「ケンカって全人格勝負なんですよ。どういう雰囲気をまとって、どうやって相手を追い込んで、気持ちを萎えさせるか」
不良たちが格闘技で対戦! 試合後に乱闘も! 会場入口では金属探知機による検査が! やたらと物騒なイメージのある“不良格闘技大会”、その頂点に君臨する『THE OUTSIDER(アウトサイダー)』がドキュメンタリー映画になった。『タイトロープ~アウトサイダーという生き方~』である。そこで描かれるのは、意外にも物騒さとはほど遠い、格闘技に打ち込む選手の純粋な姿と複雑な生い立ちだ。かつて不良だった人間は格闘技に何を求めるのか。大会創設者の前田日明さんに、大会の魅力と“不良論”を聞いた。
前田さんといえばマット界のカリスマである。新日本プロレスからUWFへ、そしてリングスではエースとして活躍すると同時に世界各国の強豪を発掘。常に時代の先端を突き進んできた前田さんは、なぜ格闘技を通して不良たちを更生させる大会を開催することになったのか。込められた思いとは何か。前田日明だからできる、前田日明にしかできない役割が、そこにはあったー。
『アウトサイダー』に出ている選手は、みんな人生の中で欠けてしまったパズルのピースを探してるんですよ
──現役時代は新日本プロレス、UWF、リングスで活躍された前田さんが、アマチュア格闘技大会の『アウトサイダー』の運営をされると聞いて驚いたファンは多いと思います。しかも闘いを通じて不良たちを更生させようという異色の大会ですから。「始めるまで、4年くらい考えたんですよね。九州で不良を集めて更生させる大会をやってるって聞いて見てみたら、凄く面白い。育ててみたいなっていう選手もいて。これ東京でやったら面白いなと思ったんだけど、乱闘が起きて器物破損だとかお客さんがケガしたとなったら会場を借りられなくなる。何かあったらリングスっていう組織まで終わっちゃうなと」
──それでもやることにしたのは、どうしてだったんですか?
「少年の犯罪が目立ってきて、少年法の改正なんていう話題も出てきた。そこでいろいろ調べていくと、これは社会全体の問題なんですよ。昔は、不良だった人間、少年院に行った過去がある人間でも面倒を見る大人がいたんですよ。過去は過去としてね。それで出世することもできたんだけど、今はヘタしたら六大学出てもまともな就職がないとかね。そんな時代だから、元不良が社会人として立ち直る環境も作れてない。底辺の仕事しかなくて。国もね、子どもを育てることに予算をまったく割いてないから。少子化対策にしても、本気でやる気ないでしょ」
──そういうところからなんですね、「アウトサイダー」は。
「なにかがおかしいんですよ。だからアウトサイダーって、日本社会の縮図ですよ」
──その「アウトサイダー」が、ドキュメンタリー映画になると聞いた時の率直な感想はいかがでしたか?
「ちょっとびっくりしましたね。これまで、大会を電波に乗せよう、中継しようっていう動きを散々やってきたんですけど、局の上層部がダメだと」
──テレビで流すには物騒すぎるというか……。
「まず、選手がしてる刺青ですよね。それと選手は更生してても、その周囲に反社会的な人間がいるのは間違いないだろうと」
──映画を見ると、選手たちが真剣なのは間違いないんですけどね。
「ただの不良だったら、格闘技なんていうめんどくさくてしんどいことできないですよ。毎日練習して、それでも勝てるかどうか分かんない。街のケンカなんてね、口が90%以上、腕力は2、3%だから(笑)」
──実は腕っぷしじゃないという。
「ケンカって全人格勝負なんですよ。どういう雰囲気をまとって、どうやって相手を追い込んで、気持ちを萎えさせるか。ビビらせるだけビビらせておいて、最後にコツンとやったら〝ギャー!〟ってなるから。本当に腕っぷしに自信があったら、いきなり飛びかかるでしょ。今はそういうヤツはいないですね。昔はいたけど」
──そうなると格闘技の試合とは全然違いますよね。映画の中でも、印象的なのは誰もが必死に練習してる場面です。
「しかもそこに、一人ずつでも映画にできるくらいのドラマがあるでしょ」
──親からのDVであったり、複雑な家庭環境であったり、いろんな過去があって不良になり、そこから「アウトサイダー」をきっかけに夢中になれるものを見つけるんですよね。
「ダグラスっていう選手は日本人とアメリカ人のハーフで、母親がアメリカに帰っちゃったんですよ。それで『母親なんて』って言うんだけど、それは裏返しでね。たぶん、格闘技で有名になって、それが母親の耳にも入って、会いに来てほしいんですよ。『よくやったね』って言ってほしい」
──格闘技であり、親子の物語なんですね。
「彼はね、反抗したくても、する親がいなかった。親の最後の仕事って、子どもの反抗期を受け止めること。そこが抜け落ちてる。その喪失感があるんですよ。それは欠陥じゃなくてね。『アウトサイダー』に出ている選手は、みんな人生の中で欠けてしまったパズルのピースを探してるんですよ」
──それを、格闘技に打ち込むことで見つけていこうとしてるんでしょうね。そういうこともあってか、選手たちには独特の雰囲気がありますよね。前田さんは、映画の中で「華がある」という言葉を使っていました。
「今って、人間の生の感情に触れることがないでしょ。昔は、親にしても先生にしても怒る時は本気で怒ってた。でも怖いだけじゃなくて、本気で心配してくれて。肌で接してたんですよ。今そうじゃなくなってるのは、トラブルを避けたいから。でも不良って、よくも悪くも人間の本当の姿を見てるから。そこで感じる諦めもあるし、逆に理解もあるし。対人間に関するOSができ上がってるんですよ」
──前田さんご自身の経験からも、彼らの気持ちが分かる部分も大きいんですよね、きっと。
「自分もね、親が離婚して、そのあと父親は韓国で家庭を作ってた。俺はほとんど一人暮らしで、飯場で働いて。それこそ反抗できる人間がいなくて、人生のピースが欠けてたんですよ。そこで空手に出会い、新日本プロレスに入って、失われたピースを得ることができたんですよ」
不良って、よくも悪くも人間の本当の姿を見てるから。対人間に関するOSができ上がってるんですよ
──「アウトサイダー」の選手たちと同じですよね。だから運営できるのかもしれないです。選手も観客も血気盛んな若者が多い中で大会をやるのってメチャクチャ大変そうですけど……。「でも分かりやすいですよ。彼らには裏がないから。感情が全部直球でね」
──大変ってことならリングスもそうでしたよね。オランダをはじめ世界各国から暴れん坊が来てたわけで(笑)。
「リングス・オランダはね、はっきり言って『アウトサイダー』だった(笑)」
──ディック・フライとかヘルマン・レンティングとかですよね。
「レンティングはね、どう見ても正当防衛だっていう事件で捕まっちゃったんですよ。なぜかっていうと、警官を2、3人半殺しにしてたから」
──うわ~。
「JAL出入り禁止になったり。飛行機の中で賭けをしてたんですよ。チャック開けてポコチン出してどこまで行けるかって(笑)。六本木で暴れて捕まったのをもらい受けに行ったりね。いろんなことがありましたよ」
──ヤンチャすぎますね!
「だから今、ドールマンの気持ちが凄くよく分かりますよ」
──リングス・オランダの総帥クリス・ドールマンですね。ヤンチャな若者たちに格闘技を教えて。
「メシ食わせてね。ドールマンって凄い人間だったんだなって、今になって分かってきたこともありますよ」
──今、前田さんがかつてのドールマンのようなことをやられてるんですね。それも長年見てきたファンには感慨深いことだと思います。
「ずっとね、なんで自分が格闘技の世界に入ることになったのか、どうしてここでずっとやってきたのかが不思議だったんですよ。でも、今考えると、自分と同じような経験をしてさまよってる若い子たちを救い上げるためだったのかなと。これをやるために生まれてきて、格闘技界に入ったのかなと思いますよ」
物騒な部分が強調され、またそこが“売り”になっている面もある「アウトサイダー」だが、その中核にあるのは“欠けたピースを得るための物語”だった。根っこには、あくまで純粋さがあるということだ。そしてその背景に、日本社会の矛盾や問題まで見据えている前田さん。そこまで考え、少年時代から選手生活まで強烈な経験を何度となくしてきたからこそ、(元)不良たちの格闘技大会という、一見すると危険な〝タイトロープ〟を渡り、成立させることができるのだろう。」
INFORMATION
映画『タイトロープ~アウトサイダーという生き方~』
INFO&STORY
前田日明がプロデュースするアマチュア、セミプロ選手による総合格闘技大会「THE OUTSIDER」に関わる男たちの姿を記録したドキュメンタリー。不良少年たちを格闘技を通じて更生させ、優秀な選手はメジャーな格闘技団体を含めた大会へプロデビューさせることを目標に掲げる同大会だが「年齢16~35歳まで、プロでの試合経験が3試合以下の者」という参加資格のため、不良ではない選手も多数出場。中には現役の弁護士や医学生、公務員などもいる。そうした年齢や社会的地位も様々な男たちが、格闘技を通じて自分の生き方を探っていく姿をカメラに収めた。ナレーションを吉川晃司が担当している。
CAST&STAFF
出演/黒石高大・吉永啓之輔・堀鉄平・鷹亜希・金太郎・土橋政春・ダグラス・和田周作・雅哉・宮永一輝・佐野哲也・谷山lucky文隆・前田日明ら
監督/本田昌広
企画・製作/アンデスフィルム
配給/トラヴィス
公式HP
11月9日(土)よりシネマート六本木ほか全国順次公開
(c)2013アンデスフィルム
PROFILE
前田日明(まえだ・あきら)
1959年1月24日生まれ 大阪府出身
中学、高校時代は少林寺拳法、空手を取得。77年、新日本プロレスに入団し、8月にデビュー。84年に第一次UWFを立ち上げる。斬新な戦いのスタイルは「総合格闘技」という言葉を生み出した。その後、新日本プロレスと業務提携を結び、87年に両国国技館で行われたドン・中矢ニールセンとの異種格闘技戦を制し「格闘王」の称号を得ることとなる。88年、第二次UWFを旗揚げ。既存概念を打ち破ったスタイルは社会現象をとなり、一大ムーブメントを起こす。91年の解散後は、たった1人で世界初の総合格闘技団体リングスを設立。ケガと闘いながら8年間エースの座を守った。05年のビッグマウス、07年のHERO’Sスーパーバイザーを経て、08年3月、THE OUTSIDERを立ち上げ、今もなお業界内外から脚光を浴びている。22年のレスラー人生に幕を下ろした以降は、リングスCEOとして興業プロモートを中心に活動。エメリヤ・エンコ・ヒョードル、アントニオ・ホドリコ・ノゲイラ、ダン・ヘンダーソン、ピーター・アーツら多くの有望外国人選手を発掘した。
公式HP
映画『タイトロープ~アウトサイダーという生き方~』
INFO&STORY
前田日明がプロデュースするアマチュア、セミプロ選手による総合格闘技大会「THE OUTSIDER」に関わる男たちの姿を記録したドキュメンタリー。不良少年たちを格闘技を通じて更生させ、優秀な選手はメジャーな格闘技団体を含めた大会へプロデビューさせることを目標に掲げる同大会だが「年齢16~35歳まで、プロでの試合経験が3試合以下の者」という参加資格のため、不良ではない選手も多数出場。中には現役の弁護士や医学生、公務員などもいる。そうした年齢や社会的地位も様々な男たちが、格闘技を通じて自分の生き方を探っていく姿をカメラに収めた。ナレーションを吉川晃司が担当している。
CAST&STAFF
出演/黒石高大・吉永啓之輔・堀鉄平・鷹亜希・金太郎・土橋政春・ダグラス・和田周作・雅哉・宮永一輝・佐野哲也・谷山lucky文隆・前田日明ら
監督/本田昌広
企画・製作/アンデスフィルム
配給/トラヴィス
公式HP
11月9日(土)よりシネマート六本木ほか全国順次公開
(c)2013アンデスフィルム
PROFILE
前田日明(まえだ・あきら)
1959年1月24日生まれ 大阪府出身
中学、高校時代は少林寺拳法、空手を取得。77年、新日本プロレスに入団し、8月にデビュー。84年に第一次UWFを立ち上げる。斬新な戦いのスタイルは「総合格闘技」という言葉を生み出した。その後、新日本プロレスと業務提携を結び、87年に両国国技館で行われたドン・中矢ニールセンとの異種格闘技戦を制し「格闘王」の称号を得ることとなる。88年、第二次UWFを旗揚げ。既存概念を打ち破ったスタイルは社会現象をとなり、一大ムーブメントを起こす。91年の解散後は、たった1人で世界初の総合格闘技団体リングスを設立。ケガと闘いながら8年間エースの座を守った。05年のビッグマウス、07年のHERO’Sスーパーバイザーを経て、08年3月、THE OUTSIDERを立ち上げ、今もなお業界内外から脚光を浴びている。22年のレスラー人生に幕を下ろした以降は、リングスCEOとして興業プロモートを中心に活動。エメリヤ・エンコ・ヒョードル、アントニオ・ホドリコ・ノゲイラ、ダン・ヘンダーソン、ピーター・アーツら多くの有望外国人選手を発掘した。
公式HP
Interview&Text/橋本宗洋 Photo/おおえき寿一