スーパー・ササダンゴ・マシンことマッスル坂井さんはDDTのプロレスラーでありテレビ、ラジオでレギュラーを持ち、なおかつ新潟で実家の金型工場の専務として働くマルチすぎる存在として知られています。今年はプロデュース興行『マッスル』両国国技館大会を成功させ、旧知のムード歌謡グループ純烈のNHKホール公演では脚本を担当。ますます活躍ぶりが際立つ坂井さんに〝働き方〟を中心に聞いてみました。
僕が地方でやってること、地方で考えたことが、東京の人から見て『面白そうだな』とか『楽しそうに生きてるな』となったら…
発注する側は僕にできる仕事しか振ってこない
──今年は『マッスル』の両国大会や純烈のNHKホールで脚本を担当とキャリアの中でも特筆すべき活躍ぶりですね。「それもDDTの後楽園や両国、大田区(総合体育館)をやりながらですもんね。平成最後に頑張りましたねぇ…」
──ビッグマッチも歌謡ショーの脚本も、やったらできてしまうところが才能ですよねぇ。
「まあ僕は請け負う仕事しかやってないので。発注される側なんです。発注する側は僕のこと知ってる人ですからできる仕事しか振ってこないと思って。40歳すぎたら知り合いからしか仕事来ないもんですよ(笑)」
──「坂井ならできる」と思って発注してきた人を信じると。
「そうそう。僕の力を分かってる人の発注なので『じゃあ俺、できるんだな』って自分に暗示をかけて。そう考えられるってことは自信がついてきたんですかね」
──プロレス、テレビやラジオへの出演、金型工場と〝三刀流〟ですが、うまく切り替えながらできてますか?
「請け負うという意味ではどれも同じ感覚ですね。あ、金型の仕事だけちょっと違うかもしれないですね。やっぱり会社なんで」
──専務ですもんね。
「見るとこは見て、自分が責任取るところは取って、その上でお任せしちゃうっていうのが一番ですね。社内だけじゃなく外の会社とも連携して。〝丸投げ〟っていう意味では高木三四郎イズムっぽいですけど」
──マッスル両国も高木さんからの〝丸投げ〟でした。そういう意味ではプロレスから金型へのフィードバックがあると。でも坂井さんは、なんでも自分でやりたくなっちゃうタイプでは?
「自分でやりたいタイプだから、金型の仕事だけは自分でやらないようにしてますね。よく言うんですけど、生産性の低いことって熱狂につながりやすいんですよ。学生時代の文化祭じゃないですけど1円にもならないことがメチャクチャ楽しかったりするので」
──そこは会社ではあえて抑えて。
「あと自分に対する待遇をよくしてますね。新潟と東京の往復生活ですけど、車じゃなく新幹線、たまにはグリーン車を使って。徹夜もしなくなりましたね。大会前も事務所で仮眠とかじゃなく、ホテルのベッドでしっかり寝る。生産性の低いことが好きなだけに自分の自分に対するブラック(企業)さに気をつけないとって」
──そうやって三足のわらじを履きこなして。
「シナジー効果がありつつ、成長速度は三分の一になってしまいつつですね。でも飽きずにやれるっていうメリットもあります」
──ふたつつまらなくなっても、まだひとつあると。
「飽きずに続けていくっていうのは一つテーマかもしれない。なんか分かってきちゃったんですけど、僕は大ブレイクはしないタイプなんですよ。言われたことしかやらないから(笑)」
──請け負うタイプ…ですからね。
「じゃあ時代の寵児になれない代わりに長く続けたい。あと30年やりたいですね。持続可能性のあるビジネス。それはプロレスでも」
──プロレスにおけるサステナビリティ。70歳すぎてササダンゴ・マシンやります?
「全然やるでしょ。で、周りのレスラーもやってるんじゃないかって気がしますし」
──高木さんとか男色ディーノさんとか。そういえばDDTでは坂井さん発案で40歳以上の選手に向けた「オーバー40王座」が新設されましたね。
「あれは僕が初代王者になるつもりだったんですけどねぇ(高木が王者に)。その後の展開も考えてたんですよ。でも高木さんは高木さんで別のストーリーがあって。そうなったってことは、いい仕事ができたんじゃないかなと」
怒りの表明も打席に立って仕事としてやりたいと思う
──来た球を打つ、お題に的確に応えるというのが活動全体を通しての一貫した部分というか。「テーマ的なことで言ったら『地方と東京』ですよね。『東京とそれ以外』。ローランドじゃないですけど(笑)僕はね、新潟で考えたもの、新潟で作ったものを東京に売りに来てる感覚なので」
──東京にいた頃とは、作るものの質も違ってきます?
「違いますね。違うでしょうねぇ。ものを考えるには地方のほうが向いてる気がしますね」
──ただ、「地方の人気タレント」「名物ローカルレスラー」ではなく東京で仕事ができているというのは面白いですよね。
「だから地方を盛り上げるというより、地方で生き残れればいいなという感じですね。地方でやってること、地方で考えたことが、東京の人から見て『面白そうだな』とか『楽しそうに生きてるな』となったらいいなと。それで『俺の地元はどうかな』なんて思ってもらえたら」
──こういうスタイルで仕事をしていくというのは、若い頃から考えてました?
「どうなるんだろうなぁとは思ってました。金型の仕事もプロレスの仕事も映像に関する仕事もやっていくんだろうって、漠然とですけど。地元だったり家族だったりからは逃れられないので。じゃあ地元で何をやるか」
──坂井さんの活動には、楽しさだけでなく批評性や反骨心も感じます。大田区大会での高木戦でも、会見から某ベテラン選手のツイートをネタにしてましたし。笑わせるプロレスは三流で、一流は感動させて人生を変えるという…。
「怒りや反発みたいなものが自分の燃料になることはありますよ。基本、カッカしやすいので。やらないようにしてるだけでケンカ大好きですから」
──自分の周囲とか世の中に対する考えが作品につながっていくと。
「生きてたらムカつくことだらけですしね。自分の内なる創作衝動みたいなものだけでは、たぶん何も出てこないと思います、僕は。請け負うタイプですし。ただ怒りの表明にしても、きちんと打席に立って仕事としてやりたいと思ってますね。酔っ払ってSNSやるタイプではないので(笑)」
──多岐にわたる活動の中で、レスラーとしてはどんな目標、野望を持ってますか?
「まずは飽きずに続けることですよね。長くやる。他の仕事もあるから続きやすいと思います。成長は遅いけど」
──もう「ベルトを」とか「時代を作る」という感覚でもない?
「いやいや、そこまでは望んでないです。だってねぇ、僕は『マッスル』だったりで業界にたくさんの影響を与えちゃってるらしいので。それ以上、望むことなんてないですよ」
──人を感動させるプロレスができていると。
「なんなら、感動させないで人生を変えることができる。結果そうなっちゃってるんですよねぇ本当に。その力をストレートに世の中をよくするために使ってよと言われるんですけど」
──あ、そういう意味では選挙の出馬要請とかなかったですか?地元の名士として。
「参院選ですか?一党たりとも誘われなかったです。そこはやっぱりバレちゃってるんですよ、ふざけてるだけなのが」
──コイツはそういうタマじゃないなと。
「エスタブリッシュメント的な雰囲気を出してくる人を小馬鹿にしてるって思われてるんじゃないですか。完全にバレてますね…」
PROFILE
スーパー・ササダンゴ・マシン/マッスル坂井
1977年11月5日生まれ 新潟県出身
早稲田大学在学中よりレスラーとして活動。2010年に引退するも〝謎のマスクマン〟スーパー・ササダンゴ・マシンとして復帰。DDTには2013年7月、初登場。KO-D無差別級王座挑戦の際に披露したプレゼン〝煽りパワポ〟で一躍時の人に。2019年2月、マッスル坂井によるプロデュース興行『マッスルマニア2019』は大成功を収めた。現在、DDTプロレスリング準所属のレスラー、松竹芸能所属のタレント、実家の金型工場、坂井精機(株)専務と〝三刀流〟で活躍。NST新潟総合テレビ「八千代コースター」「八千代ライブ」、TBSラジオ「アフター6ジャンクション」出演中。
公式Twitter
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スーパー・ササダンゴ・マシン/マッスル坂井
1977年11月5日生まれ 新潟県出身
早稲田大学在学中よりレスラーとして活動。2010年に引退するも〝謎のマスクマン〟スーパー・ササダンゴ・マシンとして復帰。DDTには2013年7月、初登場。KO-D無差別級王座挑戦の際に披露したプレゼン〝煽りパワポ〟で一躍時の人に。2019年2月、マッスル坂井によるプロデュース興行『マッスルマニア2019』は大成功を収めた。現在、DDTプロレスリング準所属のレスラー、松竹芸能所属のタレント、実家の金型工場、坂井精機(株)専務と〝三刀流〟で活躍。NST新潟総合テレビ「八千代コースター」「八千代ライブ」、TBSラジオ「アフター6ジャンクション」出演中。
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取材・文/橋本宗洋 撮影/おおえき寿一