昨年10月17日、不慮の事故により他界した若松孝二監督の遺作『千年の愉楽』が10月12日から下高井戸シネマで特別上映、監督の命日にDVD版がリリースされる。監督から「マリア」と呼ばれ“若松組”作品に数多く出演してきた女優の安部智凛さんが、監督の人となりを振り返りつつ、本作の裏話を語った。監督のお墓参りをしてからなぜか仕事が激増したと語る安部さんには、公開待機作が目白押し。『華魂』ではブラジャーにパッド20個を詰めて、Fカップのメガネをかけた女教師に挑戦している。若松監督からの唯一のアドバイスという「人間観察をしたほうがいい」という言葉は活かされたのか。こちらも合わせて期待したい。
役者の知名度に関わらず魂で接してくださる監督でした
──若松監督とはどんな経緯で出会ったんですか?「『実録・連合赤軍』の時に初めて参加してそのあと『キャタピラー』も出演させて頂きました。そのあとに『11・25自決の日 三島由紀夫若者たち』に出演したくて、若松プロにアポなし訪問したんです。でも監督が不在で、コンビニでレターセットを買って、その場で3枚ぐらい、出演したい意欲を書き連ねて玄関ポストに手紙を入れたんです。その甲斐あって、男性の役しかなかったのに異例の女性役を作って頂けました。最初の『連合赤軍』の時も手紙を書きました。その甲斐あって名前覚えてくださったんですが昔の芸名だったマリアのままで、途中で芸名が変わった話をしましたが結局、亡くなるまでマリアのままでした。お盆前と年末に監督の自宅に若松組といわれる常連俳優・スタッフが集まっては飲み会がありおつき合いをさせて頂いたんですけど、私に限っては怒られてばかりでしたね」
──それは、どんなふうに。
「『役者辞めろ!』とか『バカ!』とか、怒鳴られてばかりでした(笑)。それで悩んで、若松組の常連俳優の地曳豪さんに相談したんです。そうしたら『監督は現場を締めるためにわざと1人、怒る相手を決めてる。師匠に怒鳴られるなんて女優冥利に尽きるじゃないか』と教えてもらいました。なぜか、若松監督はよく怒る役者を使っていました。男性俳優で言ったら大西信満さんですかね」
──信頼されていたんですね。
「それはどうですかね…。ただ監督って役者の有名無名を把握していない方で、先入観なく純粋にやる気のある役者だけをキャスティングしてたんです。人として、魂で接してくださるというか。役者は基本的に全員、ロケバスではなく夜行バスで移動。半蔵役の高良(健吾)さんは途中で人気があると気づいたらしくて、気遣ってましたけど(笑)。でも、高良さんは打ち上げに参加したいからって、帰りも新幹線ではなく夜行バスに乗ってましたね」
──若松監督は撮影が早いことでも有名だったと聞きました。
「役者は最初の演技が新鮮で一番いいというポリシーがあったのと、的確に絵を切り取る力のある御方なので、今回も高良さんは主要キャストなのに3日、私は2日、しかも全日昼前に終わってました。高良さんが女の子2人を両腕に抱えて歩くシーン、やっぱり出なくていいと言われて、電柱に隠れてる私が映り込んでます(笑)。高良さんと地曵さんと私、3人の濡れ場も、私のメイクがリハでぐちゃぐちゃなのに、そのまま本番に入ろうとしましたし(笑)」
地元の女性が高岡蒼佑さんに物語通り本気で惚れてましたね
──激しい濡れ場でしたね。「私は、前バリすらしていない。言える雰囲気すらないというか…。撮影前にロマンポルノやピンク映画を100本以上観て、役作りしましたが現場では何の役にも立たなかったんですけど(笑)、個人的に思い入れがありますね。あと私、三好役の高岡(蒼佑)さんのシーンが好きなんですよ」
──具体的には?
「風で飛んだ帽子を、寺島しのぶさんにポンと載せるところです。ツイッターでは『さすが若松監督!』と絶賛されてましたけど、実はアドリブなんです。監督は、そういう演出はしない方なので。高岡さんに関しては、地元の熟女のみなさんが本気で惚れて、『一度でいいからキスさせて!』とスタッフに直談判していたのが印象的でした(笑)。日に日に女性たちのメイクが濃くなるので、監督は物語通りだって喜んでました」
──監督は本作について、どんなことをおっしゃっていましたか?
「とにかく『面白いのができた』としきりに仰ってました。今までそんなことを仰ることがなかったのでビックリしたのを覚えています。実は監督が亡くなるまで完成作を観られなかったんですよ。事故で亡くなるなんて考えてもいませんでしたし。『初見の時なんて優しい作品なんだろう』と思ったことなど感想を伝えたかったです。それから、私が『キャタピラー』のロケ先にマイ枕を持参するのは誤った情報だということも直接、訂正したかったですね(笑)」
INFORMATION
■DVD『千年の愉楽』
INFO&STORY
紀州の路地で産婆を営むオリュウノオバ(寺島しのぶ)は、高貴で不吉な血を持って生まれ、女たちに愉楽を与えながら命を燃やし尽くして散っていく男たちの誕生から死までを見つめ続けてきた。年老いて今際のきわを彷徨うオリュウの脳裏に、そんな男たちの儚くも激しい生きざまが甦る…。紀州出身の作家中上健次が故郷を舞台に綴った同名小説を、若松孝二監督が映画化した人間ドラマ。第69回ベネチア国際映画祭でオリゾンティ部門に出品され、今年3月に劇場公開。12年10月、若松監督は交通事故で他界、本作が遺作となった。
CAST&STAFF
出演/寺島しのぶ・佐野史郎・高良健吾・高岡蒼佑・染谷将太・山本太郎・原田麻由・井浦新・地曵豪・安部智凛・片山瞳・大西信満・石橋杏奈ら
監督/若松孝二
原作/中上健次
脚本/井手真理
製作・配給/スコーレ株式会社 若松プロダクション
DVD&Blu-rayでアミューズソフトエンタテインメントから10月17日発売
(C)若松プロダクション
PROFILE
安部智凛(あべ・ともり)
1982年9月21日生まれ 東京都出身
大学在学中から活動を始め、卒業後は女優として映画やドラマ、舞台を中心に活躍。主な出演作にドラマ「平清盛」「梅ちゃん先生」「ブラッディマンディ」などがある。映画は05年の「濡れた赫い糸」でデビュー。公開待機作に「女たちの都~ワッゲンオッゲン~」「熱血硬派くにおくん」「華魂 ―誕生―」などがある。
公式ブログ
公式Twitter
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紀州の路地で産婆を営むオリュウノオバ(寺島しのぶ)は、高貴で不吉な血を持って生まれ、女たちに愉楽を与えながら命を燃やし尽くして散っていく男たちの誕生から死までを見つめ続けてきた。年老いて今際のきわを彷徨うオリュウの脳裏に、そんな男たちの儚くも激しい生きざまが甦る…。紀州出身の作家中上健次が故郷を舞台に綴った同名小説を、若松孝二監督が映画化した人間ドラマ。第69回ベネチア国際映画祭でオリゾンティ部門に出品され、今年3月に劇場公開。12年10月、若松監督は交通事故で他界、本作が遺作となった。
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出演/寺島しのぶ・佐野史郎・高良健吾・高岡蒼佑・染谷将太・山本太郎・原田麻由・井浦新・地曵豪・安部智凛・片山瞳・大西信満・石橋杏奈ら
監督/若松孝二
原作/中上健次
脚本/井手真理
製作・配給/スコーレ株式会社 若松プロダクション
DVD&Blu-rayでアミューズソフトエンタテインメントから10月17日発売
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PROFILE
安部智凛(あべ・ともり)
1982年9月21日生まれ 東京都出身
大学在学中から活動を始め、卒業後は女優として映画やドラマ、舞台を中心に活躍。主な出演作にドラマ「平清盛」「梅ちゃん先生」「ブラッディマンディ」などがある。映画は05年の「濡れた赫い糸」でデビュー。公開待機作に「女たちの都~ワッゲンオッゲン~」「熱血硬派くにおくん」「華魂 ―誕生―」などがある。
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撮影◎おおえき寿一 取材・文◎内埜さくら