ポスタービジュアルが公開された時点で「センスがいい」「面白そう!」と話題沸騰の映画『変態だ』が12月10日、遂に公開となる。原作者のみうらじゅんさんと主役の〝その男〟を演じた前野健太さんが、作品の裏話やタイトルにあえて「!」を付けなかった理由を語り尽くしてくれた。好きなことを生活できる仕事にする秘訣や、悩んだ時に覚えておきたい珠玉の言葉まで、抱腹絶倒のインタビューがココに!
悩んだら、自分の中に社長をもう一人持てばいいと思う。体が会社だから社長が自分に向いてない仕事をさせるのは何か意味があるんじゃないか、と思えるかも。(みうら)
──お二人の出会いは、みうらさんが11年に「みうらじゅん賞」を贈る以前ですよね。みうら「その前年ですね。いい目の付け所してるでしょ、俺(笑)」
前野「恐縮です。なかなか頂ける賞じゃないですからね」
みうら「別に俺は何かをしたわけじゃないんですけどね。一度ライブで一緒になったことがあって、その時にマエケンからCDをもらったんです。でも俺、もらったモノってあまり観たり聴いたりしないんですけど、その時は魔が差したのか聴いたんですよ(笑)そうしたら凄く良くてビックリして『この人は何か持ってる』と思って、お近づきになりたくて贈りました。それがみうらじゅん賞の基本なんで、今年はボブ・ディランさんがノミネートされてます」
前野「遂にきましたね(笑)」
──お二人ともお好きですもんね。
前野「大好きです。その話で、みうらさんと盛り上がったこともあって」
──その縁で今回、前野さんが主役に抜擢されたわけですね。
みうら「今まで自分の伝記的な作品は散々書いてきたんですけど、これってちょっと先の闘わなきゃいけない未来的な話なんで、今回は原作を書く段階でマエケンを想定したんです。そう伝えて絶対に断れない状況にしたのは申し訳なかったんですけど(笑)監督が安齋(肇)さんでマエケンが主演だったら、昨今日本にはない面白い映画が絶対に作れると思ったんです。あとは(製作・配給の)松竹ブロードキャスティングの方が途中で降りないことだけを願いました(笑)」
──前野さんが演じた〝その男〟という役柄ですが…。
前野「うわっ、今回たくさんインタビュー受けてるのに、初めて役名で呼ばれました(笑)でも最初、台本には『主人公』と書いてあって、『その男』に決まったのは最後のほうなんです。まだ音も付いてない段階の関係者試写の時では『変態の男』だったんですよね」
みうら「アレは、俺の案じゃないよ。取り敢えずそうなってたんですよ」
前野「あはは!で『役名が変わってませんか?』と聞いたら上手く誤魔化されて、最終的に『その男』に決まったんです」
──その男が雪山で、淡々と自らを亀甲縛りする姿が印象的でした。
みうら「あれはとてもいいシーンでしたね。でもマエケンは普段、ドMじゃなくきっとノーマルなんで、そこは強調して書いて頂かないと。役柄ですからね(笑)だけど本当にあれはグッとくるシーンですね」
前野「初めての経験だったんで、特訓の成果ですね。あとは音楽スタジオで(月船さららさん演じる)薫子さんに責められた時のポーズや声出しの練習をしました。スタジオにギターも持って行かず、マイクすら使わないって、本当に勿体ない使い方なんですけど」
みうら「一人カラオケみたいなもんなのかな?というか一人SM?」
前野「カラオケボックスで特訓してもよかったんですけど、必ず店員さんが入ってきますからね」
──あの雪山でのシーンは、本当に雪山へ行ったんですか!?
前野「雪山ですよ。だから過酷な環境でしたけど、スタッフさんが気遣ってくれて弁当ではなく、体が冷えないようにカレーや豚汁を作ってくださいました。役者が裏方を手伝うような、少人数の団体戦だったんです。だから常に人の温かさを感じられる現場でクランクアップした瞬間、号泣しました」
みうら「僕は残念ながらそのシーンの撮影現場には行ってなくて。基本、原作者は現場にちょこっとシュークリームを差し入れするぐらいしかできないんです。で、人数分に足りなくて怒られるのが原作者の役目(笑)でも今回は監督が安齋(肇)さんだったから結構、呼んで頂いて」
歌という進みたい道は荒野で、怖さもありました。怖さに打ち勝つために退路を断ったんです。そうしないと実行できなかったかもしれませんね。(前野)
──みうらさんと安齋さんは旧知の仲ですが、殴り合いのケンカ経験があるそうですね。みうら「実はこの映画についてケンカになったんですよ。沖縄でね(笑)ま、泡盛ロックで4本というのがよくなかったんでしょうけどね(笑)でも毒出しできたんで、今はわだかまりはないですね、まったく」
──ところで本作は公開前からかなり話題になっていますよね。
みうら「このタイトルに食いつかないわけがない、というね。『変態仮面』から『仮面』まで脱いちゃったんですから究極だと思いますよ(笑)」
──語尾に「!」もないですし。
みうら「あ、そこなんですよ。その男が覚醒したのかしないのかは観た人が決めることですし、あっちの世界に行ったかどうかも観てから知ってもらいたいんです」
──SMやR―18指定のシーンと切ない歌のギャップも魅力的でした。
みうら「すべて含めて人間だもの(笑)」
前野「みうらさん、それって…」
──あはは!その男はある出来事がきっかけで人生が一変します。お二人はそういう経験ありますか。
みうら「二社の就職試験に落ちた時、世の中は自分を必要としてないことがはっきりと分かった経験が今の仕事に繋がっていると思います。だから『ない仕事』に就職できたんですよ。でも横尾忠則さんや糸井重里さん、ボブ・ディランさんだってジャンルが『ない仕事』をしていらっしゃっているからこそ、共感と感動を持って、そういう人になりたいと思えたんですけどね」
──前野さんも自身でレーベルを設立しました。
前野「デモテープを作って送ったんですけど、どこからも声が掛からなかっただけです(笑)だから母親から金を借りてでっち上げました」
みうら「ないレーベルだよね…(笑)」
前野「ですね。でも僕、1回だけ図書館の契約社員になったことはあるんですよ。最初のアルバムのリリース後になってるんで順序がメチャクチャなんですけど、働いてると『司書の資格を取って正社員になれ』と言われるんですね。で、図書館員になりたい志望動機を作文形式で書いてるうちに『なりたくないな』と思って、社員になるための学費を使って、次のアルバムを作るんです。当時は29歳で、実は人生の賭けでもあったんですよ」
みうら「『ない進路』だね(笑)」
──ですがお二人とも「ない仕事」に就いて、食べていらっしゃいますよね。
みうら「そうなんですよねえ。でもほら、『ない仕事』っていっても本人が生活できてないと、憧れないでしょ。そこが前提で、『ゴムヘビ集めてコイツ、何で食っていけてんの?』と思われるのが、『ない仕事』の魅力なんですよ。俺はわざと、あんなモンで食えるワケがない!と思われることをやってるだけだけど、ただプレゼンには時間が掛かるんですよね。でも、プレゼンなんて実は内容はどうでもよくて、必要なのは熱意と面白さだけだと思います。相手に『そんなモンについてよくそこまで喋るな』と思われる域にまで達すれば、人って意外と『コイツに仕事やろうかな』と思うものなんじゃないでしょうか?そして、その対象物に対して常にノイローゼでいることも基本ですね」
──みうらさん、好きではないことをない仕事にしていますからね。
みうら「だって相手に掘ってもらってナンボですから『コイツ、ゴムヘビについて熱く語ってるけど、本当は趣味じゃないの?』と思われたら仕事くれないでしょ。ゴムヘビは例え話ですけど、俺がデビュー当時はそういう人、結構いたんですよね。でもさっきマエケンが言ってた29歳ぐらいになるとやっぱり将来のことを考えるみたいで、減っていくんです。だから、『大丈夫じゃない!』と強く断言できることも、『ない仕事』には大事。ゴムヘビについて熱弁した後、相手に『それ、お願いしても大丈夫ですか?』と聞かれたら『大丈夫じゃない!』と強く答える姿勢ね(笑)」
──破綻しかかっていて面白すぎます(笑)一方で前野さんは、好きを仕事にしましたよね。
前野「僕は歌が好きで仕方なかったんで、やらずに人生終わるのが嫌で食らいついていっちゃったんですよね。でも、進みたい道は荒野だし、怖さもありました。その怖さに打ち勝つために退路を断ったんです。そこまでしないと実行できなかったかもしれませんね。僕は怠け者だから、退路を断ってよかったと今は思ってます」
──みうらさんは就活時、退路を断つというか断たれたというか…。
みうら「昔から、俺が俺を使ってるんですよ。俺がタレントであり社長であるというか。悩む人って独りなんですね。だから悩んだら、自分の中に社長をもう一人、持てばいいと思うんですけどね。体が会社だから、嫌なことであっても社長命令なら『やってみたら面白いかも』と思えるかもしれないじゃないですか。社長が自分に向いてない仕事をさせるのは何か意味があるんじゃないか、とも受け取れますし。そう考えるようになってから、好きも嫌いもなくなったし、あえて苦手なこととか嫌いなことにも目を向けられるようになった。だけど、駄目だったら共倒れになりますけどね(笑)会社だけが潰れるんじゃなく自分も一緒に駄目になるんなら、逆に気持ちは楽じゃないかなと思いますよ」
INFORMATION
映画『変態だ』
INFO&STORY
一浪の末、都内の大学に進学したごく普通のその男(前野健太)。特別な才能があるわけでもない男は、たまたま参加したロック研究会でのバンド活動をきっかけに、ミュージシャンとしての道を歩みだす。やがて結婚し、妻(白石茉莉奈)と息子との普通な家族生活を送るが、その一方で男は学生時代から続く薫子(月船さらら)との愛人関係を断てずにいた。ある日、地方でライブの仕事が入り、男は愛人を連れて旅行気分で出かけていった。ライブがスタートし、ステージに立った男の目に飛び込んだのは、そこにいるはずのない妻の姿だった…。企画&原作みうらじゅん、長編映画初監督となる安齋肇がメガホンのロックとポルノをテーマにした青春映画。
CAST&STAFF
出演/前野健太・月船さらら・白石茉莉奈・奥野瑛太・信江勇 他
監督/安齋肇
企画・原作/みうらじゅん(原作「変態だ」小説新潮掲載)
脚本/みうらじゅん・松久淳
配給/松竹ブロードキャスティング アーク・フィルムズ
公式HP 12月10日(土)より新宿ピカデリーほか全国順次公開
(C)松竹ブロードキャスティング
PROFILE
みうらじゅん
1958年生まれ 京都府出身
武蔵野美術大学在学中に漫画家デビュー。イラストレーター、作家、ミュージシャンなど幅広い分野で活躍。97年に「マイブーム」で新語・流行語大賞受賞。05年、日本映画批評家大賞功労賞受賞。著書に「見仏記」シリーズや「アイデン&ティティ」「色即ぜねれいしょん」「ない仕事の作り方」「されど人生エロエロ」などがある。TOKYO MX「みうらじゅん&安齋肇のゆるキャラに負けない!」NHK-BS「笑う洋楽展」レギュラー出演中。
公式HP
前野健太(まえの・けんた)
1979年生まれ 埼玉県出身
シンガーソングライター。09年、映画「ライブテープ」(松江哲明監督)で主演を務め、第22回東京国際映画祭「ある視点部門」でグランプリを受賞。フジロックなど大型フェスへの出演や演劇、テレビへの楽曲提供、文芸誌での連載、小説執筆のほか舞台出演など活躍の場を広げている。ラジオ日本「前野健太のラジオ100年後」出演中。17年2月18日から上演の舞台「なむはむだはむ」に出演する。
公式HP
映画『変態だ』
INFO&STORY
一浪の末、都内の大学に進学したごく普通のその男(前野健太)。特別な才能があるわけでもない男は、たまたま参加したロック研究会でのバンド活動をきっかけに、ミュージシャンとしての道を歩みだす。やがて結婚し、妻(白石茉莉奈)と息子との普通な家族生活を送るが、その一方で男は学生時代から続く薫子(月船さらら)との愛人関係を断てずにいた。ある日、地方でライブの仕事が入り、男は愛人を連れて旅行気分で出かけていった。ライブがスタートし、ステージに立った男の目に飛び込んだのは、そこにいるはずのない妻の姿だった…。企画&原作みうらじゅん、長編映画初監督となる安齋肇がメガホンのロックとポルノをテーマにした青春映画。
CAST&STAFF
出演/前野健太・月船さらら・白石茉莉奈・奥野瑛太・信江勇 他
監督/安齋肇
企画・原作/みうらじゅん(原作「変態だ」小説新潮掲載)
脚本/みうらじゅん・松久淳
配給/松竹ブロードキャスティング アーク・フィルムズ
公式HP 12月10日(土)より新宿ピカデリーほか全国順次公開
(C)松竹ブロードキャスティング
PROFILE
みうらじゅん
1958年生まれ 京都府出身
武蔵野美術大学在学中に漫画家デビュー。イラストレーター、作家、ミュージシャンなど幅広い分野で活躍。97年に「マイブーム」で新語・流行語大賞受賞。05年、日本映画批評家大賞功労賞受賞。著書に「見仏記」シリーズや「アイデン&ティティ」「色即ぜねれいしょん」「ない仕事の作り方」「されど人生エロエロ」などがある。TOKYO MX「みうらじゅん&安齋肇のゆるキャラに負けない!」NHK-BS「笑う洋楽展」レギュラー出演中。
公式HP
前野健太(まえの・けんた)
1979年生まれ 埼玉県出身
シンガーソングライター。09年、映画「ライブテープ」(松江哲明監督)で主演を務め、第22回東京国際映画祭「ある視点部門」でグランプリを受賞。フジロックなど大型フェスへの出演や演劇、テレビへの楽曲提供、文芸誌での連載、小説執筆のほか舞台出演など活躍の場を広げている。ラジオ日本「前野健太のラジオ100年後」出演中。17年2月18日から上演の舞台「なむはむだはむ」に出演する。
公式HP
取材・文/内埜さくら 撮影/おおえき寿一