NHK連続テレビ小説『まれ』二木高志役での好演、黒猫チェルシーのフロントマンとしての活躍と、マルチな才能を発揮する渡辺大知さんが、次は映画監督としての資質を開花させた。大学の卒業制作として作られた映画『モーターズ』の全国公開が決定したのだ。“空回りでちょうどいい”と銘打たれた本作は、日頃“男を頑張っている”なら共感できてグッとくるはず! 25歳の若さでキラリと光る芸術作品を手掛け続ける彼の辿ってきた人生とは!? 映画へ込めた思いとともに、仕事への情熱の持ち方を探る!
自分が死ぬ前に観ても好きでかつ死語も残る作品を作りたかった
──初監督作品は女性はもちろん、多くの男性が共感していますね。「主人公の田中のように、男はみんなダサいんですよ(笑)そのダサさを認めずに、お洒落ぶってるヤツが一番カッコ悪い。男はもっと、自分のダサさと向き合わないと。今回、ダサくて観てられない一歩手前のギリギリを狙ったから、中二病にはなってないけど、中二病感はあるかもしれない。だから共感して頂けたのかもしれません」
──渡辺さんは小学校の頃は、脚本家を目指していたんですよね。
「職業は何でもよかったんですけど、お話を作る人でありたかったんです。当時から小説も書いていて、『シャーロック・ホームズ』を書いたアーサー・コナン・ドイルのオタクでもあったんですね。SFとか推理小説が好きになったことで書き始めました」
──黒猫チェルシーとしてデビュー後も書き続けていたとか。
「ライフワークとして続けていたんですけど、形にしたことはなかったんです。文化祭の劇で担当する程度で。職業として映画監督になりたいとは正直、考えていないんですけど、脚本は形にしないと意味がないし、一生に一度は映画を撮りたいという夢は持っていて、ある日ふと気づいたんです。映画撮りたいって言ってるけど、いつ撮るんだよ! 明日死ぬかもしれないのに、何でやりたいことをやらないんだ!? って。それで、今回に至ったわけです」
──なるほど。脚本の執筆は、相当苦労されましたよね。最初は女性が主人公だったそうですが。
「詳しいですね(笑)完成までに1年かけてます。寝る時間を削って毎日書いて、最初の半年で女性を主人公にした脚本を仕上げたんです。それを捨てて、整備工場を舞台にした恋愛絡みの青春映画という舞台は変えずに、もがきながら書き上げた部分はありますね」
──作品を観た側として、女性が主人公のストーリーも気になります。
「好きな作品ですけど、僕が撮る必要はない気がしたんです。自分らしくないというか、背伸びした感じというか。短いスパンで忘れられてしまうものではなく、自分が死ぬ前に観ても好きだなと思える作品にしたかったし、自分が死んでからも残るものを作りたかった。そういう意味では女性が主人公の脚本は甘かったから、実現しなくてよかったんです。技術は乏しいけど、公開された作品のほうが、人が生きている感じがするので。そこは自信があります」
──確かに人が生きている感じを受けました。選曲が作品とマッチしているのも理由だと思います。
「選曲が渋いって言われるんですよね。僕が生まれる前に発売されたCOMPLEXの『BE MY BABY』とか。でも、いい作品は時代を超えるんです。それに、あの曲って田中の青春時代に合っていて、田中の脳内に流れてるイメージにピッタリだったんです」
──確かに! 主人公の田中は、渡辺さんの40歳の理想像なんですよね。
「というより、彼のようなヤツがいたらめっちゃ好きだなと思うし、自分が40歳になった時、ああいう言動をいいと思える人になりたいというのはありますね」
──続々と公開が決まっているので、楽しみにしている人へ、田中がどんな男かも教えて下さい。
「僕の地元(神戸)は、すごく都会でもなければ田舎でもない、だけど都会に出るには時間がかかる住宅街なんです。そういう特筆すべきことがない場所に住んで、悩んだりしながらも、幸せだと実感できるヤツって、すごくカッコイイと思うんですね。それが田中なんです。東京は刺激が多くて楽しいところではあるけど、生きる場所は関係ないんですよ。僕の地元の仲間は地元で楽しく生きてるし『会社がつまんねえ』って愚痴を吐くこともありますけど、それすら楽しそうですし。仲間に相談して、『何てちっぽけな悩みで、わざわざ東京へ悩みに行ってるんだろう』と、励まされたこともあります。だから、田中という存在で、あるいは、『モーターズ』という作品を通じて、地元を愛してくれる人が増えるとうれしいんですよね。ちょっとおこがましいけど、特に地方の人には、『自分の地元も悪くないな』と感じてほしいです」
──その思いが込められているからでしょうか。ロケ地も地元感が出ている印象を受けました。
「ロケハンで撮影したい場所はめちゃくちゃ沢山見つけたんですけど、現場で撮影が押して、移動時間を考えると急遽、近くで見つけるしかないケースも多々ありました。もちろん、妥協はしていません。僕は、人を撮ることは街を撮ることだと考えていて、その人の生活が見えると、その人の住んでいる街も見えてくると捉えているので。映画に出てくるスナックは第二候補だったんです。この映画にも出演してくれた前田(裕樹)君とよく一緒に飲みに行く馴染みの場所だったから、その空気は出てたんじゃないかと」
──整備工場は事前のロケハンですか?
「あれこそ運命の出会いでした。僕は車も持ってないし、こっちではバイクにもあまり乗っていないんですね。その状況で友だちに聞いて回ったら、友だちの親父さんが整備工場をやっていると聞いて、見に行ったのがあの場所なんです。ロケ地はホント、人との出会いで決まりましたね。同時に自分は、映画にしろバンドにしろ、人と一緒にもの作りをしたかったのかと、改めて思い知らされた瞬間でもありました」
自分がやると決めたことは誰に何を言われようと即実行が鍵なのでは
──高校時代にバンドでデビュー、ドラマ出演、監督業と、渡辺さんの人生を羨む人も大勢いるのではないでしょうか。「僕には全然、誇れるものはなくて、やりたいことと出会ってしまった、という感じなんです。映画だって別に、撮らなくたっていいと思うんですよ。バンドだけやってればいいのに(笑)でも、後悔ばっかりの人生のくせに、後悔したくないって気持ちがあるんですよね。だから、自分がやると決めたことは、誰に何を言われようがやる。ただそれだけなんです。バンドに関しても、バンドマンで食って行く! という時期って実はなかったんです。理屈で動いたわけじゃなくて、やると決めたらバンドを組んでいて、気づいたらデビューしてた。結果、本気でやりたいと思ったことしかやってないという実感はありますけど」
──やりたいことを職業にするにはどうすれば?
「偉そうなことは言えませんけど、自分が憧れるような活動をしている人が見つかってるなら、それはもう“出会っちゃってる”んですよ。だから、いいなと指をくわえて見てるんじゃなく、やってしまえばいいのではないかと。例えばバンドが組みたいとしたら、そう思った時点で組んでないと、夢物語で終わってしまう。大学生でも“映画作りとは”みたいなことばかり考えすぎてる人がいるんですよ。『映画が撮りたい』と言うから、『何を撮ったの?』と聞くと『いや、今ちょっと考えてて…』というタイプが。夢を追ってそれが叶ってない時って、楽しい人生とは言えませんよね。だから、とにかく行動に移さないと」
──行動したからといって、渡辺さんのように順調な人生を送れるとは思えない人もいるかと。
「僕のしていることで言えば、バンドを組むとか映画を撮るとか、みんなスゴイことだと勘違いしてるんじゃないですか? みなさんにとって、音楽とか映画って、生活の近くにある娯楽ですよね。その、身近にあるものを、僕は作っているだけなんです。もちろん、近いからこそ絶対に手抜きは許されませんけど」
──先ほど“出会っちゃってる”と言いましたが、渡辺さんにとって音楽もそういう存在ですよね?
「そうですね、まさに出会っちゃいました。中学の頃、ギターの授業があって、家にあった父親のアコースティックギターで、こっそり練習したんです。『アイツ、急に上手くなってない?』と言われたくて(笑)で、当時好きだった女の先輩が卒業するタイミングで、曲をプレゼントしたくて。脚本を形にするより時間がかからずできるだろうと着手したら、1日で完成して、『あ、これだ!』と。それと同時期に、憂歌団というブルースバンドの昔の映像がテレビで流れてるのを観て、全身に電撃が走って音楽に魅入られて、バンドを組んだんです」
──それって現在の黒猫チェルシーとは別のメンバーですよね?
「そうです、自分が好きな音楽の話をできないメンバーと組んだから、続きませんでした。で、今のメンバーと高1で同じクラスになって、バンドを組める! と確信したんです。音楽とも“出会っちゃった”んですけど、結局は人と“出会っちゃった”んです。僕は一人じゃ何もできなかった。やると決めて突き進んだ先に、人と音楽との出会いがあった気がします」
ひと言ずつ丁寧に言葉を選びながら語ってくれた渡辺さん。来年のシングル発売&ツアーと、次回作も楽しみにお待ちしております!
INFORMATION
■映画『モーターズ』
INFO&STORY
郊外にある車の整備工場で働く冴えない男、田中(渋川清彦)は工場の同僚・村田(川瀬陽太)や可愛がっていた新入りのタケオ(犬田文治)らとなんとなく日々を過ごしていた。タケオは工場を辞め、バンドをやりたいという話を田中に打ち明ける。そんな折、一組のカップルが車の修理で工場にやってきた。その彼女、ミキ(木乃江祐希)に恋心を抱く田中。ミキにずっといて欲しい余り、車のパーツを隠してしまう。2人は工場に居座らざるを得なくなるが、その間に田中は彼氏の前田(前田裕樹)との仲を深めていく…。ロックバンド黒猫チェルシーのボーカリストで、映画「色即ぜねれいしょん」(田口トモロヲ監督)主演でデビュー以降、俳優としても活躍する渡辺大知の初監督作品。東京造形芸術大学の卒業制作として製作され、「PFFアワード2014」では審査員特別賞を受賞した。
CAST&STAFF
出演/渋川清彦・犬田文治・木乃江祐希・前田裕樹・川瀬陽太・鹿江莉生・菅沼拓馬・山本浩司・中野碧・スギム・中野翔平・酒川雄樹・渡辺大知・森岡龍・片倉わき・冨永周平
監督・編集・音楽/渡辺大知
脚本/渡辺大知・磯龍介
配給/SPOTTED PRODUCTIONS
公式HP
11月14日(土)~11月27日(金)
新宿武蔵野館レイトショー
(C)2014 team モーターズ
PROFILE
渡辺大知(わたなべ・だいち)
1990年8月8日生まれ 兵庫県出身
ロックバンド黒猫チェルシーのフロントマン。高校在学中の07年に結成。10年、ミニアルバム「猫Pack」でメジャーデビュー。14年4月には初のベストアルバム「Cans Of FreakHits」発売。ニューシングル『グッバイ』が16年初頭に発売。16年2月26日から全国7都市リリースツアーも決定した。俳優活動では「日本アカデミー賞」新人俳優賞を受賞した09年公開の『色即ぜねれいしょん』を筆頭に、NHK連続テレビ小説『カーネーション』『まれ』、NHKドラマ『デザイナーベイビー』、映画『くちびるに歌を』『ボクは坊さん。』、舞台『男子!レッツラゴン』、NTT docomo、コカコーラ、サントリーのCMなど数々の映画やドラマ、舞台、CMに出演。本作では監督、脚本、編集、音楽、劇中歌を手掛けた。
公式Twitter
■映画『モーターズ』
INFO&STORY
郊外にある車の整備工場で働く冴えない男、田中(渋川清彦)は工場の同僚・村田(川瀬陽太)や可愛がっていた新入りのタケオ(犬田文治)らとなんとなく日々を過ごしていた。タケオは工場を辞め、バンドをやりたいという話を田中に打ち明ける。そんな折、一組のカップルが車の修理で工場にやってきた。その彼女、ミキ(木乃江祐希)に恋心を抱く田中。ミキにずっといて欲しい余り、車のパーツを隠してしまう。2人は工場に居座らざるを得なくなるが、その間に田中は彼氏の前田(前田裕樹)との仲を深めていく…。ロックバンド黒猫チェルシーのボーカリストで、映画「色即ぜねれいしょん」(田口トモロヲ監督)主演でデビュー以降、俳優としても活躍する渡辺大知の初監督作品。東京造形芸術大学の卒業制作として製作され、「PFFアワード2014」では審査員特別賞を受賞した。
CAST&STAFF
出演/渋川清彦・犬田文治・木乃江祐希・前田裕樹・川瀬陽太・鹿江莉生・菅沼拓馬・山本浩司・中野碧・スギム・中野翔平・酒川雄樹・渡辺大知・森岡龍・片倉わき・冨永周平
監督・編集・音楽/渡辺大知
脚本/渡辺大知・磯龍介
配給/SPOTTED PRODUCTIONS
公式HP
11月14日(土)~11月27日(金)
新宿武蔵野館レイトショー
(C)2014 team モーターズ
PROFILE
渡辺大知(わたなべ・だいち)
1990年8月8日生まれ 兵庫県出身
ロックバンド黒猫チェルシーのフロントマン。高校在学中の07年に結成。10年、ミニアルバム「猫Pack」でメジャーデビュー。14年4月には初のベストアルバム「Cans Of FreakHits」発売。ニューシングル『グッバイ』が16年初頭に発売。16年2月26日から全国7都市リリースツアーも決定した。俳優活動では「日本アカデミー賞」新人俳優賞を受賞した09年公開の『色即ぜねれいしょん』を筆頭に、NHK連続テレビ小説『カーネーション』『まれ』、NHKドラマ『デザイナーベイビー』、映画『くちびるに歌を』『ボクは坊さん。』、舞台『男子!レッツラゴン』、NTT docomo、コカコーラ、サントリーのCMなど数々の映画やドラマ、舞台、CMに出演。本作では監督、脚本、編集、音楽、劇中歌を手掛けた。
公式Twitter
Interview&Text/内埜さくら Photo/おおえき寿一