暴力やエロティシズムが主題の作品を得意とする映画界の鬼才、塚本晋也監督の代表作「鉄男」が20年の時を経て遂に公開が決定した。前2作の続編ではなく新たな形に変わった「鉄男 THE BULLET MAN」で主演を務めるのは、俳優以外にもモデルや写真家として多彩な才能を発揮している、エリック・ボシックさん。塚本監督の大ファンと公言するだけあり、本作への気合は満タンです!
修行し悟り開く仏教の教えと主人公の人生は似ている
──5月22日公開予定の映画「鉄男 THE BULLET MAN」では主演おめでとうございます。エリックさんは主役に抜擢され、「宝くじに当たったような気分」とおっしゃっていましたよね。「主演になるのもなかなか難しいことなのに、日本のメジャー級映画にアメリカ人が選ばれるなんて、私は聞いたことがありませんでしたから。しかも、尊敬している塚本監督の作品に主演で出ることができて、自分には到底無理だと思っていた夢が叶いました。でも実は…最初、鉄男役だとは知らずにオーディションを受けていました」
──知らなかったんですか!?
「ほんのワンシーンに出てくる端役だと思っていました(笑)。2回目のオーディションで鉄男役を決めていると知ったんです」
──塚本監督を尊敬していると言いましたが、となると監督作品は…。
「全部見ています。89年に上映された『鉄男』は、高校生の頃カナダに住んでいた時に見ました。友だちから紹介してもらって見ましたが、かなり衝撃的だったことを覚えています。意味はよく分かりませんでしたけど(笑)。塚本監督の作品は、心の深い部分を揺さぶられるから、全部好きですね。特に好きなのは、『東京フィスト』。でもこういう場合は、『鉄男』と答えるべきですね(笑)」
──怒りを覚えると体が鉄になってしまう、アンソニーの役作りはどのようにしましたか?
「アンソニーは一人息子を殺されて、怒りが爆発します。現実の私には息子はいませんが、その状況を想像することはできます。たとえば、自分の人生で一番大事なものを急に失った苦しみ。そのシーンを思い出して演じました。アンソニーの人生の上に、自分の人生を重ねたんです」
──アンソニーは大きな苦しみを経験する辛い役柄ですが、エリックさんは役を引きずるタイプですか。自宅に戻ってもアンソニーの気持ちになりきったまま、とか。
「本当にアンソニーの気持ちになって演じていたから、苦しかったですよ。毎日、暗い気分が残りました。そういう意味では、役を引きずるタイプでしょうね」
──主人公の心の変化には、仏教の教えが背景にある、ともお話しされていますよね。
「人間の心の闇や欲望が作り出す苦しみを、瞑想や修行することによって悟りを開く。これが仏教の教えですが、映画を最後まで見て頂ければ、アンソニーの人生と似ていることに気づいてもらえるはずです。監督は、この作品は戦争を止めようという反戦映画だと言いましたが、個人的には仏教の教えが色濃く出た作品だと考えています。監督は全体を見て作品の色を語りますが、私は主人公の人生を見ていたので」
──演じることが大変そうですが、特殊メイクにも苦労したとか。
「マスクが頭の大きさと合っていなかったから、鼻が圧迫され続けて辛かったです(笑)。私は大学で特殊メイクの勉強もしたので、デザインをリクエストして途中からマスクを交換しました」
──完成作を見て、ご自身が好きなシーンはありますか?
「アンソニーを殺すために兵隊が家の中に入って来て戦いを終えた後、アンソニーと妻のゆり子が話をするシーンですね。あの場面、本当はもっと長かったんですよ」
チャンスは一度しかないから第一印象は大事にしてます
──カナダ・ブリティッシュコロンビアのヴィクトリア大学で演技を4年間、学んだんですよね。「大学では、プロの俳優が実践している演技法を学びました。俳優の演じ方には2通りあるんです。1つは、たとえばトム・クルーズのように自分のキャラクターを生かしてそのまま演じる方法。どの作品に出ても俳優の個性が強く打ち出されます。もう1つは、自分とはまったく違う人間になりきる方法。ロバート・デ・ニーロやジョニー・デップがこの演技法を実行しています。私もこのタイプの俳優ですね」
──今回、エリックさんは主役を射止めましたが、大学ではオーディションを受ける心構えも習うのでしょうか。
「そうですね。私はオーディションの準備に最低、30〜40時間は費やします。今回の『鉄男』の場合は、監督の作品を全部見て、“塚本ワールド”を把握する。アンソニーはアメリカ人ハーフという設定でしたから、ハーフに見えるよう、髪も黒く染めて眉毛もカットしました。映像では流れない役柄の人生も調べて、セリフもすべて頭に叩き込んでから会場へ向かいます」
──セリフをすべて覚えるんですか。
「もちろんです。覚えて行かなければ、すべて覚えて来た人間に負けてしまいますから。チャンスは一度しかありません。一度しかないからこそ、第一印象はとても大事なんです」
──面接にも役立ちそうですね。
「役立つと思いますよ。私が言うところのセリフを、会社のことや面接で伝えることに置き換えれば。セリフを完璧に覚えたら、ナチュラルになるまで練習する。私はいつも、知り合いの俳優と一緒に練習します。会話形式になると、雰囲気もタイミングも変わってきますから。会話のリズム感も大切なんですよね」
日本を活動の拠点にしながらファンタジー作品出演が夢
──そこまでしたからこそ、塚本監督は主役オーディション時に「彼には最初からアンソニーを演じに来ましたという印象を持った」と言っていたんですね。「そうかも知れません。日本のサラリーマン風のスーツを着て、髪は七三分けにして行きましたから。やはりすべての鍵を握るのは、第一印象なんですよ」
──ところでエリックさんは、俳優として活動する拠点を、なぜ日本に定めたんですか?
「定めたというより、自然にこうなったんです。大学卒業後、日本へ旅行に来たんです。以前から興味を持っていたので。当時は短期間、滞在する予定だったんですけど、すごく気に入った。なぜだか自分とすごくフィットしたんです。で、『もう少しいたいなぁ』と居続けていたら、住めば都という言葉があるように、日本にいると落ち着くようになったんです」
──日本以外の国では落ち着かなかったのでしょうか。
「04年から3年間、ロサンゼルスに住みましたけど、落ち着かなかったですね。毎日、東京に帰りたいと思っていました。私はアメリカ生まれなんですけど、日本を知ってからはアメリカの文化も社会も自分には合わないと悟りました。だから今は、マイ ホーム イズ東京。それに東京は、私に幸運をくれる場所なんですよ。こうやって主役を頂くことができたのも、日本にいたお陰ですから」
──確かに。本作はロバート・デ・ニーロ氏が始めたニューヨークのトライベッカ国際映画祭でも上映が決定していますよね。
「日本がくれた幸運を生かして、映画やテレビに出るのはもちろん、少しずつ世界も視野に入れていきたいと思っています。そのためには、みなさんにこの映画を見て頂きたいです。もっと有名にならないと(笑)」
──では最後に、今後の目標を聞かせて下さい。
「ファンタジー映画に出演したいですね。『キング・アーサー』や『ロード・オブ・ザ・リング』のような作品を見ると、なぜだか懐かしい気持ちになるんです。いろんな国の歴史や神話、宗教を調べることにも興味を持っています。なぜこれほど好きなのか説明はできませんけど、いつか叶えたいですね」
INFORMATION
■映画「鉄男 THE BULLET MAN」
【INFO&STORY】
東京の外資系企業で働くアメリカ人男性のアンソニー(エリック・ボシック)が、日本人の妻ゆり子(桃生亜希子)、3歳の息子トムと送っていた幸せな生活は、ある日突然一変する。最愛の息子が謎の男に殺されたのだ。なぜ殺されたのか? 絶望の中、その理由を追ううちに、解剖学者だった父ライド(ステファン・サラザン)が関与していたある計画「鉄男プロジェクト」へと辿り着く。明らかにされていく家族の真実。「決して怒りの感情を持ってはならない」という父の教えを破り、怒りに我を失ったアンソニーの体から、蒸気と黒いオイルが噴出し、筋肉は鋼鉄の銃器へと変貌する。息子を殺した男の狙いは? アンソニーの体に隠された過去とは? 両親が関わっていた鉄男プロジェクトの真実とは? あらゆる謎が交錯する時、都市・東京を飲み込む巨大なエネルギーの噴射が始まる。鋼鉄と化したの心を溶かすのは、愛か、憎しみか一怒りの感情によって身体が金属に変化する特異な設定で世界的に知られる塚本晋也監督の「鉄男シリーズ」17年ぶりの第3作が登場する。世界各国の映画監督、クリエイターに衝撃を与えた「鉄男」「鉄男II / BODY HAMMER」の続編でもリメイクでもない、全く新しい挑戦。日本映画の枠を突き破り、全篇英語で挑む。破壊的な音響と映像が心と身体を揺さぶる、渾身かつ待望の最新作。09年にアメリカ、イタリア、スペイン、韓国の映画祭に出品され注目を集めてきた話題作が、遂に日本逆上陸を果たす。
【CAST&STAFF】
出演/エリック・ボシック 桃生亜希子 中村優子 ステファン・サラザン 塚本晋也
監督・脚本・原作・撮影・美術・特殊造型・編集/塚本晋也
製作/TETSUO THE BULLET MAN GROUP 2009
助成/文化芸術振興費補助金
制作プロダクション/海獣シアター
配給/アスミック・エース 5月22日、シネマライズ他全国ロードショー
公式HP
(C) TETSUO THE BULLET MAN GROUP 2009
PROFILE
Eric Bossick(エリック・ボシック)
1973年2月12日生まれ アメリカ・ペンシルバニア州出身
カナダ、シンガポールで育ち、カナダ・ブリティッシュコロンビアのヴィクトリア大学に進学。そこで4年間演技を専攻し、BFA(Bachelor of Fine Arts)を取得する。卒業後、バンクーバーで俳優活動を続ける中で日本文化に興味を持ち始め、96年に来日後、モデル活動をスタート。東京コレクションでは多くのデザイナーのモデルとして出演する。同時に暗黒舞踏を学び、舞踏グループ・アスベスト館のメンバーに。舞踏での活動は4年間続いた。98年からは写真を始め、音楽雑誌やレコード会社、ゲーム業界での撮影を手掛け、写真家のキャリアは11年になる。04年から07年には米ロサンゼルスにて写真と映像撮影を集中的に行い、アーティストのMV2作品を監督、撮影し製作。09年にフランスで写真展を開催。ロスから東京に再来日後、主に俳優としての活動を続け、その才能を長年大ファンだった塚本晋也監督に見出される。オーディション時に減量して欲しいとの監督のリクエストに応え、本作の主役に抜擢された。テレビ、コマーシャル、モデルなど様々なジャンルで精力的に活動。現在、日本に在住。
■映画「鉄男 THE BULLET MAN」
【INFO&STORY】
東京の外資系企業で働くアメリカ人男性のアンソニー(エリック・ボシック)が、日本人の妻ゆり子(桃生亜希子)、3歳の息子トムと送っていた幸せな生活は、ある日突然一変する。最愛の息子が謎の男に殺されたのだ。なぜ殺されたのか? 絶望の中、その理由を追ううちに、解剖学者だった父ライド(ステファン・サラザン)が関与していたある計画「鉄男プロジェクト」へと辿り着く。明らかにされていく家族の真実。「決して怒りの感情を持ってはならない」という父の教えを破り、怒りに我を失ったアンソニーの体から、蒸気と黒いオイルが噴出し、筋肉は鋼鉄の銃器へと変貌する。息子を殺した男の狙いは? アンソニーの体に隠された過去とは? 両親が関わっていた鉄男プロジェクトの真実とは? あらゆる謎が交錯する時、都市・東京を飲み込む巨大なエネルギーの噴射が始まる。鋼鉄と化したの心を溶かすのは、愛か、憎しみか一怒りの感情によって身体が金属に変化する特異な設定で世界的に知られる塚本晋也監督の「鉄男シリーズ」17年ぶりの第3作が登場する。世界各国の映画監督、クリエイターに衝撃を与えた「鉄男」「鉄男II / BODY HAMMER」の続編でもリメイクでもない、全く新しい挑戦。日本映画の枠を突き破り、全篇英語で挑む。破壊的な音響と映像が心と身体を揺さぶる、渾身かつ待望の最新作。09年にアメリカ、イタリア、スペイン、韓国の映画祭に出品され注目を集めてきた話題作が、遂に日本逆上陸を果たす。
【CAST&STAFF】
出演/エリック・ボシック 桃生亜希子 中村優子 ステファン・サラザン 塚本晋也
監督・脚本・原作・撮影・美術・特殊造型・編集/塚本晋也
製作/TETSUO THE BULLET MAN GROUP 2009
助成/文化芸術振興費補助金
制作プロダクション/海獣シアター
配給/アスミック・エース 5月22日、シネマライズ他全国ロードショー
公式HP
(C) TETSUO THE BULLET MAN GROUP 2009
PROFILE
Eric Bossick(エリック・ボシック)
1973年2月12日生まれ アメリカ・ペンシルバニア州出身
カナダ、シンガポールで育ち、カナダ・ブリティッシュコロンビアのヴィクトリア大学に進学。そこで4年間演技を専攻し、BFA(Bachelor of Fine Arts)を取得する。卒業後、バンクーバーで俳優活動を続ける中で日本文化に興味を持ち始め、96年に来日後、モデル活動をスタート。東京コレクションでは多くのデザイナーのモデルとして出演する。同時に暗黒舞踏を学び、舞踏グループ・アスベスト館のメンバーに。舞踏での活動は4年間続いた。98年からは写真を始め、音楽雑誌やレコード会社、ゲーム業界での撮影を手掛け、写真家のキャリアは11年になる。04年から07年には米ロサンゼルスにて写真と映像撮影を集中的に行い、アーティストのMV2作品を監督、撮影し製作。09年にフランスで写真展を開催。ロスから東京に再来日後、主に俳優としての活動を続け、その才能を長年大ファンだった塚本晋也監督に見出される。オーディション時に減量して欲しいとの監督のリクエストに応え、本作の主役に抜擢された。テレビ、コマーシャル、モデルなど様々なジャンルで精力的に活動。現在、日本に在住。
取材・文/内埜さくら 撮影/おおえき寿一