが一体となって盛り上がれる、他にはない魅力を持った住民参加型の映画祭。上野と浅草を舞台に、台東区在住のクリエイターいとうせいこうさんが総合プロデューサーを務める。主なプログラムにオープニングセレモニー&上映『blank13』、「コメディ栄誉賞」小松政夫さん、シネマ歌舞伎『め組の喧嘩』inしたコメ、声優口演ライブ「没後40年チャップリン特集」、短編コンペティション「したまちコメディ大賞2017」などがある。9月15日(金)〜9月18日(月・祝)開催
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PROFILE
いとうせいこう
1961年3月19日生まれ。東京都出身。
編集者を経て作家、クリエイターとして、活字・映像・音楽・舞台など、多方面で活躍。86年、アルバム『建設的』にてCDデビュー。88年に小説『ノーライフキング』で作家デビュー。99年、『ボタニカル・ライフ』で第15回講談社エッセイ賞受賞。執筆活動を続ける一方で宮沢章夫、竹中直人、シティボーイズらと数多くの舞台・ライブをこなす。盟友みうらじゅんとは共作『見仏記』で新たな仏像の鑑賞を発信し、武道館を超満員にするほどの大人気イベント『ザ・スライドショー』をプロデュースするなど、常に先の感覚を走り、創作し続ける。また、音楽家としてもジャパニーズヒップホップの先駆者として活動。テレビ朝日「フリースタイルダンジョン」出演中。
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取材・文/内埜さくら 撮影/おおえき寿一