名バイプレイヤーとして映画やドラマで役柄ごとに全く違う表情を見せながらも独特の存在感を放つ、甲本雅裕さんの劇場映画初主演作『高津川』が4月3日(金)公開。島根県の美しい大自然をバックに繰り広げられる人間模様は誰もが他人事とは思えず、食い入るように観る人も多いかもしれない。甲本さんには、錦織良成監督とのユニークな人間関係や共演した女優戸田菜穂さんとのエピソード以外に、人生に迷っている人が鼓舞するようなメッセージも語ってもらった。
「監督がおっしゃるには10~20代に刺さっているそうです。この作品が、数分に1回ドキドキワクワクするだけが映画の醍醐味ではないと証明しているのかもしれません」
戸田さんのお芝居に思わず勘違いしそうになり(笑)
──本作でメガホンの錦織良成監督との出会いはいつですか?「『ミラクルバナナ』(06年)という映画です。ですが、依頼が来た役は南米での撮影が必要だったので、スケジュールが合わず断念したんです。その次に、同じ作品でロケは日本ですが、1シーンでト書きのみ、セリフなしという役の話を頂いて、マネージャーと相談しました。仕事を受けるかどうかの決断方法は人それぞれだと思いますが、損得勘定とは別で、僕は役者として何ができるかが見えた時に仕事を受けるようにしているからです。だからこそ再度、お断りをしました。ト書きのみでセリフがない役で監督と出会ってしまったら、役者としての力量を見せられず、逆効果になる可能性があると判断したからです。ところが、『ミラクル――』と今回の作品を担当のプロデューサーから熱心に口説かれまして。『1シーンでそこまで!?』という熱意に動かされました。結局、出演してよかったと思っています。お断りしていたら、今回はないので」
──監督はどんな方ですか。
「毎回、撮影に入ると今作のことではなく、次に撮ろうとしていてまだ頭の中にある作品の話をするんです。一度、車で山中に連れて行かれて『今度、ここで映画を撮ろうと思っているんですよ』と説明されたことがありました。この山を削って村にして、家を建てて…と、事細かに話すのですが、僕は、その映画に出るかは聞いていないんです。だから、オファーが来ていない僕がなぜ一緒にロケハンに回っているのか、意味が分からないという(笑)でも数年後にその山で撮影したのは『たたら侍』(17年)でした。人に話すと動かなければならなくなるというのが監督の原動力で、僕が一番、話を聞いている相手だそうです。そして僕はオファーを頂くと、(台)本を読む前に『ん。その話、2~3年前に聞いたぞ』と、分かってしまうような感じです。道のりを知ると作品に入り込みやすくなりますし、芝居の原動力にもなるので有り難いですね」
──戸田菜穂さんと共演した感想もぜひお伺いしたいです。
「芝居をする時に『美しくて素敵な女優さんだ』という方向に気持ちを持っていってしまうと芝居にならないので、自分の感情とは切り離して演じました。芝居でたまにふっとした眼差しを向けられると『待てよ。これは本気なのかな!?』と勘違いしそうになる時がありましたが(笑)休憩中に『あれは芝居だ…』と自分に言い聞かせたりもしましたね。最後に川のほとりに置いてあるボートに座って話をするシーンも、内心ではドキドキしていました」
インスピレーションを信じ一歩を踏み出すことが大切
──お仕事のお話も。大学を卒業後、アパレル会社に就職した理由は。「小学校1年生から大学4年生まで続けていた、剣道という体育会系の世界から離れる手段として選択しました。婦人服メーカーに就職して、体育会系のニオイを少しでも薄くしたかったんです(笑)一度始めたものは続けなければいけないと考えるタイプなので、ひとたび社会人と剣道をつなげてしまうと、定年まで剣道を続けるだろうと。役者も同じです。(83年に三谷幸喜氏を中心に旗揚げされた)東京サンシャインボーイズが充電期間に入らなければ、今もずっと劇団に所属し続けていたでしょうね」
──甲本さんが仕事上での出会いや仕事で大切にしていることは。
「役者をやる以前からの考え方ですが、人との出会いも仕事も、自分のインスピレーションを信じるようにしています。その先で裏切られたとしたら、全責任は自分で負う。僕が役者を始めたのは、面白いかどうかは分からないけれど自分の気持ちが吸い寄せられたからです。興味があることには、挑戦したほうがいいと思います」
──挑戦することが大事なんですね。
「トライせずに正解を求めているうちは、座って考えているだけで動いていないと思うんです。座学より実践のほうが身になることと同じで、自分で選んだ道が正解ではないかもしれませんが、『きっと間違っていない』と思うと、一歩を踏み出せる気がします。重く捉えずまず歩み出すことが大切で、やり始めることができるなら、何かあったら方向転換もできるはずですし。『一寸先は闇』という言葉がありますが、自分にとっては闇ではないかもしれない。今いる場所より輝いているかもしれないんです。それすらも踏み出さないと分かりませんから」
──勉強になります。改めて映画の魅力をお願いします。
「監督がおっしゃるには、10~20代に刺さっているそうです。この作品が、数分に1回ドキドキワクワクするだけが映画の醍醐味ではないと証明しているのかもしれません。僕としては、これから観て頂くお客さんに対して申し訳ないのですが、完成作を10回以上観てもキャッチコピーのような言葉が見つからないんです。騙されたと思って映画館へ行ってくださいとしか言えません。そして『騙された!』と感じたら、僕を怒ってくれて構いません(笑)ただ、観光映画にはカテゴライズされませんが、観光地ではない島根県の美しい大自然を、映画館の大きなスクリーンで観て頂きたいという思いが100%です」
INFORMATION
■映画『高津川』
【INFO&STORY】
山の上の牧場を経営する斉藤学(甲本雅裕)は妻を亡くし、母絹江、娘の七海、息子の竜也の4人暮らし。地元の誇りである神楽の舞いは歌舞伎の源流ともいわれ、代々舞手が受け継がれて来たが学は今年、舞手の舞台を踏む竜也が稽古をさぼってばかりいること、進路のことを危惧する日々だった。そんな中、母校である小学校が閉校になるという知らせや高津川上流にリゾート開発の話が持ち上がり、学の同級生で母親の介護をしながら老舗の和菓子屋を継いだ陽子(戸田菜穂)らが集まり……。島根県を流れる一級河川・高津川を舞台に「石見神楽」の伝承を続けながら、人口流出に歯止めのかからない地方の現実を前に懸命に生きる人々を描いた。
【CAST&STAFF】
出演/甲本雅裕・戸田菜穂・大野いと・田口浩正・高橋長英・奈良岡朋子ら
監督・原作・脚本/錦織良成
配給/ギグリーボックス
公式HP
4月3日(金)より新宿バルト9ほか全国ロードショー
(C)2019 映画「高津川」製作委員会
■映画『高津川』
【INFO&STORY】
山の上の牧場を経営する斉藤学(甲本雅裕)は妻を亡くし、母絹江、娘の七海、息子の竜也の4人暮らし。地元の誇りである神楽の舞いは歌舞伎の源流ともいわれ、代々舞手が受け継がれて来たが学は今年、舞手の舞台を踏む竜也が稽古をさぼってばかりいること、進路のことを危惧する日々だった。そんな中、母校である小学校が閉校になるという知らせや高津川上流にリゾート開発の話が持ち上がり、学の同級生で母親の介護をしながら老舗の和菓子屋を継いだ陽子(戸田菜穂)らが集まり……。島根県を流れる一級河川・高津川を舞台に「石見神楽」の伝承を続けながら、人口流出に歯止めのかからない地方の現実を前に懸命に生きる人々を描いた。
【CAST&STAFF】
出演/甲本雅裕・戸田菜穂・大野いと・田口浩正・高橋長英・奈良岡朋子ら
監督・原作・脚本/錦織良成
配給/ギグリーボックス
公式HP
4月3日(金)より新宿バルト9ほか全国ロードショー
(C)2019 映画「高津川」製作委員会
PROFILE
甲本雅裕(こうもと・まさひろ)
1965年6月26日生まれ 岡山県出身
89年、東京サンシャインボーイズに入団。劇団解散後は活躍の場を映画、テレビドラマ、舞台に広げる。主な映画出演作に『踊る大捜査線』シリーズ、『花のあと』『エヴェレスト 神々の山嶺』『四月は君の嘘』『一週間フレンズ。』『3月のライオン』『たたら侍』などがある。本作で映画初主演。
公式HP
甲本雅裕(こうもと・まさひろ)
1965年6月26日生まれ 岡山県出身
89年、東京サンシャインボーイズに入団。劇団解散後は活躍の場を映画、テレビドラマ、舞台に広げる。主な映画出演作に『踊る大捜査線』シリーズ、『花のあと』『エヴェレスト 神々の山嶺』『四月は君の嘘』『一週間フレンズ。』『3月のライオン』『たたら侍』などがある。本作で映画初主演。
公式HP
撮影◎大駅寿一 取材・文◎内埜さくら