昔は街中でチラホラ見かけたエロ本の自販機。最近めっきり見なくなった……と思いきや、地方のロードサイドには現役で活躍中のものも多いそう。そんな全国のエロ本自販機を1人で巡り、『全国版 あの日のエロ本自販機探訪記』(双葉社)として発表したのが黒沢哲哉さんだ。その佇まいの面白さ、関わる人間の面白さ、知られざる内部の魅力等を存分に語ってもらった。
「ただの懐かしい存在ではなく今の小屋の佇まいが面白い」
岐阜の山奥のエロ本自販機に老人が軽自動車で買いに来た
──約350のエロ本自販機を紹介した大著を出版されましたが、探し始めたきっかけは何だったんでしょうか?
「もともと昭和の懐かしいものが好きなんですが、エロ本自販機はドライブついでに見て、『最近はあまり見ないよなぁ』と思っている程度でした。それがネットで調べ始めたら、想像以上にスゴい数があることが分かって」
──それで本格的に探し始めたと。
「はい。最初は見に行く場所も関東近郊でしたが、途中から連休を使って新潟とかまで行くようになって。地方に行くと、自販機の文化も小屋の佇まいも全然違うんです。そこから『これは仕事になるかもしれない』と欲も出てきて」
──実際に、出版の話も決まったんですね。
「それからは下調べをして計画的に回るようになりました。ただ、不思議なもので、『東北は一周したから次は別の地方だ』と思っていると、帰った翌日にまた新しい自販機が見つかるんです(笑)だから3〜4回は行っている地方もありますし、2014年の1月頃に撮影を始めて、1年で終えるつもりが3年半もかかってしまいました」
──また、都市部にあるイメージのエロ本の自販機が、地方の街道沿いのオートスナックやコイン洗車場で生き延びていた……という話も面白かったです。
「本当に山道のような場所にある自販機もありますし、大抵は掘っ立て小屋の中に設置されています。興味のない人にとっては存在しないも同じもので、地元でも知らない人が多いんです。だから2ちゃんねるのドライブスレッドや、地域情報の掲示板といった、ネットのほうが情報源になるんですよ」
──その掘っ立て小屋も、木に埋もれていてほぼ見えなかったり、日本海の断崖絶壁に建っていたり、ロケーションが最高ですよね。選挙ポスターが張られたエロ本自販機の小屋には笑いました(笑)
「今の佇まいがいちいち面白いんですよ。だから懐かしい存在ではなく、今の小屋の面白さをメインに紹介する本にしました。また、どんな人がくるのか様子を見てみたり、撮影中に声をかけられた地主さんに話を聞いてみたり、業者に取材してみたりと、人の顔が見える本にするのも狙いでしたね」
──廃墟のような見た目でも、商品を補充する人がいて、定期的に買っている人がいる……というのも面白いですよね。
「また、買いに来るのも高齢の人が多いんですよ。商品のラインナップもほとんど熟女モノで、あと人妻とか、息子の嫁とか。岐阜の山奥の、熊が出そうなところにあるエロ本自販機の撮影中に、おじいちゃんが軽自動車で買いに来たこともあって、『この山道をエロ本のために上がってきたのか……』と(笑)」
──出版後もエロ本自販機探しは続けられているんですか?
「続けています。読者の方がツイッターで本に載ってない自販機も教えてくれて、20か所近くは回っていますかね。まだ50くらい行かなきゃいけないところがあって大変で……」
──見に行くのが義務感に変わっているのが面白いですね(笑)本も出てしまって、すぐお金にはならないのに。
「この本も取材費は全部自腹で、全然儲かっていませんから。日本中を回りましたが、泊まりがけのときは必ず車中泊で、食事もコンビニでしたし」
──過酷ですね……。実際にエロ本自販機を見に行くとき気をつけるべきことは?
「先客がいた場合はいったんその場を離れる」と本にはありましたが。「エロ本自販機のある場所は、いわゆるハッテン場や、露出マニアの待ち合わせ場所になっていることもあります。利用者同士、お互いの領域を犯さないようにしてほしいですね。あと、小屋の中は別世界なので、その様子をぜひ楽しんでほしいです。張り紙だらけの小屋も多くて、『いらっしゃいませ』『お札はこっちに入れてください!』『薄消し!』『丸見え!』とか、無人なのにムチャクチャ饒舌なんです(笑)外観の素っ気なさと、中の本音むき出しの感じのギャップが面白いんですよ」
──本は外観の写真が中心なので、自分で行って中を見てみたくなりました。
「本に書かれた住所を手がかりに、ネットで検索しておけば辿り着けるはずなので、ぜひ行ってみて下さい。あと、この本に載っていない自販機があった ら教えてください!僕も行きます(笑)」
【書籍情報】
『全国版 あの日のエロ本自販機探訪記』
双葉社 2376円
PROFILE
黒沢哲哉(くろさわ・てつや)
1957年、東京の葛飾柴又生まれ、早稲田大学第二文学部卒業。学生時代にライターとしての仕事を開始。卒業後は勁文社に入社し『全怪獣怪人大百科』などの編集に携わる。84年からフリーランス。主に昭和のサブカルチャーやマンガ研究、マンガ原作の分野で活動。
公式Twitter
『全国版 あの日のエロ本自販機探訪記』
双葉社 2376円
PROFILE
黒沢哲哉(くろさわ・てつや)
1957年、東京の葛飾柴又生まれ、早稲田大学第二文学部卒業。学生時代にライターとしての仕事を開始。卒業後は勁文社に入社し『全怪獣怪人大百科』などの編集に携わる。84年からフリーランス。主に昭和のサブカルチャーやマンガ研究、マンガ原作の分野で活動。
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取材・文/古澤誠一郎