「バラバラ殺人事件というショッキングな題材がベースですが、浩平と智美、そして巧という3人の心理描写であり三角関係がメインに描かれている作品です」
06年、東京・渋谷で実際に起こったバラバラ殺人事件をモチーフにした映画『ひかりをあててしぼる』が12月3日より公開。夫を殺める妻・智美役を演じた女優派谷恵美さんは実は10年以上前にも小誌に登場。当時の掲載誌を持参してくれる心遣いを見せてくれつつ、作品の見どころやプライベートまでざっくばらんに話してくれました。 !
選民意識が強い〝私様〟は誰もが持つ気持ちだと思う
──忍成修吾さんが演じた夫の谷中浩平に暴力を振るわれるシーンで、妻役の派谷さん、勢いよく飛び蹴りされていませんでしたか…?「忍成さんに頭上からビールをかけられた後、ジャンピングキックされてましたねえ(笑)浩平が妻の智美に振るう暴力って、DVを超えてアクションの域に入っていますけど、忍成さんは経験豊富でプロフェッショナルな俳優さんなので、役者の身体を守りつつ、痛そうに見せることにすごく長けているんです。だから実は、それほど痛くはないんです」
──劇中では、智美が浩平に暴力を振るうよう挑発していますよね。
「台詞を口にすると気持ちがついてきて、DVされると心理的に追い詰められてはいきましたけど、智美は楽しそうに挑発するんですよね。でも今回、智美を理解するのは案外、難しくなかったんですよ」
──あの、手がつけられないほど激しい智美の性格を理解できた、と。
「10年前、実際に起こったセンセーショナルな事件をモチーフにしてはいますけど、劇場型の智美の内面って、人間なら大なり小なり持っていると思ったんです。選民意識が強くて、常に自分が特別だと思っていて、いつでも自分が選ばれていたい。ベースには常に〝私様〟という、人より自分が優れていると思い込んでいる節があって、他人はもちろん、夫ですら自分のストーリーを完成させるためのキャストでしかないのが智美なんです」
智美と違い私は2週間1人きりで過ごすことも…(笑)
──そう言われると理解できます。ただ、普段は本さえあれば満足する物静かな派谷さんが智美を演じたことに驚くファンも多いかと。「私は小さい頃から本が好きというか物語が好きで、文字からイメージを膨らませることに楽しさを覚えるんです。その延長線上に映画がある、という感じでしょうか。でも最近、老いた人のような生活を送っています(笑)休日は読書をする以外は料理にも凝っているので、材料があれば何日も家で1人で過ごしています。しかも、字がキレイだと知的に見える気がしてペン習字まで始めてしまって、ますます家にいる時間が長くなってしまって。1人で過ごすことが苦ではないので、気づけば2週間、誰ともしゃべってない、なんてこともありました」
──最強のお一人様ですね(笑)ところで智美役に抜擢された経緯は。
「モチーフになった女性は私と同じぐらいの身長だったそうですが、ルックスは無関係なんです。最初、坂牧良太監督にお会いした時、私が智美の人物像を一方的にしゃべりまくって、監督がそれをメモするような形になったんです。後日、監督がご自身のお母様に私の写真を見せたら『智美っぽいじゃない』とおっしゃってくださったことがきっかけで、選んで頂きました」
猟奇的な面は誰もが持っている事を知ってもらえたら
──そこから役作りはどのように。「実際、2人の間でどんなやり取りがあったのかは、本人同士にしか分からないことじゃないですか。だからまずは、事件の詳細を調べるより先に、台本の中にいる智美を理解することから始めました。それは監督も同じ思いだったみたいで撮影中、『智美を理解したくて撮ってる』とおっしゃっていましたね」
──完成作を観た感想も教えて下さい。
「バラバラ殺人事件というショッキングな題材がベースにありますけど、実は浩平と智美、そして永山(たかし)さんが演じた2人の共通の知人、豊永巧という3人の心理描写であり三角関係がメインに描かれている作品でした。坂牧監督が『3人の顔と身体を撮った映画だ』とおっしゃっていた通りだという印象です」
──では改めて本作をPRするなら。
「智美は殺人という、越えてはならない壁を超えてしまいましたけど、無差別殺人は別として、誰しも誰かを殺したくなるような、あるいはそれに近い感情を抱いた経験があると思います。だからこそ私は、智美を他人事だと思うほうが怖いと思っているので、この映画を観て、自分にもこういう猟奇的な一面があることを再認識して頂きたいですね」
■映画『ひかりをあててしぼる』
INFO&STORY
平凡な会社員・浩平(忍成修吾)は、友人の巧(永山たかし)と参加した合コンで知り合った智美(派谷恵美)と恋に落ち、結婚する。幸せな夫婦生活をスタートさせるが、虚栄心の強い智美は浩平を振り回すようになっていく。智美に嫌われたくない一心で必死に理想の夫を目指す浩平だったが、ついに不満を爆発させ、智美に暴力を振るうように。それを知った巧は智美を助けようとするが……。06年に渋谷で実際に起こったバラバラ殺人事件をモチーフに描いた舞台劇を作・演出した坂牧良太自らメガホンを取り映像化。
CAST&STAFF
出演/忍成修吾・派谷恵美・桜井ユキ/Erina・江口亜衣子・川連廣明・真田幹也/永山たかし
監督/坂牧良太
脚本/宮崎大祐・坂牧良太
主題歌/小南泰葉「白闇」(ユニバーサルミュージック合同会社)
配給/アルゴ・ピクチャーズ
公式HP
12月3日より渋谷ユーロスペースほか全国ロードショー
(C)2016 ひかりをあててしぼる製作委員会
PROFILE
派谷恵美(はたちや・めぐみ)
1985年8月12日生まれ 千葉県出身
99年にCMでデビュー。00年、映画「非・バランス」(冨樫森監督)に主演。同作にて第23回ヨコハマ映画祭最優秀新人賞を受賞。その後、映画やドラマ、CMと多方面で活躍。近年の映画出演作には「渇き。」「くらげとあの娘」がある。坂牧良太監督が作・演出を担当した舞台「ぶざま」でも主演を務めた。
公式Facebook
INFO&STORY
平凡な会社員・浩平(忍成修吾)は、友人の巧(永山たかし)と参加した合コンで知り合った智美(派谷恵美)と恋に落ち、結婚する。幸せな夫婦生活をスタートさせるが、虚栄心の強い智美は浩平を振り回すようになっていく。智美に嫌われたくない一心で必死に理想の夫を目指す浩平だったが、ついに不満を爆発させ、智美に暴力を振るうように。それを知った巧は智美を助けようとするが……。06年に渋谷で実際に起こったバラバラ殺人事件をモチーフに描いた舞台劇を作・演出した坂牧良太自らメガホンを取り映像化。
CAST&STAFF
出演/忍成修吾・派谷恵美・桜井ユキ/Erina・江口亜衣子・川連廣明・真田幹也/永山たかし
監督/坂牧良太
脚本/宮崎大祐・坂牧良太
主題歌/小南泰葉「白闇」(ユニバーサルミュージック合同会社)
配給/アルゴ・ピクチャーズ
公式HP
12月3日より渋谷ユーロスペースほか全国ロードショー
(C)2016 ひかりをあててしぼる製作委員会
PROFILE
派谷恵美(はたちや・めぐみ)
1985年8月12日生まれ 千葉県出身
99年にCMでデビュー。00年、映画「非・バランス」(冨樫森監督)に主演。同作にて第23回ヨコハマ映画祭最優秀新人賞を受賞。その後、映画やドラマ、CMと多方面で活躍。近年の映画出演作には「渇き。」「くらげとあの娘」がある。坂牧良太監督が作・演出を担当した舞台「ぶざま」でも主演を務めた。
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取材・文/内埜さくら 撮影/おおえき寿一