渋い風貌と歌声で性別年齢問わず幅広い世代を魅了するクレイジーケンバンドのリーダー&ヴォーカル横山剣さんが主演を務めた映画『イイネ!イイネ!イイネ!』が6月24日より公開される。1859年の開港以来、多国籍な文化が錯綜する横浜を舞台にCKBメンバーが総出演。伊原剛志さんや中野英雄さん、金子賢さん、山口智充さんらが脇を固めたことも話題となっているが横山さんが作品に懸けた思いとは――。唯一無二の個性を出せた経緯や辛い時期の独自の乗り越え方も伝授してもらった。
小さな幸せを見つけるのは誰でも持つことができる才能なんです。仕事が辛い時こそ物事を都合よく考えて小さな喜びを見つけてみては。
寅さんに洋画と映画のいい部分がギュッと濃縮されている作品です
──初主演が決まった時の感想は。「(演技は)専門外の領域なので最初は『イヤだ』と断りモードだったんです。ですがやると決めてからは、結構リクエストをしてしまいました。だって自分役を自分でやるんだから」
──韓国での撮影もですか?
「僕の希望でツイストを踊るためだけに行ってきました(笑)僕が脳内でイメージしていた、夕方の河原でツイストを踊っている時に電車が横切る風景を、そのまま再現して頂いたんです。アン・ソンギさんが出ている韓国映画を観て、確かこんな風景があったような気がしてね」
──あの場面は哀愁が漂っていますよね。その上カッコイイ!
「役とはいえ、僕も自分で自分をかわいそうだと思いました(笑)ただ、ハッピーエンドにはしたくなかったんですよね。そのほうがCKBのライブに来たお客さんがグッとくるかな、と」
──一方でクスッと笑えるシーンもあります。パンツェッタ・ジローラモさんが登場する場面とか。
「ほんの少ししか出ていませんから、あれじゃあジローラモさんの〝無駄遣い〟ですよねえ(笑)しかも台本とは違う台詞が頓珍漢でチャーミングなんですよ。車で乗りつけた彼に僕が『(隣に乗せている美女は)誰?』と聞くんですが、彼は自分の自己紹介を始めてしまうんですよ」
──あはは!全編横山さんの〝好き〟が凝縮された作品ですが、テンションが上がった撮影場所は。
「3カ所ほどあります。1つはみんなで本牧ふ頭を車と単車で流すシーン。あの道は地元の人なら分かるんですけど、つい飛ばしたくなるんですよね。僕も撮影じゃなければ危なかった(笑)2つ目が元町にあるダンスホールのクリフサイド。老舗なのですが以前、CKBと野坂昭如さんとでカウントダウンをしたこともある思い出の場所なんです。3つ目は伊原さんと中野さんと一緒に撮影した、小高い丘です。ダンボールを尻に敷いて坂を下りる遊び、子供の頃によくしていたんですよ」
──幼少期、横山さんはあるクラブを運営していたそうですね。
「不良クラブという名の子供プレイボーイクラブのことですね。男性会員は僕とカツマタってヤツ2人だったんですけど、彼は見張り役。後はプレイメイト役の女の子…エリート女子が十数名ぐらい、昼休みの25分間で入れ替わり立ち代わり入ってくる。その部屋にいる男子は僕のみで、セクハラ三昧でした(笑)僕は〝子供ヒュー・ヘフナー〟だったんです。あの時間だけ女の子たちは大胆に豹変してくれましたから、女の人は大義名分に弱いんだなと学びました」
──(取材陣大爆笑)幼い頃から破天荒ですよね。小学校5年生の時には中古レコードの販売も。
「屋台でやってましたねえ。最初はオジサンがマイクを使って宣伝しながら売っていたんですけど、オジサンが油断している隙にマイクを奪ってマネをしたのがきっかけです。そうしたら『手伝え!』と言われたので、その日手伝っていた植木屋さんに断りを入れて移籍しました(笑)」
──小さい頃から今も、好きなものが変わらないんですね。
「そうですね。車、バイク、音楽に映画…女の人が好きなところも変わりませんね。お酒が飲めないのも子供の頃と同じです。最近は少量ならカクテルを飲めるようにはなりましたけど」
──どんなカクテルを?
「カルアミルクです(と言った瞬間全員大爆笑)。横浜にはいいバーや飲み屋がたくさんあるのに、飲めないのはもったいないと思ったんですよ。バーに行って飲まないのも良くないので、カルアミルクをちびちび飲んでいます」
世の中甘くはないけど「イイネ!」は勇気と前進する力をもらえます
──横山さんは子供の頃、今のようなカッコイイ大人になると想像できていましたか?「子供の時に思い描いていた〝大人のコスプレ〟を今、しているような感じなんです。そういう意味では幼少期からシナリオを準備してあったというか、想像通りの大人にはなっていますね」
──10代の頃にはすでに、ファッションのコンセプトも決めていましたよね。
「当時のコンセプトは香港のチンピラでした。中学1年の時に衝撃を受けたブルース・リーと、『アメリカン・グラフィティ』のフィーリングを混ぜちゃったんです。昔から文化をミックスさせることが好きだったんですよね。海外ではたまに、間違ったミクスチャーをしている人を見かけますけど。取り返しのつかないタトゥーが入っているのを見ると『誰か教えてやれよ』と思いますよね…」
──はい(笑)もう大人になった人は、どうしたら横山さんのようになりたい大人になれますか?
「僕は表面上はなりたかった大人になっていますけど、内容としては『こんなはずじゃなかった』と思う部分、いっぱいありますよ。クルーザーが欲しかったとか、もっといい車に乗りたかったとか、叶っていない夢がありますし」
──ですが横山さんのように〝軸〟を持ちたい人は多いかと。
「行き当たりばったりの人生を歩んできているので、僕にも〝軸〟なんてないんですよ。全体が大きくブレすぎているから、大きな幹に見えるだけなんです。人生は描いた理想が全て叶うわけじゃありませんから、物事を都合よく考えるしかない。考え方に柔軟性を持たせるしかないと思います。大きな理想を叶える前に、小さな喜びで心を満たしてあげるんです。たとえば昼飯に好物を食べて午後の仕事にやる気を出すとか。仕事が終わった後の予定を想像して、ワクワクしてもいいですし。僕なんて昔は、仕事が終わったらバイク雑誌を眺めるんだって考えただけで興奮していました。小さな喜びを見つけられるって、誰でも持つことができる才能じゃないかな」
──幸せの見つけ方が上手い!
「それはあると思います。僕は入ったことはないですけど刑務所に入った友達から聞くと、あの中にいると小さな幸せを見つける工夫をするようになるらしいです。後は、仕事があるだけでいいじゃないかと。僕は仕事がなくて困った時期がありましたから」
──横山さんにもそんな時期が!?
「若い頃ですよ。だけど当時は港に行けば何かしら仕事にありつけることを思い出して行ってみたんです。コンテナから荷物を運ぶ作業とか、船の横に輸出車を運ぶ陸送の仕事とか。人って必要に迫られると小さなことにも有り難みを見つけられるんだと知ったのも港にいた頃です。重い荷物を運ぶのは辛いですけど、考えようによっては給料をもらえる上に身体もマッチョになれる。しかも日焼けして見た目もカッコよくなる。本当は辛いだけの仕事ですけど…(笑)続ける為に自分に都合よく考えるって感じですよ」
──なるほど。では「イイネ!」で人生は上手くいきますか?
「世の中甘くはありませんが『イイネ!』がないよりはあるほうがマシだと思います。よくない時に使うと、起きた現実に対して『まあいいや』と思うことができて一歩前進する力をもらえるでしょ。ファーストプライオリティだけ残して、後は置いておく勇気をもらえる言葉でもありますから」
──ありがとうございます。最後に改めて映画の魅力を。
「僕が幼い頃から現在に至るまで観てきた、好きな映画の要素がギュッと詰まった作品です。寅さん的なラストに加えて映画『スージー・ウォンの世界』の雰囲気も盛り込まれていて、ぐっさん(山口智充さん)が『アメリカン・グラフィティ』に出てくるDJウルフマンジャックに思える場面もある。懐かしさを揺さぶるツボとツボの経絡に鍼を打つように、随所に織り込まれてる感じです。ただし、僕の芝居の力量についてはノーコメント、評価ナシでお願いしますね(笑)」
INFORMATION
映画『イイネ!イイネ!イイネ!』
【INFO&STORY】
横浜・本牧で育った幼なじみのケン(横山剣)、ドブオ(伊原剛志)、トニー(中野英雄)。進む道は異なりながらも、子どもの頃から「イイネ!」を合言葉に3人の男同士の友情は大人になっても続いていた。ずっと夢見ていた横浜スタジアムでのコンサートが決まった夜、横浜の街で怪しげな中国人たちに車で連れ去られそうになった女性を助けたケンは、彼女に一目ぼれしてしまう。久し振りに落ちた恋、病に倒れた母、組の内部抗争……3人の男たちがそれぞれの人生の岐路に立たされていた。17年にバンド結成20周年を迎えるクレイジーケンバンドのメンバーが総出演し、横浜を舞台に描く男たちの友情物語。
【CAST&STAFF】
出演/横山剣、ハリン、中野英雄、金子賢、山口智充、宮川大輔、阿部亮平、上松大輔、駿河太郎、小嶋陽菜、パンツェッタ・ジローラモ、大鶴義丹、菜々緒、秋吉久美子、伊原剛志ら
監督/門馬直人
脚本/一雫ライオン
配給/KATSU-do
公式HP
6月24日(土)よりTOHOシネマズ新宿ほか全国ロードショー
(C)2017『イイネ!イイネ!イイネ!』製作委員会
PROFILE
横山剣(よこやま・けん)
1960年7月7日生まれ 神奈川県出身
クレイジーケンバンド(通称CKB)のヴォーカリスト。1981年からクールスRCのメンバーとして活躍し、91年、総勢15名からなるバンドCK’Sを結成。97年にCK’Sを母体とする5人編成のクレイジーケンバンドを結成。98年、ファースト・アルバム『パンチ!パンチ!パンチ!』でデビュー。その全方向型音楽はクラブ・フィールドを中心に話題となり、瞬く間に全国に広がった。16年にデビュー35周年を迎え今年はバンド結成20周年。スペシャルライブ「CRAZY KEN BAND 20TH ATTACK! CKB[攻] 」は9月2日(土)横浜赤レンガ野外特設ステージにて。
公式HP
映画『イイネ!イイネ!イイネ!』
【INFO&STORY】
横浜・本牧で育った幼なじみのケン(横山剣)、ドブオ(伊原剛志)、トニー(中野英雄)。進む道は異なりながらも、子どもの頃から「イイネ!」を合言葉に3人の男同士の友情は大人になっても続いていた。ずっと夢見ていた横浜スタジアムでのコンサートが決まった夜、横浜の街で怪しげな中国人たちに車で連れ去られそうになった女性を助けたケンは、彼女に一目ぼれしてしまう。久し振りに落ちた恋、病に倒れた母、組の内部抗争……3人の男たちがそれぞれの人生の岐路に立たされていた。17年にバンド結成20周年を迎えるクレイジーケンバンドのメンバーが総出演し、横浜を舞台に描く男たちの友情物語。
【CAST&STAFF】
出演/横山剣、ハリン、中野英雄、金子賢、山口智充、宮川大輔、阿部亮平、上松大輔、駿河太郎、小嶋陽菜、パンツェッタ・ジローラモ、大鶴義丹、菜々緒、秋吉久美子、伊原剛志ら
監督/門馬直人
脚本/一雫ライオン
配給/KATSU-do
公式HP
6月24日(土)よりTOHOシネマズ新宿ほか全国ロードショー
(C)2017『イイネ!イイネ!イイネ!』製作委員会
PROFILE
横山剣(よこやま・けん)
1960年7月7日生まれ 神奈川県出身
クレイジーケンバンド(通称CKB)のヴォーカリスト。1981年からクールスRCのメンバーとして活躍し、91年、総勢15名からなるバンドCK’Sを結成。97年にCK’Sを母体とする5人編成のクレイジーケンバンドを結成。98年、ファースト・アルバム『パンチ!パンチ!パンチ!』でデビュー。その全方向型音楽はクラブ・フィールドを中心に話題となり、瞬く間に全国に広がった。16年にデビュー35周年を迎え今年はバンド結成20周年。スペシャルライブ「CRAZY KEN BAND 20TH ATTACK! CKB[攻] 」は9月2日(土)横浜赤レンガ野外特設ステージにて。
公式HP
取材・文/内埜さくら 撮影/おおえき寿一