「ヒップホップは自分をレプリゼント(表現)する文化。『俺はこういう人間だ』『こんなことを思っている』と伝える能力があれば、韻を踏んでいなくても人を惹き付けるラップはできるんです」
今や若い世代で爆発的なブームとなっているMCバトル(フリースタイル・ラップ)。その最高峰・ULTIMATE MC BATTLEの全国大会で2連覇するなど数々の大会で優勝経験を持つ晋平太さんは、ラッパーとしての活動のみならず、フリースタイル・ラップの伝道師としても活躍。昨年には初の著書『フリースタイル・ラップの教科書』を上梓した。30歳手前までバイトをしながら続けてきたアーティスト活動の来歴と、フリースタイル・ラップに賭ける熱い思いを聞いた。
1年間ライブ活動をせず半ば道を諦めたこともあった
──ラップを始めたのは何歳の頃からでしょうか?「中学3年生の頃ですね。当時は日本語ラップの最初のブームで、キングギドラやBUDDHA BRANDが流行っていた時期。友だちがくれたテープにラップが入っていて『何コレ! ヤバい!』って好きになったという、ごく普通な出会い方でした」
──18歳の頃には『B BOY PARK』のMCバトルでベスト8に入ってますね。
「その頃、『オレ、将来やりたいこと何もねえな』って思って、ラップを本気でやってみることにしたんです」
──この大会ではKREVAさんが3連覇を達成しているんですよね。
「同じ控室にいましたし、般若くんも漢くんも出ていました。2005年の大会ではKEN THE 390くんと準決勝で当たって、決勝では女の子のラッパーのCOMA-CHIと当たりました。 みんな今でも活動しています」
──みなさん息が長い世代なんですね。『B BOY PARK』のMCバトルでは2005年に優勝しましたが、それまで長く練習を重ねていた感じでしょうか。
「練習という意識はなく、毎晩のように小さなクラブでライブしたり、初めてCDを出さしてもらったり、とにかくラップに夢中になっていた日々でした。当時は常に金がなくて、ラーメン屋やティッシュ配りのバイトもしていましたね。牛丼屋で金が足りず『これしか持ってねえ!』と店員にゴネてたこともあったらしいです(笑)」
──その後はアーティスト活動も苦しい時期に入ったそうですね。
「CDが凄く売れたわけじゃなかったし、仕事が全然なくなってきて…。1年くらいライブをしてない時期もあったし、心の中ではラッパーでしたけど、もう半ば道を諦めちゃっている状態でした」
──それでも09年からは『UMB(ULTIMATE MC BATTLE)』に出場するようになり、10年、11年には大会史上初の連覇も達成しました。
「『どうしたら勝てるんだろう』と必死に考えていて、そこで分かったのは、『優勝にふさわしいヤツが勝つ』ということ。自信があり、勝つべきストーリーがあるヤツが勝っていたし、そういうヤツは人を惹きつけるんです。僕も初優勝したときは意気込みで勝ちましたからね。当時は神社とかも超行ってましたし(笑)」
──神頼みしか他にできることがないくらい、努力もしてたんでしょうね。
「単純に神社が好きなのかもしれないですけどね。『ヤバい! 落ち着く』みたいな(笑)でも当時は郵便局で朝からずっと配達の仕事をして、夜はバンドマンが集まるリハスタでフリースタイルの練習をしていました。そこのスタンプカードを個人練習で貯めたラッパーは僕だけらしく、伝説になっているみたいです(笑)」
ヒップホップも仕事も自己紹介の能力が大事
──その後はUMBに総合司会の立場で関わるようになりました。全国の予選を回る中で、「フリースタイル・ラップをやりたいんですけど、どうしたらいいですか?」と聞かれることが増えて、それが『フリースタイル・ラップの教科書』執筆の動機にもなったそうですね。「ハードルが高いものと決めつけて始められない人もいるんですけど、始めるのは簡単なんです。『できるよ!君にも』って思わせてあげたかったんですよ」
──著書の中では「まずは自己紹介ラップを作ろう」と説明していますね。
「就職の面接もそうですけど、自己紹介がしっかりできないとダメだと思うんです。ラッパーも『で、お前、誰なの』ってところから始まるんで『俺はこういう人間だよ』『こう思ってる』と伝える能力が大事。ヒップホップは自分をレプリゼント(表現)する文化なんで、究極言っちゃえば、ずーっと自己紹介みたいなものなんです」
──ラップ=韻踏むみたいなイメージで、最初その練習から始める人もいそうですが、逆なんですね。テレビ朝日『フリースタイルダンジョン』などで上手なラッパーを見ちゃうと「あんなこと自分には無理だ」と思っちゃうんですが……。
「でもそれはイチローを見て、『オレにはあんなプレー無理だから野球はやらない』というのと同じことですよね。別に全員がプロを目指さなくてもいいと思うんです。一生懸命やって、挫折したとしても、それは無駄な経験にはならないと思うんですよ。それは仕事でも一緒で、一生懸命やればいい経験になるし、感謝されることも、尊敬されることもあるかもしれませんから」
──この先の活動の目標は?
「ヒップホップを通じて救われたとか、仲間と巡り会えたとか、ポジティブになれるヤツを増やしたいですね。自分を好きになれる人間が増えたら、それは世界平和とかにもつながると思うし。目標はでっかく持って、『この先、絶対なんか凄いことがあるぜ!』って思いながら生きていれば、それだけで楽しくなりますから」
──ラップを聴くだけでも、何か変わる人もいるでしょうしね。
「でも、自分でやるのも楽しいっすよ。絵を描くでも、SNSを利用でも、自己表現って絶対に面白いですから。フリースタイル・ラップじゃなくても、 何かを自分から発信していくことには挑戦してみてほしいです」
INFO
■書籍『フリースタイル・ラップの教科書 MCバトルはじめの一歩』
【INFO】UMB2連覇の実力派ラッパー晋平太による、日本初のフリースタイル・ラップの入門書。自己紹介ラップの作り方や上手に韻を踏むコツ、「中吊り広告を見てラップする」「目の前の人をディスってみる」といった練習法のほか、ラッパーR-指定との対談も収録。
イースト・プレス刊。1404円
PROFILE
晋平太(しんぺいた)
1983年東京都生まれ、埼玉県狭山市育ちのラッパー。フリースタイルでのMCバトルを得意とし、05年『B-BOY PARK MC BATTLE』での優勝で注目を浴びる。10年と11年にはUMBの全国大会で2連覇を成し遂げた。初の著書『フリースタイル・ラップの教科書 MCバトルはじめの一歩』も発表。ライブやリリース等の最新情報はオフィシャルサイトでチェック。
公式HP
■書籍『フリースタイル・ラップの教科書 MCバトルはじめの一歩』
【INFO】UMB2連覇の実力派ラッパー晋平太による、日本初のフリースタイル・ラップの入門書。自己紹介ラップの作り方や上手に韻を踏むコツ、「中吊り広告を見てラップする」「目の前の人をディスってみる」といった練習法のほか、ラッパーR-指定との対談も収録。
イースト・プレス刊。1404円
PROFILE
晋平太(しんぺいた)
1983年東京都生まれ、埼玉県狭山市育ちのラッパー。フリースタイルでのMCバトルを得意とし、05年『B-BOY PARK MC BATTLE』での優勝で注目を浴びる。10年と11年にはUMBの全国大会で2連覇を成し遂げた。初の著書『フリースタイル・ラップの教科書 MCバトルはじめの一歩』も発表。ライブやリリース等の最新情報はオフィシャルサイトでチェック。
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取材・文/古澤誠一郎 撮影/熊代紀章