「僕ね、役者になる前は人生遠回りばかりしているんですよ。だから、偉そうなことは言えないけどムダを恐れない方がいいとは思う」
映画やドラマに引っ張りだこで、個性派や実力派、怪優の冠や異名で呼ばれる俳優の佐藤二朗さんが今月のゲスト。どぎついキャラクターではないのに独特の雰囲気で観る者を魅了する二朗さんが、役者人生10年目にして初めてつかんだ主役映画の最新作『マメシバ一郎 フーテンの芝二郎』が2月に劇場公開される。「自分が演じるなら博打をしよう、攻めてみよう」と周りを青ざめさせるほど役へ情熱を傾けた理由とは? 役者として生活が成り立つまでの苦労話も、今回初公開!
中年男性と豆柴犬のコンビの奮闘を描いた人気シリーズ第3弾に引き続き主演。豆柴の一郎をこよなく愛する無職で中年ニートの芝二郎は38歳の夏、労働者になる? 「セカンドキャリアを積み始めたオジサンと犬」という、ありそうでないコンビの魅力を佐藤二朗さんに分析してもらった。初めて語られる売れなかった役者時代の話&撮影秘話も満載!!
冗談で『この作品は僕のライフワークです』と言ったらいろんなところに書かれちゃったから、もう逃げられなくなりました(笑)
──劇中の冒頭では、主人公がニートを辞めて働き出しますね。芝二郎が前に踏み出して仕事を始める姿は、職を探している小誌読者も参考にできそうです。「芝二郎が仕事をする姿が参考になるのであれば、僕の仕事話も参考になりますかね? ほかでは言ったことがないんですけど実は僕、役者をやる前に某大手企業に就職したことがあるんですよ。1日で辞めちゃいましたけど(笑)」
──1日で退職? その理由は!?
「ちょっと変わってるんですけど、大学を卒業したら役者か営業をやりたかったんですよ。で、国立大を出て新卒で就職したんですけど、入社式で社風が体育会系のイケイケなノリだと知って『ここじゃムリだ!』と確信したんです。気づいたら会場の外に出てて、そのまま実家に帰っちゃいました(笑)翌日、社章を返しに行ったら、『40年近い歴史の中で、入社日と退社日が同じ日になったのは君が初めてだ』と、人事部長からため息混じりに言われましたね」
──そしてそこからは。
「某俳優養成所に入りました。当然、役者としては食っていけないんで、塾講師とかテレホンアポインターとか、時間の融通が利くバイトをしながら。でも、役者じゃやっぱり食っていけなくて、養成所の研究生期間が終わった後、また就職したんです」
──えぇっ!? 今度はどんな仕事を。
「営業です。自分で言うのも何ですけど、よう働きましたよ。1日14時間ぐらいは働いてたなぁ。月のノルマを10ヶ月間連続で達成したこともありましたから、向いていると思いますよ、営業は」
──でも、今は役者になる夢を叶えましたよね。その経緯は?
「会社勤めをしながらジテキンこと自転車キンクリートって劇団の舞台に立ってたんですけど、28~29歳の頃かな。ジテキンに入ることが決まった時点で会社は辞めたんです。で、僕が出ている舞台をある日、観に来てくれたのが(映画監督の)堤幸彦さん。彼が、本木雅弘さんが主演のブラック・ジャックの2時間ドラマで、板東英二さんにガンを告知する医者の役に、1シーンだけ使ってくれたんです。普通はそういう、その他大勢役だと映してもらえないかグループショットで終わるんですけど、堤さんは芝居が面白ければどんな役でもワンショットで抜くよって感じの人で、僕の芝居を観て声を掛けてくれたわけですから、ワンショットで撮ってくれたわけですよ。オンエアーを当然、本木さんの事務所の人が観ますよね。それで、本木さんの事務所の社長が『ウチに入れろ!』と言ってくれて、今の事務所に移ったんです。そこから映像を始めて、今年で13年目になりました」
芝二郎はもし10人いたら、5〜6人が生理的にムリ、受け付けないって反応で、少数に絶賛されたらいいと思って作った役なんです
──芸能を極めたい人にとってはすごい成功談ですね。では、役者になるまでの道で得たことは?「いやいや、僕は30歳でやっと役者として食えるメドが立ったから偉そうなことは言えないんですけど、ムダになることを恐れないほうがいいかな、とは思いますね。僕ね、役者になる前は人生遠回りばかりしているんですよ。養成所に通ってた頃は、通信で行政書士の資格を勉強してましたからね。で、2回も試験に滑って、2回目が不合格だと分かる前に、行政書士よりワンランク上の社会保険労務士の通信教育の教材を買って、試験に落ちたと知って勉強する気を失くすという…。自分でもムダな動きが多いなぁと思いますけど、今振り返ると、ムダはひとつもなかった気がするんですよね」
──そこまで人生遠回りして役者になって、初の主演がこの芝二郎役。同作への想いもひとしおですね。
「そうですね、しかも僕ありきで書いて頂いた本ですから。以前、『memo』って映画の脚本を僕が書いた時に、『ここ数年で自分以外で初めて面白いと思った』と評価してくれて、映画にお金を出すことを決断してくれたのが、マメシバの原案と脚本を担当している永森(裕二)さんなんです。で、マメシバの話を頂いたら、そりゃあやりたくなるでしょうよっていう。僕が冗談で『この作品は僕のライフワークです』と永森さんに言ったらいろんなところに書かれちゃったから、もう逃げられなくなっちゃいましたね(笑)」
──…確かにこの作品は長期シリーズ化しそうですよね。
「ありがたいんですけど、この映画に関しては、小作品のままでいいから、長く続いて多くの人たちに浸透してもらうのも手かな、と今は感じていますね」
──ところで芝二郎のあの独特の役作りは、佐藤さん自らが?
「そうですね。主役は表現しないことで表現して、濃いことを周りの脇役がやるっていうのが王道だと思うんですけど、どうせ僕がやるなら博打をやろう、攻めてみようってことで、必ず語尾に『ん~』と付く独特のしゃべり方をしてみたんです。亀井(亨)監督と相談の上で作った役ですけど、知らされていなかった永森さんは完成作品を観て青ざめてましたよ(笑)ただ僕の中では、その反応はうれしい反応でした。もし10人いたら、5~6人が生理的にムリ、受け付けないって反応で、少数に絶賛されたらいいと思って作った役だったんで。でもね、意外と多くの人が『いるよね、こういう人』と受け入れていて、受け入れられ過ぎて不満があるぐらいですよ、僕は(笑)」
この作品が、前を踏み出す勇気がない人が前を向くための、首の後ろの筋肉の助けになればうれしいですね
──役を演じる上で心掛けていることってありますか。「この芝二郎を含めて僕が役者をやる上で結構、大事にしていることが、『こんな人いる〝かも〟』と観てる人に思わせること。こんな人絶対にいないよ! と思っちゃうと観てる人がマッハの速度でひいちゃうから、〝かも〟と思ってもらえることは常に意識してますね」
──佐藤さん同様、柴犬の一郎も名演技をしていますね。
「え? 一郎は犬ですよ、犬が演技するワケないじゃないですか。何、言ってるんですか? 僕の方がうまいよ、演技(笑)ただ、一郎が寝ているシーンを撮るのにどうしようか、とみんなで悩んでいて一郎を振り返ったら寝てたから、この犬、香盤表が分かってるんじゃないかって話にはなりましたけど(笑)」
──好きなシーンを教えてください。
「他の動物モノとは一線を画していることを象徴している、終盤のシーンですね。芝二郎が『しつけとは戦いである!』と、ペットのしつけに来たお客に、ペットと人間は対等だと断言する場面があるんです。対等だからこそ犬と張り合うし、舐められたら犬に腹を立てる。他の動物モノにはない目線ですよね。観てる人は言わなければ気づかないと思ますけど、僕自身はココが一番大事だなと感じて演じました」
──では、この作品をどんな人に観てもらいたいですか。
「演じた側からすると本来はどう受け取ってもらってもいいんですけど、あえて言うなら動物モノが好きな人も、嫌いな人も、興味がない人にも観てほしいです。芝二郎が一歩じゃなく半歩踏み出すところにグッとくると思うから、前を踏み出す勇気がない人が前を向くための、首の後ろの筋肉の助けになればうれしいですね…って以前、別の取材でしゃべった言葉なんですけど、改めて言ってみてもいい言葉ですねぇ(笑)」
インタビューの最初に、「小誌読者のために仕事観も教えて下さい」とお願いしたところ、主演映画のことはさておき、読者のために自身が歩んできた苦労話をしてくれた佐藤さん。大勢の監督からラブコールを送られ幾多の作品でバイプレイヤーとして活躍する名優は、気遣いの達人でもありました。今後の活躍も見逃せません!
INFORMATION
映画『マメシバ一郎 フーテンの芝二郎』
INFO&STORY
中年男性と豆柴犬のコンビの奮闘を描いた、「幼獣マメシバ」「マメシバ一郎」に続く人気シリーズ第3弾。主人公はアラフォーで無職、実家暮らしの芝二郎(佐藤二朗)。策略家の母・鞠子(藤田弓子)が送り込んだマメシバの一郎とともに初めての旅に出た「幼獣マメシバ」、「マメシバ一郎」では人々との触れ合いを通じて徐々に社会に踏み込んでいったが新作では、脱ニートに成功し、ペットショップの店員になった二郎が、実家が売り払われてしまったために一郎と一緒にアパート暮らしを始める。だが、常軌を逸した変人の二郎はすぐに駄菓子屋に行ってはサボるし、客に対しても相変わらずの減らず口で、同僚の真田まちこ(南沢奈央)とも衝突ばかりしていた。そんなある日、店長の景虎(高橋直純)から次のステップの為にしつけ教室の担当を言い渡される・・・。
CAST&STAFF
出演/佐藤二朗・南沢奈央・高橋洋・高橋直純・キムラ緑子・角替和枝・志賀廣太郎・藤田弓子ら
監督/亀井亨
製作総指揮/吉田尚剛
企画・脚本/永森裕二
配給/AMGエンタテインメント
公式HP
2月9日(土)から全国公開
(C)2013「マメシバ一郎 フーテンの芝二郎」製作委員会
PROFILE
佐藤二朗(さとう・じろう)
1969年5月7日生まれ 愛知県春日井市出身
信州大学経済学部卒。96年、劇団ちからわざを旗揚げし、すべての公演で作・出演。近年は映画やドラマに多数出演。08年に「拝啓トリュフォー様」で地上波ドラマ初主演。同年、初監督・脚本作品の映画「memo」が公開され、DVD販売&レンタル中。09年、初主演映画「幼獣マメシバ」が公開。ドラマ「ケータイ刑事 銭形泪」で脚本家デビュー。「恋する日曜日」「家族八景」などの脚本執筆も担当した。12年10月からドラマ版「マメシバ一郎 フーテンの芝二郎」放送中。映画は公開待機作に、3月23日公開の「ボクたちの交換日記」(内村光良監督)などがある。
公式HP
公式ブログ
映画『マメシバ一郎 フーテンの芝二郎』
INFO&STORY
中年男性と豆柴犬のコンビの奮闘を描いた、「幼獣マメシバ」「マメシバ一郎」に続く人気シリーズ第3弾。主人公はアラフォーで無職、実家暮らしの芝二郎(佐藤二朗)。策略家の母・鞠子(藤田弓子)が送り込んだマメシバの一郎とともに初めての旅に出た「幼獣マメシバ」、「マメシバ一郎」では人々との触れ合いを通じて徐々に社会に踏み込んでいったが新作では、脱ニートに成功し、ペットショップの店員になった二郎が、実家が売り払われてしまったために一郎と一緒にアパート暮らしを始める。だが、常軌を逸した変人の二郎はすぐに駄菓子屋に行ってはサボるし、客に対しても相変わらずの減らず口で、同僚の真田まちこ(南沢奈央)とも衝突ばかりしていた。そんなある日、店長の景虎(高橋直純)から次のステップの為にしつけ教室の担当を言い渡される・・・。
CAST&STAFF
出演/佐藤二朗・南沢奈央・高橋洋・高橋直純・キムラ緑子・角替和枝・志賀廣太郎・藤田弓子ら
監督/亀井亨
製作総指揮/吉田尚剛
企画・脚本/永森裕二
配給/AMGエンタテインメント
公式HP
2月9日(土)から全国公開
(C)2013「マメシバ一郎 フーテンの芝二郎」製作委員会
PROFILE
佐藤二朗(さとう・じろう)
1969年5月7日生まれ 愛知県春日井市出身
信州大学経済学部卒。96年、劇団ちからわざを旗揚げし、すべての公演で作・出演。近年は映画やドラマに多数出演。08年に「拝啓トリュフォー様」で地上波ドラマ初主演。同年、初監督・脚本作品の映画「memo」が公開され、DVD販売&レンタル中。09年、初主演映画「幼獣マメシバ」が公開。ドラマ「ケータイ刑事 銭形泪」で脚本家デビュー。「恋する日曜日」「家族八景」などの脚本執筆も担当した。12年10月からドラマ版「マメシバ一郎 フーテンの芝二郎」放送中。映画は公開待機作に、3月23日公開の「ボクたちの交換日記」(内村光良監督)などがある。
公式HP
公式ブログ
Interview&Text/内埜さくら Photo/おおえき寿一